見出し画像

自律AIで建設機械を自動化〜2024年問題に立ち向かう〜 前編

 本記事は日刊工業新聞にて連載している「脳×AIで切り開く未来」を再編したものです。

人手不足に悩まされている建設業界に追い打ちとなるのが、働き方改革関連法によって、来年4月より施行される時間外労働の上限規制。この現状を打破するため、革新的な技術を導入する動きが業界全体で加速している。そんな建設分野のなかで、AI(人工知能)はどういった役割を果たしていくのだろうか。

 働き方改革関連法によって、2024年4月より建設業界に時間外労働時間の上限規制が施行されることとなった。特に就労者の高齢化が進み、後継者不足に悩むと言われるこの業界にとって、この「2024年問題」は喫緊に解決しなければいけない問題である。そこで生産性向上のために、先進テクノロジーを導入しようという動きが急速に進み始めた。

 国土交通省は2015年から「i‐Construction」を提唱し、ICT(情報通信技術)機器やAI(人工知能)など、革新的な技術の導入を推進している。それ以降、測量、設計、施工から検査、維持管理にいたるまで、建設分野のさまざまな場面に、テクノロジーが次々と取り入れられるようになった。だが、十分な導入に至るまでには障壁も多く、現状はまだまだ道半ばであると言わざるを得ない。その理由のひとつとして、建設現場ごとに「変数」が多すぎることがあげられる。

 現場では、土壌などの条件はそれぞれ違うし、気候や建物の完成度合いも日々変化する。よって、経験や技を持った熟練者の判断に頼ることが多くなり、負担も大きくなってくるわけだ。

 こうした細かな変数があることで、建設現場をデータ化し、分析・予測するための特徴量が多くなり、なかなか単一の規格、製品で標準化しづらい状況にある。もし統一化したとしても、充分な効果は得にくい可能性が考えられる。

 さらには安全確認に関する問題が横たわる。建設現場では、システム上で確認したから大丈夫、というわけにはいかず、人間による近接での目視点検が必須のルールとされているものも多い状況である。それらの課題を建設業界全体として共有するために、2021年には大手ゼネコンが中心となって「建設RXコンソーシアム」を結成した。われわれアラヤ(東京都港区)も参加しているが、企業および業界の垣根を越えて各社で協調領域を増やし、ノウハウを蓄積しながら、効果的な技術開発を行おうという画期的な取り組みである。

 そんななかで、現在活用が進みつつある技術のひとつに、建築物に関する情報をモデリングする、BIM(Building Information Modeling, Management)/CIM(Construction Information Modeling, Management)がある。

 BIM/CIMを使うメリットは、3次元モデルでバーチャルに可視化された状態で、工程全体のシミュレーションを行えることにある。つまり施工前の計画、調査、設計段階に負荷をかけるフロントローディングが行えることで、多岐にわたる部署と情報共有を行って、効率的な建設システムを構築することができる。そのため、国土交通省でもBIM/CIM推進委員会を作って、2023年までにすべての公共事業(小規模なものを除く)にBIM/CIMを原則適用することが決まっている。

 また、測量や撮影など近年活用が進むドローンだけでなく作業用機械、とくに重機への遠隔操作の取り組みが進んでいる。

画面上に作業場の映像が流され、オペレーターは画面を見ながらスティックなどを使って操作する。振動や傾きなどの状況も再現されるため、現場にいる状況とかなり近い感覚で操縦できるシステムだ。一人のオペレーターに対して、複数の重機を現場に赴かず、オフィスなどで操作できる。そのうえ、ゲームに近い感覚で操縦できるため、ゲームに慣れている人材が業界に入ってくる、といった新たな労働力確保にも期待が持てるかもしれない。

 現在、現場に使う重機だけではなく、ビル各所の清掃、消耗品補充などのメンテナンス業務を行うアバターロボットに対しても、遠隔操作の実証実験が行われており、注目を集めている。これまで3Kなどと言われてきた建設業界のイメージを一変させるようなイノベーションになるかもしれない。(1/2)

後編はこちら

(金井良太、原口将征 )


Editor 浅井順也

この記事が参加している募集