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サントリー絶頂CMをテキストに、改めてセクハラについて考える

(2017年7月旧ブログ記事より)
【サントリー 頂(いただき)絶頂うまい出張CM(総集編)】

女性1:「あれ?大丈夫ですか?」(居酒屋で笑顔でのぞき込む若い女性)

テロップ  出張先でめぐりあった
女性2:「ねえ、どっから来たん?」(居酒屋。笑顔の女性)
女性3:「二人っきりになっちゃいましたね」(華料理店。おたまで鍋をよそいながら、照れたように笑う女性)
女性4:「あたし、一週間前にフラれてまって」(寿司屋? のカウンター。けだるげに上目遣いで見る女性)
女性5:「座ってもいいですか?」(屋外のカフェ。肩を出した服を着た女性が目を輝かせてお願いしてくる)
女性6:「食べようで食べようでおいしかけん」(居酒屋シーン)
女性7:「ふにゃぽにょ?」(お好み焼き屋で。舌っ足らずな口調)
女性3:「肉汁いっぱい出ました」(中華料理店)
女性2:「えー一流企業」(驚き目を見開いて口を押さえる女性。たすき掛けにしたバッグの紐で胸が強調されている。)
女性5:(屋外カフェで焼きトウモロコシをむしゃむしゃ食べる姿だけが映像が流れる)
女性6:(口に箸を入れ、食べる映像だけが流れる)
女性4:(口に箸を入れ、食べる映像だけが流れる)
女性7:(お好み焼きのコテを口に入れ、食べる映像だけが流れる)
女性3:(手づかみで食べる映像だけが流れる)
女性4と3:(ジョッキでビールを飲む映像。音楽とともに)コックゥーーーん!!!
テロップ  コックゥーーーん!!!
女性5と2:気持ちよさそうにビールを飲む映像
テロップ  たくさんの「コックゥーーーん!!!」の文字が飛び交う
女性7と6:気持ちよさそうにビールを飲む映像
テロップ  コックゥ~~~ん!!!しちゃう?!
女性7:「コックゥ~ん! しちゃった……♡」
ナレーション:「絶頂うまい出張CM」
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サントリー 頂(いただき)絶頂うまい出張CM(総集編)

【このCMのどこがダメか。不快のポイント】

現在公開されている動画は、比較的問題のないシーンをつなぎあわせた「総集編」です。各都市別の「ご当地編」がありましたが、あまりに露骨なAV臭と卑猥表現により削除されたようです。しかし視聴可能な「総集編」ですらセクハラ要素がつまっていますので、あらためてセクハラについてを考えてみたいと思います。

 その1:女性を「性的好奇心」の対象としてしか表現していない。
CMすべてが、まるで男性に都合のよ〝妄想〟を凝縮させた出会い系ゲームのようです。
「二人っきりになっちゃいましたね」「あたし、一週間前にフラれてまって」「座ってもいいですか?」「ふにゃぽにょ?」「肉汁いっぱい出ました」「えー一流企業」

CM内では、出会う女性がすべて若くてフェロモンを発し、出張で訪れた「自分」に気があるかのような意味深な態度で「接待」してくれます。会話のなかには何ひとつ「対等な人間としての目線」は出てきません。女性は胸の大きさが強調された服を着て、男性の性的満足と自己顕示欲を満たす会話だけをしてきます。

女性はしたったらずの方言で、「一週間前にフラれた」「二人っきりになってしまった」など、みずからの近況やシチュエーションについて語ります。詳細な伏線が張られているのがまた、男性の妄想執念をつきつけられているようで、なんとも気持ちの悪い内容です。
CM内では「えー一流企業(驚)」と、男性の肩書きに女性が驚き、尊敬と好意のまなざしを向けてそれをきっかけにアバンチュールがはじまる……という伏線のようです。

果たしてその「一流企業」のモデルとなっている「自分」は、サントリー社員なのか、それとも制作に携わった広告代理店の電通社員なのでしょうか。どちらにしても、あまりにご都合主義なシチュエーションは、まるで「一流企業」制作者の日常風景を切り取ってかいま見せられたかのようで、奇妙な俗臭を感じます。

ちなみに出演している女性達は全員が「グラビアアイドル」とのこと。
「一流企業」の男性は、常日頃からこのような「グラビアアイドル」との合コンや、クラブ接待やキャバクラ接待により、ちやほやと男尊女卑のおもてなしを受けているということでしょうか。そのいびつな関係性が男女のスタンダードな社会モデルであるとかん違いしてしまっているのかと、穿ってしまう内容です。
サントリー社内および電通社内での、女子社員へのセクハラ加害が懸念されます。


  その2:セックスを暗喩させるような表現をあえて使用している
出張各地で女性と出会い、美味しい食べ物を堪能している・・・という事実だけでは片付けられない、妙なメタファー(暗喩)が随所に散りばめられています。削除された「ご当地編」をお見せできないのが残念ですが、「総集編」でもその性的濃度は薄まらず、残存しています。

サントリーの公式サイトからは削除されましたが、YouTubeではまだ「総集編」が流れ、書き込まれた感想を読むことができます。皆さまなかなかにコメント力があり、的を射ているのでご紹介いたします。

コメント1:「絶頂」はセックスして射精したときの事です。「コックゥ~ん」は精子を飲むこと「ごっくん」やセックスしてオーガズムを迎えたときのこと。

コメント2:「下ネタを連想する方がおかしい」って人逆に大丈夫? 多分これでエロと全く関係ないと思ってる人は、暗黙のルールとか隠れた意味とか、行間が読めないいわゆる「アスペ」のようなものだと思う。

コメント3:「エロい」じゃなくて「下品」が俺の中での正解

コメント4:出演者全員グラビアで、「絶頂」「肉汁いっぱい出ました」「(火照った様子で)暑くないと? もぉ元気良すぎやん!」「お酒飲みながらしゃぶるのがうみゃあ」というあきらかにビールとは関係のない説明、はるまきを口の中に入れてほうばってる絵とか、「こっくぅーんしちゃった」という意味不明な言葉は、AVでよくやる、(精液を)「ごっくんしちゃった」ってのをもじってるわけ。エロを暗喩しているダブルミーニングってキモいと俺も思う。知性のないおっさんのセンス。女子アナにバナナを食べさせるとか、アイドルにフランクフルトを食べさせて、その横で芸人がニヤニヤしているとかと一緒だな。きもい。

もはや私から補足する必要はないほど、皆さんCMの意図を理解していらっしゃいます。


【「性的好奇心」をアウトプットするのはすでにセクハラ】

「総集編」では明確な性表現がないだけに、制作サイドは「セーフ」と思っているのでしょうか。しかし全編を通して「性的好奇心」は読み取れます。

すでにご存じの方も多いかと思いますが、男女雇用機会均等法11条では、職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置、いわゆる「セクハラ条項」を定めています。個人を「性的存在」として扱うことは労働者に心理的負荷を与え、労働力を低下させ、精神障害を罹患させる危険性が内在するのです。

近年、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントを原因とした精神障害の労災申請が急増していますが、労災の認定基準は、厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署の連名で出されているパンフレット(ネット上でも閲覧可能)から確認できます。
パンフレットには「1・病気やケガ」~「36・セクシュアルハラスメント」まで、労働者が心理的負荷を受けるであろう出来事が36項目に細分化されていますが、その中で、セクシュアルハラスメントの事例として、

・「〇〇ちゃん」等のセクシュアルハラスメントにあたる発言をされた場合
・職場内に水着姿の女性のポスター等を掲示された場合

この二点が例示列挙されているのです。


このように、女性を「ちゃんづけ」で呼ぶことは、一度限りですら、女性に対し心理的負荷を与える内容として、厚生労働省の労災認定基準で正式なカウント材料に明記されています。
また、ヌードポスター掲示など、男性が女性を「性的対象」とみなしている事実をあからさまに突きつけることも、一度限りですら心理的負荷を与える内容とされているのです。

これほどまでに男性が女性を「性扱い」することは、女性にストレスを与えるいじめにも等しい攻撃だという基準がありながら、日本社会の相当数の男性達はこれを「絵そらごと」だと思っているのでしょうか。
そう疑いたくなるほど、あらゆるシーンにおいて女性を「性的いきもの」として扱ってきます。


【男性からの批判の声も多かった】

今回私が救いを感じたのは、男性の多くが不快感を示したことです。
私の知人男性たちも、「鳥肌たつ」「気持ち悪い」「これをNGと感じない男性は、職場の多くのシーンで、女性を不快にさせていることでしょう」「二人きり~ や最近フラれた~ は解説いらずだが、初対面男に飲み屋でいうな」など、CMの異常性に拒否反応を示しています。

一方で、あまり不快に思わないという声もあるようです。その声の方々も、さすがに削除された「ご当地編」を見れば、このCMの意図を知り「なるほどダメだ」と気づいたのかもしれません。
しかし「総集編」だけでもセクハラ要素は満載ですから、これをテキストにして改めて「セクハラとはどういうことなのか」を考えてみます。


ちなみにハフポスト日本版は、このCMにつき7月8日の記事で、『都合のいい女性像を性的に表現』というタイトルで、21歳の一般男性(大学生)に意見を聞いています。男性は、以下のように語っていました。

「女性を出張先の『ご当地品』のように扱っているように感じ、下品な表現もあり、不快です。(男性目線でも)いいな、と全く思いません。特に『女性の活躍を支援する』と謳っているサントリーが、女性を見下すような広告を作っているのはとても残念です。女性を『ご当地品』扱いし、バカっぽくし、(AVを連想させるような)下品なニュアンスを使うーー。これは制作者側の女性に対する蔑視や、あるいは無理解によるものではないでしょうか。どちらかといえば前者だとは思います。オムツCMの「無知」による炎上とは違い、女性に対する蔑視が感じられます。」

『都合のいい女性像を性的に表現』ハフポスト日本


【炎上目的ならばまだ救いがあった】

ネットをのぞくと、「炎上目的」であえて制作された、という意見も見受けられました。しかしこれについてはサントリー側が「炎上目的ではなかった」と釈明しています。

私もかなり初期の段階から、『これは「炎上目的」ではないな』と感じていました。なぜなら、このような「無自覚セクハラの男性」に、私自身が数え切れないほど出会ってきたからです。

仮にこれが「炎上目的」ならば、まだ救いがありました。少なくとも、「セクハラ」が「何」であるかを理解しているからです。しかし実際のところ制作者は「不快を与えている意識すらない」のが実態でしょう。


【差別を差別と気づけない恐ろしさ】

ブロガーのちきりんさんは、「世界を歩いて考えよう」(だいわ文庫)という著書のなかで、「格差が意識されない社会」の恐ろしさを書いていました。
それはちきりんさんがインドのデリーを旅行したときのことです。きれいな制服を着た三人の小学校3、4年くらいの女の子が、アイスバーを食べながら、リクシャー(三輪自転車のような人力タクシー)に乗り下校する姿に出会いました。楽しそうにおしゃべりする女の子たちを「かわいいな」と思い見ていたちきりんさんですが、視線を移してはっとしたそうです。そのリクシャーを引いているのが、下半身に布だけ巻いた、汗と砂にまみれた、まだ幼い少年だったからです。

ちきりんさんは著書の中で語っています。

『彼女らにとっては普通の日常です。小さい頃から親と一緒に乗っているリクシャーです。制服を着て学校に通う自分も、周りの友人と比べて特に恵まれているわけでもないでしょう。彼女らにとっては「リクシャーに乗って学校に行く自分」と「リクシャーを引く同い年の男の子」の存在は、なんの矛盾も抱かせない「日常の風景」なのだと思います。……』


私はこれを読んだとき、少年のことを思い胸が苦しくなりました。そして同時に日本の女性蔑視を思いました。

あまりに当たり前に、あまりに自然に、あまりに巧妙に、あまりに日常的に、音も立てずにひっそりと日本社会に溶け込んでいる、女性への性的軽視と、性存在という鋳型。それは「差別」だと気づかせないほど「日常の風景」として成立しています。女性を「性的いきもの」として矯正することをやめず、あらゆる場面でその行為に慣れきってしまい、もはや「差別」だとすら気づけないのです。


おそらくサントリー絶頂CMの「制作者のような男性たち」は、「CMのような女性たち」に囲まれて生きてきたのではないでしょうか。「CMのような女性達」は、彼らにとって女性のスタンダードなのです。彼らにとって、このような「無自覚セクハラ」CMストーリーは、何の違和感もない、極めて自然な「日常風景」なのでしょう。


【なぜこれをおかしいと気づけないのか。女性性消費が「日常の風景」となっている社会】

今回のサントリーCMに限らず、女性を「萌えキャラ」「性的アイコン」等の性的存在として扱う制作物は後を絶ちません。伊勢市の碧志摩メグ、ルミネのセクハラCM、HISの「東大生美女図鑑」、志布志市の美少女うなぎCM、雑誌VOCEでの女性賞味期限、そして残念なことに、この記事を書いている最中には、「宮城県観光PR動画」でタレント壇蜜氏が登場するセクハラエロ動画が、行政広告として配信されました。


なぜこれらを「おかしい」と気づけないのでしょうか。

さきほどのインドの「日常の風景」よろしく、それは「おかしい」と気づけないほど、女性の性商品化が日常に溶け込んでいるからです。率直にいってしまえば、日本で「女性性のデフレ化」が起きていて、女性の価値そのものが著しく低下し、女性全般を「性」として軽んじることに罪悪感を抱けなくなっているのです。

どの国でも一定数の性産業は存在するでしょう。合法・非合法、また善し悪しは別として、一掃することはむずかしいのが現実だと思います。

しかし日本ほど「素人女性」と「玄人女性」の境がグレー化している国はありません。AVや風俗などのハードなものから、キャバクラ、JKビジネス、ガールズバーなどライトなものまで、あらゆる角度から「一般女性を性商品化」するビジネスが蔓延しています。

そしてそこで働くのは、食べるものにも困る……という最貧困層にいる女性でもなく、能力がなくてほかの仕事ができない……という女性でもない、いわゆる「ごく普通の一般女性」も多いのです。

ガールズバーで働くアルバイト女性の「学生率」が多いことには驚かされます。ガールズバーの時給相場は1500円~2000円くらいということで、たしかにほかのアルバイトに比べ、少し高めではあります。しかしその数百円のなかの、「性を商品化する」ことの重み、そこから損なわれる個人の尊厳、品格というものは、果たしてしっかりと受け止められているのでしょうか。
性をビジネスにする忌避感が鈍磨し、日本という国の全体倫理意識が低下しているように感じます。

実際に私がよく受けるセクハラ発言の内容として、キャバクラや水商売を「普通の女性がカンタンにするもの」といった、男性からの女性軽視セクハラ発言は後を絶ちません。


女性を「性的いきもの」として軽んじることをタブー視できない、忌避事項だと気づけない。
あまりに女性消費ビジネスが整いすぎた社会環境のなか、「性を商品化したくない女性達」の声が届きにくく、淡く小さくかき消されそうになっていることは事実です。このような環境で男女共同参画社会が進行しないのも、しごく当然のなりゆきではないでしょうか。

今回のサントリーCMも、居酒屋等で出会った「普通の女性」を、性的好奇心のみで表現することをタブー視できない、麻痺した性意識から制作された、無自覚セクハラの一例です。


【意識の常識は変化している。気づいた後が大事】

男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年ですが、当時、職場の男性達は「女子社員の肩をもんであげたり、エッチな質問をすることなんか、ただのコミュニケーションだよ。こんなことまで禁止されたら窮屈で仕事なんかまわらないよ」と言っていました。それが今では一応、「非常識」「セクハラ」だという意識が定着しています。
意識の常識は変化しています。そして、変化しなくてはいけないものだと思っています。

今回の「総集編」をセクハラとすぐには気づけなかった人も、10年後、20年後には、「女性への性的好奇心を表示することそのものが非常識」という認識を抱けるように、変化してくるのではないでしょうか。せめてこのCMが、その「気づき」のきっかけになればよいのですが。


そして大切なのは、「気づいた後」です。
気づいただけで実生活にドロップダウンできないのであれば、それは気づかなかったことと同様になってしまいます。

世の中には多様な立場や意識が存在しています。私自身も、SNS等の記事を読んで、今まで気づかなかった車椅子やベビーカーを使用する方の不便、援助が必要なヘルプマーク、ハートプラスマークなど、初めて気づくことが多いものです。
しかし「気づいた後」は注意力を高め、小さなヘルプとなるよう実行化しています。

他者への思いやりというのは、人間としての「品格」ではないでしょうか。日本社会における男女平等概念の「品格」が、少しでも向上するよう願ってやみません。

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