論文まとめ474回目 SCIENCE TDP-43機能喪失を利用した筋萎縮性側索硬化症(ALS)とそれに関連する認知症の治療法開発!?など
科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。
さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、ついつい狭くなる視野を広げてくれます。
一口コメント
Creation of de novo cryptic splicing for ALS and FTD precision medicine
ALSとFTDの精密医療のための新規クリプティックスプライシングの創出
「TDP-43というタンパク質が機能を失うと、通常は使われない"隠れたエクソン"と呼ばれる遺伝子の一部が使われてしまいます。この研究では、その性質を逆手にとって、TDP-43が機能を失った細胞だけで特定のタンパク質を作らせる仕組み(TDP-REG)を開発しました。これにより、病気の細胞だけを狙って治療することが可能になります。さらに、人工知能を使って最適な"隠れたエクソン"を設計する方法も開発し、マウス実験でその効果を確認しました。この技術はALSだけでなく、他の神経変性疾患の治療にも応用できる可能性があります。」
Nr5a2 is dispensable for zygotic genome activation but essential for morula development
NR5A2は胚ゲノム活性化には不要だが、桑実胚発生に不可欠である
「受精卵が分裂して胚になる過程で、NR5A2という遺伝子が重要な役割を果たすことが分かりました。NR5A2は初期の胚ゲノム活性化にはそれほど関与しませんが、8細胞期以降の発生に不可欠です。NR5A2は細胞分裂や遺伝子の安定性を制御する遺伝子群と、胚の細胞運命を決める遺伝子群の両方の発現を調節します。NR5A2を欠損させると、胚は桑実胚の段階で発生が止まってしまいます。この研究は、初期胚発生における遺伝子制御の複雑さを明らかにし、不妊治療やES細胞研究への応用が期待されます。」
ENSO affects the North Atlantic Oscillation 1 year later
エルニーニョ・南方振動が北大西洋振動に1年後に影響を与える
「エルニーニョ現象が起こると、その影響は遠く離れた北大西洋の気候にも及ぶことが知られていました。しかし、この研究では驚くべきことに、その影響が1年後に現れることが分かったのです。しかも、同時期に起こる影響とは逆の効果があります。例えば、エルニーニョの1年後には北大西洋振動がプラスになりやすく、ラニーニャの1年後にはマイナスになりやすいのです。これは、大気の角運動量の遅い移動によって説明できるそうです。この発見は、長期の気候予測の精度向上につながる可能性があります。」
The coevolution of fungus-ant agriculture
キノコとアリの農業の共進化
「6600万年前、小惑星の衝突で光合成が一時停止し、多くの生物が絶滅しました。その中で、キノコを食べて生き延びたアリがいました。そのアリとキノコの関係が、長い年月をかけて進化し、今日のアリの農業につながったのです。研究チームは、475種類のキノコと276種類のアリのDNAを分析し、その進化の過程を明らかにしました。アリとキノコの農業関係は、人間の農業よりもはるかに古く、生物の進化における興味深い事例と言えるでしょう。」
Grain rotation mechanisms in nanocrystalline materials: Multiscale observations in Pt thin films
ナノ結晶材料における結晶粒回転メカニズム: 白金薄膜における多階層観察
「金属の強度や性質は、内部の微細な結晶粒の構造に大きく影響されます。この研究では、最新の電子顕微鏡技術を駆使して、ナノメートルサイズの極小結晶粒が回転する様子をリアルタイムで観察することに成功しました。結晶粒の回転は、従来考えられていた原子の拡散ではなく、結晶粒界に存在する特殊な欠陥(ディスコネクション)の動きによって引き起こされることが明らかになりました。この発見は、ナノ材料の変形メカニズムの理解を深め、より強靭で高性能な材料開発への道を開く可能性があります。」
要約
TDP-43機能喪失を利用した筋萎縮性側索硬化症(ALS)とそれに関連する認知症の治療法開発
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk2539
TDP-43機能喪失(TDP-LOF)は筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD)などの神経変性疾患の特徴です。この研究では、TDP-LOFによって引き起こされるクリプティックスプライシングの特異性を利用して、疾患過程が発生する場所と時期にのみタンパク質発現を誘導するTDP-REGを開発しました。深層学習と合理的設計を組み合わせたSpliceNouveauアルゴリズムを使用して、タンパク質コード配列内にカスタマイズ可能なクリプティックスプライシングイベントを生成しました。TDP-REGレポーターの発現がin vitroおよびin vivoでTDP-LOFと密接に関連していることを示し、TDP-LOF時に特異的にUNC13Aクリプティックドナースプライスサイトを除去するゲノム編集を可能にしました。さらに、主要な病理学的クリプティックスプライシングイベントを救済するTDP-43/Raver1融合タンパク質をコードするTDP-REGベクターを設計し、TDP43関連疾患の精密療法開発への道を開きました。
事前情報
TDP-43機能喪失(TDP-LOF)はALSやFTDなどの神経変性疾患の特徴
TDP-LOFはクリプティックスプライシングを引き起こす
クリプティックスプライシングは通常は使用されない遺伝子配列の一部が使用されてしまう現象
行ったこと
TDP-LOFを検出し、特定のタンパク質発現を誘導するTDP-REGシステムの開発
SpliceNouveauアルゴリズムによる最適なクリプティックスプライシング配列の設計
TDP-REGの有効性をin vitroおよびin vivoで検証
TDP-REGを用いたUNC13A遺伝子のゲノム編集
TDP-43/Raver1融合タンパク質を発現するTDP-REGベクターの設計
検証方法
細胞培養実験によるTDP-REGの機能確認
マウスを用いたin vivo実験でのTDP-REGの有効性検証
RNA-seqによるクリプティックスプライシングの解析
ゲノム編集効率の評価
分かったこと
TDP-REGはTDP-LOFを特異的に検出し、目的のタンパク質発現を誘導できる
SpliceNouveauアルゴリズムは効率的なクリプティックスプライシング配列を設計可能
TDP-REGを用いたゲノム編集によりUNC13Aクリプティックスプライスサイトを除去できる
TDP-43/Raver1融合タンパク質発現によりクリプティックスプライシングを部分的に救済できる
研究の面白く独創的なところ
病気の原因となる現象(クリプティックスプライシング)を逆手に取って治療に利用している点
人工知能を用いて最適な遺伝子配列を設計している点
疾患特異的な治療法の開発につながる可能性がある点
この研究のアプリケーション
ALSやFTDなどのTDP-43関連神経変性疾患の新規治療法開発
他の神経変性疾患への応用の可能性
疾患特異的なゲノム編集技術の開発
クリプティックスプライシングを利用した新たな遺伝子治療法の開発
著者と所属
Oscar G. Wilkins: UCL Queen Square Motor Neuron Disease Centre, University College London
Max Z. Y. J. Chien: UCL Queen Square Motor Neuron Disease Centre, University College London
Pietro Fratta: UCL Queen Square Motor Neuron Disease Centre, University College London
詳しい解説
この研究は、神経変性疾患の一種であるALSとFTDの治療法開発に新たなアプローチを提示しています。これらの疾患では、TDP-43というタンパク質が正常に機能しなくなることが知られていますが、その結果として「クリプティックスプライシング」と呼ばれる異常な遺伝子の読み取りが起こります。
研究チームは、このクリプティックスプライシングを逆手に取り、TDP-43が機能を失った細胞だけで特定のタンパク質を作らせる仕組み(TDP-REG)を開発しました。さらに、人工知能を活用してこの仕組みを最適化するSpliceNouveauアルゴリズムも開発しました。
TDP-REGの有効性は、培養細胞やマウスを用いた実験で確認されました。特に注目すべきは、この技術を使ってALSに関連するUNC13A遺伝子の異常を修正できたことです。また、TDP-43の機能を部分的に補うタンパク質を作らせることにも成功しています。
この研究の独創的な点は、疾患の原因となる現象を治療に利用している点です。また、人工知能を活用して遺伝子配列を最適化する手法は、今後の遺伝子治療技術の発展に大きく貢献する可能性があります。
TDP-REG技術は、ALSやFTD以外の神経変性疾患にも応用できる可能性があり、さまざまな難治性疾患の新しい治療法開発につながることが期待されます。
NR5A2は胚ゲノム活性化には不要だが、桑実胚の発生に不可欠な転写因子である
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg7325
受精卵から胚への発生過程において、NR5A2転写因子の役割を詳細に解析した研究。NR5A2は胚ゲノム活性化には大きな影響を与えないが、8細胞期以降の発生に重要な役割を果たすことが明らかになった。NR5A2は細胞分裂や遺伝子安定性に関わる遺伝子群と、胚の細胞運命決定に関わる遺伝子群の両方の発現を制御している。NR5A2を欠損させると、胚は桑実胚の段階で発生が停止する。
事前情報
NR5A2は初期胚発生に関与する転写因子として知られていた
胚ゲノム活性化(ZGA)にNR5A2が重要だと考えられていた
NR5A2の正確な機能や作用メカニズムは不明だった
行ったこと
NR5A2とESRRBの条件付きノックアウトマウスを作製
胚発生の各段階でRNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seqなどの解析を実施
NR5A2欠損胚の表現型を詳細に観察
検証方法
母性・胚性のNr5a2とEsrrbを欠損させたマウス胚を作製
単一細胞RNA-seq (FLASH-seq)による遺伝子発現解析
ATAC-seqによるクロマチンアクセシビリティ解析
免疫蛍光染色による表現型観察
分かったこと
NR5A2は胚ゲノム活性化には大きな影響を与えない
8細胞期以降、NR5A2は多数の遺伝子発現を制御する
NR5A2は細胞分裂や遺伝子安定性、細胞運命決定に関わる遺伝子を制御
NR5A2欠損胚は桑実胚で発生が停止する
研究の面白く独創的なところ
NR5A2の機能を胚発生の各段階で詳細に解析した点
胚ゲノム活性化と後期発生でのNR5A2の役割の違いを明確にした点
クロマチンアクセシビリティと遺伝子発現制御の関係を解明した点
この研究のアプリケーション
不妊治療や体外受精技術の改善
ES細胞やiPS細胞の培養技術の向上
初期胚発生メカニズムの理解に基づく再生医療への応用
発生異常や先天性疾患の原因解明と治療法開発
著者と所属
Nicola Festuccia Institut Pasteur, Paris, France
Sandrine Vandormael-Pournin - Institut Pasteur, Paris, France
Michel Cohen-Tannoudji - Institut Pasteur, Paris, France
詳しい解説
本研究は、哺乳類の初期胚発生における転写因子NR5A2の役割を詳細に解析したものです。これまでNR5A2は胚ゲノム活性化(ZGA)に重要だと考えられてきましたが、本研究ではその役割が限定的であることが明らかになりました。
研究者たちは、NR5A2とESRRBの条件付きノックアウトマウスを作製し、胚発生の各段階で詳細な解析を行いました。その結果、NR5A2は胚ゲノム活性化にはそれほど関与せず、8細胞期以降の発生に重要な役割を果たすことが分かりました。
NR5A2は、細胞分裂や遺伝子の安定性に関わる遺伝子群と、胚の細胞運命を決定する遺伝子群の両方の発現を制御していることが明らかになりました。具体的には、NR5A2は開いたクロマチンと閉じたクロマチンの両方に結合し、多数の遺伝子の発現を調節しています。
興味深いことに、NR5A2はSINE反復配列に頻繁に結合することが分かりました。これは、NR5A2がパイオニア転写因子として機能し、クロマチン構造を変化させて遺伝子発現を制御している可能性を示唆しています。
NR5A2を欠損させると、胚は桑実胚の段階で発生が停止してしまいます。これは、NR5A2が細胞分裂や遺伝子安定性、細胞運命決定に関わる多数の遺伝子を制御しているためだと考えられます。
この研究成果は、哺乳類の初期胚発生における遺伝子制御の複雑さを明らかにしただけでなく、不妊治療や再生医療への応用可能性も示唆しています。NR5A2の機能をより深く理解することで、体外受精技術の改善やES細胞・iPS細胞の培養技術の向上につながる可能性があります。
また、NR5A2の機能異常が発生異常や先天性疾患の原因となる可能性も考えられ、今後の研究によってそのメカニズムが解明されれば、新たな治療法の開発にもつながるかもしれません。
エルニーニョ現象が北大西洋振動に1年後に影響を与えることを発見
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk4671
エルニーニョ・南方振動(ENSO)が、1年遅れて北大西洋振動(NAO)に影響を与えることを発見した研究。この遅延した影響は、同時期に起こる影響とは逆の符号を持つ。例えば、エルニーニョの1年後にはNAOがプラスになりやすく、ラニーニャの1年後にはマイナスになりやすい。この現象は、大気の角運動量の緩やかな移動によって説明できると提案している。
事前情報
ENSOが北大西洋の気候に影響を与えることは知られていたが、その影響は同時期に現れると考えられていた
大気の角運動量の変動がENSOと関連していることは知られていた
北極振動(AO)やNAOの長期予測は難しいとされていた
行ったこと
観測データ(海面気圧、海面水温など)の解析
気候モデル(HadGEM3-GC3.1)を用いたシミュレーション
大気の角運動量データの解析
検証方法
複数の観測データセットを用いた相関解析
気候モデルを用いた感度実験
統計的有意性の検定
分かったこと
ENSOが1年後のAOやNAOに強い影響を与える
この遅延した影響は、同時期の影響とは逆の符号を持つ
遅延した影響は、同時期の影響と同程度か、それ以上に強い
この現象は、大気の角運動量の緩やかな極向きの移動によって説明できる
研究の面白く独創的なところ
ENSOの影響が1年後に現れるという意外な発見をしたこと
大気の角運動量の移動という物理メカニズムで説明できることを示したこと
この現象が気候予測の改善につながる可能性を示唆したこと
この研究のアプリケーション
北大西洋地域の気候の長期予測の改善
ENSOと北大西洋の気候のつながりに関する理解の深化
気候変動に伴うENSOの変化が北大西洋地域に与える影響の予測
著者と所属
Adam A. Scaife イギリス気象局ハドレーセンター、エクセター大学数学・統計学部
Nick Dunstone - イギリス気象局ハドレーセンター
Steven Hardiman - イギリス気象局ハドレーセンター
詳しい解説
この研究は、エルニーニョ・南方振動(ENSO)が北大西洋振動(NAO)に1年遅れて影響を与えるという、これまで知られていなかった現象を発見しました。
従来、ENSOの影響は同時期に現れると考えられていましたが、この研究では観測データと気候モデルの両方を用いて、1年後に強い影響があることを示しました。しかも、この遅延した影響は同時期の影響とは逆の符号を持ちます。例えば、エルニーニョが起こった1年後にはNAOがプラスになりやすく、ラニーニャの1年後にはマイナスになりやすいのです。
研究チームは、この現象を説明するメカニズムとして、大気の角運動量の緩やかな極向きの移動を提案しています。ENSOに伴って熱帯で生じた大気の角運動量の異常が、約1年かけて極向きに移動し、北大西洋地域の大気循環に影響を与えると考えられます。
この発見は、北大西洋地域の気候予測に大きな影響を与える可能性があります。これまで難しいとされてきたNAOの長期予測が、ENSOの状態を考慮することで改善される可能性があるのです。また、気候変動に伴うENSOの変化が、1年後の北大西洋地域の気候にどのような影響を与えるかを予測する上でも重要な知見となります。
この研究は、遠く離れた地域の気候現象が、予想外の時間スケールでつながっているという、気候システムの複雑さと奥深さを改めて示すものと言えるでしょう。
アリの農業とキノコの共進化が6600万年前の小惑星衝突を契機に始まったことを明らかにした研究
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn7179
アリとキノコの農業関係の起源と進化について、遺伝子解析を用いて明らかにした研究。アリの農業は約6600万年前に始まり、その後約2700万年前にキノコが完全に家畜化されたことが示された。
事前情報
アリの農業は昆虫の中でも高度に発達した共生関係として知られていた
アリとキノコの農業関係の起源や進化の詳細はこれまで不明だった
アリとキノコのDNAを大規模に分析する研究はこれまでなかった
行ったこと
475種のキノコと276種のアリのDNAを抽出し、2000以上の遺伝子領域を分析
分子系統樹を作成し、アリとキノコの共進化の歴史を推定
キノコの家畜化や環境変化との関連を分析
検証方法
超保存配列を用いたDNA解析技術で多数の遺伝子を同時に分析
分子時計法を用いて分岐年代を推定
統計的手法で祖先形質を復元
分かったこと
アリの農業は約6600万年前の小惑星衝突後すぐに始まった
約2700万年前に特定のキノコ系統が完全に家畜化された
乾燥環境の拡大が家畜化を促進した可能性がある
キノコの種類によってアリとの関係性が異なる
研究の面白く独創的なところ
大規模なDNA解析で長期的な共進化の過程を明らかにした点
小惑星衝突という大規模環境変動とアリの農業の起源を結びつけた点
キノコの家畜化過程を詳細に解明した点
この研究のアプリケーション
生物の共生関係や家畜化の進化メカニズムの理解に貢献
農業や共生関係の起源に関する新たな洞察を提供
環境変動が生物進化に与える影響の理解に寄与
著者と所属
Ted R. Schultz - スミソニアン国立自然史博物館
Jeffrey Sosa-Calvo - スミソニアン国立自然史博物館
Matthew P. Kweskin - スミソニアン国立自然史博物館
詳しい解説
本研究は、アリとキノコの農業関係の起源と進化を、大規模な遺伝子解析によって明らかにしました。研究チームは、475種のキノコと276種のアリからDNAを抽出し、2000以上の遺伝子領域を分析しました。この膨大なデータを基に分子系統樹を作成し、アリとキノコの共進化の歴史を推定しました。
その結果、アリの農業は約6600万年前、白亜紀末期の小惑星衝突直後に始まったことが判明しました。この時期、光合成が一時的に停止し、多くの生物が絶滅しましたが、キノコを食べることで生き延びたアリがいたと考えられます。その後、約2700万年前に特定のキノコ系統が完全に家畜化されました。
研究チームは、この家畜化が南米での乾燥環境の拡大と関連している可能性を指摘しています。乾燥環境では、野生のキノコが生育しにくくなるため、アリがキノコを栽培する必要性が高まったと考えられます。
また、キノコの種類によってアリとの関係性が異なることも明らかになりました。完全に家畜化されたキノコは、アリに依存して生きています。一方、一部のアリは野生のキノコも利用しており、より柔軟な関係を保っています。
この研究の独創的な点は、大規模なDNA解析によって長期的な共進化の過程を明らかにしたことです。また、小惑星衝突という大規模環境変動とアリの農業の起源を結びつけた点も注目に値します。さらに、キノコの家畜化過程を詳細に解明したことで、生物の共生関係や家畜化の進化メカニズムの理解に大きく貢献しています。
この研究結果は、生物の共生関係や環境変動が生物進化に与える影響について、新たな洞察を提供しています。人間の農業よりもはるかに古いアリの農業の歴史を解明したことで、農業や共生関係の起源に関する我々の理解を深めることにもつながっています。
ナノ結晶材料における結晶粒回転メカニズムを、4D-STEM観察と理論解析により解明
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk6384
ナノ結晶材料における結晶粒回転メカニズムを、最新の4D-STEM観察技術と理論解析を組み合わせて解明した研究です。白金薄膜を用いて、結晶粒回転と結晶粒成長・収縮の相関関係を統計的に明らかにし、結晶粒回転がディスコネクションの運動によって引き起こされることを実験的に示しました。
事前情報
ナノ結晶材料における結晶粒回転は、材料の変形や再結晶化過程で重要な役割を果たす
従来の研究では、結晶粒回転のメカニズムが十分に解明されていなかった
結晶粒回転と結晶粒成長の関係性についても議論が続いていた
行ったこと
白金薄膜を用いて、4D-STEM観察による結晶粒回転の統計的解析を実施
高角環状暗視野STEM観察による原子スケールでの結晶粒界構造変化の観察
分子動力学シミュレーションによる結晶粒回転メカニズムの理論的解析
検証方法
4D-STEM観察データの統計解析により、結晶粒回転と結晶粒成長・収縮の相関を調査
高角環状暗視野STEM観察により、結晶粒界におけるディスコネクションの動きを直接観察
分子動力学シミュレーションを用いて、実験結果と整合する理論モデルを構築
分かったこと
結晶粒回転は結晶粒成長・収縮と統計的に相関がある
結晶粒回転はディスコネクションの運動によって引き起こされる
ディスコネクションの運動は、せん断結合粒界移動のメカニズムと一致する
この研究の面白く独創的なところ
最新の4D-STEM観察技術を用いて、ナノスケールでの結晶粒回転を統計的に解析した点
結晶粒回転と結晶粒成長・収縮の関係を実験的に明らかにした点
ディスコネクション運動による結晶粒回転メカニズムを、実験と理論の両面から実証した点
この研究のアプリケーション
ナノ結晶材料の変形メカニズムのより深い理解につながる
高強度・高性能なナノ結晶材料の設計指針の確立に貢献
結晶粒界エンジニアリングによる新しい材料開発手法の開拓
著者と所属
Yuan Tian カリフォルニア大学アーバイン校 材料科学工学部
Xiaoguo Gong - 香港大学 機械工学部
Jian Han - 香港城市大学 材料科学工学部
詳しい解説
この研究は、ナノ結晶材料における結晶粒回転のメカニズムを、最新の観察技術と理論解析を組み合わせて解明したものです。ナノ結晶材料の変形や再結晶化過程において、結晶粒回転は重要な役割を果たしますが、そのメカニズムは長年議論の的となってきました。
研究チームは、白金薄膜を用いて4D-STEM観察を行い、結晶粒回転の統計的解析を実施しました。その結果、結晶粒回転が結晶粒の成長や収縮と強い相関関係にあることを見出しました。さらに、高角環状暗視野STEM観察により、結晶粒界におけるディスコネクション(ステップと転位の性質を併せ持つ線欠陥)の動きを直接観察することに成功しました。
これらの実験結果と分子動力学シミュレーションを組み合わせた解析により、結晶粒回転がディスコネクションの運動によって引き起こされることが明らかになりました。このメカニズムは、せん断結合粒界移動のモデルと一致しており、結晶粒回転と結晶粒成長・収縮の関係性を説明することができます。
この研究の独創的な点は、最新の4D-STEM技術を用いてナノスケールでの結晶粒回転を統計的に解析し、結晶粒回転と結晶粒成長・収縮の関係を実験的に明らかにしたことです。また、ディスコネクション運動による結晶粒回転メカニズムを、実験と理論の両面から実証した点も重要です。
この成果は、ナノ結晶材料の変形メカニズムのより深い理解につながり、高強度・高性能なナノ材料の設計指針の確立に貢献すると期待されます。さらに、結晶粒界エンジニアリングによる新しい材料開発手法の開拓にもつながる可能性があります。
最後に
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