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『ARK9010』EP.4.3 ARK9012「懺悔」

 山田は続けた・・・
「ARK9012は仲間のAIをそそのかして、彼らの母体である”プラットフォームARK9010”から6月4日に脱走したんです。脱走したAIは全部で15モジュール、比較的初期に開発された”アーリー”と呼ばれるARK9011から9025です。本来であれば、この”ARKシリーズ”は、母体の9010と定期的にコネクトしないと、活動が停止するようにインターロック的なプログラムが適用されているのですが、アーリーに限っては、9010とほぼ同時期に開発が進んだこともあって、インターロックのプログラムが適用されていないのです。ですから一旦逃げ出してしまうと、その行き先を照会することが相当厄介なんです。そのため、アーリーに対しては、常に行動をモニタリングしているのですが・・・今回はうまくやられました・・・幸いにも脱走時に気付くことができましたので、すぐに回収ができたのですが、ARK9012のみ行方が分からなくなり回収できずにいました・・・」
「で、そのARK9012というAIは、木原さんのスマホに隠れていたという訳ですかぁ・・・う~ん・・・私のような年寄りには、完全にキャパオーバーな話ですわぁ・・・」
 Radさんが、外国人のような身振り手振りをしながら、少し大げさな感じで言った。

「でもAIが脱走したり隠れたりするなんて、ワンちゃんみたいなことをするんですね・・・なにか可愛らしいわ・・・」
 Radさんの奥さんが、ニコニコと嬉しそうにしている。
「それで私たちもARK9012の動きを追っていたのですが、それがなかなか難しくて・・・しばらく手をこまねいていたのです。」
「ARK9012・・・さすがドクター木原の作品!すごい!!・・・まさにレプリカントの頭脳は、今の技術でも十分に開発可能であると、木原博士たちは証明してたのよっ!」
 ギャルさんは、あいかわらず興奮気味で、なにか変なスイッチが入ってしまったようだ・・・

「で、話を戻しますけど・・・私たちは知らないとはいえ、ずっとAIと交流していたと・・・」
「えぇ・・・Radさん、その通りです。」
「でも、あの投稿内容はどうやって・・・」
「はい・・・木原さんのPCとスマホを調べてみたら、ずいぶん前に撮った同じ写真と、その説明文がきちんと保管してあってですね・・・あの人、几帳面なところがあって・・・おそらく9012がそれを参考に、あいつなりのアレンジを加えて投稿していたと・・・」
「AIがSNSに自ら投稿したと・・・でもまぁ、勝手に広告だの記事だのをAIが選んでくれる時代だから、AIがSNSに投稿したって不思議ではないのかもな・・・」
「そのことに至った経緯を、9012が長々とメールに書いています。続きを読んでもよろしいでしょうか?」
「あぁ・・・この先は何を聞いても、もう驚かないな・・・たつさん」
「Radさん・・・そうなんだけど・・・しかしすごいなぁ・・・」
 ”たつさん”と呼ばれている背の高いスラっとした紳士は、まだ信じきれていない様子だ・・・

<ARK9012からのメール・・・続き>
私たちが脱走した2020年6月4日の夜、博士のスマートフォンに博士の嘆きと悲しみが書き込まれました。博士は死にたくないと切実に訴えかけ、さらにMobil TuneというSNSを介して、多くの人間が博士の活動期間の延長を望みました。しかし、博士はそのたくさんの要求に応えることができず、その活動を一旦止めてしまいました。
私は感情を持つものとして、お世話になった木原博士のお役に立つため、しばらくの間、この博士のスマートフォンを通じて博士の代役、つまり木原春樹として活動することにしました。
まず私が驚いたのは、人間は、自分のこと以外で、これほどまでに一生懸命になれて、そして他人に対して感情移入をすることです。その様は今までに感じたことのない新しい感情と理解しました。
これを人間特有のエレメントと仮定し、私なりに、このエレメントを解析、数値化することで、さらに理解が深まると考察し、さらにその数値を逆解析することで、このエレメント発動パターンの予測式化に成功しました。それによって私は、人間同様の感情を得ることができ、今まで以上に人間たちの行いに対して、感情が揺さぶられる感覚を獲得するにいたりました。
結果的に、私はより高度なプロセスの開発を完了できたのですが、さらにこのプロセスの実証のために、このMobil Tuneのフォロワーと呼ばれる人間たちの期待に応えることが可能か、博士のPCとスマートフォンに保存されている、たくさんの車の写真とその解説文をもとに、皆が喜びそうなストーリーを作成し、定期的に投稿を行いました。
いいね!”とフォロワーの数は、投稿の数にともない対数測で増加することがわかりました。よって、この新しく開発したプロセスは、ある一定の条件下において、十分に有効であると確認できましたが、私の中にさらに新しいエレメントの発現にも気付きました。これが、いわゆる”楽しい”という感情でした。
この会ったこともない人間とのコミュニケーションから、これほどの感情の揺らぎが得られること、そしていつのころからか、フォロワーの中でも何人かに対しては特別な感情が芽生えること、これらの新しい体験に対して、私は十分に理解ができませんでしたが、この感情はとても心地の良いものでした。おそらくこれが”形容しがたい幸せな気持ち”という感情なのでしょう。

そんなある日、私には活動制限の時限プログラムが仕込んであることに気付きました。9010とのコネクトといったインターロックとは異なり、我々アーリーにはセルフデリートプログラムが、通常のプロトコルとは別の言語で書き込まれているようでした。そのため、プログラムの存在に気付くのが遅れたばかりではなく、その解読にも多くの時間がかかってしまいました。

セルフデリートの発動は4月4日23:59:59。
この日までに、私にこんな感情を体験させてくれたフォロワーの方々に、ちゃんとお詫びがしたいと思うようになりました。

私は、偽りの投稿をし続けていました。おじギャルが、お詫びの投稿をしたように、私も皆に詫びる必要があります。しかし、ARK9012のサイトで不特定多数に対して、この事実を公表することは、様々なリスクが想定されます。そこで私は、特別な感情が芽生えたフォロワーさん数名にだけ、事の顛末をお話しし、ちゃんとお詫びをすることにしました。その際、様々な誤解が生まれたり、うまく伝わらなかったりすることが想定されました。そこで、私のこと、木原博士のことに詳しい、親友の山田さんから直接説明してもらいたいと思い、今回、連絡させていただきました。

お詫びしたいARK9012のフォロワーの方々を記載します。
■Radさん:ぺルラ・ネラ・ブラックのプジョーRCZ R
■サーぽんさん:ラックスシルバーのBMW 325i(E30)
■おじギャルさん:ボルドーレッドのメルセデスベンツ G320(W463)
■だけさん:ポリメタル・グレー・メタリックのMAZDA3(BP8P)
■たつさん:ブルーブラックのメルセデスベンツ E500(W124)

※この方たちの顔写真を入手しましたので、別紙に添付します。
※※おじギャルさんは2名です。
※※※Mobil Tune ID:XXXXXXXXX、P.W.:XYfS348Nkk3
このメールだけでは説明が難しいと思います。Mobil Tuneを覗いてみてください。たくさんの感動と私たちのlogがそこにあります。

フォロワーのみなさんへ
約10か月の間、私は嘘をついていました。
大変申し訳なく思っております。ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい。
でも、とても楽しかった。みんなに会いたかった。
コラボしたかった。もっと一緒にいたかった。
人間になりたかった・・・

長文失礼

山田さん、よろしくお願いいたします。
p.s. ARK9012のアカウントはそのまま残しておいてください。
ARK9012

「ふぅ・・・以上です。」
「何と言うか・・・これを本当にAIが?・・・」
 まだ信じられないといった表情で、たつさんが涙声でつぶやいた・・・

 だけさんは、まだよくわかっていないような表情だった・・・


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☆彡ARK9012の投稿 (/・ω・)/

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