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ARコンタクトレンズ、粘菌の「知性」、Connected Papersな話(コンワダさん43週目)

 こんにちは、株式会社アーキロイドの亀岡です。今週も社内で話題になった事例(コンワダさん)からいくつかをご紹介します。バックナンバーはこちら

事例1:ARコンタクトレンズで「未来が見えた」

―――概要
 米Mojo Visionは、開発しているAR(Augmented Reality)用コンタクトレンズ「Mojo Lens」を装着して機能の動作確認を行ったことを同社のブログで発表した。Mojo Lensは、コンタクトレンズ上に14,000ppiの解像度で直径0.5mm未満のマイクロLEDディスプレイ・無線通信機能・加速度センサー・ジャイロスコープ・地磁気センサー・アイトラッキングを搭載し、拡張現実を実現している。アイトラッキングを元にした独自のインターフェースを用いることで、ユーザーは手やコントローラーを使わずに目の動きでコンテンツにアクセスしたり、選択する操作が可能になる。CEOであるDrew D. Perkins氏によると、今後はスポーツなどでの活用を見据えている。

記事より

―――この事例について
 AR技術について以前、コンワダさんでもARマップの記事で取り上げたことがありました。そこでは、ARを実装する為の環境づくりを主題に、人がどこに興味を持ってあつまる場所があるかといったマクロな視点による情報を取得する技術についてお話していました。今回は、コンタクトレンズにディスプレイを搭載することでARを実現させる事例です。ARコンタクトレンズには、アイトラッキングを始めとしたセンサー類が搭載されている為、人がどこに興味をもって見ているかといったミクロな視点による情報を取得できる技術とも言えます。あらゆる情報を取得できる環境開発が双方から行われています。勿論、こんな小さなプロダクトにあらゆる機能が埋め込まれていれば、技術力の高さがウリなのは言わずもがなです。7年間の試行錯誤を経て、今年の3月に新プロトタイプを発表し、今回初の装着テストが行われました。
 類似のAR用アイウェア技術と聞くと、熾烈な開発争いが行われているARグラスが思い浮かびますが、手軽に装着できることがARグラスの良さとすれば、ズレにくいことがコンタクトレンズ型の良さなのでしょう。プロダクトとしても今後はスポーツ面での活用に舵を切っているのも頷けます。新しいスポーツやフィットネスのあり方も生まれてきそうな期待と共に「日常シーンではARグラス、スポーツなど特別なシーンではARコンタクトレンズ」といった棲み分けが具体的に為されてくると、未来がぐっと近づいた気になるのは筆者だけでしょうか。

事例2:粘菌の「知性」、イタリアの都市ほぼ再現

―――概要
 香川大学、東北大学、北海道大学、オックスフォード大学の研究グループは、都市や道路網が発展していく過程において、既存の地形条件がどのように影響するのか、独自に開発したシミュレーターによって定量的に分析し、その研究成果をネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌「Scientific Reports」で公開した。青木高明准教授ら(香川大)が中心となり、イタリア半島の都市の発展を分析し、滞在人口の多い地点とつながっている場所や多くの道が交わる場所に人がより集まり、都市規模が大きくなるようにアルゴリズムを組んだ。そこに、中垣俊之教授(北海道大)の粘菌モデルによる道路網パターンを組み合わせ、「海岸線」「標高」「河川や海」などの地形の情報を加えることでシミュレーション用の「仮想実験環境」を作成した。古代ローマから現代に至るまでの約2千年間の人口分布をシミュレーションしたところ、実際の人口分布と近い状況が再現された。

―――この事例について
 どんな地形で街や道が発展するのか、そんな問いに粘菌の「知性」を使って取り組んでいる研究です。研究チームの1人である北海道大の中垣俊之教授の名前や粘菌の「知性」と見て、ぴんと来た方も多いのではないでしょうか。中垣教授は、粘菌の性質を「流量強化則」と名付けて数式化したことで知られています。粘菌の網をつくっている管は、細胞内の液体の流れが活発であるほど太くなり、弱くなれば細くなり無くなるという性質を持っています。その為、複雑な迷路に粘菌を入れると最終的には餌までの最短経路の管だけが残るそう。また、関東地方を模した形の中に、主要駅や人口の多い場所に餌を置き、粘菌を入れると最終的に粘菌の網が首都圏の鉄道網と近似するというユニークな実験を行い、イグ・ノーベル賞を2度受賞していることでも知られています。
 前段の話が長くなってしまいましたが、そうした粘菌モデルを利用して、都市形成の長期シミュレーションが出来ないかというのが今回の挑戦でした。再現性の高さから今後の研究にも繋げられる成果が得られたのは勿論のこと、単細胞生物の粘菌が「知性」があるような振る舞いをする、何なら人間の行動にすら近似するというアイロニカルな一面も持っているのが一連の研究の魅力とも言えるでしょう。また、最終的にできた「かたち」だけでなく、かたちをつくる行為そのものにも人間に通ずるところを感じます。えさという「インセンティブ」に対して、個として固まらなくてはいけない(管がちぎれない)という「制約」のあいだの結果として粘菌の網が「かたち」づくられている。そのかたちが人間のつくるかたちと似ているのも興味深いです。と筆者個人の見解でしたが、色々な面から切り取れる奥深さをもった研究であることは間違いありません。今後もどんな研究・実験が為されていくのか楽しみです。

事例3:類似論文ビジュアライザー『Connected Papers』

―――概要
 Connected Papersは、ユーザーが論文を検索すると、類似した論文をヴィジュアライズしてくれる論文検索ツールである。論文間の類似度は、単純に直接引用されているかではなく、同じような文献を引用している(書誌結合)か、あるいは同時に他の一つの文献から引用されている(共引用分析)か等から関連付けられており、類似度が高いほど近くに表示される。データベースは、アレン人工知能研究所が開発する学術文献検索サービスであるSemantic Scholarの論文データベースとつながっているため、多岐にわたる科学分野の論文を大量に検索することができる。

―――この事例について
 友人間の週末プロジェクトのような形で始まってから、その便利さで2020年の6月にローンチしたこちらの事例。アップデートが続けられ、今年3月にはモバイル版もリリースしたそうです。最近リリースされた事例ではありませんが、その便利さから最近社内で話題になりました。書誌結合や共引用分析がベースになっているため、人間では面倒な検索手法をアシストしたり、あるいは直接引用だけでは探しきれない論文を見つけることができます。また、力学モデルによってグラフ描画でヴィジュアライズされているため、ひと目に分かりやすいのも特徴といえるでしょう。皆さんも機会があれば、是非使ってみてはいかがでしょうか。

おまけ:現役ハッカーが、映画の「ハッキングシーン」の矛盾点を解説

 Openpath社の創業者で現役ハッカーのサミー・カムカーがテレビドラマや映画で描かれる「ハッキングシーン」はどこまでリアルなのかを解説する動画をWired.jpが公開しています。往来の名作『ジュラシック・パーク』からちょっと前にハマった『シリコンバレー』まで、ばすばす小気味よく切っていきます。見覚えのあるシーンがあるかも。

まとめ

 今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。先週までは毎週金曜日に出していましたが、今週から土曜日にお引越ししました。お引越し後初めての週でしたが、いかがでしたでしょうか。
 インセンティブ(欲)と制約の引っ張り合いの結果として粘菌、率いては人間をみてみましたが、人間が織りなす網の目は、行動だけでなく、知の共有にあり、その先端では制約をもっと広げようというARコンタクトレンズのような開発が日々為されています。種としての人間を感じた筆者でした。
事例1とおまけを見ると、その内視野もハッキングされそうですね。「お前、俺の目を盗みやがったな」という未来も起こりうるのかもしれません。
それでは、良い休日をお過ごし下さい。



「今週、社内で話題になった事例」 について
株式会社アーキロイドの社内で話題になった事例(ニュース、リリース、書籍、動画、論文などなど)のうち、いくつかをご紹介します。元記事の配信時期は必ずしも今週とは限りません。数ヶ月前、数年前のものもあるかもしれません。

社外にこれを発信することで、
①アーキロイドメンバーが日々どのようなことに目を向けているのか、を知ってもらいたい。
②せっかく読んでもらえるなら有益な情報をお届けするために、自分たちの情報感度をもっと高めていきたい。
という目論見があります。

メンバーも大半が30代に差し掛かってきたので、備忘録という意味合いが一番強いかも。ご笑覧ください。

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