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論文まとめ370回目 SCIENCE 肝再生時のミトコンドリア健康維持における代謝の硬直性の重要性!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

A phage tail–like bacteriocin suppresses competitors in metapopulations of pathogenic bacteria
ファージ尾部様バクテリオシンは病原性細菌の集団内で競合菌を抑制する
「細菌がファージから毒素タンパク質を作る遺伝子を奪って武器化し、ライバル菌を攻撃する現象を発見。この毒素による攻防が177年以上も昔から続いており、病原菌の多様性を維持する重要な要因と判明。将来はtailocinを利用した新たな抗菌治療に応用できる可能性がある。」

Two-dimensional perovskite templates for durable, efficient formamidinium perovskite solar cells
フォルマミジニウムペロブスカイト太陽電池の耐久性と効率向上のための2次元ペロブスカイトテンプレート
「フォルマミジニウム鉛ヨウ化物は高効率なペロブスカイト太陽電池材料だが、不安定な相があり耐久性に課題があった。本研究では、特殊な2次元ペロブスカイトをテンプレートとして使うことで、安定な立方晶相を100℃の低温で形成することに成功。これにより24.1%の高効率と1000時間の長寿命を両立した太陽電池が作製できた。」

Metabolic inflexibility promotes mitochondrial health during liver regeneration
肝臓再生時におけるミトコンドリアの健康維持に代謝の硬直性が果たす役割
「肝臓が損傷を受けて再生する際、健康なミトコンドリアを持つ細胞だけを増殖させることが重要です。この研究では、電子伝達系に異常のある細胞は脂肪酸からアセチルCoAを作れず増殖できないことを発見しました。さらにこの現象に、代謝経路の柔軟性の欠如が関わっていることを突き止めました。損傷した肝臓が健康な状態に再生するために、代謝の硬直性が巧妙に働いているのです。」

Human activities shape global patterns of decomposition rates in rivers
人間活動が全世界の河川における有機物分解速度のパターンを決定づけている
「川に流れ込む植物の死骸は、その場で分解されて二酸化炭素を放出します。世界500以上の川で、セルロース分解速度を調べたところ、人間活動の影響が大きい地域ほど分解速度が速いことがわかりました。人間が自然の物質循環に大きな影響を与えていることが明らかになった画期的な研究です。」

Melting entropy of crystals determined by electron-beam–induced configurational disordering
電子線誘起配置無秩序化により決定された結晶の融解エントロピー
「結晶が融解するとき、分子は多数の配置を探索し、無秩序さが増加します。この研究では、電子線回折シグナルの減衰から、この無秩序化による微視的状態数の増加を実験的に求めることに成功しました。これにより、融解エントロピーをボルツマンの式から直接決定できるようになりました。この手法は、従来の熱量測定によるクラウジウスの方法を補完し、微量で熱的に不安定な結晶や生体分子結晶にも適用可能です。」


要約

病原性細菌の集団内でファージ由来のtailocinが競合する菌株を抑制する

https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado0713

細菌はファージ由来の毒素タンパク質を利用して、同じ集団内の近縁種の競合菌を攻撃することが明らかになった。モデル植物シロイヌナズナの標本からPseudomonas属細菌のゲノムを解析したところ、ほとんどの菌株がtailocinと呼ばれるファージ尾部様の毒素タンパク質をコードする遺伝子を持っていた。Tailocinは特定の菌株の外膜多糖を標的とし、競合菌を選択的に殺菌する。177年以上前の標本でも同様のtailocinとその標的分子の多型が保存されており、長期間にわたってtailocinを介した菌株間の攻防が続いていることが示唆された。Tailocinによる拮抗作用が病原細菌集団の多様性維持に重要な役割を果たしていると考えられる。
事前情報

  • 植物に感染する病原細菌の集団は、宿主の免疫や他の微生物との競合、ファージの攻撃などの障壁を乗り越える必要がある

  • ファージ由来の毒素タンパク質は広く細菌に分布し、近縁種に対して特異的な殺菌活性を示すことが知られている

  • 野生のシロイヌナズナ集団では、優占種のないPseudomonas属細菌の多様な集団が感染している

行ったこと

  • シロイヌナズナから分離した古い標本と現代のPseudomonas属細菌のゲノムを比較解析

  • ほとんどの菌株に保存されたtailocinと呼ばれるファージ尾部様の毒素タンパク質の遺伝子クラスターを発見

  • Tailocinとその標的となる外膜多糖の多型を解析し、長期的な共進化の痕跡を調べた

検証方法

  • シロイヌナズナの古い標本から病原性Pseudomonas属細菌のゲノムを単離・シーケンス

  • 現代の菌株と比較してtailocinの遺伝子クラスターを同定

  • Tailocinの配列多型と標的となる外膜多糖の多型を系統解析により比較

  • Tailocinを精製し、様々な菌株に対する殺菌活性をソフトアガーオーバーレイ法で評価

分かったこと

  • ほとんどの病原性Pseudomonasがtailocinの遺伝子クラスターを持ち、いくつかの異なる変異体が存在する

  • それぞれのtailocin変異体は特定の外膜多糖を持つ近縁菌株を選択的に殺菌する

  • 177年以上前の細菌にも同じtailocinと外膜の変異体が存在し、長期的に共進化してきたことが示唆される

  • Tailocinによる拮抗作用が病原細菌集団内の多様性と系統の共存を促進していると考えられる

研究の面白く独創的なところ

  • 細菌がファージから毒素遺伝子を奪い取って利用するという新たなメカニズムを発見した点

  • 100年以上昔の標本からDNAを採取し、tailocinの長期的な進化の痕跡をたどった点

  • 競合菌に対する特異的な殺菌活性を持つtailocinが細菌集団の多様性を維持する役割を果たすことを示した点

この研究のアプリケーション

  • 多様なtailocin変異体のライブラリを活用し、特定の菌株を標的とした新たな抗菌治療法への応用が期待される

  • Tailocinの特異性を理解することで、環境中の微生物叢を制御する技術への発展も考えられる

  • 細菌とファージの相互作用や毒素の進化を研究するモデルシステムとしても有用である

著者と所属
Talia Backman, School of Biological Sciences, University of Utah
Sergio M. Latorre, Centre for Life’s Origins and Evolution, University College London
Hernán A. Burbano, Centre for Life’s Origins and Evolution, University College London
Talia L. Karasov, School of Biological Sciences, University of Utah
詳しい解説
本研究は、シロイヌナズナに感染する病原性Pseudomonas属細菌の集団内で、ファージ由来の毒素タンパク質tailocinが重要な役割を果たすことを明らかにしました。
研究チームはまず、177年以上前に採取されたシロイヌナズナの標本から細菌ゲノムのDNAを単離・シーケンスし、現代の菌株と比較解析しました。その結果、ほとんどの菌株がtailocinと呼ばれるファージ尾部様の毒素タンパク質をコードする遺伝子クラスターを持っていることが分かりました。
Tailocinには数種類の配列変異体が存在し、それぞれが特定の外膜多糖を持つ近縁菌株を選択的に認識して殺菌します。古い標本からも同様のtailocinと標的分子の多型が検出されたことから、tailocinを介した菌株間の攻防が長期間にわたって続いており、病原細菌集団の多様性維持に寄与してきたと考えられます。
本研究は、細菌がファージ由来の毒素を利用してライバル菌と競合するという新たなメカニズムを実証しました。Tailocinは環境中の微生物叢を制御する技術への応用が期待されるほか、特定の菌株を標的とした新しい抗菌治療法の開発にもつながる可能性があります。
さらに、100年以上も前の標本から細菌ゲノムを復元し、tailocinの長期的な進化の痕跡をたどったことは、古い生物試料からDNAを採取・解析する手法の有用性を示す成果と言えます。本研究は、細菌とファージの相互作用や毒素の進化を探る研究分野に大きく貢献すると期待されます。


フォルマミジニウム鉛ヨウ化物ペロブスカイト太陽電池の相安定性と耐久性の向上

https://www.science.org/doi/10.1126/science.abq6993

フォルマミジニウム鉛ヨウ化物(FAPbI3)を光吸収層に用いることで、ペロブスカイト太陽電池の高効率化が期待されるが、不安定な六方晶相への転移が課題だった。本研究では、特定の2次元ペロブスカイトをテンプレートとして用いることで、100℃の低温でも安定な立方晶FAPbI3相が優先的に形成されることを見出した。得られたFAPbI3薄膜は2次元ペロブスカイトの格子定数に近づくように若干圧縮されていた。このテンプレート法で作製したペロブスカイト太陽電池は、0.5cm2の面積で24.1%の高効率を示し、85℃下で1000時間経過後も初期効率の97%を維持する優れた耐久性を示した。

事前情報

  • FAPbI3は高効率なペロブスカイト太陽電池材料だが、不安定な六方晶相への転移が課題

  • 安定相を形成するには150℃以上の高温アニールが必要で、耐久性低下の原因となる

行ったこと

  • FAをケージカチオンとする特定の2次元ペロブスカイトをテンプレートとして利用

  • 純粋なFAPbI3前駆体溶液と2次元ペロブスカイトを接触させ、100℃で熱処理

  • X線回折と光学分光で生成物の構造と物性を評価

  • 0.5cm2面積のペロブスカイト太陽電池を作製し、効率と耐久性を評価

検証方法

  • X線回折と光学分光による構造・物性評価

  • 0.5cm2面積のペロブスカイト太陽電池の効率測定

  • 85℃、最大出力点追従条件下での耐久性試験(1000時間)

分かったこと

  • 2次元ペロブスカイトの存在下では100℃の低温でも立方晶FAPbI3相が優先形成

  • 得られたFAPbI3薄膜は2次元ペロブスカイトの(011)面間隔に近づくように若干圧縮

  • 作製したペロブスカイト太陽電池は24.1%の高効率を示した

  • 85℃、1000時間の耐久試験後も初期効率の97%を維持する優れた耐久性を示した

研究の面白く独創的なところ

  • 不安定相の形成を抑制する新しい2次元ペロブスカイトテンプレート法を開発

  • 通常150℃以上必要な立方晶相形成を100℃の低温で実現

  • ペロブスカイト太陽電池の効率と耐久性を高いレベルで両立

この研究のアプリケーション

  • 高効率・長寿命なペロブスカイト太陽電池の実現

  • 2次元ペロブスカイトによる結晶構造・配向制御技術への応用

  • 低温プロセスによるフレキシブルペロブスカイト太陽電池への展開

著者と所属
Siraj Sidhik, Isaac Metcalf (ライス大学) Wenbin Li (ライス大学/スモーリーカール研究所)
Jacky Even (レンヌ応用科学研究所) Aditya D. Mohite (ライス大学) ほか

詳しい解説
フォルマミジニウム鉛ヨウ化物(FAPbI3)は、バンドギャップが理想的で光吸収係数が高いことから、ペロブスカイト太陽電池の高効率化に適した材料として注目されている。しかし、FAPbI3には安定な立方晶相(黒相)の他に、不安定な六方晶相(黄相)が存在し、太陽電池の耐久性低下の原因となることが課題だった。黒相を安定化するには通常150℃以上の高温アニールが必要であり、これも素子劣化を招く要因となっていた。
本研究では、FAをケージカチオンに持つ特定の2次元ペロブスカイトを鋳型(テンプレート)として用い、その上で純粋なFAPbI3前駆体溶液を100℃で熱処理することで、立方晶FAPbI3相を選択的に形成することに成功した。X線回折と光学分光の解析から、得られたFAPbI3薄膜は2次元ペロブスカイトの結晶構造に近づくように若干圧縮されていることが分かった。 このテンプレート法で作製したFAPbI3薄膜を光吸収層に用いたペロブスカイト太陽電池は、0.5cm2の実用的なサイズで24.1%という高い変換効率を示した。さらに、85℃、最大出力点追従条件下で1000時間の耐久試験を行ったところ、初期効率の97%が維持されるという優れた耐久性能も実証された。
本研究の独創的な点は、不安定相の形成を抑制する新しい2次元ペロブスカイトテンプレート法を開発したことにある。この手法により、通常150℃以上の高温を必要とする立方晶FAPbI3相を、太陽電池の作製プロセスとして好ましい100℃の低温で形成することが可能となった。その結果、ペロブスカイト太陽電池の効率と耐久性を同時に高いレベルで達成することに成功した。 本研究は、実用的な高効率・長寿命ペロブスカイト太陽電池の実現に向けて重要な知見を与えるものである。また、2次元ペロブスカイトを用いた結晶構造・配向制御技術は、他の材料にも応用可能な一般性の高い手法になると期待される。低温プロセスが適用できることから、フレキシブル基板上への作製など、用途の拡大も期待できる。


肝再生時のミトコンドリア健康維持における代謝の硬直性の重要性

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj4301

肝臓は損傷を受けると、健康な肝細胞が増殖することで組織を再生する。この研究では、マウスの肝臓再生モデルを用いて、ミトコンドリアの電子伝達系が機能しない変異細胞と正常細胞の競合を調べた。その結果、変異細胞は脂肪酸からアセチルCoAを産生できず増殖が抑制されることが分かった。変異細胞では脂肪酸の蓄積によりPDK4が誘導され、ピルビン酸や酢酸からのアセチルCoA産生経路が阻害される。この代謝経路の柔軟性の欠如により、変異細胞の増殖が不利になる。PDK4を阻害すると代謝の柔軟性が回復し、変異細胞も増殖できるようになった。つまり、代謝経路の硬直性により、健康なミトコンドリアを持つ肝細胞の選択が起こるのである。この仕組みは、損傷した肝臓が健康な状態に再生するために重要だと考えられる。

事前情報

  • 脂肪肝などの代謝性肝疾患では、ミトコンドリアの電子伝達系の機能不全がよく見られる。

  • 肝再生の際、増殖する肝細胞間で適者生存の競争が起こり、より健康な細胞が再生肝の構成に寄与する。

  • ミトコンドリアの電子伝達系機能が幹細胞の動態に影響することは知られているが、肝再生に与える影響は不明だった。

行ったこと

  • マウス肝細胞のミトコンドリア代謝を、恒常状態と再生状態で比較解析した。

  • ミトコンドリア電子伝達系の各複合体(I~V)を欠損したマウスモデルを作成し、肝再生への影響を調べた。

  • 野生型細胞と電子伝達系変異細胞の競合実験を行い、代謝の特徴を解析した。

検証方法

  • 安定同位体トレーサーを用いた代謝流量解析

  • 脂質メタボロミクス

  • 遺伝子発現解析

  • 肝細胞特異的な変異マウスの作成と表現型解析

  • 細胞競合アッセイ

分かったこと

  • 電子伝達系変異細胞は、肝再生の際に野生型細胞と競合して増殖が抑制される。

  • 変異細胞では脂肪酸の蓄積が起こり、脂肪肝を呈する。

  • 野生型細胞は、再生時に末梢脂肪組織から動員される脂肪酸を酸化してアセチルCoAを産生する。

  • 変異細胞では脂肪酸酸化が阻害されるが、PDK4の誘導によりピルビン酸や酢酸からのアセチルCoA産生も抑制される。

  • 電子伝達系変異細胞の増殖抑制はPDK4依存的であり、PDK4を阻害すると変異細胞も増殖可能になる。

研究の面白く独創的なところ

  • 肝再生という生理的過程において、ミトコンドリアの電子伝達系機能の重要性を示した。

  • 代謝経路の柔軟性の欠如が、ミトコンドリアの健康性を担保する仕組みとして働くという新概念を提唱した。

  • PDK4の誘導が、電子伝達系変異細胞の増殖抑制を規定する分子機構であることを明らかにした。

この研究のアプリケーション

  • 電子伝達系機能不全を伴う肝疾患の病態解明と治療法開発への応用。

  • 再生医療における移植細胞のミトコンドリア機能評価の重要性の提言。

  • 肝再生を制御する代謝マシナリーの理解に基づく、新規治療ターゲットの探索。

著者と所属
Xun Wang (UT Southwestern Medical Center) Cameron J. Menezes (UT Southwestern Medical Center) Prashant Mishra (UT Southwestern Medical Center)

詳しい解説
この研究は、肝臓の再生という生理的な過程において、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアの電子伝達系が重要な役割を果たすことを明らかにしました。
肝細胞が損傷を受けると、健康な細胞が増殖することで肝組織が再生されます。しかし、ミトコンドリアの電子伝達系に異常を抱えた細胞が存在すると、再生の過程でどのような影響があるのかは不明でした。
本研究では、電子伝達系の各構成要素を欠損させたマウスモデルを用いて、部分肝切除後の肝再生過程を詳細に解析しました。その結果、電子伝達系に異常のある細胞は、野生型の細胞と比べて増殖が不利になることが分かりました。これは、変異細胞が脂肪酸からエネルギー源となるアセチルCoAを産生できないためです。
さらに代謝物解析から、変異細胞では脂肪酸が蓄積し、PDK4という酵素が誘導されることで、ピルビン酸や酢酸からアセチルCoAを作る経路も阻害されていることが明らかになりました。つまり、変異細胞は脂肪酸に依存せざるを得ない状況で、代替の基質からアセチルCoAを作れなくなっているのです。野生型細胞が持つ基質選択の柔軟性を失うことで、変異細胞の増殖が不利になるわけです。
興味深いことに、PDK4を阻害すると、変異細胞でも代謝経路の柔軟性が回復し、増殖が可能になりました。このことから、代謝経路の硬直性自体が、電子伝達系の異常を持つ細胞の排除に寄与していると考えられます。
本研究は、ミトコンドリアが正常に機能する細胞を選択することが、再生後の肝臓の健康性につながるという新しい概念を提唱しています。また、電子伝達系の異常で蓄積した脂肪酸がPDK4の発現を介して代謝の柔軟性を奪うという分子機構を解明しました。
これらの知見は、ミトコンドリア異常を伴う肝疾患の理解を深め、治療法の開発にもつながると期待されます。さらに、細胞移植治療などの再生医療を行う際にも、移植細胞のミトコンドリア品質管理の重要性を示唆するものと言えるでしょう。


人間活動が全世界の河川における有機物分解速度を決定づけている

https://science.sciencemag.org/content/384/6701/1191

川や小川は、大量の陸上植物の有機物を分解することで、地球規模の炭素循環に寄与しています。しかし、分解速度は非常に変動が大きく、大規模なパターンとその決定要因についてはよくわかっていません。我々は、6大陸の514の河川で複製された一斉セルロース分解実験(CELLDEX)を行うことで、この知識のギャップに取り組みました。環境変数はセルロース分解速度を説明し、リターの質に関するデータと組み合わせると、これまで報告されてきた落葉の分解速度も高い精度で説明できました。この研究は、地球規模の炭素循環に対する地球環境変化の影響を予測する助けとなるでしょう。

事前情報

  • 川や小川は、大量の陸上植物由来の有機物を分解し、地球規模の炭素循環に寄与している。

  • しかし、分解速度は非常に変動が大きく、大規模なパターンとその決定要因についてはよくわかっていない。

行ったこと

  • 6大陸の514の河川で複製された一斉セルロース分解実験(CELLDEX)を行った。

検証方法

  • 世界中の河川でセルロース(綿布)の分解速度を測定した。

  • リターの質に関するデータと組み合わせて分析した。

分かったこと

  • 環境変数がセルロース分解速度を説明できることがわかった。

  • リターの質に関するデータと組み合わせると、これまで報告されてきた落葉の分解速度も高い精度で説明できた。

  • 人間活動の影響が大きい地域ほど、セルロースの分解速度が速かった。

研究の面白く独創的なところ

  • 世界規模で500以上もの河川を対象に、統一の手法で有機物分解速度を測定した大規模な研究である点。

  • 人間活動が河川生態系の機能に与える影響を明らかにした点。

この研究のアプリケーション

  • 地球規模の炭素循環モデルの高度化。

  • 人間活動が河川生態系に与える影響の評価と対策立案。

著者と所属

  • S. D. Tiegs, K. A. Capps, D. M. Costello - オークランド大学

  • J. P. Schmidt - ジョージア大学

  • C. J. Patrick - ウィリアム・アンド・メアリー大学

詳しい解説
この研究は、世界6大陸の514の河川で行われた大規模な実験プロジェクト「CELLDEX」の成果です。CELLDEXでは、植物由来の有機物の主成分であるセルロースの分解速度を、統一の手法(綿布の重量減少)で測定しました。
その結果、セルロースの分解速度を決める要因が非常に複雑であることが明らかになりました。多くの環境変数が分解速度に関わっており、中でも人間活動の影響(都市化、農地化など)が大きいことがわかりました。
さらに、リターの質(葉の栄養分含有量など)に関するデータと組み合わせることで、これまで個別に報告されてきた落ち葉の分解速度も、高い精度で説明できることが示されました。
この研究は、人間活動が河川生態系の物質循環に大きな影響を与えていることを実証した画期的な成果です。地球規模の炭素循環を理解し、将来の環境変化の影響を予測する上で重要な知見を提供するものだと言えます。
今後は、この知見を活用して、人間活動が河川の健全性に与える影響を評価し、持続可能な河川管理の方策を検討していくことが求められます。世界各地の河川を対象とした壮大な研究から、私たち人間社会のあり方を見つめ直すヒントが得られそうです。


電子線照射による有機結晶の無秩序化から融解エントロピーを決定

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk3620

有機結晶が電子線回折中に無秩序化する現象を利用し、その減衰から融解エントロピーを評価した。減衰の頻度因子と非弾性散乱断面積の積が、無秩序化で形成される微視的状態数の実験的尺度となることを見出し、ボルツマンの式から直接エントロピーを決定できるようになった。この手法はクラウジウスのアプローチを補完し、フェムトグラム量の熱的に不安定な結晶や生体分子結晶にも適用可能である。結晶の無秩序化と融解の結晶化が、エントロピー変化に支配され互いに逆向きに進行することも示された。

事前情報

  • 分子結晶の融解エントロピーは、分子構造と相関がある

  • 融解時の配置エントロピーは、高親和性タンパク質-リガンド結合の起源となる

  • 電子顕微鏡による有機分子の直接観察が可能になってきた

行ったこと

  • 有機結晶の電子線回折を行い、回折シグナルの減衰を測定

  • 減衰の速度定数(アレニウス頻度因子)と非弾性散乱断面積の関係を解析

  • 種々の有機結晶について融解エントロピーを評価し、熱量測定の値と比較

検証方法

  • 透過型電子顕微鏡による電子線回折測定

  • 回折シグナル強度の時間変化の速度論的解析

  • 分子動力学シミュレーションによる非弾性散乱断面積の計算

  • 示差走査熱量測定(DSC)による融解エントロピーの測定

分かったこと

  • 電子線回折シグナルの減衰の頻度因子Aは、非弾性散乱断面積AINTと無秩序化で形成される微視的状態数Wdの積に等しい(A = AINTWd)

  • 電子線回折から求めた融解エントロピーは、熱量測定の値と高い相関がある

  • 結晶の無秩序化と融解の結晶化は、エントロピー変化に支配され逆向きに進行する

研究の面白く独創的なところ

  • 電子線回折による無秩序化現象を利用して、これまで実験的にアクセスできなかった融解エントロピーを直接決定する手法を開発

  • 微量で熱的に不安定な有機・生体分子結晶に適用可能で、クラウジウスのアプローチを補完

  • クラウジウスとボルツマンのエントロピーの実験的な関係付けに成功

この研究のアプリケーション

  • 医薬品などの有機分子結晶の物性評価への応用

  • タンパク質などの生体分子結晶の構造安定性の理解

  • 結晶成長や相転移の基礎研究への展開

著者と所属
Eiichi Nakamura, Takayuki Nakamuro, Dongxin Liu - Department of Chemistry, The University of Tokyo Barak Hirshberg - School of Chemistry, Tel Aviv University 他5名

詳しい解説
この研究は、有機結晶に電子線を照射したときに起こる無秩序化現象に着目し、そこから結晶の融解エントロピーを直接決定する新しい手法を開発しました。
一般に、結晶が融解すると分子は多数の配置を探索するようになり、無秩序さが増大します。このエントロピー増加は、ボルツマンの式 ΔSd = Rln(Wd) で表されます。ここで、Wd は無秩序化による微視的状態数の増加を表します。しかし、このWdを実験的に求めることはこれまで困難でした。
この研究では、電子線回折において結晶が無秩序化するときのシグナル減衰に着目しました。減衰の速度定数(アレニウス頻度因子 A)が、非弾性散乱断面積 AINT と Wd の積に等しいという関係式 A = AINT・Wd を実験的に見出したのです。これにより、電子線回折から直接 Wd を求め、ボルツマンの式から融解エントロピーを決定できるようになりました。
この手法を種々の有機結晶に適用し、示差走査熱量測定(DSC)で求めた融解エントロピーと比較したところ、高い相関が確認されました。また、フェムトグラム量の微量試料や、昇華や分解を起こして融解しない結晶にも適用可能であることが示されました。
さらに、結晶の無秩序化と融解の結晶化は、エントロピー変化に支配され互いに逆向きに進行することも明らかになりました。無秩序化は融解のように エントロピー増加の方向に、結晶化は逆にエントロピー減少の方向に進むということです。
以上のように、この研究は、電子顕微鏡という新しい手法を用いて、これまでアクセスの難しかった物理量を実験的に決定することに成功した独創的な研究といえます。有機分子や生体分子の結晶の安定性を理解する上で重要な知見をもたらすとともに、結晶成長や相転移の基礎研究にも大きなインパクトを与えるものと期待されます。


最後に
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