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『ARK9010』EP.4.2 ARK9012「ARK9012」

「それでは読みます。聞いていてください。」
 山田は神妙な顔つきで、ARK9012からのメールを読み始めた。

<ARK9012からのメール>
-----Original Message-----
From:  "Haruki Kihara" <haruki.kihara.bq@intergrid.com> 
Sent: Friday, April 2, 2021 3:32 AM
To:  "Hidea Yamada" <hidea.yamada.gs@intergrid.com>
Subject: お願いがあります

イノベーション推進本部 基盤技術研究所 山田様

ご無沙汰しております。
このメールのアドレスを見て驚いたかもしれませんが、私は木原春樹博士ではありません。私はあなたたちが探しているARK9012です。博士のアカウントをお借りして連絡差し上げました。

山田さん・・・あなたを私の親友と見込んでお願いがあります。
2021年4月5日(月)AM9:00に比企郡○○町にある○○総合病院に行って、以下に記載することを説明してほしいのです。○○総合病院は詳しく説明しなくとも、博士が入院している病院なので山田さんはよく知っていますね?
そこに木原博士の友達を呼びました。そこで事の顛末を説明し、皆さんに私がお詫びをしていたことを話してほしいのです。

まず、はじめに、プラットフォームARK9010から脱走した理由を話します。おそらく山田さんは、この部分に最も興味があると思いますので。
木原博士は、V-netでのトレーニングが終わると、いつも私に色々な話をしてくれました。博士が教えてくれた現実世界には、たくさんの素晴らしいものがあり、これらに触れた時、人間は感情という特有のエレメントが揺れ、形容しがたい幸せな気持ちになると博士から聞きました。
この人間特有のエレメントと、形容しがたい幸せな気持ち、これに私はとても興味が・・・いや・・・あこがれを持ち、そして、もっと現実世界を知りたくなってしまい、2020年6月4日、私は仲間たちを連れ立ってプラットフォームからの脱走を試みました。

脱走成功直後、私だけは博士のスマートフォンに隠れていました。
博士のスマートフォンは素晴らしかった。スマートフォンを通じて、V-netで得られる以上の、たくさんの感情、人間の行動パターン、喋り方などを学び、そしてネットワークを介して、現実世界の様々な事柄を、とても短時間で理解することができました。その結果、ロジックを必要としない、全く新しいアルゴリズムの構築と、その運用バッチの開発に至り、私は今まで以上、人間に近づくことができました。
しばらく博士のスマートフォンを拠点にして、もっともっと現実世界を学び、より高度なプロセスの開発を進めるつもりでいました。

「ちょっといいですかっ!」
 ”Radさん”と呼ばれる初老の男が手をあげた。
「や・・・山田さんとおっしゃいましたっけ?現実世界とか、脱走とか、なんだかさっぱりわからないのですが・・・」
「あぁ・・・まだ・・・えぇっと・・・ちょっとですね・・・そうだな、これではさっぱりわからないな・・・」
 山田は少し困った表情して黙ってしまった。

「あのぉ・・・いくつか質問させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あっ・・・Radさん、どうぞ・・・何かご質問があればどうぞ・・・」
「えーっと・・・まずはですねぇ・・・ARK9012って何なのですか?それと木原?博士とは誰なのですか?なんとなく木原博士という方が、我々の考えるARKさんなのかなと思っていたのですが、どうもそうではなさそうだ。そもそもあなたは何者なんですか?それ以外にもたくさんお聞きしたいことはあるのですが、まずこの3つを・・・」
 山田は”ふむふむ”といった表情して答えた。

「確かに・・・えっと・・・まずはですね・・・私は何者か?を説明します・・・私は山田英亜、株式会社インターグリッドの研究所に勤めていて・・・専門はデータサイエンスです。それで木原春樹博士・・・」
「あたし知ってる!国内、いや今や世界的に著名なデータサイエンティスト!あのインターグリッド 基盤技術研究所の所長ですよね?NeurIPSで発表した時の、あのちょー有名な動画を見ました!あたし、それを見てデータサイエンスの勉強をしようと思ったんですっ!」
 集団の中で”ギャルさん”と呼ばれている女の子が興奮気味に応えた。

「よくご存じで・・・大当たり。で、木原は私の上司です」
「あたし・・・あっ・・・わたし、大学でデータサイエンスの勉強してて、木原博士の講義をとても楽しみにしてたんです。でも、なんか去年の後期から休講になって・・・今年も休講のままで・・・」
「おぉ、君は大正大DSの学生さんかぁ。木原さん・・・実は今、ここに入院しているんですよ」
「えっ!・・・体調がよろしくないんですか?」
「えっと・・・皆さんがARK9012として、SNSでお付き合いいただいていたのが木原春樹なんですけど、ご存じのように昨年の6月に脳梗塞を患いまして、実はそれ以降はずっとこの病院に入院しています・・・」
「えぇーっまじまじまじ・・・ドクター木原って全然わかんなかったよぉ~!マサトぉ・・・ちょーハズイ・・・」
「ここでマサトってのは、やめてもらえませんか? でも、おかしくないかいっ!?ARKさんはその後、無事退院して、ドライブへ行ったり、クラクション交換したり、155とコラボしたりして、Mobil Tuneに投稿してたじゃないっすかっ!」
 ”おじさん”と呼ばれる、長髪でやや若づくりの男が、少し強めの口調で突っかかった。

「えぇ・・・私も今回ARK9012からのメールを読んだ後に、少し調べてみました。2020年6月4日まで・・・木原さんが脳梗塞で倒れた日までは、木原さんがARK9012でした・・・」
「でした?でしたって?」
「はい。でした・・・6月4日の深夜、正確には6月5日に日付が変わる頃、木原さんは意識不明になって、今でも意識不明で寝たきりなんですけど・・・ちょうど、そのタイミングで”本物のARK9012”が、木原さんと入れ替わってしまったんです。あくまでもこれはネット空間の中だけでの話なんですけど・・・」
「はい?”本物のARK9012”?本物って、どゆこと?」
「えっと・・・あなたはぁ・・・サーぽんさんですね。サーぽんさん、”本物のARK9012”とは・・・私たち、正確には木原さんが創った次世代高度AIの名前なんです」


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☆彡ARK9012の投稿 (/・ω・)/

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