矢印 つづき
後日談。
矢印の葉は、まもなくその枝元にとげとげとした赤い実をつけた。
何だか見たことがあるなあと思っていたが、
たまたま町におりてきた祖父に聞いたらその答えはすぐにわかった。
「桑の実さ。」
葉の形は見かけないが、この実はまちがいなく山桑だと言う。
とすれば今はほとんど未熟に赤いばかりだが、まもなくきっと色濃く熟すに違いない。
すべての実が黒紫色にきらきら光るその頃には、目下の私の仕事も幸先のよい見通しがたつだろうか。
そしたら鳥たちに食べられる前に、見よう見まねでジャムでもつくってみよう。
あまり多くはないだろうが、少量であれ何であれ、
それを食べる資格を矢印の師がくれると思えば嬉しい。
去り際に辛抱足らず一粒だけ、黒く実った桑の実を食べる。
ほのかに酸っぱくぷちぷちと甘く。とても美味しかった。
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