読書感想文(379)小川仁志『バートランド・ラッセル 幸福論;競争、疲れ、ねたみから解き放たれるために』(NHK「100分 de 名著」ブックス)


はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は100分de名著シリーズで、ラッセルの『幸福論』を学びました。
今年は哲学の勉強もしたいので、毎月一冊以上哲学関係の本を読むことを目標にしています。
ちなみに先月は読めていないので、今年一冊目の哲学関連書籍となります。
今年中に10冊以上を目標にしたいです。

感想

読み始めてすぐ、「これは既にある程度自分が実践できていることなのでは?」と思いました。
確かに、今の自分は結構幸福に生きることができています。
『7つの習慣』の内容に通ずるところも多く、これまで様々な本を読んで色々と悩みながら考えてきた甲斐があったなあと思いました。
だから読んだ意味が大してなかった、ということはありません。
自分がなぜ今幸福を感じながら生活できているのか、より幸福を感じるためにはどうすればよいのかを整理することができました。
また、内容が具体的でわかりやすかったので、悩みが多くて助言を求めている人がいた時に参考にしやすいようにも思えました。

さて、振り返った時に向けて、ラッセルが「自分が幸福になれた理由」として挙げている三点を書いておきます。

①自分がいちばん望んでいるものが何であるかを発見して、徐々にこれらのものを数多く獲得したこと
②望んでいるもののいくつかを、本質的に獲得不可能なものとして上手に捨ててしまったこと
③自分の欠点に無関心になることを学び、だんだん注意を外界の事物に集中するようになったこと

P14,15

三つ目は少しわかりにくいですが、後に書かれていた「幸福な人の定義」と合わせると理解しやすいです。

幸福な人とは、客観的な生き方をし、自由な愛情と広い興味を持っている人である。また、こういう興味と愛情を通して、そして今度は、それゆえに自分がほかの多くの人びとの興味と愛情の対象にされるという事実を通して、幸福をしかとつかみとる人である。(十七章 幸福な人)

P92

これは私自身の経験と合わせても納得できたところです。
「客観的な生き方」というワードは分かりにくいですが、これはきちんと解説されています。
著者の小川氏の言葉を借りると、「自分の情熱と興味を外に向ける」ことです。
私は色々とやりたいことがあり、まさに興味を広く持っていることを自負していますが、その欲求の根本は多くの他者の幸福に貢献することに他なりません。「自由な愛情」の意味は正しく理解できているか自信がありませんが、少なくとも虚栄的な恋愛には惑わされずに生きてきたという自負もあります。
そして、以上のような生き方をしてきたおかげで、色んなジャンルに話が発展する自分を面白がってくれる人がいたり、気まぐれでお菓子を配ったことを喜んでくれる人、お返しをしてくれる人もいます。
そういった人とコミュニケーションを取っていると、自分は他人にとって善いことができているなあと感じて、自分自身も幸福を感じることができます。
この経験は、まさにこのラッセルのいう「幸福な人」に当てはまっており、だから自分は幸福なんだなあと思いました。
これを他者に向けて自分の言葉に直すなら、「他人の為になることをできる自分だから、自分の為になる行動をする自分も肯定できる」といったところです。これは最近よく聞く「自分を大切にできるからこそ他人を大切にできる」の逆です。つまり、他者貢献できる自分だからこそ自分を大事にできるということです。まだ議論の余地が大いにある未完成な論理ですが、これを信じて行動できれば、結構幸福に近づけると思います。

ちなみに以前は、「愛情」の部分を恋愛に限定してしまっていたために、自分が誰かの「愛情の対象」とならず、自己肯定感が下がって苦しんでいました。
けれど、確か大学三~四回生の時に「友愛」のイメージを強く持つことができてから、あまり苦しまなくなりました。

また、余談ですが、「自由な愛情」というワードは結婚を四回(しかも、離婚の同年もしくは翌年に再婚)しているラッセルの人生と重なります。
これは他の部分で述べられていましたが、ラッセルの『幸福論』は経験主義の哲学らしく、ラッセルの人生経験と紐づく部分が多いので、具体的かつ説得力があるのが魅力的です。

次に、もう一つ押さえておきたいのが、「熱意とバランス」についてです。
幸福を感じるために熱意を持つことが大事である一方、熱意が強すぎて生活に支障をきたしてしまうと、幸福から遠ざかってしまいます。
これに関して、ラッセルは「私たちの別々の趣味や欲望は、おしなべて人生の全般的の枠の中にきちんと納まるものでなくてはならない」として、
次の四つの枠を紹介しています。

①健康
②人並みの能力があること
③必需品が買えるだけの収入
④妻子への義務といった最も基本的な社会義務

P74

これも今の自分に照らし合わせて考えることができます。
まず「健康」については、自炊をしたりリングフィットをすることで、それなりに気を遣えていると思います。今一番気をつけているのは睡眠で、毎日21時から就寝準備に入り、23時就寝・6時半起床のリズムで生活しています。このリズムが整うと、日中のスケジュール管理もしやすい上に頭もそれなりに働くので、かなり幸福に貢献しています。
次に、「人並みの能力があること」について。これは正直ピンときていませんが、自分のポテンシャルの割にはそれなりに能力を高められているかなあと思えているので、クリアしている気がします。これを失わないためにも、勉強を続けたいです。
次に「必需品が買えるだけの収入」について。これもぎりぎりクリアしています。というか、ぎりぎりの収入を確保しつつ、時間を買っているイメージです。こうやってnoteをじっくり書くことができるのも、時間がたっぷりとあるおかげです。
最後に「妻子への義務といった最も基本的な社会義務」について。これだけちょっとできていなかったのかなと思います。というのも、数か月前に恋人と別れることになったからです。これは相手の求める基準も関係するので、一人だけでどうにかすることはできないのですが、ここが上手くいかなかったのが今の自分の課題の一つなのだと思いました。

次に、「愛情」について、「愛情と幸福の方程式」というパワーワードが出てきたので記録しておきます。

つまり、愛情が自信をもたらし、自信が安心感を抱かせる。そうした精神の習慣が源となって、熱意が生まれ、それによって人は幸福になるという理屈です。

P75

愛情が自信をもたらすというのは、つまり他者から必要とされることによる自己肯定感だと思います。これを恋愛に限定してしまうと、恋人がなかなかできない時に自信を失ってしまいますが、友愛の理屈で考えれば、利他的な行動によって自信を自分で生み出すことができます。そして、その自信があるから焦る必要がなくて安心感が生まれ、自分が本当に望んでいるものに
熱中することができ、熱意をもって何かを達成することで幸福を感じることができる。
と、いったところでしょうか。

次に、興味を広く持つことについて、面白い指摘があったのでこれを紹介したいと思います。

たとえば、フットボールや読書などさまざまなことに興味をもつこと。しかも、できればフットボール観戦より読書の方がいいといいます。
なぜなら、フットボールの試合は一日何回もあるものではありませんが、読書ならその気になればいくらでもできます。つまり、読書の方が自分の努力によって幸せになれる機会が多い、とラッセルは考えるのです。

P17

これを抽象化すると、なぜ多くの人々が仕事に不満を持っているのかについて、一つの答えが出せます。それは、裁量権が少ないことです。
もっと言えば、やらされていることが多く、改善の余地が少ないので、熱中するに至らないことです。
逆に言えば、自分の仕事に自分の裁量を増やす余地を作る又は見つけることができれば、仕事に楽しさを見いだすことができるかもしれません。

最後に、ラッセルの生き方と合わせてもっとも印象に残った部分を引用したいと思います。

戦争のために自分の努力が棚上げされてしまい、自分が尽力してきた改革は自分の一生の間には到底実現されないということを、いやでも認めざるをえなくなるかもしれない。しかし、もしも、人類の未来に自らも参加していることを離れて、人類の未来そのものに関心を寄せているなら、それだからといって完全な絶望に落ち込む必要はない。

P87

別の場所で「宇宙市民」という言葉もでてきますが、これは仏教でいう「一即多」の考えに近いです。
そもそも現代においても、まだまだ「自分(小我)が幸せになろう」という個人主義の追求が大きな流れとしてあります。
これに反して、自分のことを棚に上げて全体のことを考えるというラッセルの考えには非常に共感できました。強いて言えば、人類に限定するべきなのか、という点では少し異なります。人類の為に人類の未来を考えるよりも、地球或いは宇宙の為に人類の未来を考える方が自分の考えに近いです。
ただ、この部分は平和活動によってラッセルが投獄された経験もあることを踏まえると、強く心に響きます。日本で言えば、小林多喜二なども思い出されます。権力ある者が常に正しいとは限らない世の中で、自分の幸福(の要素)を一時放棄してでも、人類の為に活動を行ったラッセルには敬意を抱かずにいられません。私もそのような人間になりたいと思います。今の自分にもできることは、例えば寄付などです。私は同世代に比べて収入も貯金も少ないですが、自分のできる範囲で寄付活動等を行いたいと思います。実際、年始にあった地震の募金や、ブックサンタの寄付活動に参加してみて、そんな自分であり続けたいと思いました。まだまだ力の無い人間ですが、自分のできる精一杯を続ければ、いずれ影響の輪も広がっていくと思います。

自分語りが長くなってしまいましたが、話を戻して……。
この平和活動について、有名な「ラッセル・アインシュタイン宣言」があります。
これについて、アインシュタインの署名をアインシュタインの訃報の後にラッセルが受け取ったという話を聞いて胸が熱くなりました。
体調が優れない中、アインシュタインが最期に成した偉大な仕事を、今の時代、そして後世に引き継いでいかなければなりません。
尚、この宣言が主張する科学の平和利用については、数学者・岡潔も似たことを述べています。岡潔の言葉を借りれば、「情緒」を土台として科学を発展させていかなければなりません。それは利用する側の心の問題でもある一方、技術を開発する側の責任・倫理でもあると私は思っているのですが、どうでしょうか。どんどん新技術が生まれる中、それを制御する法律等の対応は追いついていると言い難いのが現代の現状ではないでしょうか。これを制御するために、まずスピードを落とすのが賢明であるように思います。
そしてこの加速の原因となっている資本主義による競争社会も、見直すべきではないかと思います。
どんどん話が脱線していますが、自分の気持ちが少し明確になったので、それもこの本を読んでよかったなと思います。
ついでに自分語りをさらに付け加えると、だから自分は投資にあまり積極的ではないのかもしれない、と思いました。私は今の資本主義社会を応援したいと思いません。だから、その大きな流れに乗れば自分が得をできるからといって、自分の心に反してまで投資をしたいとは思えません。
むしろ、金銭的リターンがゼロだとしても、自分が応援したいと思える活動(例えば哲学の発展や教育、医療)に寄付をしたいと思います。投資をするなら、自分が応援したい企業に初期費用を投資するようなエンジェル投資家になりたいです。
これも、先ほど書いた「四つの枠」がありますので、自分の枠を意識しつつ、自分の善いと思うことを貫きたいと思います。

おわりに

思っていた以上に長くなってしまいましたが、書きながら自分の考えを整理できたので良かったです。
ちなみに今回もパソコンでnoteを書いてみましたが、以前よりスムーズにストレス無く書くことができました。
毎日寿司打で鍛えている効果が実感できてとてもうれしいです。

ということで、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。


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