WEEKLY REFEREEING ANALYSIS #1-6 「J1第31節 札幌 vs C大阪」R西村雄一さん 75分-90分+まとめ
目次に重要度を星で示しています。お忙しい方は星の多い物のみ読んでみてください。他のこの試合についての分析については、最後にまとめてあります。目次からジャンプしてお読みいただけると幸いです。
明治安田生命J1リーグ 第31節
北海道コンサドーレ札幌 1-3 セレッソ大阪
審判団 主審 西村 雄一 副審1 野村 修 副審2 堀越 雅弘 第4の審判員 船橋 昭次
得点者 札幌 ジェイ (65')
C大阪 ブルーノ メンデス (40'・80') 清武 弘嗣 (54’)
警告 札幌 ジェイ (62')
シュート数 札幌 9-14 C大阪
コーナーキック数 札幌 5-1 C大阪
フリーキック数 札幌 13-12 C大阪
(J. League Data Siteより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24159)
ここまでのまとめ
西村主審を中心とした審判団は、基本に忠実かつスーパーなポジショニング・正しい判定・的確なマネジメントを積み重ねて、ゲームをスムーズに運営してきた。この最後の15分、その積み重ねが功を奏すのか見ていく。
★ 76:11 ファウル 札幌5 福森 晃斗⇒C大阪16 片山 瑛一
札幌陣内コーナーフラッグポスト付近、副審1の野村修さんの目の前で札幌5福森晃斗選手がC大阪16片山瑛一選手をつまずかせてしまい、トリッピングの反則。ドリブルの方向は外側で、選択肢がない状態だったため、状況による警告はなし。福森選手はFKが始まる前に片山選手に謝罪していた。リスペクトにあふれる行為だ。
この時間から1点差でリードしているC大阪は時間を使ってくることが予想されるので、審判団には時間の浪費に対するマネジメントが要求される。
★★ 76:49 FKへのポジショニング
上記のファウルに対するFK時の西村主審のポジショニングを見てみる。西村主審はペナルティーアークの右側にポジションを取っている。競技規則のセオリー通りだとペナルティーアークの左側にポジションを取るとされているが、なぜ右側にポジションを取ったのだろう。
このシーンではPA内の壁に入った両チームのフィールドプレーヤーの位置の割合は下記のようになっている
ニアサイド 札幌 2人 C大阪 1人
ミドルサイド 札幌 4人 C大阪 4人
ファーサイド 札幌 1人 C大阪 1人
このように、PA内右側に選手が集まっている。キッカーのC大阪14丸橋祐介選手が蹴るボールの質としては、ニアサイドに速めのボールをけることが予想される位置であり、現に丸橋選手はシュート性のボールを放っている。
このような状況ではニアの反則が起こる可能性が多いと判断した西村主審がニアに対し見やすい位置取りを考え、ペナルティーアークの右側に立ったと考えられる。また、副審1の野村修さんの目の前だったこともあり、もし壁でハンドがあったとしてもサポートを受けられると考え、完全にエリア内の競り合いにフォーカスしている。
状況に応じた適切なポジショニングを取ることが、審判員にとっても用意の時間があるセットプレーにおいては、より容易かつ大切なのだ。
★★ 78:30 ファウル 札幌8 深井 一希⇒C大阪32 豊川 雄太(その後の時間のマネジメント)
C大阪2松田陸選手がクリアしたボールにヘディングをしようとした32豊川雄太選手の後方からチャレンジした札幌8深井一希の手が顔に入り、ストライキングの(うつ)反則。
反則後には西村主審が深井選手に対し「ちょっと手入っちゃった」と説明しており、時間を気にする札幌の選手に時計を指さし、「時間止めますから」と声掛け。このマネジメントは、時間を気にする札幌の選手たちを落ち着かせ、時間に対する声を上げることを未然に防ぐ効果がある。細かな話だが、この細やかな心遣いが選手を安心させ、試合をスムーズに進ませる。
79:10 ゴール C大阪20 ブルーノ メンデス(札幌1-3C大阪)
上記のファウルのFKからロングボールに反応し、抜け出した豊川選手がクロスを上げ、C大阪20ブルーノメンデス選手がこの試合2点目のゴール。反則やオフサイドはなく、得点を認めるのは妥当。
★ 80:27 ファウル 札幌48 ジェイ ⇒C大阪25 奥埜 博亮
札幌48ジェイ選手が横パスを受けようとしたところで、手を広げたところC大阪25奥埜博亮選手の顔に手が入ってしまい、ストライキングの反則。不用意なもので、ノーカード。
★ 82:08 ファウル 札幌8 深井 一希⇒C大阪16 片山 瑛一
C大阪陣内バイタルエリアで後方からのボールにトラップしたC大阪16片山瑛一選手に対し、札幌8深井一希選手が後方から背中にチャージし、反則。深井選手は57分に出場してから25分程度で3個目のファウル。どれも軽微なものではあるが、若干反則が多い。
★★ 83:50 副審1野村修さんのWait and See(フラッグの持ち替え)
C大阪の攻撃で、パスが出たタイミングでC大阪13の高木俊幸選手がオフサイドポジションにいた。プレーしなかったため、オフサイドの反則にはならなかったが、副審1の野村修さんはフラッグを右に持ち替えて、オフサイドポジションにいることを伝えていた。このことは、主審にオフサイドポジションに選手がいたことを示すだけではなく、選手にも伝えることにつながる。実際このシーンでは、札幌32田中駿汰選手もそのことを把握し、オフサイドのアピール後に野村さんに分かったと意思表示していた。
このオフサイドポジションの選手がいた場合に、右手にフラッグを持ち替える動作は、審判団・チーム双方に非常に大切である。
★ 88:07 ファウル 札幌2 石川 直樹⇒C大阪16 片山 瑛一
C大阪陣内でクリアボールをトラップしに行ったC大阪16片山瑛一選手に後方から来た札幌2石川直樹選手が足をけってしまい、キッキングの反則。このとき西村主審は最初ボールの落下地点に入ってしまっていたため、2mほどバックステップしてよける動作が入っており、距離が近すぎるために容易ではない判定であった。下がるタイミングが遅れていれば判定は難しかっただろうが、なんとか下がり、適切な判定を下した。距離が近すぎるのも判定のエラーにつながるので、気を付けなければいけない。片山選手はこの最後の15分被ファウルが多くなっていた。
90分終了 アディショナルタイムの表示は5分
95:53 試合終了
アディショナルタイムには、交代があったが、その際も退くC大阪25奥埜博亮選手は時間を過剰に使うこともなく、西村主審も走って近づくことで早めの交代を促した。そして、オープンな展開になることもあったが、最後まで適切な角度・距離で判定を下し続けており、フィジカル面の高さも感じられる終盤であった。
★★90分間のまとめ★★
【西村主審について】
・予測からポジショニング「DFとMFの間のスペース」と「R-B-A」
再三再四書いているよう、西村主審は中盤での横移動をしながらの「DFとMFの間のスペース」へのポジショニングを基本に、予測を基に「R-B-A」の作成をするかの判断を90分間続けて、カウンター時にはスプリントで最適な角度と距離を保ち続けていた。さすがのポジショニングで、次の項で記す判定にもつながっていた。
↑「DFとMFの間のスペース」という基本ポジション
↑「R-B-A」の作成
・判定からマネジメント 「正しい判定」と「ちょうどいいマネジメント」
予測がはまり、ポジションが正しいことは、当たり前だが正しい判定につながる。この試合で、判定ミスは一つもなかったといえるのではないだろうか。選手も西村主審の基準をリスペクトし、試合はスムーズに流れていった。
なにより秀逸だったのが、判定後のマネジメントである。判定をした後には、反則をした選手・反則を受けた選手・互いのチームメイト・チームスタッフが納得感を持っていくことが不可欠である。西村主審は、必要なタイミングで、必要な量のマネジメントを高い質でで90分間続けていた。このタイミング・量・質は全ての人をサッカーに集中させており、審判のことが気になった人は少なかったのではないか。
【審判団について(副審・第4の審判員)】
副審1野村修さん
59分のタッチジャッジのミスは焦ってしまったのか、早くシグナルをしすぎたことでエラーとなった。それ以外のシーンでは、ミスはなく、84分のフラッグの持ち替えやサイドステップの速さなど非常に勉強になるシーンがあった。
副審2堀越雅弘さん
堀越さんサイドではオフサイドが一度もなく、自身の近くでボールが出て意外と見づらいシーンのタッチジャッジに関しても淡々とミスなく判定が下されていた。
第4の審判員船橋昭次さん
交代・アディショナルタイムの表示もスムーズに行われており、けが人がいなかったことから対応もなく、本当に何事もなかった。第4の審判員にとって何事もないのは最高の仕事といえるだろう。
以上で、この試合の分析は終わるが、明日「データ編」と「無料ハイライトでわかるポジショニング」という番外編を掲載する。是非お読みいただけると嬉しいです。本日も読んでいただき、ありがとうございました。
この試合を分析したシリーズ
#1-1「イントロダクション・0分-15分」
#1-2「15分-30分」
#1-3「30分-45分・前半のまとめ」
#1-4「45分-60分」
#1-5「60分-75分」
この試合のハイライト
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