読書感想文(115)村上春樹『ノルウェイの森(下)』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

前回は上巻を読んだので、今回は下巻です。
上巻の感想文のリンクを一応貼っておきます。

感想

面白かった、という表現は適切ではありませんが、読んで良かったなと思いました。
ストーリー自体がそれほど難しいわけではありませんでした。しかし、感じた事を上手く言語化できず、心の深いところを何か突かれているような気分です。
夢中になって読んでいたので、メモもほとんど取れていません。
まだ頭の中がまとまっていないので、少しずつ振り返りながら書いて、整理していきたいと思います。

まず初めに、上巻の感想に書いたプレイボーイの話ですが、その恋人が傷ついているということがP124ではっきりと本人の口から話されました。ダメじゃん。
それでも彼の言い分としては「それは相手側の問題」であって、嫌なら離れたらいいということです。
こういう状況で離れられない人って現実でも沢山見るのですが、私には正直あまりよくわかりません。いわゆる情というやつだと思います。
このプレイボーイは問題をはっきりと分けて、自分は誠実に全て打ち明けているのだから、それに対してどうするかは相手に委ねています。
ここで彼が「じゃあ別れよう」と言うと、結局彼女にとって不幸なので、彼としては確かに相手に委ねるしかありません。ただそれは、彼が変わらないという前提の下に成り立っています。
ここで対象的に描かれるのが主人公で、主人公と緑ちゃんはセックスをしません。正直、セックスしなくてもアウトだろうという所まではしていますが、主人公の場合は主人公なりの「直子の為」を思ってセックスをせずにいます。
この差はとても大きいのですが、表面的な行動は似ているので同じ扱いをする人が多いように感じます。

この二人の対比は本文中でも言及されていて、次のように話されます。

「俺とワタナベの似ているところはね、自分のことを他人に理解してほしいと思っていないところなんだ」(中略)「(中略)他の奴らはみんな自分のことをまわりの人間にわかってほしいと思ってあくせくしてる。でも俺はそうじゃないし、ワタナベもそうじゃない。理解してもらわなくったってかまわないと思っているのさ。自分は自分で、他人は他人だって」
(中略)
「僕はそれほど強い人間じゃありませんよ。誰にも理解されなくていいと思っているわけじゃない。理解しあいたいと思う相手だっています。ただそれ以外の人々にはある程度理解されなくても、まあこれは仕方ないだろうと思っているだけです。あきらめてるんです。だから永沢さんの言うように理解されなくたってかまわないと思っているわけじゃありません」
「俺の言ってるのも殆んど同じ意味だよ」(中略)「本当に同じことなんだよ。遅いめの朝飯と早いめの昼飯のちがいくらいしかないんだ。食べるものも同じで、食べる時間も同じで、ただ呼び方がちがうんだ」

P127,128

永沢さんは頭が良いので、やはり違いがあることはわかっているのです。しかしその違いを些細なものとみなしています。確かに表面的或いは瞬間的には殆んど同じかもしれませんが、その違いの積み重ねが大きな違いに繋がると私は思います。
この二人の違いは、例えるなら「y=tanx」における「x→+0」と「x→-0」くらい違うのです。

「私はもう終ってしまった人間なのよ。あなたの目の前にいるのはかつての私自身の残存記憶にすぎないのよ。私自身の中にあったいちばん大事なものはもうとっくの昔に死んでしまっていて、私はただその記憶に従って行動しているにすぎないのよ」

P279

この作品で一番心に響いたセリフです。
とても共感しました。人は大きな目標を失った時、しばらくの間は次にどうすれば良いのかわからず、目標でなくなった目標の為の行動指針に従ってとりあえず生きていくことになります。
しかし私はまだ若いので、その上で何か次を探してもがいています。逆にいえば、もう少し年をとれば残存記憶に甘んじて生きていくことになるのかもしれません。しかしそうなると、私は坂口安吾の「青春論」を思い出します。恐らく安吾が初めに言ったわけではないと思いますが、青春とは年齢ではなく精神的なものだ、といった事が書かれていました。
青春に期限なんてない、探究心に年は関係ない、と思うよ、だってそうだろ?
We wanna make dream come true !
(HOME MADE 家族「少年ハート」)

全体を通して振り返ってみると、普通じゃない世の中で、普通じゃない人達と一緒に、生や死、それに伴う恋について考える物語、といったところでしょうか。
色々な登場人物と、それぞれの色々な人生があり、まだまだ読みが深められていません。やはり名作と呼ばれるものは、一筋縄ではいかない深いものが込められているのだろうなと思います。またそのうち読み返したいです。

今少しだけ冒頭を読み返してみて、やっぱり読み返さないとなと思いました。
何故ここから物語が始まっているのか。第一章の最後の一文の真意もまだわかりません。
この物語には、影響を受けるべき何かがあるように思いました。
小説は「学ぶぞ!」と意気込んで読むのではなく、楽しんで読みたい派です。
しかしこの作品はまだまだ学ぶべきことが残っているような気がします。

おわりに

上巻の感想の「はじめに」に書きましたが、村上春樹の他の作品は教科書に載っている「鏡」しか読んだことがありません。
他の作品もまた読んでみたいなと思いました。今の所、『三人称単数』をオススメされているので、第一候補です。
もし何かオススメがありましたら、是非教えてください。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?