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自律AIで建設機械を自動化〜2024年問題に立ち向かう〜 後編

 本記事は日刊工業新聞にて連載している「脳×AIで切り開く未来」を再編したものです。
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 こうした新たな技術が次々と取り入れられようとしているなかで、アラヤは建設業界のタスクのさらなる効率化、省人化を目指し、自律AIを用いた建機の自動化を目指して研究を進めている。
 操縦の自動化というと、まっさきに自動車を思い浮かべる方が多いだろう。実際に、部分的に運転を自動化するハンズフリーと呼ばれる自動運転レベル2を超え、条件付きでドライバーに周辺監視を必要としないレベル3まで実装された自動車が登場している。

 さらには特定条件下において完全な自動運転となるレベル4の研究も進んでおり、今年4月からは道路交通法で一定条件下において使用を認める状況までやってきた。
 しかし、建設用の重機においては、残念ながらまだそのレベルに達していない。先に述べたような問題が横たわっているからである。
 アラヤでは掘削作業のシミュレーターを使い、自律AIによって油圧ショベルの一種・バックホーの運転自動化の研究を進めている。
 熟練者にバックホーを操作してもらい、そこからサンプルデータを収集し、AIが適した行動方針を自律的に学習していくことで、変数の多い建設の現場にも対応できるようになる。
 現在の研究では基本的な掘削から、掘り出した土をトラックなどに積み込む過程までの自動化を進めており、ハンズフリーのレベルまで自動化を行えるようにする予定だ。

 またBIM/CIMのデータからデジタルツインを作成して、現場全体を自動化する構想を立てている。

 現場と同じ状況の3Dモデルを仮想空間上に作り、画面を観ながら現状を把握できるようにする。稼働状況もリアルタイムに取り入れ、自動化された建機なども含めてシミュレートできれば、オフィスなど現場から離れた場所で働く人にも状況の共有と分析が行える。いずれは現場を把握する監督が、遠隔地から複数の現場に指示を送る、という働き方改革が起きることも予想できる。
 建設分野を変えるために、「シミュレート」は大きなキーワードだ。日本において建設分野の技術革新を妨げてきた一因は、土地の狭さにある。海外は技術試験を行うための広大な土地を有しているが、残念ながら日本にはない。だが、シミュレーターが機能すれば、土地を必要としない。シミュレーター上であれば、日本でも大小問わず、幅広い研究を行うことができる。
 さらに将来的な話をすれば、人間が作業しづらい場所であっても、人間と同等のタスクをこなせる、遠隔操作の人型ロボットの登場なども考えられる。その操作においても革新的な研究が進んでいる。
 私がプロジェクト・マネージャーを務める、内閣府のムーンショットプロジェクトで研究されているサイバネティック・アバターがそれだ。

 サイバネティック・アバターは、さまざまな人々の技能や経験を共有して、身体の制約を超えた活動を行えるようにすることを目指している。この研究が進めば、いずれは一人で複数のロボットを操作することも可能になるだろう。
 このような技術開発を推進するために必要なのが、安全性を担保するための遠隔操作・自動運転のためのルールづくりだ。その整備を行うべく、2022年から国土交通省などが中心となって「建設機械施工の自動化・自律化協議会」が結成され、基準作りのためのディスカッションが進んでいる。建設分野の革新は、急速に加速し始めているのだ。(2/2)

(金井良太、原口将征 )

Editor 浅井順也

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