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セラミドってなに?お肌に良いの?

こんにちは。
ARchemisTのふるかわ(大学教員との二足のわらじ)です。

夏も後半に差し掛かりましたが、まだまだ暑いし湿度も高くて大変ですね。お肌のトラブルに見舞われるなんてこともあるのではないでしょうか。スキンケア商品の効能と成分には様々なものがありますが、今回はお肌に欠かせない成分「セラミド」について、化学者の視点からお話ししたいと思います。

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セラミドは、お肌の「角層」に含まれる必須成分です。へぇそうなんだぁ、で角層ってなに?って話ですが、一言で言えばお肌の外側の部分です。お肌はざっくり分けて外側から表皮、真皮、皮下組織の3つから構成されています。そして外側の「表皮」は更に、角層、顆粒層、有棘層、基底層の4つの層から成っています。それぞれの層で様々な機能がありますが、角層はだいぶ外側なんですね。人体と外界が接する境界を担うめちゃくちゃ大事な部分で、外部刺激から人体を守るバリア機能を果たしています。

セラミドは肌バリアの形成に必須

角層の構成要素を担っているセラミドですが、一体ぜんたい何者なのでしょうか。セラミドは、スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物の総称です。と、書いたものの、専門用語が過ぎる…何すふぃんごシンって、どこの神さまですか状態なので、実際に人の体にある「セラミド2」という分子を例に図解していきます(セラミド2の“2”って何?というところはひとまずそっとしておいてください)。

Fig2_ラメラ構造他

セラミドは脂(アブラ)の一種なのですが、ラードとかヘットのような脂とは一味違います。セラミドの分子構造には脂っぽいところ(疎水性)と、水っぽいところ(親水性)の両方があります。脂っぽいところは脂っぽいところで、水っぽいところは水っぽいところで互いに仲良しな性質があるので、セラミド分子がたくさんあると層を作るように集合体を形成します。これをラメラ構造なんて呼びますが、水っぽいところが集まった層には水が入り込みやすく、お肌の保湿機能を実現しています。また、脂/水/脂/水/…と複数の階層構造を作ることで、外界から微生物のような異物の侵入を防ぐバリアを形成しています。せらみどすげぇ(語彙力)

セラミドは総称

Fig3_セラミド1-12

先ほど、“セラミド2”という具体的な分子がでてきましたが、「セラミド」という名前は、セラミド1,2,3,4...という多種ある固有の分子たちの総称になります。プリキュアとかセーラームーンとか仮面ライダーといった言葉と同様にカテゴリーを示す言葉です。人の体にもともとある「ヒト型セラミド」は、全部で12種類(セラミド1~12)で、分子の構造が少しずつ異なります。スフィンゴシン*部分と結合する脂肪酸部分がちょっとずつ構造が違って、その組み合わせによって12種類もの分子種を構成しています。ぱっと見似てる分子が多いので、判別レベルはおそ松さん級と言えます(構造式書くの地味に辛かった)。

(*スフィンゴシンは、スフィンクスの姿のように多彩な物性をもつが、生理機能がよく分からない謎の多い物質ということで命名されたそうです。)

スキンケアとしてのセラミド

セラミドは、お肌を正常な状態に保つ効果があります。セラミドを含むスキンケア製品をお肌に塗ることで、肌バリアを形成するラメラ構造を再形成できます。特に、アトピーもちの人のお肌はこの肌バリアが崩れていて、外部刺激に敏感な状態になっています。外からセラミドを補うことで、お肌の正常化を促すことができます。セラミド自体はもともと体にある成分で、肌が健康な状態の人はセラミドによるバリア構造がすでにある状態です。外からセラミドを補うことで見違えるような美肌になるということはないかもしれませんが、肌ダメージを予防する意味合いでは効果を発揮しそうです。

セラミドにはちょっと厄介なところもあります。スキンケア製品にセラミドを使うには、水なりアルコールなり何かに溶かさないといけないのですが、これが若干溶けにくい。クロロホルムのような過激な溶媒には溶けるのですが、さすがにこれをスキンケアに使うわけにはいきません(クロロホルムを手に塗りたくると手全体から血がでてきます(筆者体験談)笑)。これをなんとか溶かすために、セラミド配合製品の中にはそれなりの量の添加剤が入っているケースもあるようです。実際に売られている商品の中には、セラミドの配合率が10%といった高濃度のものもありますが、一緒に配合されている成分次第ではむしろお肌を悪化させる原因にもなるので、敏感肌の方は注意が必要です。

セラミドのもう一つの難点は、「高価」ということです。人の体にもともとあるヒト型セラミドは比較的入手困難で必然的に価格が高くなります。価格を抑えようとするとセラミドの配合量もそこそこになってしまうケースもあるようです。

疑似セラミドとか天然セラミドとか

Fig4_疑似セラミド

入手困難で貴重なセラミドを湯水の如く堪能したい–– そんな思いから利用が始まったのが「疑似セラミド」や「天然セラミド」です。
疑似セラミドは、セラミドとは分子構造が異なるものの、似たような機能を発現するように開発された合成セラミドです。有名なのが花王のCurél(キュレル)に配合されている「ヘキサデシロキシPGヒドロキシエチルヘキサデカナミド」(噛まずに言えた人、優勝)という疑似セラミドです。セラミドと同様、外部から補うことで、肌のバリア機能を高めることができます。ヒト型セラミドの効果には劣るものの、比較的原価を抑えられるのでメーカー側も高濃度に配合できるようです。

天然セラミドは、名前の通り天然物から得られるセラミドで、コメから得られる糖セラミド(グルコシルセラミド)や馬油から少量得られる糖セラミド(ガラクトシルセラミド)といったものが知られています。いずれもセラミドに似た働きをするので、ヒト型セラミドの代替物としてスキンケア商品に配合されていることがあります。

ということで、今回はセラミドを分子の観点からご紹介しました。もっと具体的に「どのセラミド配合スキンケア商品がいいの!?」という方は、かずのすけさんの著書「化学者が美肌コスメを選んだら…」がオススメです。セラミドと一緒に配合されている成分についても様々な解説があり、とても勉強になります。スキンケアには様々な商品がでています。正しい知識をもつことでお金を無駄遣いしなくてすんだり、的確な効果を得られるようになるのは嬉しいですよね。気になった方はぜひチェックしてみてください。

おまけ

お肌を保湿したり正常化したりと良い側面が目立つセラミドですが、実はあまり知られていない機能があります。セラミドは細胞死を引き起こします。高校の生物で習うアポトーシスってやつです。これを聞いて「えっ?」っと思った方もいるかも知れません。“細胞死”ということば自体、スキンケア商品としてはイメージが悪そうなのであまり言われていないのかもしれませんが、実際にそういう機能が知られていて研究されています。セラミドは分子構造からもわかるように、両親媒性の性質をもち、リン脂質膜に入り込めば正常な細胞膜の構造を変化させ、やがて細胞さんは機能を果たさなくなります。体の中ではこのような作用も絡み合いながら、絶妙なバランスを保っているようです。

ちょっと不安になる情報だったかもしれませんが、いまのところセラミドが原因で肌トラブルが起きたというような目立った話もないようですし、適度に使用していれば適切な効果が得られると思います。ヤリ過ぎに注意しながら、うまく利用していきたいですね。


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