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論文まとめ387回目 Nature 肺炎球菌の地理的拡散と予防接種後の適応進化を定量化!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Evidence of striped electronic phases in a structurally modulated superlattice
構造的に変調された超格子における縞状電子相の証拠
「原子の層が積み重なった結晶で、層の間隔が周期的に変化する「超格子」という物質が作られました。この物質では、電子の振る舞いが縞模様のように空間的に変化することが分かりました。これは、従来の結晶では見られない新しい電子状態です。この発見は、新しい電子デバイスの開発や、超伝導などの量子現象の理解につながる可能性があります。身近なたとえで言えば、縞模様のシャツを着た人が動くと、縞に沿って特殊な動きをするようなイメージです。」

Geographical migration and fitness dynamics of Streptococcus pneumoniae
肺炎球菌の地理的拡散と適応度動態
「肺炎球菌は子どもの命を脅かす重要な細菌ですが、その広がり方は謎でした。この研究では、南アフリカの約7000の肺炎球菌ゲノムを分析し、人々の移動データと組み合わせて解析。その結果、肺炎球菌は人々の移動に乗って広がるものの、国内全体に広がるのに50年もかかることが判明。また、ワクチン導入後、ワクチンに含まれない型の肺炎球菌が急速に増え、抗生物質耐性も獲得していく様子も明らかになりました。この研究は、感染症対策の長期的な影響を予測する上で重要な知見をもたらしています。」

Giant stem tetrapod was apex predator in Gondwanan late Palaeozoic ice age
巨大な幹系四足動物が、ゴンドワナ大陸の古生代後期氷河期における頂点捕食者だった
「約2億8000万年前の南極圏近くで、現生の両生類や爬虫類の祖先にあたる巨大な初期四足動物の化石が発見されました。全長3メートル以上のこの生物は、当時の食物連鎖の頂点に立つ捕食者だったと考えられます。これまで初期の四足動物は赤道付近の温暖な地域に限られていると考えられていましたが、この発見により、彼らが寒冷な南半球にも進出し、繁栄していたことが明らかになりました。この発見は、古生代末期の地球規模の気候変動と生物進化の関係に新たな視点を投げかけています。」

Human degradation of tropical moist forests is greater than previously estimated
熱帯湿潤林の人為的劣化は従来の推定を上回る
「熱帯雨林の端から1.5kmも内部まで人間活動の影響が及んでいることが判明しました。これは従来の推定の3倍以上の範囲です。森林伐採や火災の影響で、樹木の高さが最大80%も低くなり、30年経っても回復していません。さらに、劣化した森林は将来伐採される可能性が高いことも分かりました。熱帯雨林は地球温暖化を防ぐ重要な役割を果たしていますが、その機能が急速に失われつつあります。森林保護の取り組みを早急に強化する必要があります。」

Inhibition of M. tuberculosis and human ATP synthase by BDQ and TBAJ-587
結核菌およびヒトのATP合成酵素に対するBDQとTBAJ-587による阻害
「結核治療薬ベダキリン(BDQ)とその類似薬TBAJ-587が、結核菌のエネルギー生産工場であるATP合成酵素をどのように止めるのか、そのメカニズムが明らかになりました。研究チームは、クライオ電子顕微鏡を使って薬剤が結合したATP合成酵素の構造を原子レベルで観察。薬剤が酵素のどの部分にどのように結合するのか、その詳細な様子を捉えることに成功しました。さらに、ヒトのATP合成酵素との比較も行い、副作用の原因も解明。この成果は、より効果的で副作用の少ない新しい結核治療薬の開発につながる重要な一歩となります。」

Kinetic features dictate sensorimotor alignment in the superior colliculus
上丘における感覚運動の整列は運動学的特徴によって決定される
「マウスの脳にある上丘という部位は、目で見た情報を体の動きに変換する重要な役割を担っています。これまで、上丘では見た場所と動く方向が一致すると考えられていましたが、この研究では意外な発見がありました。上丘のニューロンは、体を動かす方向とは逆の視覚の動きに反応することがわかったのです。これは、獲物を追いかけるときなどに役立つ仕組みかもしれません。マウスの脳の中で、見ることと動くことがこんな風に巧妙につながっているとは驚きですね。」


要約

構造的に変調された超格子における縞状電子相の証拠を発見

https://doi.org/10.1038/s41586-024-07589-5

周期的な構造変調を持つバルク超格子SrTa2S5において、縞状の電子相の存在を示す証拠が発見された。この物質では、H-TaS2層に1次元の非整合構造変調が存在し、それに伴って電子状態も空間的に変調されていることが明らかになった。

事前情報

  • 結晶の電子特性は、周期的な電場、磁場、構造変調によって操作できる

  • 原子格子と非整合な長波長変調は特に興味深い

  • バルクファンデルワールス超格子は、人工ファンデルワールスヘテロ構造の拡張可能なバルクアナログである

行ったこと

  • SrTa2S5単結晶の合成と特性評価

  • 電気輸送測定、トルク磁力計測定、トンネルダイオード発振器による特性評価

  • 電子顕微鏡観察

  • 理論計算(解析計算と電子構造計算)

検証方法

  • 電子回折、X線回折による構造解析

  • 量子振動測定によるフェルミ面の調査

  • 電気抵抗の異方性測定

  • 超伝導転移の詳細な調査(層間・層内臨界電流密度測定など)

  • 理論モデルとの比較

分かったこと

  • SrTa2S5はH-TaS2層に1次元の非整合構造変調を持つ

  • 電子状態も空間的に変調されており、縞状の電子相が形成されている

  • 超伝導転移において層間コヒーレンスが抑制されている

  • 層内の超伝導秩序パラメータが空間変調を持つ可能性がある

研究の面白く独創的なところ

  • バルク結晶で人工超格子的な電子状態を実現した点

  • 構造変調と電子状態変調の関係を明確に示した点

  • 新しいタイプの超伝導秩序(ペア密度波など)の可能性を示唆した点

この研究のアプリケーション

  • 新しいタイプの電子デバイスの開発

  • 非従来型超伝導体の設計指針の提供

  • 強相関電子系における新奇量子状態の探索プラットフォーム

  • ナノスケールデバイスからマクロスケール結晶まで適用可能な新しい物質設計概念の提供

著者と所属

  • A. Devarakonda - マサチューセッツ工科大学物理学部

  • A. Chen - マサチューセッツ工科大学電気工学・コンピュータ科学部

  • S. Fang - マサチューセッツ工科大学物理学部

  • J. G. Checkelsky - マサチューセッツ工科大学物理学部

詳しい解説
この研究は、バルクの層状物質SrTa2S5において、空間的に変調された電子状態の存在を実証したものです。SrTa2S5は、H-TaS2層とSr層が交互に積層した構造を持ちますが、H-TaS2層に1次元の非整合構造変調が存在することが分かりました。この構造変調に伴って、電子状態も空間的に変調されており、いわゆる「縞状電子相」が形成されていることが明らかになりました。
研究チームは、高品質な単結晶試料を用いて詳細な物性測定を行いました。電気抵送測定では、構造変調の方向に沿って大きな異方性が観測されました。また、量子振動測定によってフェルミ面の形状が明らかになり、構造変調の影響を受けていることが分かりました。特に興味深いのは、磁場中で観測された整合性振動です。これは、サイクロトロン軌道と構造変調の周期が整合する際に生じる現象で、電子状態の空間変調を直接的に示す証拠となります。
さらに、この物質は約2.3 Kで超伝導転移を示すことが分かりました。超伝導状態の詳細な調査から、層間の超伝導コヒーレンスが著しく抑制されていることが明らかになりました。これは、層内の超伝導秩序パラメータが空間変調を持っている可能性を示唆しています。研究チームは、この状態がペア密度波超伝導と呼ばれる非従来型の超伝導状態である可能性を指摘しています。
この研究の重要性は、バルク結晶において人工超格子的な電子状態を実現したことにあります。これは、ナノスケールデバイスからマクロスケール結晶まで適用可能な新しい物質設計概念を提供するものです。また、強相関電子系における新奇量子状態の探索プラットフォームとしても期待されます。さらに、非従来型超伝導体の設計指針を与える可能性もあり、基礎物理学から応用まで幅広いインパクトを持つ成果だと言えるでしょう。


肺炎球菌の地理的拡散と予防接種後の適応進化を定量化

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07626-3

非ワクチン型(NVT)肺炎球菌の相対的適応度が、ワクチン導入後に1.68倍(95%信頼区間:1.59-1.77)に増加。これは1世代あたり1.05倍(95%信頼区間:1.05-1.06)の成長率優位性に相当します。また、ペニシリン耐性NVT株の適応度も1.30倍(95%信頼区間:1.19-1.43)に上昇しました。

事前情報

  • 肺炎球菌は世界中で重要な病原体で、100以上の血清型が存在する

  • 南アフリカでは2009年にPCV7、2011年にPCV13ワクチンが導入された

  • ワクチン導入後、非ワクチン型(NVT)血清型の増加が観察されている

  • 抗生物質耐性の変化も懸念されている

行ったこと

  • 南アフリカの9州から2000-2014年に収集された6,910の肺炎球菌ゲノムを解析

  • 人の移動データと組み合わせて、肺炎球菌の地理的拡散をモデル化

  • ワクチン導入前後での血清型の適応度変化を定量化

  • 抗生物質耐性の動態も分析

検証方法

  • 時間resolved系統樹を構築し、分離株間の進化的距離を推定

  • 人の移動確率と世代時間分布を用いて、1回の伝播あたりの細菌の移動をモデル化

  • ロジスティック成長モデルを用いて、血清型グループの適応度を推定

  • シミュレーションを用いてモデルの性能を検証

分かったこと

  • 肺炎球菌は国内で均一に混ざるのに約50年かかる

  • 都市部を介して広がる傾向があり、農村部から発生した株の方が広く拡散する

  • ワクチン導入後、NVT株の適応度が大幅に上昇(1.68倍)

  • NVT株でペニシリン耐性の適応度も上昇(1.30倍)

  • 血清型組成から個々の系統(GPSC)の動態の60-65%を説明可能

研究の面白く独創的なところ

  • 大規模なゲノムデータと人の移動データを組み合わせた新しい解析手法

  • 細菌の地理的拡散と適応度変化を定量的に示した

  • ワクチン導入の長期的影響を予測するモデルを提供

  • 抗生物質耐性の動態変化も同時に分析

この研究のアプリケーション

  • より効果的なワクチン戦略の開発

  • 新興株の早期検出と対応システムの構築

  • 抗生物質耐性対策の長期的計画立案

  • 他の病原体にも応用可能な拡散・適応モデルの提供

著者と所属
Sophie Belman - Wellcome Sanger Institute, University of Cambridge, Barcelona Supercomputing Center
Noémie Lefrancq - University of Cambridge
Henrik Salje - University of Cambridge
Stephen D. Bentley - Wellcome Sanger Institute

詳しい解説
本研究は、肺炎球菌の地理的拡散と適応度変化を大規模なゲノムデータと人の移動データを用いて定量的に分析した画期的な研究です。
まず、肺炎球菌の地理的拡散に関して、系統樹解析と人の移動データを組み合わせたモデルを構築しました。このモデルにより、肺炎球菌が南アフリカ国内で均一に混ざるのに約50年かかることが明らかになりました。これは、肺炎球菌の伝播が主に局所的であり、長距離伝播は稀であることを示しています。また、都市部を介して広がる傾向があり、特に農村部から発生した株の方が広く拡散することも分かりました。
次に、ワクチン導入の影響を分析するため、血清型グループの適応度変化をロジスティック成長モデルで推定しました。その結果、ワクチン導入後に非ワクチン型(NVT)株の適応度が1.68倍に上昇したことが明らかになりました。これは、ワクチンによる選択圧がNVT株の急速な増加をもたらしたことを示しています。
さらに、抗生物質耐性の動態も同時に分析し、NVT株でペニシリン耐性の適応度が1.30倍に上昇していることを発見しました。これは、ワクチン導入後の耐性株の増加傾向を示唆しており、今後の抗生物質治療に影響を与える可能性があります。
本研究の独創的な点は、大規模なゲノムデータと人の移動データを組み合わせた新しい解析手法を開発したことです。これにより、細菌の地理的拡散と適応度変化を定量的に示すことができました。また、ワクチン導入の長期的影響を予測するモデルを提供し、抗生物質耐性の動態変化も同時に分析した点も画期的です。
この研究結果は、より効果的なワクチン戦略の開発や新興株の早期検出システムの構築、抗生物質耐性対策の長期的計画立案など、様々な応用可能性を持っています。さらに、ここで開発されたモデルは他の病原体の研究にも適用できる可能性があり、感染症研究全体に大きな影響を与えると考えられます。


巨大な初期四足動物の発見が、古生代末期の南半球の生態系を覆す

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07572-0

古生代後期の四足動物の進化と分布に関する従来の理解を覆す新種の巨大四足動物Gaiasia jennyaeが、ナミビアの初期ペルム紀層から発見された。この発見は、四足動物が従来考えられていたよりも早く高緯度地域に適応し、多様化していたことを示唆している。

事前情報

  • 初期の四足動物は主に古生代の赤道付近の湿地帯に生息していたと考えられていた

  • 石炭紀後期(約3億700万年前)に現生の両生類や爬虫類の祖先が出現し、古い系統が置き換わったとされていた

  • これらの仮説は主に北半球のパンゲア大陸(ローラシア)の化石記録に基づいていた

行ったこと

  • ナミビアの初期ペルム紀層(約2億8000万年前)から発見された新種の巨大四足動物Gaiasia jennyaeの化石を分析した

  • 頭骨や体の骨格の特徴を詳細に観察し、系統解析を行った

  • 当時の古地理や古気候の情報と合わせて、この動物の生態や進化的意義を考察した

検証方法

  • 複数の半関節骨格標本を用いて、Gaiasiaの解剖学的特徴を記載した

  • 頭骨や下顎の構造、歯の特徴などを他の初期四足動物と比較分析した

  • 系統解析ソフトウェアPAUP*を用いて、Gaiasiaの系統的位置を推定した

  • 古地理学的データと組み合わせて、Gaiasiaの生息環境や生態を推測した

分かったこと

  • Gaiasiaは全長3メートル以上の巨大な四足動物で、これまで知られている指を持つ幹系四足動物の中で最大級である

  • 頭骨は弱く骨化し、大きな牙を持つ特殊化した捕食者の特徴を示す

  • 系統解析の結果、ユーラメリカの石炭紀に生息していたColosteidae科の姉妹群であることが判明した

  • 高緯度(南緯約55度)の寒冷温帯気候下で生息していたと考えられる

研究の面白く独創的なところ

  • これまで知られていなかった巨大な初期四足動物を発見し、古生代後期の生態系の理解を大きく変えた

  • 高緯度地域における四足動物の適応と多様化が、従来の仮説よりも早く進行していたことを示した

  • 古生代末期の気候変動と四足動物の進化の関係に新たな視点を提供した

この研究のアプリケーション

  • 古生物地理学や古気候学の研究に新たな知見を提供し、古生代後期の生態系モデルの再構築に貢献する

  • 気候変動と生物進化の関係性の理解に応用でき、現在の気候変動が生物多様性に与える影響の予測にも役立つ可能性がある

  • 古生物学の教育や博物館展示などで、古生代の生態系の多様性や進化のダイナミズムを伝えるのに活用できる

著者と所属

  • Claudia A. Marsicano - ブエノスアイレス大学(アルゼンチン)

  • Jason D. Pardo - フィールド自然史博物館(米国)

  • Roger M. H. Smith - ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ)

詳しい解説
本研究は、南半球の高緯度地域から発見された巨大な初期四足動物Gaiasia jennyaeの化石分析を通じて、古生代後期の四足動物の進化と分布に関する従来の理解を大きく覆す結果をもたらしました。
Gaiasiaは全長3メートル以上に達する巨大な捕食者で、その解剖学的特徴は、弱く骨化した頭骨や大きな牙を持つ特殊化した捕食者としての適応を示しています。系統解析の結果、このGaiasiaは北半球の石炭紀に生息していたColosteidae科の近縁種であることが判明しました。
特筆すべきは、Gaiasiaが発見された地層が約2億8000万年前の初期ペルム紀に形成され、当時の古地理学的位置が南緯約55度の高緯度地域だったことです。この時代、この地域は寒冷温帯気候下にあり、時折氷河の影響を受けていたと考えられています。
この発見は、四足動物が従来考えられていたよりもはるかに早く高緯度地域に適応し、多様化していたことを示唆しています。これまでの仮説では、初期の四足動物は主に赤道付近の温暖な湿地帯に限定されており、高緯度地域への進出は後の時代だと考えられていました。
Gaiasiaの発見は、古生代後期の気候変動と生物進化の関係に新たな視点を提供しています。この時代、地球は大規模な氷河期を経験しており、気候の変動が激しい時期でした。Gaiasiaのような大型捕食者が高緯度地域で繁栄していたという事実は、四足動物が急速に新しい環境に適応し、複雑な生態系を形成していたことを示唆しています。
この研究結果は、古生物地理学や古気候学の分野に重要な貢献をもたらすとともに、現在進行中の気候変動が生物多様性に与える影響を理解する上でも重要な示唆を与えています。また、一般の人々に古生代の生態系の多様性や進化のダイナミズムを伝える上でも、非常に魅力的な題材となるでしょう。


熱帯雨林の劣化が従来の推定を大幅に上回り、深刻な状況にあることが明らかに

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07629-0

新たな衛星ライダー技術を用いて、熱帯雨林の劣化の程度と範囲を全球規模で評価した研究です。従来の光学衛星データでは捉えきれなかった森林の垂直構造の変化を詳細に分析し、熱帯雨林の劣化が予想以上に深刻で広範囲に及んでいることを明らかにしました。

事前情報

  • 熱帯雨林の劣化は、炭素排出や生物多様性損失の主要因の1つだが、その実態は不明確だった

  • 従来の研究では、森林の端から100m程度の範囲にのみ人間活動の影響があるとされていた

  • 近年、衛星ライダー技術の発展により、森林の3次元構造を広域で観測できるようになった

行ったこと

  • NASAの衛星ライダーGEDIのデータを用いて、熱帯雨林の樹冠高と生物量を測定

  • 1990年から2022年までのランドサット衛星画像による森林変化データと組み合わせて分析

  • 伐採や火災などの攪乱が森林構造に与える影響と、その後の回復過程を評価

  • 森林の劣化が将来の森林伐採に与える影響を分析

検証方法

  • 2300万以上のGEDIサンプルを分析し、樹冠高や生物量の変化を定量化

  • 攪乱からの経過年数ごとに森林構造を比較し、回復過程を評価

  • 統計モデリングにより、劣化した森林が将来伐採される確率を推定

分かったこと

  • 熱帯雨林の端から最大1.5km内部まで人間活動の影響が及んでいる

  • 伐採や火災により、樹冠高が20-80%、生物量が30-80%減少

  • 劣化した森林は30年経過しても元の構造に回復していない

  • 樹冠高が50%以上低下した森林は、将来伐採される確率が有意に高い

  • 熱帯雨林の18%(約2億600万ha)が森林の端の影響を受けており、従来の推定の3倍以上

この研究の面白く独創的なところ

  • 衛星ライダーと長期の光学衛星データを組み合わせた新しい分析手法を開発

  • 熱帯雨林全体を対象に、森林劣化の3次元的な影響を定量的に評価した初めての研究

  • 森林劣化が将来の森林伐採リスクを高めるという新たな知見を提示

この研究のアプリケーション

  • より効果的な熱帯雨林保護政策の立案に貢献

  • 森林劣化のホットスポットを特定し、優先的に保全すべき地域の選定に活用

  • 気候変動対策における森林保全の重要性を再評価する根拠を提供

  • REDD+などの森林保全インセンティブ制度の改善に活用

著者と所属
C. Bourgoin - European Commission, Joint Research Centre, Ispra, Italy
G. Ceccherini - European Commission, Joint Research Centre, Ispra, Italy
M. Girardello - European Commission, Joint Research Centre, Ispra, Italy

詳しい解説
本研究は、最新の衛星ライダー技術を用いて熱帯雨林の劣化の実態を全球規模で明らかにした画期的な研究です。従来の光学衛星では捉えきれなかった森林の垂直構造の変化を詳細に分析することで、人間活動が熱帯雨林に与える影響が従来の想定をはるかに上回ることを示しました。
特に注目すべき点は、森林の端から内部への影響の範囲です。これまでは森林の端から100m程度の範囲にのみ影響があるとされていましたが、本研究では最大1.5kmまで影響が及んでいることが判明しました。これにより、熱帯雨林の約18%、面積にして2億600万ヘクタールもの森林が劣化の影響を受けていると推定されます。これは従来の推定の3倍以上に相当します。
また、伐採や火災による森林構造への影響とその後の回復過程についても重要な知見が得られました。樹冠高や生物量が大幅に減少し、30年経過しても元の構造に回復していないことが明らかになりました。これは、一度劣化した森林の回復には非常に長い時間がかかることを示しています。
さらに、劣化した森林は将来伐採される可能性が高いという新たな知見も得られました。これは、森林劣化と森林減少が密接に関連していることを示唆しており、森林保護政策において重要な視点を提供しています。
本研究の結果は、熱帯雨林の保護がこれまで以上に急務であることを示しています。気候変動対策や生物多様性保全において熱帯雨林が果たす役割の重要性を改めて認識し、より効果的な保護政策の立案と実施が求められます。


結核菌とヒトのATP合成酵素に対するBDQとTBAJ-587の阻害メカニズムを解明

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07605-8

結核治療薬ベダキリン(BDQ)とその類似薬TBAJ-587が、結核菌のATP合成酵素を阻害するメカニズムを解明した研究です。クライオ電子顕微鏡を用いて、薬剤が結合した状態の結核菌ATP合成酵素の構造を原子レベルで観察し、薬剤の結合部位と相互作用を詳細に分析しました。さらに、ヒトのATP合成酵素との比較も行い、副作用の原因となる構造的類似性も明らかにしています。

事前情報

  • BDQは結核治療に使用される重要な薬剤だが、作用機序の詳細は不明だった

  • ATP合成酵素は結核菌の生存に不可欠なエネルギー生産酵素である

  • BDQの副作用の原因として、ヒトのATP合成酵素への影響が示唆されていた

行ったこと

  • 結核菌のATP合成酵素を精製し、BDQおよびTBAJ-587と複合体を形成

  • クライオ電子顕微鏡を用いて、複合体の構造を高分解能で解析

  • ヒトのATP合成酵素とBDQの複合体構造も解析

  • 薬剤と酵素の相互作用を詳細に分析

検証方法

  • クライオ電子顕微鏡による高分解能構造解析

  • 生化学的解析によるATP合成酵素活性の測定

  • 表面プラズモン共鳴法による薬剤の結合親和性の測定

  • 構造比較と配列解析による結核菌とヒトのATP合成酵素の違いの分析

分かったこと

  • BDQとTBAJ-587は結核菌ATP合成酵素のaサブユニットとcリングに結合する

  • 薬剤は3つの結合部位(先導部位、cのみの部位、後続部位)を持つ

  • 薬剤のキノリニル基とジメチルアミノ基が酵素と広範囲に相互作用する

  • ヒトATP合成酵素でのBDQ結合部位は結核菌の先導部位と類似している

  • 結核菌とヒトのATP合成酵素の薬剤結合部位には構造的な違いがある

研究の面白く独創的なところ

  • クライオ電子顕微鏡技術を駆使して、薬剤-酵素複合体の原子レベルの構造を解明

  • 結核菌とヒトのATP合成酵素を比較することで、薬剤の選択性と副作用の原因を解明

  • 薬剤の結合メカニズムを詳細に解析し、新薬開発への道筋を示した

この研究のアプリケーション

  • より効果的で副作用の少ない新しい結核治療薬の設計

  • ATP合成酵素を標的とする他の抗菌薬開発への応用

  • 薬剤耐性結核への対策として、新たな治療薬のデザイン

  • ヒトATP合成酵素への影響を最小限に抑えた薬剤開発

著者と所属

  • Yuying Zhang - 南開大学生命科学学院、中国

  • Yuezheng Lai - 南開大学生命科学学院、中国

  • Hongri Gong - 南開大学生命科学学院、中国

詳しい解説
本研究は、結核治療薬ベダキリン(BDQ)とその類似薬TBAJ-587が結核菌のATP合成酵素をどのように阻害するのか、そのメカニズムを原子レベルで解明した画期的な成果です。
研究チームは、クライオ電子顕微鏡という最先端の技術を駆使して、薬剤が結合した状態の結核菌ATP合成酵素の構造を高分解能で観察しました。その結果、BDQとTBAJ-587が酵素のaサブユニットとcリングという特定の部位に結合することが明らかになりました。さらに、薬剤は3つの異なる結合部位(先導部位、cのみの部位、後続部位)を持つことも判明しました。
特筆すべきは、薬剤のキノリニル基とジメチルアミノ基が酵素と広範囲に相互作用していることです。この詳細な相互作用の理解は、より効果的な薬剤設計への道を開きます。
また、本研究ではヒトのATP合成酵素とBDQの複合体構造も解析しています。その結果、ヒトATP合成酵素でのBDQ結合部位が結核菌の先導部位と類似していることが分かりました。これは、BDQの副作用の原因を説明する重要な発見です。
しかし、結核菌とヒトのATP合成酵素の薬剤結合部位には構造的な違いもあることが明らかになりました。この違いは、結核菌に特異的に作用し、ヒトへの影響を最小限に抑えた新薬開発の可能性を示唆しています。
本研究の成果は、より効果的で副作用の少ない新しい結核治療薬の設計に直接つながります。また、ATP合成酵素を標的とする他の抗菌薬開発にも応用できる可能性があります。特に、薬剤耐性結核への対策として、新たな治療薬のデザインに貢献することが期待されます。
さらに、ヒトATP合成酵素への影響を最小限に抑えた薬剤開発の指針となる重要な知見も得られました。これは、より安全な薬剤の開発につながる可能性があります。
本研究は、基礎科学の成果が直接的に医療応用につながる典型的な例といえます。結核という人類の長年の脅威に対して、分子レベルでの理解を深めることで、新たな治療法の開発に道を開いた意義は極めて大きいと言えるでしょう。


上丘の視覚・運動統合は運動方向と反対の視覚流に反応する

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07619-2

上丘における視覚情報処理と運動出力の関係性について、新たな知見を提示した研究である。従来の静的な空間受容野と運動ベクトルの対応関係ではなく、運動学的特徴に基づいた視覚-運動の整列が存在することを実験的に示した。この発見は、上丘における感覚運動変換の理解を大きく進展させる可能性がある。

事前情報

  • 上丘は視覚情報を運動指令に変換する重要な脳領域である

  • これまで上丘では視覚受容野と運動ベクトルの空間的整列が想定されていた

  • 上丘の表層は視覚情報処理、中間層・深層は運動出力に関与するとされる

  • 上丘ニューロンの視覚応答特性と運動関連活動の詳細な関係は不明だった

行ったこと

  • マウス上丘ニューロンの視覚応答と運動関連活動を同時記録

  • 視覚刺激として動く縞模様や点刺激、ガボールパッチを使用

  • 自由行動下での頭部回転運動と視覚応答の関係を解析

  • 視覚-運動の整列関係を数理モデルで検証

検証方法

  • パッチクランプ法による上丘ニューロンの膜電位・発火活動記録

  • テトロード電極による複数ニューロン活動の同時記録

  • 2光子カルシウムイメージングによる視覚応答の可視化

  • 頭部固定および自由行動下での行動-神経活動同時計測

  • 視覚-運動変換の数理モデル構築とシミュレーション

分かったこと

  • 上丘運動ニューロンは空間的受容野より運動方向選択性を示す

  • 運動ニューロンの頭部回転方向と視覚運動方向選択性が逆相関

  • 視覚情報は直接経路と間接経路で上丘運動ニューロンに伝達される

  • 運動学的整列に基づくモデルは効率的な標的捕捉を可能にする

研究の面白く独創的なところ

  • 従来の静的空間マッピング仮説を覆す新たな視覚-運動整列原理の発見

  • 単一ニューロンレベルでの視覚応答と運動出力の詳細な対応関係の解明

  • 運動学的整列に基づく視覚-運動変換の数理モデル化と行動学的検証

  • 上丘における感覚運動統合の新たな計算原理の提案

この研究のアプリケーション

  • 視覚誘導性運動の神経メカニズム解明への貢献

  • 脳機能をモデルとした効率的な視覚-運動制御システムの開発

  • 視覚障害や運動障害のリハビリテーション法への応用可能性

  • 人工知能や自律型ロボットの視覚-運動統合アルゴリズムへの応用

著者と所属

  • Ana González-Rueda - MRC分子生物学研究所、ケンブリッジ大学

  • Kristopher Jensen - ケンブリッジ大学工学部

  • Mohammadreza Noormandipour - ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所

  • Marco Tripodi - MRC分子生物学研究所

詳しい解説
本研究は、脳の視覚情報処理と運動出力の統合に関する新たな知見を提示している。研究対象となった上丘は、視覚情報を運動指令に変換する重要な脳領域であり、これまで視覚受容野と運動ベクトルの空間的な対応関係が想定されてきた。しかし、本研究では従来の静的な空間マッピング仮説を覆す発見がなされた。
研究チームは、マウスの上丘ニューロンの活動を詳細に解析した。パッチクランプ法による単一ニューロン記録、テトロード電極による複数ニューロンの同時記録、2光子カルシウムイメージングなど、最先端の神経活動記録技術を駆使して、上丘ニューロンの視覚応答と運動関連活動を同時に計測した。
その結果、上丘の運動ニューロンは従来考えられていたような静的な空間受容野ではなく、主に視覚の動きの方向に選択性を示すことが明らかになった。さらに驚くべきことに、これらのニューロンが頭部を回転させる方向と、選択的に応答する視覚運動の方向が逆相関の関係にあることが発見された。つまり、ある方向に頭を動かすニューロンは、その逆方向に動く視覚刺激に最も強く反応するのである。
研究チームはこの発見に基づき、上丘における視覚-運動変換の新たな数理モデルを構築した。このモデルでは、視覚の動きの方向と運動出力の方向が「運動学的に整列」している。シミュレーションの結果、このモデルは効率的な標的捕捉行動を可能にすることが示された。
この研究成果は、上丘における感覚運動統合の新たな計算原理を提案するものであり、脳の情報処理メカニズムの理解を大きく進展させる可能性がある。また、この知見は視覚誘導性運動の神経メカニズム解明に貢献するだけでなく、リハビリテーション医療や人工知能、ロボット工学など、幅広い分野への応用が期待される。



最後に
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