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論文まとめ367回目 Nature 睡眠不足はシャープ波リップルでの再活性化とリプレイを低下させる!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Oligomerization-mediated autoinhibition and cofactor binding of a plant NLR
植物NLRのオリゴマー化を介した自己抑制と補因子結合
「植物は病原体の攻撃から身を守るため、NLRというタンパク質を使って免疫反応を起こします。しかし、NLRが過剰に反応すると植物自身に害になります。この研究では、あるNLRが自己抑制するユニークな仕組みを発見しました。NLRは互いにくっつき合うことで不活性状態を保ち、さらに特殊なリン酸化合物と結合することで活性化を制御していました。この発見は、植物の過剰な免疫反応を防ぐ新たな方法の開発につながる可能性があります。」

Sleep loss diminishes hippocampal reactivation and replay
睡眠不足は海馬の再活性化とリプレイを低下させる
「睡眠中に海馬で起こるシャープ波リップルという脳波は記憶の固定に重要だが、睡眠不足によってこの脳波の特徴が変化し、神経活動の再現(再活性化)や時間圧縮された記憶の再生(リプレイ)が低下することがラットの実験で明らかになった。睡眠不足が記憶に悪影響を与えるメカニズムの一端が解明された。」

Global variability in atmospheric new particle formation mechanisms
世界中で大きく異なる大気中の新粒子生成メカニズム
「大気中のエアロゾル粒子は健康被害や気候変動に大きな影響を及ぼしますが、その生成メカニズムは不明な点が多くありました。本研究では、実験データを活用した包括的なモデルシミュレーションにより、世界中の新粒子生成メカニズムが地域や高度によって大きく異なることを初めて明らかにしました。熱帯雨林上空や人為汚染の影響を受ける大陸では、これまで過小評価されていたメカニズムが新粒子生成を支配していることが分かりました。この成果は、エアロゾルの気候影響の正確な評価や発生源の特定に役立つと期待されます。」

Most nearby young star clusters formed in three massive complexes
太陽近傍の若い星団の大半は3つの巨大な星形成領域で形成された
「太陽の周りの若い星団のほとんどは、約3000万年前に3つの巨大な星形成領域で生まれたことが明らかになりました。これらの領域では数百個もの超新星爆発が起こり、それによってLocal BubbleやGSH 238+00+09と呼ばれる巨大な泡状の構造が形成されたと考えられます。当時はコンパクトだったこれらの領域が時間とともに分散し、現在は太陽系の周りに広がっているのです。」

Onset of coupled atmosphere–ocean oxygenation 2.3 billion years ago
大気と海洋の酸化が23億年前に連動して始まった
「地球上に酸素が蓄積し始めた「大酸化イベント」は複雑な過程だったようです。南アフリカの23億年前の地層を分析したところ、大気の酸素濃度が上昇するタイミングと一致して、海底にマンガン酸化物が堆積し、海洋中の酸化的環境も拡大していたことが明らかになりました。大気と海洋の酸化が連動して進行したことを示唆する重要な発見です。」


要約

植物NLRタンパク質の自己抑制と活性化の新しい制御メカニズムを発見

トマトのNRC2というNLRタンパク質は、オリゴマー化により不活性状態を安定化させ、活性型への変換を阻害していた。また、NRC2のLRRドメインにイノシトールリン酸が結合することが活性制御に関与していた。NRC2のオリゴマー化阻害や、イノシトールリン酸結合部位の変異により、病原体による細胞死誘導や免疫反応が増強された。

事前情報

  • NLRタンパク質は植物免疫に重要な役割を持つ

  • NLRの過剰発現は植物に有害な自己免疫を引き起こす可能性がある

  • NRC2は高発現しても自己活性化しないユニークなNLRである

行ったこと

  • トマトNRC2(SlNRC2)の二量体、四量体、高次オリゴマー形成を確認

  • SlNRC2オリゴマーのクライオ電子顕微鏡構造解析

  • SlNRC2のLRRドメインへのIP6/IP5結合をクライオEMと質量分析で確認

  • 二量体/四量体形成やIP結合に関わるSlNRC2変異体の機能解析

検証方法

  • ゲルろ過とネイティブPAGEによるSlNRC2のオリゴマー形成解析

  • クライオ電子顕微鏡によるSlNRC2オリゴマーの構造決定

  • 質量分析によるSlNRC2に結合したイノシトールリン酸の同定

  • SlNRC2変異体の過剰発現によるN. benthamianaでの細胞死誘導と免疫応答の評価

分かったこと

  • SlNRC2は二量体、四量体、高次オリゴマーを形成する

  • オリゴマー中のSlNRC2は不活性構造をとっている

  • オリゴマー形成はSlNRC2の不活性状態を安定化し活性型形成を阻害する

  • SlNRC2のLRRドメインにIP6/IP5が結合する

  • オリゴマー化やIP結合の阻害はSlNRC2の活性化と免疫応答を増強する

研究の面白く独創的なところ

  • NLRの新規自己抑制機構としてオリゴマー化を発見した点

  • NLRの活性制御に関与する補因子としてイノシトールリン酸を同定した点

  • オリゴマー化とIP結合という2つの制御機構の協調を明らかにした点

この研究のアプリケーション

  • NLRの活性制御に基づく植物免疫応答の調節技術への応用

  • 過剰な免疫反応を引き起こさない病害抵抗性植物の開発

  • 他のNLRタンパク質の活性制御機構解明への手がかり

著者と所属

  • Shoucai Ma (Westlake University, Xianghu Laboratory)

  • Chunpeng An (Max Planck Institute for Plant Breeding Research)

  • Jijie Chai (Westlake University, University of Cologne)

詳しい解説
植物は病原体の侵入から自身を守るために、NLRと呼ばれる免疫受容体タンパク質を発現している。NLRは病原体由来の因子を認識すると活性化し、免疫反応を引き起こす。しかし、NLRの活性はタイトに制御される必要があり、恒常的な活性化状態は植物自身に有害となりうる。
本研究で解析されたトマトNLRタンパク質のNRC2は、恒常的に高発現しているにも関わらず自己活性化を起こさないユニークな性質を持つ。構造解析の結果、NRC2分子が二量体や四量体、さらには高次のオリゴマーを形成することが明らかになった。オリゴマーを形成したNRC2は不活性な構造をとっており、オリゴマー化がNRC2の自己抑制状態の安定化と、活性型への変換阻害に寄与していることが示唆された。
さらに、NRC2のLRRドメインにイノシトールヘキサキスリン酸(IP6)あるいはイノシトールペンタキスリン酸(IP5)が結合していることが構造解析と質量分析により判明した。オリゴマー形成に関わるアミノ酸残基やIP結合部位に変異を導入したNRC2では、病原体による細胞死誘導や免疫応答が増強された。このことから、NRC2のオリゴマー化とIP結合が協調的に働き、NRC2の活性を負に制御していると考えられる。
本研究はNLRの新しい自己抑制メカニズムとしてオリゴマー化を見出し、そのオリゴマー化がIP結合と協調することでNLRの活性を制御していることを示した。この発見は、植物NLRの活性制御機構の理解を大きく前進させるとともに、過剰な免疫反応を引き起こさない病害抵抗性植物の開発など、植物免疫研究の応用面での新たな可能性を拓くものである。


睡眠不足はシャープ波リップルでの再活性化とリプレイを低下させる

睡眠は記憶に重要だが、睡眠不足がどのように海馬の神経活動パターンに影響するかはよくわかっていない。そこでラットを用いて、探索行動、自然睡眠、睡眠不足、回復睡眠時のCA1野の神経活動を12時間記録し解析した。睡眠不足中はシャープ波リップル(SWR)の発生率は高いが、パワーが低く周波数が高かった。神経細胞の発火率は睡眠不足中は高く、睡眠中は低かったが、SWR中の発火率はどの状態でも同程度だった。しかし、睡眠不足中はSWRが多いにもかかわらず、起きている時の神経発火パターンの再活性化やリプレイは低下し、ほとんど見られないこともあった。回復睡眠後、再活性化は部分的に回復したが、自然睡眠レベルには達しなかった。これらの結果は、睡眠不足が海馬機能に及ぼす悪影響を示し、睡眠不足中のSWRの多さと再活性化・リプレイの少なさを明らかにした。

事前情報

  • 睡眠は記憶に重要である。

  • 海馬のシャープ波リップル (SWR) での神経活動の再活性化とリプレイが記憶の固定に重要と考えられている。

  • 睡眠不足がこれらのパターンにどう影響するかはよくわかっていない。

行ったこと

  • ラットを用いて、迷路探索、睡眠、睡眠不足、回復睡眠の12時間のCA1野の神経活動を記録。

  • SWRの特徴、神経細胞の発火率、再活性化、リプレイを解析。

検証方法

  • SWRのパワー、周波数、発生率の比較。

  • 睡眠、覚醒、SWR中の神経細胞発火率の比較。

  • 再活性化の程度を相関係数(EV値)で定量化。

  • ベイズデコーダーを用いてリプレイを検出・定量化。

分かったこと

  • 睡眠不足中はSWR発生率は高いが、パワーが低く周波数が高い。

  • 神経細胞発火率は睡眠不足中は高く睡眠中は低いが、SWR中は状態に関わらず同程度。

  • 睡眠不足中はSWRが多いにもかかわらず、再活性化とリプレイは低下。

  • 回復睡眠後に再活性化は部分的に回復するが自然睡眠レベルには達しない。

研究の面白く独創的なところ

  • 睡眠不足がSWRの特徴と再活性化・リプレイに及ぼす影響を明確に示した。

  • SWRの発生と再活性化・リプレイの乖離を見出した。

  • 睡眠不足が海馬の記憶機能に及ぼす悪影響のメカニズムを示唆。

この研究のアプリケーション

  • 睡眠と記憶の関係の理解に貢献。

  • 睡眠不足による記憶障害のメカニズム解明と予防・治療法開発に役立つ可能性。

  • 海馬の異常を伴う疾患の病態解明や治療法開発にも示唆を与えうる。

著者と所属
Bapun Giri (ミシガン大学医学部麻酔学科、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校心理学科) Nathaniel Kinsky (ミシガン大学医学部麻酔学科) Kamran Diba (ミシガン大学医学部麻酔学科、ミシガン大学神経科学大学院プログラム)

詳しい解説
本研究は、睡眠不足が海馬の記憶に関連する神経活動に及ぼす影響を、ラットを用いて詳細に調べたものである。海馬のCA1野で生じるシャープ波リップル(SWR)と呼ばれる特徴的な脳波は、記憶の固定化に重要な役割を果たすと考えられている。SWR中には覚醒中の神経活動パターンが再現(再活性化)され、時間が圧縮された形で記憶の内容が再生(リプレイ)されると言われている。
しかし、睡眠不足がこれらの現象にどのような影響を与えるのかはよくわかっていなかった。そこで著者らは、ラットに迷路探索をさせた後、自然睡眠、5時間の睡眠不足、回復睡眠の計12時間にわたってCA1野の神経活動を記録し、SWRの特徴や神経発火パターンを詳しく解析した。
その結果、睡眠不足中はSWRの発生率が高く維持されるものの、SWRのパワーが低下し、周波数が上昇することがわかった。また、神経細胞の発火率は睡眠不足中は高く、睡眠中は低かったが、SWR中の発火率はどの状態でもほぼ同じだった。
ところが、睡眠不足中はSWRが多いにもかかわらず、覚醒中の神経発火パターンの再活性化やリプレイは低下し、ほとんど見られないこともあった。回復睡眠を取ると再活性化は部分的に回復したが、自然睡眠のレベルには達しなかった。
これらの結果は、睡眠不足が海馬の記憶機能に悪影響を及ぼすことを示すとともに、SWRの発生頻度と再活性化・リプレイの程度が必ずしも一致しないことを明らかにした。SWRは記憶の固定化に必要な現象と考えられてきたが、SWRが生じるだけでは不十分で、同時に適切な神経活動パターンの再現が伴う必要があることが示唆された。
本研究は、睡眠と記憶の関係について新しい知見をもたらすとともに、睡眠不足による記憶障害のメカニズム解明に重要な手がかりを与えるものである。今後、ヒトを対象とした研究や、海馬の異常を伴う疾患への応用なども期待される。


世界中で大気中の新粒子生成メカニズムが地域や高度によって大きく異なることを明らかにした。

大気中のエアロゾル粒子は健康被害や気候変動の原因となるが、その生成メカニズムには不明な点が多かった。本研究では、実験データを活用した包括的なモデルシミュレーションにより、世界中の新粒子生成メカニズムが以下のように地域や高度によって大きく異なることを明らかにした。

  • 熱帯雨林上空では、モノテルペン酸化物に由来する極低・超低揮発性有機化合物による核生成が支配的。

  • 人為汚染の影響を受ける大陸の境界層ではアミンと硫酸による核生成が、上空ではシナジー的なH2SO4-HNO3-NH3核生成が重要。

  • 海洋の境界層ではヨウ素酸化物の核生成が支配的。

  • 太平洋・大西洋上空では有機物-H2SO4核生成とH2SO4-NH3-H2O中性核生成が主要メカニズム。

これらのメカニズムの多くはこれまで過小評価されていたが、世界のエアロゾル粒子数濃度や放射強制力が高い地域の新粒子生成に重要な役割を果たしていることが示された。

事前情報

  • 大気中のエアロゾル粒子は健康被害や気候変動の原因となる重要な存在だが、その生成メカニズムには不明な点が多かった。

  • 近年、特定の観測サイトで分子クラスターの直接測定により新粒子生成メカニズムが解明されつつあるが、世界の多くの地域や高度でのメカニズムは不明のままだった。

行ったこと

  • 11種類の新粒子生成メカニズムと前駆ガスの化学変化を包括的に表現したモデルを全球気候モデルに組み込んだ。

  • ヨウ素酸化物、シナジー的なH2SO4-HNO3-NH3、アミンと硫酸による核生成など、これまで無視・過小評価されてきたメカニズムを考慮した。

  • 実験的に最適化された二次元揮発性基底セット(R2D-VBS)を用いて、極低・超低揮発性有機化合物の生成化学と熱力学をモデル化した。

検証方法

  • アマゾン上空のACRIDICON-CHUVA観測キャンペーンの粒子数濃度の鉛直プロファイルと比較。

  • 中国の3地点の粒子数サイズ分布の観測値と比較。

  • 太平洋・大西洋上空のATom観測キャンペーンの核生成モード・エイトケンモード粒子の観測値と比較。

  • 世界各地のDMA、H2SO4、HIO3濃度の観測値と比較。

分かったこと

  • 新粒子生成メカニズムは地域や高度によって大きく異なる。

  • 雨林上空、人為汚染大陸、海洋上の粒子数やエアロゾル放射強制力が大きい地域では、有機物、アミン、ヨウ素酸化物、HNO3を含む「現代的な」メカニズムが支配的。

  • これらのメカニズムはエアロゾル負荷や収支の理解を大きく変える可能性がある。

  • 異なるメカニズムから生成した粒子は過去・未来の変化が大きく異なる可能性がある。

研究の面白く独創的なところ

  • 世界中の新粒子生成メカニズムの多様性と支配的メカニズムを初めて包括的に解明した。

  • これまで過小評価されてきた「現代的な」メカニズムの重要性を示した。

  • 実験データを活用した先進的なモデル化手法により、モデルの予測精度を大幅に向上させた。

この研究のアプリケーション

  • エアロゾルの気候影響のより正確な評価と発生源の特定に役立つ。

  • 異なるメカニズムの粒子生成を適切に表現することで、過去・未来の気候変化をより正確に予測できる。

  • 地域ごとに卓越するメカニズムに応じた効果的なエアロゾル対策の立案に役立つ。

著者と所属
Bin Zhao (State Key Joint Laboratory of Environmental Simulation and Pollution Control, School of Environment, Tsinghua University, Beijing, China) ほか
Neil M. Donahue (Center for Atmospheric Particle Studies, Carnegie Mellon University, Pittsburgh, PA, USA)
Kai Zhang (Pacific Northwest National Laboratory, Richland, WA, USA)

詳しい解説
大気中のエアロゾル粒子は健康被害や気候変動に大きな影響を及ぼしますが、その生成メカニズムには不明な点が多くありました。近年、特定の観測サイトで新粒子生成時の分子クラスターを直接検出することで生成メカニズムが解明されつつありましたが、世界の多くの地域や高度でのメカニズムは依然として不明のままでした。
本研究では、最新の実験データを活用して11種類の新粒子生成メカニズムとその前駆ガスの化学変化を包括的に表現したモデルを全球気候モデルに組み込み、世界中の新粒子生成メカニズムを調べました。その結果、熱帯雨林上空ではモノテルペン酸化物に由来する極低・超低揮発性有機化合物による核生成が、人為汚染の影響を受ける大陸の境界層ではアミンと硫酸による核生成が、その上空ではシナジー的なH2SO4-HNO3-NH3核生成が支配的であることが分かりました。一方、海洋の境界層ではヨウ素酸化物の核生成が卓越し、太平洋・大西洋上空では有機物-H2SO4核生成とH2SO4-NH3-H2O中性核生成が主要なメカニズムであることが示されました。
これらのメカニズムの多くは、従来のモデルでは考慮されていないか大幅に過小評価されていましたが、世界のエアロゾル粒子が多い地域やエアロゾルの放射影響が大きい地域で重要な役割を果たしていることが明らかになりました。感度分析の結果、これらのメカニズムの重要性は不確実性要因に左右されないことも確認されました。一方で、まだ解明されていない不確実性が残されている可能性もあります。
本研究の成果は、エアロゾルの気候影響のより正確な評価とその発生源の特定に役立つと期待されます。異なるメカニズムから生成した粒子は過去・未来の環境変化に対する応答が大きく異なる可能性があるため、気候変化の予測にはメカニズムの適切な表現が重要です。また、地域ごとに卓越するメカニズムに応じて、より効果的なエアロゾル対策を立案することもできるでしょう。本研究は大気化学と気候変動研究に新たな知見をもたらしたと言えます。


太陽近傍の若い星団の大半は3つの巨大な星形成領域で形成された

この研究は、銀河系内の太陽近傍1キロパーセク以内にある272の若い星団のうち、57%にあたる155個が3つの明確な空間領域から生まれたことを明らかにしました。これらの星団はGaiaの第3回データリリースや大規模な分光サーベイのデータを分析することで導き出されました。現在はばらばらに分布しているこれらの星団ですが、3000万年以上前には3つのコンパクトで巨大な星形成領域でそれぞれ形成されたことが判明しました。その1つには太陽に最も近いTaurus星団やScorpius-Centaurus星形成領域が含まれます。 これらの領域からは200個以上の超新星が生まれたと推定されており、それによってLocal Bubbleや最大の近傍シェルであるGSH 238+00+09が形成されたと論じています。これらは現在の3次元ダストマップで明瞭に確認することができます。

事前情報

  • 太陽近傍の星間媒質の構造と最近の星形成の歴史を解明する取り組みは過去70年にわたって行われてきた。

  • 最近の宇宙測地ミッションによる精密データを用いた研究により、近傍の新しく形成された星団が関連した起源を持つことが明らかになった。

  • しかし、正確な視線速度データを持つ星団が不足していたため、全天にわたって若い星団をその生まれた領域にマッピングすることは困難だった。

行ったこと

  • Gaiaの第3回データリリースと他の大規模な分光サーベイのデータを分析した。

  • 太陽から1キロパーセク以内の高品質な若い星団272個のうち、155個(57%)が3つの明確な空間領域から生まれたことを示した。

  • これらの星団群は現在は太陽近傍に分散しているが、3000万年以上前の位置を見ると、それぞれがコンパクトで巨大な星形成領域で形成されたことを明らかにした。

検証方法

  • 272個の星団のカタログを作成し、Gaiaのデータと大規模分光サーベイのデータを組み合わせて分析した。

  • 星団の軌道を時間とともに追跡し、3000万年以上前の位置を推定した。

  • 階層的密度ベースのクラスタリング手法を用いて、星団を形成領域ごとにグループ化した。

分かったこと

  • 太陽近傍の若い星団の大半は、約3000万年前に3つの巨大な星形成領域でそれぞれ形成された。

  • これらの領域からは200個以上の超新星が生まれたと推定され、それによってLocal BubbleとGSH 238+00+09が形成されたと考えられる。

  • 当時はコンパクトだったこれらの領域が時間とともに分散し、現在の太陽近傍の星団分布になった。

研究の面白く独創的なところ

  • 太陽近傍の若い星団の大多数が数個の巨大な形成領域に起源を持つことを初めて明らかにした点。

  • 星団の3次元位置と運動から、過去の形成領域の位置を推定した点。

  • 星団形成と超新星爆発、Local Bubbleなどの大規模構造の形成を関連付けた点。

この研究のアプリケーション

  • 銀河系の星形成の歴史と大規模構造の形成過程の理解が深まる。

  • 星団の形成と散開の物理過程の解明につながる。

  • 太陽近傍の星間媒質の進化の解明に役立つ。

著者と所属
Cameren Swiggum, João Alves, Sebastian Ratzenböck, Núria Miret-Roig, Josefa Großschedl, Stefan Meingast (Department of Astrophysics, University of Vienna, Austria)

詳しい解説
この研究は、太陽近傍1キロパーセク以内の若い星団の大半が、約3000万年前に存在した3つの巨大な星形成領域で形成されたことを明らかにしました。研究チームは、ガイア衛星の第3回データリリースや大規模な分光サーベイのデータを用いて、272個の高品質な若い星団を特定し、その軌道を過去にさかのぼって追跡しました。
その結果、これらの星団のうち57%にあたる155個が、3つの明確な空間領域に起源を持つことが判明しました。現在はばらばらに分布しているこれらの星団ですが、3000万年以上前を見ると、それぞれがコンパクトで巨大な星形成領域に集中していました。これらの領域の1つには、太陽に最も近いTaurus星団やScorpius-Centaurus星形成領域が含まれています。
研究チームはさらに、これらの巨大な星形成領域からは200個以上の超新星が生まれたと推定しています。そしてこれらの超新星爆発によって、Local Bubbleと呼ばれる太陽近傍の低密度領域や、GSH 238+00+09という最大の近傍シェルが形成されたのではないかと論じています。これらの構造は、現在の3次元ダストマップでも明瞭に確認することができます。
この研究は、太陽近傍の若い星団の分布が、過去の巨大な星形成領域の痕跡であることを示しました。星団の形成と散開、大規模な星間構造の形成が、ダイナミックに関連していることを明らかにした点で、銀河の進化の理解を大きく前進させる重要な成果だと言えるでしょう。今後は、他の領域でも同様の研究が行われ、銀河系全体の星形成史の解明が進むことが期待されます。


地球の大気と海洋の酸化が23億年前に同時に始まったことを発見

地球上に酸素が蓄積し始めた「大酸化イベント」の過程は複雑で、23億年前の南アフリカの地層の分析から、大気の酸素濃度上昇と海底へのマンガン酸化物の堆積が同時期に起こり、大気と海洋の酸化が連動して進行したことが明らかになりました。硫黄同位体比のデータから大気の酸素濃度が一時的に低下した時期には、マンガン酸化物の堆積と海洋の酸化的環境の指標も消失しており、大気と海洋の酸化状態が密接に関係していたことが示唆されます。

事前情報

  • 地球上の酸素濃度が上昇する「大酸化イベント」は25億年前に始まったと考えられてきた

  • 硫黄同位体比のデータから、大気の酸素濃度は22億年前まで変動を繰り返していた

行ったこと

  • 南アフリカのTransvaal層群の海成頁岩のタリウム同位体比と酸化還元敏感元素の存在度を分析

  • 大気酸素濃度の指標となる硫黄同位体比のデータと比較

検証方法

  • タリウム同位体比: 海底にマンガン酸化物が堆積すると低下する

  • 酸化還元敏感元素の存在度: 海水中の酸化的環境の指標となる

分かったこと

  • 大気の酸素濃度上昇と同時期に、海底へのマンガン酸化物の堆積量が増加し、海洋中の酸化的環境も拡大した

  • 硫黄同位体比から大気が一時的に還元的になった時期には、マンガン酸化物の堆積と海洋の酸化的環境の指標も消失した

  • 大気と海洋の酸化状態が密接に関係して、連動して変動していた

研究の面白く独創的なところ

  • 大気と海洋の酸化が連動して進行したことを初めて示した

  • 酸素濃度が局所的に上昇する「オアシス説」とは異なる全球的な酸化を支持

この研究のアプリケーション

  • 初期地球の大気・海洋の進化過程の理解が深まる

  • 生命の進化を考える上で重要な知見になる

著者と所属

  • Chadlin M. Ostrander (ユタ大学地質地球物理学科、ウッズホール海洋研究所海洋化学地球化学部門)

  • Andy W. Heard (ウッズホール海洋研究所地質地球物理学部門)

  • Sune G. Nielsen (ウッズホール海洋研究所地質地球物理学部門、ロレーヌ大学CRPG)

詳しい解説
この研究は、23億年前の南アフリカの海成頁岩の分析から、大気中の酸素濃度が上昇するタイミングと一致して海洋環境も酸化的になったことを明らかにしました。
頁岩中のタリウム同位体比と酸化還元に敏感な元素の存在度を調べたところ、大気の酸素濃度が上昇した時期と同時に、海底にマンガン酸化物が堆積し、海水中に溶存酸素が増えたことを示す証拠が見つかりました。一方、硫黄同位体比のデータから大気が一時的に還元的になったタイミングでは、海洋の酸化を示す指標も消失していました。
これらの結果は、大気中の酸素濃度の変動と海洋の酸化還元状態が密接に関係しており、連動して変化していたことを示唆しています。従来考えられていたような、酸素濃度が局所的に上昇する「オアシス説」とは異なり、この研究は大気と海洋が全球的に酸化していく過程を支持する証拠を提示しました。
大気と海洋の酸化は、初期地球環境の進化や生命の誕生と進化を考える上で非常に重要なイベントです。地球史における酸素濃度上昇のタイミングと過程について、この研究は新しい知見をもたらしました。今後の研究で、生命進化との関連性などがさらに明らかになることが期待されます。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。