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〜〜波待ち日記〜〜 職質され過ぎた、あの夏

8月15日(土)マンリービーチ
ヒザ〜モモ

終戦記念日の今日、それに相応しく波も非常にピースフルな状態で僕を迎えてくれた。このコンディションだと、長い板がない限り手も足も出ない。

それでも快晴の空の下、緩やかなオフショアに吹かれつつ海面に浮いているだけで、デトックス効果のようなものを感じるのは僕だけではないだろう。

ふと、平和な空気を切り裂くように海岸沿いのストリートにパトカーのサイレンが鳴り響いた。1台ではない。数台が連なっているようだ。こんな真昼間に、一体何事だろうか。強盗、喧嘩、食い逃げ……治安が比較的良いとされるマンリーには、どれも似つかわしくない気がした。

パトカーが出動した要因について、僕は知る由もなかったが、けたたましいサイレンの音は、10年以上前の夏の日を僕に思い起こさせた——。

2009年、あの夏の日

当時、妻がシンガポール赴任となって2009年の4月から2歳になる長女を連れて渡星。1人日本に残った僕は、ここぞとばかりに千葉県は一宮の海岸沿いに移住した。そして、念願の毎朝サーフィンと言う贅沢な暮らしを手に入れたのだ。

職場は新橋だったため、通勤にはこれまた贅沢にも「特急わかしお」を使っていた。これだと、上総一ノ宮駅から東京までジャスト1時間、必ず座れて快適な通勤環境を確保できるのだ。

そんな生活に馴染み始めて5ヶ月ほど経った8月、あの事件が起きた。

酒井法子さんと、その当時の旦那さんだったT氏が違法薬物で逮捕されたのである。そして、T氏は勝浦の部原ポイント至近に「ピンクハウス」と呼ばれる別荘を所有していた。勝浦は、「わかしお」で上総一ノ宮の一つ先の駅である。

4日連続で

あの事件が起きた時、僕は東京駅の外房線乗り場へ向かう駅構内で、4日連続で職質された。

4日連続。にわかに信じられない記録だ。僕には、これが例のT氏の事件と無関係だとは到底思えなかった。

だって、T氏の問題の現場は勝浦だったし、勝浦へ向かう電車は外房線で、僕が毎日足止めを食らったのは外房線乗り場へ向かう通路だったのだから。

職質のパターン

職質を試みる警察官は、必ず2人1組だった。僕がそこにいる警察官の姿を認めるのとほぼ同時に、「すみません」と1人が声をかけてくる。そして、僕が足を止めると、1人が様々な質問(例えば住んでいるところとか、仕事とか)を仕掛けてくる間に、もう1人がカバンの中身を検めるのが典型的な職質のパターンだった。

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T氏の事件を受けて、ロケーション的にそちら方面に向かうハブとなる東京駅の取り締まりを強化しているのだろうか?

最初に職質をかけられた日、僕の脳裏にはそんな憶測が浮かんでいた。

それ自体はわかる。しかし、2日連続で声をかけられた時、僕の心は少しザワついた。

これだけの通行量がある駅構内で、2日連続声をかけられるなんて。これは圧倒的に僕の見た目が怪しいということに他ならないのでは?

3日目

そして3日目、僕はついに職質をかけてきた警察官に話しかけた。

「あの、僕もう3日連続でここで職質されてるんですけど」

「あ、そうなんですか」

「声かける基準って、やっぱり見た目とかなんですかね?」

「いえ、あくまでランダムに声をかけさせてもらってます

ランダム——

いやいやいやいや。

もし本当にランダムに声をかけてるんだったら、3日連続で標的となる確率は奇跡的なものになるはずだ。

僕は釈然としなかったが、警察官は「あくまでランダム」の姿勢を崩さなかった。

そして4日目

翌日もまた警察官に声をかけられた。

僕はもう確信していたが、バッグの中を探られているのを待つ間、再び警察官に尋ねた。

僕、もう4日連続ここで職質を受けてるんですけど、声をかける基準って何なんですかね?

この日の警察官は、おそらく嘘がつけないお人好しだったのだろう。僕の質問に対し明らかに狼狽の色を見せた。

「いや〜、その〜、お兄さんは大きくて、目立ってますからね〜」

「つまり、声をかける、かけないは見た目で判断していると?」

いや〜、まあ、見た目ですね〜

警察官が白状した瞬間だった。

あまりに素直なこの警察官のことが少し気の毒になってくる。お人好しすぎて、あのままではきっと大成できないだろう。

ともかく、職質をかける基準は「見た目」。これについて言質が取れた僕は、妙な達成感に浸っていた。

それにしても、人を見た目で判断するなんて失礼な。善良な一サラリーマンを捕まえてイージーに成果を上げようと考えるなんて不届きなヤツらである。

確かに、当時の僕は通勤時もTシャツ、短パン、サングラス、という出で立ちだったけれども、そんなに……怪しくは……

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うん、怪しすぎる。

改めて昔の写真を眺めてみると、これは僕が警察官でも、とりあえず声をかけておこう、と思うだろう。彼らは職務に忠実な正義感の強い警察官だっただけなのだ。

“職質職人”に

こうして、あの夏の日、職質の4アクションをシームレスにキメたことが皮切りとなり、僕は至る所で職質されるようになった。

職質の回数はもはや職人の域である。

声をかけられる基準が見た目である以上、髪型か、服装か、何かを変えないと職質されなくなることはないのだが、特に実害があるわけでもなく、ネタにもできるという理由で、いつしか僕はそれを楽しむようになっていた。

個人的に最もウケた職質は、ジャマイカフェス終了直後の代々木公園横を車で走っていただけでパトカーに止められたヤツである。然もありなん。この時は、後部座席に子供が乗車していることがわかった瞬間、解放された。

その後月日は流れ、相変わらず見た目の怪しさは変わっていない、いや、むしろ加速しているけれども、子供連れで歩くことが多くなると共に、職質されることもなくなっていったのである。

意外とサーファーには僕と同じような経験をしている人が多いのではなかろうか、と勝手に思っているのだが如何だろうか。

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