『ARK9010』EP.2.6 ぺルラ・ネラ・ブラックのRCZ「2020年6月4日」
年が明けた2020年1月9日、WHOは、昨年末 中国武漢で発生した集団肺炎は新型のウイルスによるものとの声明文を出した。その数日後に日本国内初の感染者が報告されたが、この時はまだ、これが世界中を震撼させるような重大危機になるとは、誰も想像していなかった。私たちもどこか他人事で、当事者意識はほぼ皆無であった。その後、このウイルスよる国内初の死亡事例が報告されたり、飛沫などで容易に感染するなど、身近に潜む多くのリスクが報告されるころには、すでに日本国内のほぼ全体に感染が広がっていた。国は感染拡大を防止するため、外出自粛や、飲食業の時短営業などの様々な方策を、都市部を中心に各地へ展開していったが、こういった施策が身近になることで、ようやく多くの人々が、これらが現実であると理解し、そして慌て始めた。
私はというと・・・
年明け直後より、隣国の状況や、これに対する日本政府の対応などを鑑み、「近い将来パンデミックが訪れる」と言い張るうちの社長の勅命を受け、”対新型ウイルス社内特別チーム”の編成と、その準備業務に追われていた。若い頃から海外拠点の新設や、新規事業の立ち上げに携わる機会が多かったが、その経験と実績を買われたようだ。
テレワークに耐えられるPCの洗い出しと不足分の準備、事務作業用のディスプレーの確保、セキュリティー対策の立案、そういったものを諸々含めたクラウド環境の準備、そしてテレワークのための標準アプリの選定・・・なかには自宅にWifi環境、いやネット環境すらない社員もいて、そういった社員へのテクニカルサポートや、全社的な在宅手当の新設など、システム部門的な業務だけでなく人総的な業務にも及んだ。
最初の頃は、社長の勇足という批判もあって、特別チームへの風当たりは強かったが、時が経つにつれ、この対応の正しさが証明されていくと、急に追い風が吹いて、ずいぶんと仕事は捗った。その甲斐もあって、私の通う東京本社は、4月には完全に在宅勤務が可能となっていた。
また、私自身は年齢や基礎疾患のこともあり、不急不要の外出は極力控えるよう心掛けた。そのため、妻と計画していた「東北ドライブ旅行」も延期としたし、もちろんARKさんとのウナギコラボの話も、いつのころからか夫婦の話題に上らなくなっていた。
日々は、まるで色を失ったような世界だった・・・明るく振る舞うことや、生活を楽しむことは、まるで罪を犯しているような錯覚を起こした。咳をすることさえ憚り、窮屈な世の中だった。
テレビでは、老若男女問わず、よくわからない新しいルールにそぐわない連中には、容赦なく鉄槌を下すかのような身の程知らずな報道と、政府の対応に一貫性なく何でもかんでも反対を述べる稚拙な報道に溢れ、自らの終焉を早めるような愚かなコンテンツを垂れ流していた。
おのずと家から出る機会が極端に少なくなっていた。そういった状況を反映してか、Mobil Tuneを覗くことも、投稿することも極端に減っていた・・・それでも、たまにではあるが、ARKさんなど、仲良しさんたちの投稿を拝見しつつ”いいね！”をして、双方の生存確認のようなイベントは続けていた。
最初は色々と不便を感じていたが、人というものは意外と順応性の高い生き物で、この環境に徐々に慣れていき、逆に人付き合いのない世の中も煩わしさが無く良いものだと思い始めていた・・・ちょうどそのころ、ARKさんからとてもショッキングな投稿があった・・・
■ARK9012
こんばんは。今、病院です。緊急入院です。
痛いとか苦しいとかはないんですが、脳の血管が詰まったみたいで左半身が不自由になっています。
このまま車に乗れなくなるかもしれなくて・・・
でもなんか現実感がなくて・・・
悲しいのか・・・寂しいのか・・・感情も定まらなくて・・・
これも血管が詰まった影響なのか・・・
必ず帰ってきますので、応援の”いいね！”をお願いします。
それと・・・みなさん・・・ありがとうございました。
コロナ！？じゃないのかっ？
えっ脳梗塞！？
「かあさん！たいへんだ！！ARKさんが脳梗塞で入院した！」
「えっ・・・大丈夫なの？」
「うーん・・・投稿できているってことは、たいしたことないのか・・・」
「心配ね・・・」
「あぁ・・・なんか最後の一文が気になるな・・・」
私たちも他人ごとではない。脳梗塞や心筋梗塞、クモ膜下出血・・・突然死んだり、寝たきりになるなんて、同世代ではもっともホットな話題だ。もちろんそうならないようにいつも気を付けてはいるが、在宅勤務とか新生活様式とか・・・通勤しなくなったことによる運動不足や、味わったことのないストレスの増加は、確実に我々の健康を害している。
しかし我々も愚かなものだ・・・通勤のストレスがなくなった代わりに、新しいストレスと運動不足という別のリスクに晒されるなんて・・・
ARKさんも在宅勤務になって運動不足なんだろうか？
■Rad
大丈夫ですか！治療に専念してください。応援しています。
早く治してウナギコラボしましょうね！！
相変わらず、こんな時は気の利いた言葉が浮かばない・・・うかつなことは書けない。不謹慎に思われても嫌だし、そんなことで嫌われたくない・・・こんな時にも、そんな姑息なこと考えている自分にも嫌になる・・・
ARKさんのこの投稿へは、たくさんのフォロワーさんたちからのコメントがあった。当たり前であるが、皆一様に心配していて、胸の内を正直に書くもの、冗談を書いて、なんとか明るくしようとするもの、経験談を書くもの、普段のコメントからは考えられないぐらい真面目な内容を書くもの・・・読んでいる私も目頭が熱くなってきた。
ARKさんから返信があった。
■ARK9012
Radさんありがとう
私だけでなく、他のコメントにも、そんな一言だけの返信が続く・・・
いつもの絵文字はない・・・
「無理しなくていいよぉ・・・」
自然と涙があふれた・・・
眠ったのだろうか・・・あるところで返信が止まった・・・
ちょうど日付が変わったころだった・・・
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