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【速報版】WRA#2-0 PK取り消しとマネジメント 名古屋-横浜FC(池内明彦主審)

目次を用意してありますので、お忙しい方はご興味のある所のみをお読みいただけると幸いです。(判定だけについてだと、【本題】以下が該当します。)

12月13日10:00に加筆修正いたしました。

はじめに(長いですが、お読みいただけると幸いです)

私が先週から始めたこの「WEEKLY REFEREE ANALYSIS」は、自身の研鑽を目的に行っているもので、「90分の細かい積み重ね」のもとにレフェリングが成り立っているというコンセプトのもと、フルマッチの分析を行いたくて始めた。(第1回目の西村雄一主審が担当した札幌-C大阪の分析も併せて軽く目を通していただけるとコンセプトがご理解いただけると思う。マニアックで何を言っているか分からないかもしれないが、自分の学びのためということでお許しいただきたい。)

そのため、90分を細かく分析することが目的であり、話題の判定を取り上げることに正直意義を感じていない。なぜなら、判定は映像で見れば基本的に誰でもできるからだ。映像の角度さえ合っていれば、答えを出すことができる。しかし、ピッチに入ると本当に難しく、審判の難しさを毎試合感じ、選手たちに迷惑をかけたと自己嫌悪に陥ることもよくある。

J1を担当する審判員たちは私にとって雲の上の存在であるし、日々仕事と両立しながら、トレーニングに励み、尊敬している存在である。そんな私からするとスーパーマンのような存在の方々でも、ちょっとした要因でミスをして、叩かれるのがレフェリーという存在だ。

私が持つ資格である2級審判員は全国に2019年で3,705人いるが、1級審判員となると224人しかいない。さらに、J1の主審を担当したことがあるレフェリーとなると、29人しかいないのだ。これは、全国で審判に登録している人の、0.01%でしかない。彼らの偉大さが分かる数字だと考える。

そんな彼らは、ミスをすると、人格を否定され、誹謗中傷に遭う。今回担当した池内明彦主審も、今日の試合でも素晴らしいシーンはあったが、そんなことは気づかれない。そしてなにより、全世界で共通した競技規則にこんな文がある。

サッカーには、競技規則がなければならない。「美しいサッカー」の美しさにとって極めて重要な基盤は「公平・公正さ」である。それは、競技の「精神」にとって不可欠で重要な要素であり、競技規則によって担保される。最高の試合とは、競技者同士、審判、そして競技規則がリスペクトされ、審判がほとんど登場することのない試合である。

競技規則は審判が登場しない試合こそ美しい試合だといっているのだ。そう多くの審判員は願っているし、今回の審判団も名古屋グランパスが嫌いでこういう結果を招いたわけではない。だからこそ、90分の積み重ねに注目し、自分が「理想のレフェリー」になるための勉強の共有のために、このNoteを始めた。

本当はしたくない、「話題の判定のみを取り上げること」をする理由は、大きく3つある。
①自身が分析しようと元々考えていた試合であること(Twitter投票の結果)
②「鉄は熱いうちに打て」という格言通り、早めに判定について考えを示した方が、審判に興味ない人にも注目していただけること
③間違いなくジャッジリプレイで取り上げられるので、他者の考えが入る前に分析した方が自分の勉強につながるという風に感じたこと

以上の理由から取り上げるが、来週には全7回に分けて、この試合での90分の積み重ねを分析するシリーズを毎日1回投稿する予定だ。是非、審判団が見せた勉強になるシーンについてもみていただけると嬉しい。なぜなら、全てのジャッジが私の憧れの舞台に立つスーパーマンたちの全力の結晶であるから。

公式記録と審判団紹介

明治安田生命J1リーグ 第32節
名古屋グランパス 0-0 横浜FC
審判団 主審 池内 明彦 副審1 山内 宏志 副審2 村井 良輔 第4の審判員 植田 文平

警告 横浜FC 手塚 康平(90'+3)
退場 名古屋  ガブリエル シャビエル(82')

シュート数    名古屋  13-9 横浜FC
コーナーキック数 名古屋  3-5   横浜FC
フリーキック数  名古屋  15-8 横浜FC
(J. League Data Siteより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24171)

審判団紹介
主審 池内明彦さん
広島県出身の1級審判員で、今日の担当はJ1通算62試合目。J2と合わせて193試合目となるなど、同世代の審判員の中では非常に多くの試合を担当しているといえる。

副審1 山内宏志さん
愛媛県出身の審判員で、国際試合を担当することができる国際副審の一人。前回取り上げた野村修さんと同じく、副審では4人のみのプロフェッショナルレフェリー。2018年のロシアワールドカップでは、副審の一人として派遣された。この日はJ1通算138試合目。分業化が確立された現代の副審としては珍しく、J2で56試合の主審経験がある。

副審2 村井良輔さん
滋賀県出身の1級審判員で、この日はJ1通算81試合目。J2通算202試合となっており、非常に経験豊富な副審である。

第4の審判員 植田文平さん
滋賀県出身の1級審判員で、普段はJ1とJ2で副審を担当している。J1通算64試合、J2通算105試合の副審を担当している。

【本題】78:02 ハンドボールに対するシーン 横浜FC5  田代 真一 

正しいと考える判定⇒ノーハンドで試合を継続すべき

このシーンでは、名古屋8ジョアンシミッチ選手がヘディングでクロスを折り返したボールが横浜FC5田代真一選手の腕に当たった。

この時腕に当たったことは間違いないが、サッカーにおいては手や腕にボールが当たること自体が反則なわけではない。

最新の「サッカー競技規則2020-21」の「第12条 ファウルと不正行為」には下記のようにある。(全文抜粋)

ボールを手または腕で扱う
ハンドの反則を判定するにあたり、腕の上限は脇の下の最も奥の位置までのところとする。
競技者が次のことを行った場合、反則となる。
◦ 手や腕をボールの方向に動かす場合を含め、手や腕を用いて意図的にボールに触れる。
◦ ゴールキーパーを含め、偶発的であっても、手や腕から相手チームのゴールに直接得点する。
◦ 偶発的であっても、ボールが自分や味方競技者の手や腕に触れた直後に
・ 相手競技者のゴールに得点する。
・ 得点の機会を作り出す。
◦ 次のように手や腕でボールに触れたとき
・ 手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくした。
・ 競技者の手や腕が肩の位置以上の高さにある(競技者が意図的にボールをプレーしたのち、ボールがその競技者の手や腕に触れた場合を除く)。
これらの反則の範囲は、ボールが近くにいる別の競技者の頭または体(足を含む)から競技者の手や腕に直接触れた場合でも適用される。
これらの反則の範囲を除き、次のようにボールが競技者の手や腕に触れた場合は、反則ではない:
◦ 競技者自身の頭または体(足を含む)から直接触れる。
◦ 近くにいた別の競技者の頭または体(足を含む)から直接触れる。
◦ 手や腕は体の近くにあるが、手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくしていない。
◦ 競技者が倒れ、体を支えるための手や腕が体と地面の間にある。ただし、体から横または縦方向に伸ばされていない。
ゴールキーパーは、自分のペナルティーエリア外でボールを手または腕で扱うことについて、他の競技者と同様に制限される。ゴールキーパーが自分のペナルティーエリア内で、認められていないにもかかわらず手や腕でボールを扱った場合、間接フリーキックが与えられるが懲戒の罰則にはならない。しかしながら、プレーが再開された後、他の競技者が触れる前にゴールキーパーが再びボールを触れる反則の場合(手や腕による、よらないにかかわらず)、相手の大きなチャンスとなる攻撃を阻止した、または相手の得点
や決定的な得点の機会を阻止したのであれば、懲戒の罰則となる。

長くて何を言っているのかわかりにくいので、今回のハンドの判定の基準にあてはまるものを平易に説明する。

今回の事象においてハンドの基準で考慮しなければならないこと

①意図的にボールに触れていたかどうか=×
⇒体をわざと動かして、ボールに触ろうとしていた様には見受けられず、あてはまらない

②手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくしたかどうか=×
⇒田代選手の手は体側に隙間なくつけられており、体は不自然に大きくされていないため、あてはまらない

③手や腕の位置が肩より高くされていたか=×
⇒田代選手の手は下がっていたため、あてはまらない

以上3点の理由で、田代選手のハンドを取ることはできず、最初のPKの判定は誤審であるといえる。

【考察】なぜ池内明彦主審はハンドを取ってしまったのか

※この部分は、特に、私の個人的な見解に基づきます。

原因はポジショニングにあると考える。

画像1

上図は、池内明彦主審の実際のポジショニングを図示したものだ。池内さんと腕にボールが当たった田代選手の間には、名古屋15稲垣祥選手と16マテウス選手がおり、(こちらについて下記に加筆修正しています)クリアに腕の開き具合が見えていなかった可能性が高い。しかし、ボールの落ちたところは見えており、落ち方が腕にボールが当たったときの落ち方であったこともあり、ハンドを取ってしまったのではないかと推測する。

腕にボールが当たった時の落ち方は、レフェリーをやっていたら分かる。そして、審判員が判定するときにポジショニング面でもっとも落とせないことは、距離ではなく角度である

【加筆修正】 池内主審の視野

記事執筆後にグラちゅーぶさんから以下のようなご指摘をいただきました。

この映像をしっかりと確認せず、最初の映像のみで上記の実際のポジションの図を2秒前から推測し作成してしまっていた。私の確認不足であり、ご指摘いただいたグラちゅーぶさんにお礼申し上げます。(自戒の意味もこめてミスした部分も上に残しております。ご了承ください。)

ご指摘いただいたツイートで分かったことも一つあるので、下記に記す。

【加筆修正】池内主審が「腕の広がり具合」を見れなかった本当の理由

スライド2

上図が本当の池内主審と田代選手の位置関係である。完全に田代選手の体側の真横に池内主審が入ってしまったことが分かる。この位置で腕の開き具合が見えるかというと、否である

腕の開き具合を見るために理想的な順序は次のようなものである
①田代選手の真正面に入る
②田代選手の体の前面が見える程度の斜めの角度に入る
③田代選手の体側の横に入ってしまう

①はこの判定を下すうえでは理想的ではあるが、現実的ではないため、②の位置に入ることが必要だった。しかし、池内主審は腕の開き具合を見れない③に入ってしまっていた。

距離ではなく角度が大切だということは、この画像で完全にわかったと思う。理想的なポジションの部分は加筆なしで、そのままの理屈が通用するため、加筆しない。誤解を与えてしまい、申し訳ございませんでした。

【理想のポジション】池内明彦主審はどうすればノーハンド判定をすることができたのか?

画像2

上図は、腕にボールが当たったシーンで、私の考える池内明彦主審がとるべきポジションである。元々いたポジションより、たった5m、いや、3m左側にズレていれば、正しい判定はできたと考える。90分で12㎞走るうちのたった3mでミスが起こってしまう。恐ろしい世界だと改めて感じる。

この理想のポジションを取っていれば、田代選手の腕の開き具合はクリアに見えるし、判定が容易にできるシーンである。また、池内主審は前回分析した西村雄一主審と比べると横の動きを入れるタイミングが少し異っている。詳しくは来週のこのシリーズの分析で記すが、西村主審の動きの順序を「横⇒縦」と表すとすると、池内主審の動きは「縦⇒横」であるといえる。ポジションは結果的に同じことが多いが、今回はその順序が災いした可能性がある。

PKを取り消したこと=正しい判定 「距離より角度が大切」

池内主審は、笛を吹き、ペナルティーマークを指し、当初は横浜FCの選手たちに囲まれた。囲まれた当初は、受け付けない姿勢を示すために、首を横に振っているが、おそらく副審1の山内宏志さんもしくは第4の審判員の植田文平さんから「コミュニケーションシステム」(審判団全員がつけているヘッドセット)を通じて、おそらくハンドではないという進言があったと思われる。

このシーン先程の角度の話に戻るが、審判団で最も良い角度で見ていたのは、副審1の山内宏志さんであるといえる。下図のように山内さんの角度は、クリアに手の開き具合が見えていたと考えられる。角度があっていれば、距離は遠くても判定しやすいのは審判の間ではよく知られたことである。その共通認識を持つことも今後サッカーを見るうえで、「近いのになぜ見えない」という風に批判するよりも有意義だと感じる。

画像3

こうして、山内さんの進言もしくは植田さんの進言で「正しい判定にできた」ことはよかった点だと思う。審判団は「公平」「公正」な結果を導くのが仕事であるからだ。

名古屋グランパス側の不利益のように映ってしまうが、本来はノーハンドなのである。もしこれがハンドになっていれば、横浜FCはありもしないハンドでPKを取られ、敗北してたのである。公平・公正な結果に導けたことは、池内主審のミスを救ったファインプレーだといえる。しかし、手続きには問題があったと考える。

PK取り消しの手続きの問題点とどうすればよかったか

PKを取り消すときの手続きとして、映像を見ると以下の順序であったと映る。

①PKを池内主審が示す(以下動画の時間・0:06)
②横浜FCの選手が抗議する(0:08)
③副審1の山内さんもしくは第4の審判員の植田さんからヘッドセットを通じて、ハンドではないという助言が池内主審に伝えられる(推測)
④ドロップボールであることを腕にボールが当たった地点で示す(1:06)
⑤名古屋の選手・スタッフが抗議をする
⑥名古屋キャプテンの3丸山祐市選手が周囲の選手を落ち着かせる(1:45)
⑦池内主審と山内副審が協議する(1:50~2:20)
⑧名古屋のマッシモフィッカデンティ監督に「ドロップボール」と一言だけ説明する(2:29)
⑨名古屋10ガブリエルシャビエル選手・3
丸山祐市選手がいら立ちを示すなど名古屋の選手が納得しないままドロップボールを横浜FC44六反勇治選手にする(2:51)

この9つの中で、問題だったことは3点あると私は考える。以下に記す。

手続きの3つの問題点 「順序と監督・選手への真摯な説明」


1. ④と⑦の順序のおかしさ
PKを取り消すということは重大なことである。そのため、主審の判定を副審の助言で変える場合には、協議をしている姿をしっかり見せる必要があると考える。もちろん、コミュニケーションシステムがあるため、横で話さなくてもお互い話すことができる。しかし、選手からは何が起こっているかわからない。そのため、「目に見える形で」協議をしたことを示してから、主審の池内さんが決定を下すべきだったと考える。また、山内さんがフラッグを上げて呼ぶことで、より明確に意思決定のプロセスが見えたともいえる。

2. ⑧でのマッシモフィッカデンティ監督への説明のなさ
池内主審は、マッシモフィッカデンティ監督に、ドロップボールであることを示すのみで、ドロップボールのポイントに行ってしまった。このようなシーンで、もちろん絶対にフィッカデンティ監督はもちろん、納得する監督はこの世に存在しない。しかしながら、しっかりと自身のミスを認め、副審の角度からの方が見えたことを説明していれば、信頼感は失われても、コントロールをしやすかったと考える。

3. ⑨で落ち着いていない状態で再開してしまったこと

競技規則に以下のような一文がある。

競技規則の高潔性、また、競技規則を適用する審判は、常に守られ、リスペクトされなければならない。試合において重要な立場である人、特に監督やチームのキャプテンは、審判と審判によって下された判定をリスペクトするという、競技に対する明確な責任を持っている。

このシーンで、ある意味「不利益を受ける」名古屋のキャプテン丸山選手は、⑦のシーンでキャプテンとして審判の判定をリスペクトし、チームメイトを落ち着かせようとする、素晴らしいキャプテンシーをみせている。

そんな中で、協議後フィッカデンティ監督への説明をしないばかりか、リスペクトを見せていた丸山選手が腕を広げて抗議する中、騒然としたままドロップボールを六反選手にしてしまう。(念のため記すが、昨年の競技規則改正で、ペナルティーエリア内のドロップボールはGKにドロップすることになったため、六反選手へのドロップボールは競技規則上正しい。)

丸山選手のキャプテンシーを考えると、納得はできないにしても、選手たちを少し落ち着かせることはできたと考える。このPKの取り消しという大きな判定をする上では、時間的な・精神的な「間」を取ることは不可欠である。

確かに、協議自体の時間は多くかかっているが、選手は全く落ち着いておらず、精神的に「間」がない状態で行われている。これは、最もやってはいけないことであったし、ピッチ上の代表者ともいえるキャプテンに、真摯に話すことが不可欠だった。

正しい「間」があれば、82分のガブリエルシャビエル選手の退場は防げたと考える。

もちろん、乱暴な行為に及んでしまったガブリエルシャビエル選手の行為自体は、到底容認できない。しかし、この退場はレフェリーが試合をコントロールできていれば防げたものであり、「間」の足りなさが招いたと私は考える。

終わりに

もちろん、池内主審がコントロールするべきことはたくさんあった。しかし、人間を否定したり、今までの誤審やミスを引き合いに出すのは間違っている。人間はミスをしてしまう動物であるし、冒頭に書いた通り審判員が本当に素晴らしい出来であった時は、だれも気付かないのであるから。そして、面と向かっていえないような言葉を特命だからといって吐き出す人には反吐が出る。自分のいままでのミスと周囲の態度について振り返ってみてほしい。

あくまでも、私は、この他人がした行為を自身の今後の成長にのみ生かす所存である。この投稿を見た方が、少しでも今回のシーンの原因に理解をしてくださり、審判という立場に少しでも興味を持っていただけると幸いだ。

ここまで、非常に長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。ご質問・コメント・ご意見はTwitterならびにコメント欄でお待ちしております。なるべく専門用語は使っていないつもりですが、わからなければおっしゃってください。

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Árbitro(あるびとろ)
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