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論文まとめ358回目 Nature 情報の透明化で誤情報サイトへの広告を減らせる(Facebook問題)!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Descending networks transform command signals into population motor control
下行性ネットワークは司令信号を集団運動制御に変換する
「ショウジョウバエの脳内には、ある種の「司令官ニューロン」が存在し、それらを刺激すると歩行など特定の行動を引き起こせます。しかし実際には、司令官ニューロンは多数の他のニューロンを動員してネットワークを形成することで、複雑な行動を生み出していることが明らかになりました。まるで、上位の指揮官が多数の部下に指示を出して、協調して任務を遂行するかのようです。」

Nuclear position and local acetyl-CoA production regulate chromatin state
核の位置と局所的なアセチルCoA産生がクロマチン状態を制御する
「ショウジョウバエの翅の原基では、外側の縁に近い細胞核で特定のヒストンのアセチル化が亢進している。これは、その位置の細胞で脂肪酸分解が活発なためである。この代謝の違いが、翅の発生に重要な遺伝子の発現を制御している。つまり、組織内での細胞の位置が代謝を介して遺伝子発現を調節するのだ。」

Companies inadvertently fund online misinformation despite consumer backlash
企業は消費者の反発にも関わらず、うっかりオンラインの誤情報に資金提供している
「広告会社が知らずに誤情報サイトに広告を出していることが多く、消費者はそれを知ると企業の商品を買わなくなる。一方、企業の意思決定者は自社の広告が誤情報サイトに掲載されていることを知らず、知ると対策を求める。よって、どの企業広告がどの誤情報サイトに載っているか透明化することで、誤情報サイトへの資金供給を減らせる可能性がある。」

The time between Palaeolithic hearths
旧石器時代の炉址間の時間差
「スペインのEl Salt遺跡から発掘された中期旧石器時代の6つの炉址について、考古地磁気学と考古層序学的分析を組み合わせることで、それぞれの炉の使用時期を高精度で復元しました。その結果、これらの炉は少なくとも200〜240年の期間にわたって使用され、炉と炉の間には10年から100年オーダーの時間差があったことが明らかになりました。」

Early stages of covalent organic framework formation imaged in operando
共有結合性有機構造体形成の初期段階をその場観察
「covalent organic framework (COF) は機能性材料として注目されていますが、その合成メカニズムの詳細は不明でした。本研究では光学顕微鏡の一種であるiSCATを用いて、COFの形成過程をリアルタイムで可視化することに成功しました。その結果、これまで均一と考えられていた反応溶媒が実は微小な構造を持っていることが明らかになりました。この知見を活用し、常温・短時間でCOFを合成する手法の開発にも成功しました。反応過程の可視化という画期的なアプローチにより、COF合成の理解が大きく進展しました。」


要約

昆虫の運動を制御する階層的な神経ネットワークの解明

ハエの脳内には、特定の行動を駆動する「司令官ニューロン」が存在するが、それらは実際には下流の多数のニューロン集団を動員することで行動を生成していた。司令官ニューロンを光遺伝学的に活性化すると、脳内の下行性ニューロン(DN)集団の活動が誘発された。コネクトーム解析と実験操作から、司令官ニューロンと下流DNの間の直接的な興奮性結合がこの機能的動員の基盤であることが示された。多数のDNと結合する司令官ニューロンは、下流ネットワークの動員なしでは単純な定型運動しか駆動できず、完全な行動にはネットワークの同時活性化が必要だった。DNネットワークは行動特異的なクラスターを形成し、クラスター間で相互に抑制していた。以上から、司令官ニューロンがDNネットワークを動員することで複数の運動サブルーチンを組み合わせ、行動を構成するという制御メカニズムが示唆された。

事前情報

  • ハエの脳内には、特定の行動を駆動する「司令官ニューロン」の存在が知られていた。

  • 一方で、自然な行動時には司令官ニューロンだけでなく多数の下行性ニューロン(DN)が活動していた。

行ったこと

  • ハエの脳内で、3種類の司令官ニューロン(前進歩行、アンテナグルーミング、後退歩行を駆動)を光遺伝学的に活性化し、DN集団の活動を計測した。

  • コネクトームデータを解析し、司令官ニューロンとDN間の結合を調べた。

  • 司令官ニューロンを首の部分だけで刺激し、DNネットワークの動員なしでの行動を観察した。

検証方法

  • 司令官ニューロンの光遺伝学的活性化中のDN集団のカルシウムイメージング

  • 脳のコネクトームデータ解析によるDN間結合の調査

  • 首の高さでの司令官ニューロン刺激と、頭部切断ハエでの行動解析

分かったこと

  • 司令官ニューロンを活性化すると、多数のDN集団が活性化された。

  • 司令官ニューロンは下流DNと直接的な興奮性シナプス結合を持っていた。

  • 多数のDNと結合する司令官ニューロンは、頭部を切断するとDNネットワークが活性化できず、単純な運動しか生成できなかった。

  • DNは機能的に関連する行動ごとにクラスターを形成し、クラスター間で相互抑制していた。

この研究の面白く独創的なところ

  • ハエの脳内司令官ニューロンによる行動制御の実態を、光遺伝学と全脳コネクトーム、切断実験を組み合わせて多角的に解明した。

  • 司令官ニューロンが単独ではなく、DNネットワークを動員して行動を生成していることを示した。

  • DNが行動ごとにクラスターを形成し、柔軟な行動制御に寄与していることを示唆した。

この研究のアプリケーション

  • 動物の柔軟な行動生成の神経メカニズム解明につながる。

  • 運動制御の階層構造に基づく、ロボットの制御システム設計への示唆。

著者と所属
Jonas Braun、Femke Hurtak、Sibo Wang-Chen 、Pavan Ramdya (スイス連邦工科大学ローザンヌ校・脳心理学部・生体工学部門)

詳しい解説
ハエには「司令官ニューロン」と呼ばれる一部のニューロンを刺激するだけで、歩行やグルーミングなどの特定の行動を引き起こすことができるニューロンが存在することが知られていました。一方で、自然な行動時にはそれら司令官ニューロンだけでなく、多数の「下行性ニューロン(DN)」が同時に活動していることから、司令官ニューロンが単独で行動を制御しているわけではないことが示唆されていました。
そこで本研究では、光遺伝学を用いて3種類の司令官ニューロン(前進歩行、アンテナグルーミング、後退歩行を駆動)を活性化しながら、ハエ脳のDN集団の活動を計測しました。すると、いずれの司令官ニューロンの活性化時にも、多数のDNの活動が誘発されることがわかりました。さらに全脳のコネクトーム(ニューロン間の配線図)を解析したところ、司令官ニューロンは多数のDNと直接的な興奮性シナプス結合を持っており、これが機能的なDN動員の基盤となっていることが示唆されました。
実際にDNの動員が行動に必要かを確かめるため、ハエの首の部分だけで司令官ニューロンを刺激したり、頭部を切断したハエで刺激したりする実験を行いました。すると、多数のDNと結合する司令官ニューロンは、DN動員なしでは単純な定型運動しか生成できず、DNネットワークとの同時活性化が複雑な行動の駆動に必要であることが明らかになりました。
さらにコネクトームを詳細に解析したところ、DNは機能的に関連する行動ごとにクラスターを形成しており、クラスター間では相互に抑制し合っていることがわかりました。これは、DNネットワークが行動間の切り替えにも寄与している可能性を示唆しています。
以上のように本研究は、ハエ脳内の「司令官ニューロン」が単独で行動を駆動するのではなく、下流のDNネットワークを動員し、それらが協調して行動を生成するというメカニズムを解明しました。これは動物の柔軟な行動生成の仕組みの理解に大きく貢献する発見であり、今後、ロボット制御などへの応用も期待されます。


位置特異的な代謝が組織内で遺伝子発現を制御する

翅成虫原基の縁の細胞では、核内のヒストン H3K18 と H4K8 のアセチル化レベルが高い。原因は、その領域の細胞で脂肪酸β酸化が亢進し、アセチル CoA が多く供給されるためである。アセチル CoA は ACSS2 の働きでアセテートから合成され、ヒストンアセチル化酵素 Nejire によって H3K18 などがアセチル化される。H3K18のアセチル化が低下すると、翅の発生に重要な遺伝子群の発現が抑制された。つまり、細胞核の組織内での位置が代謝状態を規定し、それが遺伝子発現を制御するのである。ヒストンアセチル化の人為的な操作は、翅の形態異常を引き起こした。

事前情報

  • ヒストンのアセチル化は遺伝子発現や細胞機能、分化を制御する

  • アセチル化の程度は代謝状態の影響を受ける

  • 上皮組織では核の配置が能動的に制御されている

行ったこと

  • ショウジョウバエ翅成虫原基でのヒストンアセチル化の分布を調べた

  • アセチル化の高い領域の核が組織表面に近いことを見出した

  • 高アセチル化の原因がアセチルCoA合成酵素ACSS2の核内濃度と脂肪酸β酸化の活性に由来することを突き止めた

  • ヒストンアセチル化の抑制が発生関連遺伝子の発現低下を引き起こすことを示した

検証方法

  • 様々なヒストン修飾に対する抗体を用いた免疫染色

  • 代謝阻害剤を用いた薬理学的阻害実験

  • 蛍光タンパク質を用いたオルガネラや代謝活性のイメージング

  • RNAi を用いた酵素のノックダウン

  • Cut&Run法を用いたゲノムワイドなヒストンアセチル化部位の同定

  • 変異ヒストン発現細胞の作製

  • RNAによる遺伝子発現の検出

分かったこと

  • 翅原基の外縁部ではヒストンH3K18とH4K8のアセチル化が亢進している

  • 高アセチル化の核は組織の最外層に存在する

  • 外縁部では脂肪酸β酸化が活発で、アセチルCoAが豊富である

  • アセチルCoA合成酵素ACSS2の核内濃度が外縁核で高い

  • ヒストンのアセチル化はアセチル化酵素Nejireによって担われる

  • ヒストンアセチル化の抑制は発生関連遺伝子の発現を低下させる

  • ヒストンアセチル化の異常は翅の形態異常を引き起こす

この研究の面白く独創的なところ

  • 核の組織内での位置と代謝状態を関連づけた点

  • 組織内の細胞の位置が遺伝子発現を代謝を介して制御することを示した点

  • 遺伝子発現の時空間的な精緻な制御機構の一端を明らかにした点

  • オルガネラ機能やゲノムの特定領域のエピジェネティックな状態の可視化に成功している点

この研究のアプリケーション

  • 組織パターン形成における細胞の位置情報と遺伝子発現制御の関係の理解

  • 形態形成におけるエピジェネティック制御の役割の解明

  • 細胞の位置と代謝のカップリングの生理的意義の理解

  • 先天異常の発生機構の解明

  • ガンにおける細胞の脱制御のメカニズムの理解

著者と所属
Philipp Willnow (German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg, Germany) (Heidelberg University, Heidelberg, Germany)
Aurelio A. Teleman (German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg, Germany) (Heidelberg University, Heidelberg, Germany)

詳しい解説
ショウジョウバエの翅の原基において、特定のヒストンのアセチル化が組織の外縁部の細胞核で亢進していることが明らかになった。この高いアセチル化の領域は、ある特定の転写因子の発現領域とは一致せず、細胞系譜とも無関係であった。高アセチル化の核は組織の最外層に位置しており、組織深部の核では低いアセチル化状態を示した。
高アセチル化の原因を探ったところ、アセチル化酵素 Nejire の発現や活性には局在性がなかった。一方で、外縁部の細胞では脂肪酸β酸化が活発で、アセチル CoA が豊富に供給されていることが判明した。アセチル CoA はアセチル CoA 合成酵素 ACSS2 によってアセテートから合成される。重要なことに、ACSS2 の核内濃度が外縁部の核で高いことが示された。脂肪酸β酸化や ACSS2 の阻害は、ヒストンのアセチル化レベルを低下させた。
次に、ヒストンアセチル化の生物学的な意義が調べられた。外縁特異的なアセチル化が見られたゲノム領域には、翅の発生に重要な遺伝子群が含まれていた。脂肪酸β酸化や Nejire の阻害は、これらの遺伝子の発現を抑制した。さらに、Nejire や脱アセチル化酵素 HDAC1 の発現を人為的に操作すると、翅の形態に異常が生じることが示された。
これらの結果から、細胞核の組織内での位置によって規定される代謝状態が、遺伝子発現の時空間的な制御に寄与することが示唆された。外縁部の細胞では、活発な脂肪酸β酸化によってアセチル CoA が豊富に供給され、ACSS2 の核内濃度も高い。このアセチル CoA が Nejire によるヒストンアセチル化を促進し、発生に重要な遺伝子群の発現を確保しているのである。
本研究は、組織パターン形成における細胞の位置情報と代謝・エピゲノムの連関を示した点で意義深い。今後、このような制御が他の組織や生物種でも見られるのか、その生理的・病理的な意義は何か、といった点が興味深い研究の方向性として考えられる。


情報の透明化で誤情報サイトへの広告を減らせる

広告会社が知らずに誤情報サイトに広告を出す一方で、消費者はそれを知ると企業商品の購入を避ける。企業意思決定者は自社の広告掲載を知らないが、知るとプラットフォームに対策を求める。よって、誤情報サイトに載る広告の透明化で資金供給が減る可能性がある。

事前情報

  • オンラインの誤情報は広告収入によって主に資金提供されていると考えられている

  • 誤情報対策は主にユーザーレベルの介入に焦点を当ててきた

  • 誤情報の供給そのものにどう対抗できるかはあまり強調されていない

行ったこと

  • 誤情報サイトに掲載される広告がどの程度普及しているか、関係する企業にどう影響するか調べた

  • 誤情報の資金提供を減らす介入方法の概要を示した

  • 消費者実験で、誤情報サイトに広告を出す企業の消費者離れを調べた

  • 企業の意思決定者にアンケートを取り、自社の誤情報サイト広告掲載の認識と対策への選好を調べた

検証方法

  • 3年分の誤情報サイトと広告活動のデータを照合して記述的分析

  • 情報提供実験で、誤情報サイトに広告を出す企業の消費者の反応をインセンティブ付きで測定

  • 企業の意思決定者にアンケートとランダム化情報提供実験を実施

分かったこと

  • 企業の誤情報サイト広告掲載は業界を超えて広く普及。プラットフォーム利用で助長

  • 消費者は誤情報サイトに広告を出す企業の需要を下げ、プラットフォームの役割を知っても企業に責任を問う

  • 企業意思決定者は自社広告の誤情報サイト掲載を知らないが、知るとプラットフォーム対策を求める

研究の面白く独創的なところ

  • 広告主と消費者の行動を同時に大規模データと実験で測定し、対策を示した点

  • インセンティブ設計で消費者の高コストな購買行動を捉えた点

  • 企業の無意識の誤情報資金提供とその是正の可能性を示した点

この研究のアプリケーション

  • 広告主への広告掲載先の透明化で誤情報サイトへの無意識の資金提供を減らせる

  • 消費者への広告掲載企業の透明化とランク付けで企業への圧力となる

  • プラットフォームが情報開示の法制化に組み込まれる可能性

著者と所属

  • Wajeeha Ahmad, Department of Management Science and Engineering, Stanford University

  • Ananya Sen, Heinz College of Information Systems and Public Policy, Carnegie Mellon University

  • Charles Eesley, Department of Management Science and Engineering, Stanford University

詳しい解説
この研究は、オンラインの誤情報サイトが広告収入によって主に資金提供されている現状を踏まえ、誤情報サイトへの広告掲載がどの程度普及しているのか、それが関係する広告企業にどのような影響を与えるのかを明らかにし、誤情報への資金提供を減らす具体的な介入方法を提示しました。
まず大規模なウェブサイトと広告活動のデータを用いた記述的な分析から、多様な業界の企業が誤情報サイトに広告を出していること、デジタル広告プラットフォームの利用がそれを助長していることが分かりました。
次に、消費者への情報提供実験から、誤情報サイトに広告を出している企業の商品を買わなくなるという形で需要を下げることが明らかになりました。この効果は、プラットフォームの役割を知らされても企業に責任を問う形で持続しました。
さらに企業の意思決定者へのアンケートから、多くの意思決定者が自社の誤情報サイトへの広告掲載を知らず、無意識に誤情報に資金提供している実態が浮き彫りになりました。一方で、それを知らされるとプラットフォームに誤情報サイトを回避する対策を求める傾向が見られました。
以上の結果から、広告主企業に広告掲載先を透明化して無意識の誤情報への資金提供を減らしたり、消費者に広告掲載企業の情報とランク付けを示して企業への圧力にしたりするという、低コストで拡張性の高い情報に基づく介入が、オンライン誤情報の資金提供を減らす方法として有望であることが示されました。
この研究は、広告主と消費者の行動を同時に大規模データと実験で測定し、実践的な対策を示した点、消費者にインセンティブを工夫して高コストな購買行動の変化を捉えた点、企業の無意識の誤情報資金提供とその是正可能性を明らかにした点で、独創的で社会的インパクトの大きい研究だと言えます。


中期旧石器時代の6つの炉址の使用時期を高精度で復元

旧石器時代の人類活動の時間スケールを解明することは先史考古学における最も難しい問題の一つです。狩猟採集民のキャンプの期間と頻度は、社会生活と人間-環境相互作用の重要な側面を反映しています。しかし、旧石器時代の文脈の時間的側面は、年代測定技術の限界、堆積物に対する攪乱要因の影響、パリンプセスト効果のため、一般的に不正確にしか再構成されません。本研究では、考古地磁気学と考古層序学的分析を通じて、スペインのEl Salt遺跡のユニットxから出土した6つの中期旧石器時代の炉址間の高精度の時間差を報告します。一連の炉址は99%の確率で少なくとも約200〜240年の期間を対象としており、各炉址間には10年単位から100年単位の間隔がありました。この結果は、研究対象の層序に含まれる人類の占拠イベントの時間的枠組みを定量的に推定するものです。これは旧石器時代考古学の前進であり、この分野では人間の行動は通常、地質学的プロセスに典型的な時間スケールから研究されますが、重要な変化は人間の世代という小さなスケールで起こる可能性があります。ここでは、人間の寿命に近い時間スケールに到達しました。

事前情報

  • 旧石器時代の人類活動の時間スケールを解明することは先史考古学の大きな課題の一つ

  • 狩猟採集民のキャンプの期間と頻度は社会生活と人間-環境相互作用を反映

  • 旧石器時代の文脈の時間的側面は通常不正確にしか再構成されない

行ったこと

  • スペインのEl Salt遺跡ユニットxから出土した6つの中期旧石器時代の炉址を分析

  • 考古地磁気学と考古層序学的分析を用いて炉址間の高精度の時間差を算出

検証方法

  • 各炉址から定方位で採取した試料の自然残留磁化の熱消磁実験を実施

  • 最後の燃焼イベントに関連する特徴的残留磁化方位を特定し、統計的に比較

  • 考古層序学的情報と組み合わせて炉址間の前後関係と時間差を推定

分かったこと

  • 分析した一連の炉址は99%の確率で少なくとも約200〜240年の期間を対象

  • 各炉址の間には10年単位から100年単位の時間差が存在

  • 研究対象の層序に含まれる人類の占拠イベントの時間的枠組みを定量的に推定

研究の面白く独創的なところ

  • 考古地磁気と考古層序学を組み合わせた学際的アプローチ

  • 中期旧石器時代の遺跡における人類活動の高時間分解能での復元

  • 地質学的時間スケールから人間世代のスケールへの接近

この研究のアプリケーション

  • 旧石器時代の遺跡形成過程と人類占拠の動態の理解深化

  • 考古学的パリンプセストの分析への新たな視点の提供

  • 先史時代の人間行動の時間的側面の解明における方法論的進歩

著者と所属
Ángela Herrejón-Lagunilla (ブルゴス大学, マドリード・コンプルテンセ大学) Juan José Villalaín (ブルゴス大学) Francisco Javier Pavón-Carrasco (マドリード・コンプルテンセ大学, スペイン国立研究会議-マドリード・コンプルテンセ大学地球科学研究所) 他7名

詳しい解説
本研究は、スペインのEl Salt遺跡から発掘された中期旧石器時代の6つの炉址について、考古地磁気学と考古層序学的分析を組み合わせることで、それぞれの炉の使用時期を高精度で復元しました。
考古地磁気学では、堆積物中の磁性鉱物粒子が過去の地球磁場の方向を記録していることを利用します。各炉址から定方位で採取した焼土試料の自然残留磁化を段階的に熱消磁し、最後の燃焼イベントに関連する特徴的残留磁化方位を特定します。統計的に有意に異なる方位を示す炉址間には一定の時間差があると推定できます。
一方、考古層序学的分析では、遺物や地層の重なり関係から各炉址間の前後関係を高い空間分解能で明らかにしました。
これらのデータと、この時代の地磁気永年変化曲線を組み合わせることで、6つの炉址が少なくとも約200〜240年の期間を対象としており、各炉址の間には10年単位から100年単位の時間差が存在したと結論づけられました。
従来、旧石器時代の遺跡では人間活動の痕跡が複雑に重なった「パリンプセスト」が形成され、個々の占拠イベントの識別が難しいとされてきました。本研究のアプローチはこの問題に挑戦し、旧石器時代の狩猟採集民の活動を人間世代に近いスケールで復元することに成功しました。これにより、遺跡形成過程のより精緻な理解と、先史時代の人間行動の時間的ダイナミクスに関する新たな知見が期待されます。


iscattを用いてcofの形成過程をリアルタイムイメージングすることに成功

共有結合性有機構造体 (COF) は、エネルギーの利用・変換・貯蔵に適した機能性材料です。しかし、COFの合成条件を予測する統一的な指針は確立されていません。その原因の1つは、COF形成の初期段階である核形成と成長過程の全容が不明瞭なことです。本研究では、光学顕微鏡の一種である干渉散乱顕微鏡 (iSCAT) を用いて、COF重合と骨格形成過程のその場観察を行いました。その結果、従来のCOF合成で用いられる溶媒が、界面活性剤を含まない(マイクロ)エマルションの形で構造化していることが明らかになりました。この知見を活用し、高温ではなく室温でCOFを合成するプロトコルの開発に成功しました。本研究は、フレームワーク合成と液相図の関係性を見出し、反応場の能動的設計を可能にしました。光散乱に基づく可視化技術が、合理的な材料合成の発展に寄与することを示しています。

事前情報

  • COFは機能性材料として注目されているが、合成条件の予測が困難

  • COF形成の初期段階(核形成と成長過程)の詳細が不明瞭

行ったこと

  • 干渉散乱顕微鏡(iSCAT)を用いてCOF形成過程をその場観察

  • 従来のCOF合成で用いられる溶媒の構造を調査

  • 溶媒の構造化を利用した常温COF合成プロトコルの開発

検証方法

  • iSCATによるCOF形成過程のリアルタイムイメージング

  • 各種分析による生成物の評価(PXRD、ガス吸着等)

  • 溶媒組成を変化させた際の生成物の結晶性比較

分かったこと

  • COF合成に用いる溶媒は均一ではなく、ナノ・マイクロスケールで構造化している

  • 溶媒の構造化により反応物と触媒の局在化が起こり、反応速度が制御される

  • 溶媒の構造制御により、常温・短時間でも高結晶性COFの合成が可能

研究の面白く独創的なところ

  • 材料合成過程をリアルタイムで可視化するというユニークなアプローチ

  • 材料科学と物理化学(溶液論)の学際的融合

  • 反応環境の能動的設計による新たな材料合成戦略の提案

この研究のアプリケーション

  • 高効率な機能性材料(光電変換材料、触媒等)の開発

  • 環境負荷の少ない低エネルギー材料合成プロセスの実現

  • 複雑系の化学反応や自己組織化過程の理解の深化

著者と所属
Christoph G. Gruber, Nanoinstitute Munich and Center for NanoScience (CeNS), Faculty of Physics, Ludwig-Maximilians-Universität München
Laura Frey, Department of Chemistry and Center for NanoScience (CeNS), Ludwig-Maximilians-Universität München
Roman Guntermann, Department of Chemistry and Center for NanoScience (CeNS), Ludwig-Maximilians-Universität München

詳しい解説
共有結合性有機構造体(COF)は、有機分子を共有結合で連結して得られる結晶性多孔質材料です。分子設計の自由度が高く、ガス吸着、触媒、光電変換など幅広い用途が期待されています。一方で、COFを高品質に合成するためには、溶媒や触媒、温度などの反応条件の最適化が不可欠です。しかし、これまでCOF合成の指針は経験則に頼るところが大きく、特に反応の初期段階で起こる重合と結晶化のメカニズムは不明瞭でした。
本研究では、光学顕微鏡の一種であるiSCAT(干渉散乱顕微鏡)を用いて、COF形成過程をリアルタイムで可視化しました。iSCATは光の散乱を利用するため、結晶性・非晶性、多孔質・非多孔質など、様々な状態の物質を区別なく観察できます。典型的なイミン結合型COFであるTA-TAPB COFの合成反応をモデルに、反応溶液中の動的な変化を追跡しました。
驚くべきことに、反応開始直後のミリ秒スケールで、溶媒の液-液相分離が起こっていることが明らかになりました。疎水性溶媒のメシチレンがマイクロメートルサイズの液滴として析出し、その後オストワルド熟成により液滴が成長します。つまり、COF合成でよく用いられる3成分系溶媒は、均一に混ざっているのではなく界面活性剤を含まないマイクロエマルションとして構造化しているのです。溶媒が反応物と触媒を隔てる動的な障壁となり、初期の急速な重合を抑制していると考えられます。
この知見を基に、イオン種の添加によりエマルションの極性を制御し、常温・短時間でCOFを合成するプロトコル(IAC法)を開発しました。塩化ナトリウムを加えると、溶媒の構造が水中油滴型から油中水滴型へと反転します。これにより、反応物の運動性が確保されつつ重合速度が抑制され、欠陥の少ない結晶性の高いCOFが得られます。実際、IAC法により合成したCOFは、従来の溶媒熱法で120 °Cを要したものと同等の結晶性を示しました。
本研究は、iSCATという先駆的な計測技術を駆使し、COF合成の素過程を明らかにしました。フレームワーク材料の合成と溶液の相挙動の関係性を見出し、液-液相分離を利用した反応場の設計という新しい戦略を提示しています。マテリアル合成と物理化学の融合という画期的なアプローチは、複雑系の化学現象の理解を飛躍的に深化させるでしょう。COFに限らず、様々な機能性材料の精密合成や、環境調和型プロセスの開発への展開が大いに期待されます。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。