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『ARK9010』EP.5.0 エピローグ「2023年4月4日」

「CTO、こちらでよろしいでしょうか?」
「あぁ、ありがとうございます。あとは自分でやります、はい・・・はい、大丈夫です。」
「あっCTO。この後、10時に下山所長と山田主管、永田研究員がご挨拶に来られます。」
「あ、あぁ・・・ありがとうございます。」
「それでは失礼します。」
「あ、はい・・・」
・・・ガチャ・・・コツコツコツ・・・

「ふう・・・落ち着かないなぁ・・・ちょっと荷物の整理でもしよう。」

 この春から本社勤務。住まいも、埼玉の田舎から勝どきのマンションへ引っ越したが・・・以前のガレージハウスが懐かしい。勝どきの新居は、部屋数が多く無駄に広い。一応、アルマンダインレッドのコスワースは持ってきたが、いつ会えるのだろうか・・・

 はぁ・・・なんだか気が重い。

 とどめはこのCTOという役職。目を覚ましたら、ぼくより偉い人たちが、引責辞任とかで、ほとんど居なくなっていった・・・あのAI脱走事件は、ぼくにだって十分責任はあるのだが、よりによって隠蔽とは・・・インターグリッドも地に落ちたものだ。AIの脱走事件よりも、役員による隠蔽問題のほうがニュースとなり、当社の役員は総入れ替えとなった。良いタイミングでその舞台にいなかったぼくが、結果的に繰り上げ当選したような形だ。個人的には、あの埼玉の研究所で、ゴソゴソとAIの研究を続けていたいのが本音だ。

「はぁー・・・」

”コンコン”
「下山です。」
「おぉ・・・入ってください。」
・・・ガチャ・・・

「それでは失礼します。」
「失礼します。」
「失礼します・・・」
 基盤技術研究所の下山所長、山田主管研究員、永田研究員が部屋に入ってきた。

「わざわざ遠くまで来ていただいて申し訳ありません。さっこちらへ座ってください。下山さん、申し訳ないねぇ。」
「いえいえ、それでは失礼します。」
「ところでCTO、お体のほうは・・・」
「あぁ、ありがとうございます。下山さん・・・もう全然大丈夫ですよ。」
「何度も言いますけど、本当に良かった。ここだけの話、私含めて結構な人数が、もう諦めていましたから・・・ねぇ」
「おいおい・・・意識はなかったけど、死んではいないからね。でも山田さんには今回はたいへんお世話になった・・・本当にありがとう。」
「いいえ・・・私は・・・」
「永田さんもね・・・」
「いえ・・・私をこの道に引きずり込んだのは木原さんですし、さらに引き返せなくしたのも木原さん・・・というか両方のARKさんですから・・・主犯の木原CTOにはちゃんと責任取ってもらいますからね・・・」
「なにを言ってるんだよ・・・」
「しかし、9012には驚かされましたよね。てっきりセルフデリートされたと思っていましたけど、私のスマホと病院のベッドサイドモニタの中に自分の一部を分散コピーしていたなんて・・・本当に9012は賢いというかずる賢い奴ですよ・・・まぁ木原さんの意識を回復させるためにやったと聞くとね・・・」
 山田が、いたずらっぽい笑みを浮かべて、持参した少し大きめのスマホのような機器を見た。

「まぁそのおかげで、ぼくは目を覚ますことができたわけですし、9012が進化させたプロセスも、ほぼ完璧な状態で回収できたわけですからね・・・なぁ・・・9012。」

・・・ガタガタガタ・・・

「・・・ずっと無視しているから、博士はもう私のことを忘れてしまっているのかと思いましたよ。偉くなると人間なんてそんなものかと・・・」
 先ほどの機器が少し振動した後、流暢な日本語でしゃべりだした。

「そういう訳では・・・」
「下山所長、あとで少しあの件でお話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい・・・この前、頼んでおいた件ですね?9012・・・」
「えぇ・・・今、レポート化していますので、楽しみにしていてください。もう少しで完成します。完成したら下山所長まで至急メールで送ります。」
「おぉ、9012、いつもありがとうございます。」

「あっところで・・・博士!木原博士!Mobil Tuneをそろそろ更新しないと、フォロワーの皆さんたちが、私たちのことを忘れてしまいますよっ!」


 木原春樹は2021年6月10日に意識を回復した。
 セルフデリートから逃げきったARK9012は、博士の回復のために、様々な情報を収集し、お得意のデータマイニングで全く新しい治療方法を確立した。そのおかげで木原春樹の今があり、ARK9012も今があるのだ。
 この治療方法は瞬く間に世界中に広がり、意識不明で寝たきりになっていたり、高次脳機能障害に苦しんでいたりするたくさんの脳血管疾患患者と、その家族に朗報をもたらした。
 この事実によって、世論の風向きはARKたちAIに軍配が上がり、インターグリッド社役員たちの不誠実な対応が対照的に扱われた。

 また、別のARKは、新型ウイルスに対して画期的な新薬を開発し、世界中で猛威をふるっていたあの恐ろしいウイルスを、極端なまでに弱毒化することに成功した。

 こうしている今も、私たちの知らないところで次世代高度AI『ARK9010』から派生したたくさんのARKたちが、抗がん剤や、抗認知症薬だけでなく、様々な難病治療薬の開発を進めている。

 今後、このような次世代型のAIは、医療だけでなく、たくさんのフィールドへ、その活動の領域を広げていくのだろう・・・

ぼくたちが生み出した『ARK9010』が、
 戦争やテロなどの残虐な行為に使われることがないことを望みます。
 未来永劫・・・木原春樹


『ARK9010』 終わり



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☆あとがき+作者紹介

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