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アーキテクチャー・ツアー 日本橋

次なる建築を求め日本橋へ。神保町から東西線で移動していきます。
ツアーでは毎回複数の街、もしくは複数の建築をセレクトしていて、どこかに土地や時代性など変化を見つけながら街歩きをしたいと思っています。

新旧の街並みがモザイク調に合わさった日本橋

地下鉄の改札を出ると現代美術家、山口晃氏のアートを見つけました。丁寧に作りこまれたステンドグラスです。

架空の日本橋が面白い。首都高の上にかかる太鼓橋

橋の右下にあるのは帝国製麻ビル。日本橋を写した古い写真でよく見かけます。運河に面した洒落た赤煉瓦がかつての日本橋を彩っていました。
本日2件目の目的地はもうすぐ。地下直結の百貨店です。

高島屋日本橋店 1933年
ぐるりと建物をまわりながら眺めていたのですが、どこから見上げても端正な出で立ちで、クラスの優等生的な建築だなと思いました。百貨店建築として初めて国の重要文化財に指定されたのも納得です。
ルネサンス様式をベースにしていて、低層・中層・高層階の差異が視覚的に強調された作りになっています。調和という言葉で表現される事の多いルネサンス様式ですが、どこから見ても美しく見える、こうした上質なプロポーションこそがその芸術性の所以なのだと、建築を見上げながら改めて感じました。

面白いのはこうした西洋の建築様式を建設当時の日本人はヨーロッパではなくアメリカを通じて学んでいたということ。ヨーロッパでは古典的な様式を学ぶには時代が進みすぎて、だれもそんな事をまじめにやっている人はいなかったんです。だから当時の日本はまだ新興の国だったアメリカに範をとって西洋式を取り入れていました。
一緒に歩いていたアメリカの友人が高島屋を見て、車の排ガスで薄汚れたニューヨークのビルを思い出すと言っていたのが印象的だったのですが、この建築にはしっかりアメリカと歴史的なつながりがあったのですね。ブログを書くために後から調べていてリンクしました。

高島屋の魅力はまだまだたくさんあります。西洋建築を土台にしながらも、いろいろな部分に東洋的な装飾がほどこされている点。そして、戦後に何度も増築されており、そうした増築部分も含みで重要文化財になったということも評価されるポイントです。
いつも参考にしているガイドブックの解説が秀逸で、高島屋の魅力を一文で表現していたので引用したいと思います。

「東洋趣味を基調とする現代建築の創案」を重視したコンペの当選案を村野が戦後に増築。過去におもねらず、進歩を盲信せず、「様式」も「モダニズム」も同列に扱う手法で、百貨店の華やかさを新時代に再生させている。

東京建築ガイドマップ P14 エクスナレッジムックより
1階入り口。寺社建築のような天井

もともと取り付けられていたシャンデリアは戦時中の金属供出により外されてしまったそうで、現在のものは戦後の改修時に村野藤吾(むらのとうご)という建築家によって新たにつけられたものです。

百貨店1階の化粧品売り場で建物の天井にカメラを向ける我々。周りからのやや冷めた視線を感じましたが、後から読んだ高島屋のパンフレットに「建築の魅力を堪能してほしい」という一文を見つけ、自分は間違っていなかったと救われた思いがしました。

2階部分が見渡せる。独特なかたちをしている、これも東洋?
欄間をイメージさせるデザイン。オーチス社のエレベーター
エレベーターのボタンすらもこの重厚感


お目当てはもう一つ、高島屋4階にあるのが高島屋史料館TOKYOです。

百貨店展 夢と憧れの建築史

高島屋だけでなく、日本全国に誕生したさまざまな百貨店の歴史が貴重な写真を通じて展示されています。
当時は平屋が当たり前だった時代、百貨店という建築そのものが街のランドマーク的存在だったことがよくわかります。レストランで洋食を食べて屋上の遊園地で遊ぶ、そんな非日常を家族みんなで味わえる娯楽施設でした。まさに夢と憧れの場。

増築を繰り返しているからなのか、屋上の高低差がすごい

屋上に上がってみました。九段会館もそうでしたが、屋上に上がると都会の喧騒から少し離れて、解放感と共に何とも言えない安らぎを感じます。

写真真ん中のカーブした部分、なにか匂う…。もしやあそこが増築部の境界線では、、?

最後に外へ出て周辺部を散策。ここで改めて増築について触れたいのですが、高島屋は戦後、村野藤吾によって4度の増築がなされています。写真の手前側が旧館、奥に見えるのが新館です。新館の外壁はガラスブロックが使用されており、戦後モダニズムの流れを感じました。
村野藤吾は階段の魔術師とも呼ばれていて、彼が生み出す階段の手すりの美しさには定評があります。

一方で、私にはどうも捉えにくい建築家というイメージがあります。以前、建築史家の先生も講演会の中で、豪華なシャンデリアを使うかと思えば、急にベニヤ板を壁に使ったりすると言っていて、なかなか掴みどころが難しいなと感じました。

左は新館の高島屋S.C. 目を引く曲線には旧館の面影があって良い

新館と旧館の間は歩行者用の通路になっていました。植樹もされていて、洗練された都心の空間の使い方です。

なかなか面白いアングル。通りを覆うガラスの屋根は湾曲していて現代的

日本橋は歩道が広いし、こうして歩行者専用の落ち着いた空間も作られています。
立ち止まれる余裕こそが都会の建築鑑賞には欠かせないのかもしれません。人々がせわしなく歩き続ける東京でそんな事をふと感じました。

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