【無料】日銀、金融引締をできない中央銀行
投資猫レイです。
今回のテーマは、日銀の金融政策です。黒田前総裁の下で進められた大規模金融緩和が残した負の遺産をピックアップします。
日銀にFRBのような金融引締ができるか
もし、日本に、米国と同様の高インフレが訪れたとして、日銀に、FRBのような金融引締が実行できるでしょうか?
答えはNoです。理由は次の3つです。
政府の利払費の急増
次のチャートは、米国政府の利払費の推移を示します。当然ですが、急激な金利上昇に伴い、米国政府の利払費は急増しています。
これが第一の理由です。日本の財政は、日銀が国債買入を停止してQTを開始すれば、米国のような利払費の急増に耐えられません。
日本の財政政策は、黒田前総裁の大規模緩和の下で、日銀に大きく依存するようになりました。つまり、財政ファイナンスです。
日本の財政は、今や、日銀の低金利政策と大量の国債買入という財政ファイナンス無しには持続できない状況です。
日銀は政府国債の約半分を保有しています。その日銀が、インフレ抑制のために国債買入を止めてQTを開始すれば、日本政府は国債発行による資金調達を十分に実施することができず、デフォルトに陥る可能性があるのです。
このことを端的に示すのが下記の記事です。格付機関フィッチは、日本国債の格付は日銀の国債買入に支えられていると明言しています。
日銀の含み損
また、日銀が、FRBのように、利上げとQT(量的引締)に踏み切れば、日銀自身に多額の含み損が発生します。これが第二の理由です。
イールドカーブが1%上昇するごとに、日銀の保有する国債の含み損は約29兆円増加すると試算されています。
したがって、米国債10年利回りは金融引締によって一時4%を超える水準まで上昇しましたが、仮に同様の水準まで日本国債利回りが上昇したとすると、日銀の含み損は100兆円を超える可能性があります。
日銀の巨額の赤字
日銀は、簿価会計を採用していることから、含み損が発生したとしても問題ないのでしょうか。
答えはNoです。この含み損は、金融引締局面では、実現損益として実際に発生し得るからです。
(日銀が大量に保有する国債は固定金利ですが、日銀の負債である日銀当座預金は変動金利(オーバーナイト金利)であることから、利上げによって日銀は大幅な逆鞘を抱え得ます。)
仮に日銀が、FRBと同様に、5%まで政策金利を引き上げると、日銀当座預金に対する支払利息は年間約25兆円になります。(日銀当座預金残高約500兆円×5%)
(日銀当座預金への付利には、現在は3層構造が設けられていますが、金融引締時には金融引締の効果を確実なものにするために、3層構造の撤廃が必要だと考えられます。実際に、ECBは利上時に中銀付利の階層構造を撤廃しました。)
2022年度の日銀の剰余金(利益)は約1.5兆円でした。したがって、政策金利を5%まで引き上げた場合、日銀は1年間で20兆円超(1.5兆円-25兆円)の赤字を計上することになると予想できます。
この損失(のうち日銀の自己資本を上回る分)は、政府によって補填される必要があります。しかし、金融引締局面では、税収の約30%にも登る拠出金を捻出することはできません。
(中央銀行には通貨発行権がありますが、通貨発行権は主に国債買入によって行使されます。金融引締局面では、国債買入を実施しないことから、通貨発行権の行使ができないと考えられます。ただし、国債買入を伴わない通貨発行権の行使によって日銀は債務不履行を回避することは可能です。この場合でも債務超過分は日銀(そして統合政府の)の実質的な負債として残り続けることから、いずれかの時点で解消される必要があります。)
結論
仮に日本で、昨年の米国のような高インフレが起こった場合、日銀は、FRBと同じような金融引締を実行できません。
もちろん多少の金融引締は可能ですが、その多少の金融引締では収まらないインフレが訪れた場合、日銀に為す術はありません。
金融引締の実行に制限を掛けられた中央銀行の発行する通貨が、その信認を維持し続けることができるかどうかには重大な疑義があります。ひとたび、日本円の信認が失われれば、通貨価値の暴落(ハイパーインフレ)が訪れます。
日本経済にとっての最大のリスクは、欧米を襲ったような、高インフレです。デフレではありません。
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