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論文まとめ378回目 Nature 天の川銀河ハローに大質量ブラックホールは存在しない!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Bound star clusters observed in a lensed galaxy 460 Myr after the Big Bang
ビッグバン後460Myrの重力レンズ効果を受けた銀河で束縛された星団を観測
「宇宙誕生からわずか4.6億年後の銀河で、現代の球状星団の祖先と思われる天体が見つかりました。これらは、直径わずか1パーセクほどの小さな領域に、太陽10万個分もの質量の星々が密集した天体です。現代の若い星団と比べて1000倍も密度が高く、まるで宇宙最初期の「星の種」のようです。この発見は、銀河や宇宙の進化を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。」

No massive black holes in the Milky Way halo
天の川銀河ハローに大質量ブラックホールは存在しない
「宇宙の謎である暗黒物質。その正体として、原始ブラックホールという仮説がありました。しかし、20年間にわたる8000万個の星の観測結果から、大質量のブラックホールが天の川銀河のハロー(外縁部)に存在しないことが明らかになりました。これは、暗黒物質の正体が原始ブラックホールではない可能性を示唆しています。宇宙の成り立ちを理解する上で重要な発見であり、暗黒物質の正体を探る研究に新たな方向性を与えるかもしれません。」

Water- and heat-activated dynamic passivation for perovskite photovoltaics
水と熱で活性化される動的パッシベーションによるペロブスカイト太陽電池
「この研究では、水や熱に反応して新しいパッシベーション剤を生成する特殊な材料を開発しました。これを太陽電池に使うと、湿気や高温にさらされても欠陥を修復し続けるので、性能が長期間維持されます。まるで傷を自己修復する生き物のような太陽電池が実現したのです。この技術により、25.1%という高効率を達成しただけでなく、85℃の高温下で1500時間後も94%の性能を保持するという驚異的な安定性を示しました。」

An intermediate Rb–E2F activity state safeguards proliferation commitment
中間的なRb-E2F活性状態が細胞増殖の決定を保護する
「細胞が分裂するかどうかを決める仕組みが明らかになりました。これまで細胞分裂の決定は急激に起こると考えられていましたが、実は「中間状態」があることがわかりました。この中間状態では、細胞は外部からの刺激を慎重に見極めて、分裂するかしないかを決めています。分裂を止める「Rb」タンパク質が、少しずつ不活性化されていくことで、この中間状態が作られます。これは車の発進と似ていて、アクセルを一気に踏むのではなく、ゆっくりと踏み込んでいくイメージです。この発見は、がん治療や再生医療への応用が期待されます。」

Brain Chimeroids reveal individual susceptibility to neurotoxic triggers
脳キメロイドが神経毒性トリガーに対する個体の感受性を明らかにする
「この研究では、複数の人の細胞を混ぜ合わせた「キメラ脳オルガノイド」という新しい実験モデルを開発しました。これにより、脳の発達や疾患に関する個人差を効率的に調べられるようになりました。例えば、アルコールや抗てんかん薬が脳に与える影響を調べたところ、人によって感受性が大きく異なることが分かりました。この方法を使えば、多くの人の遺伝的背景を考慮しながら、薬の効果や副作用をより正確に予測できるようになるかもしれません。将来的には、個人に合わせた医療の発展にも貢献する可能性があります。」

Buried interface molecular hybrid for inverted perovskite solar cells
逆型ペロブスカイト太陽電池のための埋め込まれた界面分子ハイブリッド
「太陽電池の世界に革命が起きました!研究者たちは、太陽電池の中に分子の"ハイブリッド"を作り出すことで、驚異的な効率アップを実現しました。従来の太陽電池では分子同士がうまくくっつかず、効率が落ちていましたが、この新技術では2種類の分子を巧みに組み合わせて、まるでパズルのピースのようにぴったりとはまる構造を作り出しました。その結果、太陽光をより効率的に電気に変換できるようになり、太陽電池の性能が大幅に向上したのです。しかも、この技術は大規模生産にも適しているため、私たちの生活にすぐに役立つ可能性があります!」


要約

ビッグバン後460Myrの銀河で、原始球状星団の候補を発見

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07703-7

宇宙誕生から約4.6億年後の遠方銀河で、現代の球状星団の祖先と考えられる非常に小さく高密度な星団が5つ発見された。これらの天体は、直径約1パーセクの領域に太陽質量の約100万倍の星々が密集しており、現代の若い星団と比べて1000倍も高い密度を持つ。この発見は、初期宇宙における銀河形成や星形成過程の理解に重要な示唆を与える。

事前情報

  • 赤方偏移z~10.2の「Cosmic Gems arc」は、重力レンズ効果により非常に明るく見える遠方銀河である

  • これまで同程度の赤方偏移の銀河で分解できた最小の構造は数十〜数百パーセク程度だった

  • 球状星団の形成過程は未だ不明な点が多い

行ったこと

  • JWSTを用いて「Cosmic Gems arc」の詳細観測を行った

  • 重力レンズモデルを用いて銀河の本来の構造を復元した

  • 発見された小構造の質量、年齢、サイズ、金属量などの物理量を推定した

検証方法

  • JWSTの高解像度・高感度観測データを解析

  • 重力レンズモデルを適用して銀河の本来の構造を推定

  • 分光データと測光データを組み合わせて星団の物理量を導出

  • 現地宇宙の星団との比較

分かったこと

  • 70パーセク未満の領域に5つの星団が発見された

  • 各星団は年齢50Myr未満、質量約100万太陽質量、サイズ約1パーセク

  • 表面密度は約10万太陽質量/平方パーセクで、現代の若い星団の1000倍

  • ダスト減光が少なく、金属量が低い

  • 重力的に束縛された系である可能性が高い

研究の面白く独創的なところ

  • 宇宙最初期の球状星団の「赤ちゃん」を初めて観測した可能性がある

  • 従来の観測限界を大きく超える高解像度・高感度観測を実現

  • 重力レンズ効果を利用して本来観測困難な微細構造を捉えた

  • 星団形成の初期段階を直接観測することで、理論モデルの検証が可能に

この研究のアプリケーション

  • 初期宇宙における銀河形成プロセスの解明

  • 球状星団の形成・進化モデルの改良

  • 宇宙再電離期の星形成活動の理解

  • JWSTを用いた超遠方天体観測技術の発展

  • 重力レンズを利用した高解像度観測手法の確立

著者と所属

  • Angela Adamo - ストックホルム大学天文学部 & オスカー・クライン・センター(スウェーデン)

  • Larry D. Bradley - 宇宙望遠鏡科学研究所(アメリカ)

  • Eros Vanzella - イタリア国立天体物理学研究所ボローニャ天体物理学・宇宙科学観測所(イタリア)

詳しい解説
この研究は、宇宙誕生からわずか4.6億年後という極めて初期の宇宙で、現代の球状星団の祖先と考えられる天体を発見したという画期的な成果を報告しています。
研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の高性能な観測装置を駆使して、「Cosmic Gems arc」と呼ばれる遠方銀河を詳細に観測しました。この銀河は重力レンズ効果によって明るく拡大されて見えており、本来であれば観測が困難な微細構造まで捉えることができました。
観測の結果、70パーセク(約228光年)未満という非常に狭い領域に、5つの小さな星団が発見されました。これらの星団は、年齢が50万年未満と非常に若く、質量は太陽の約100万倍、そしてサイズはわずか1パーセク(約3.26光年)程度と推定されています。
特筆すべきは、これらの星団の密度の高さです。表面密度は1平方パーセクあたり約10万太陽質量と見積もられ、これは現代の若い星団と比較して約1000倍もの高密度です。また、ダストによる光の減衰が少なく、金属量も低いことが分かりました。これらの特徴は、宇宙初期の環境で形成された天体であることと整合しています。
研究チームは、これらの天体が重力的に束縛された系、つまり原始球状星団である可能性が高いと結論づけています。球状星団は銀河に普遍的に存在する古い恒星系ですが、その形成過程はよく分かっていません。今回の発見は、球状星団の誕生の瞬間を捉えた可能性があり、その形成メカニズムの解明に大きく貢献すると期待されています。
さらに、この研究結果は初期宇宙における銀河形成や星形成活動の理解にも重要な示唆を与えます。宇宙再電離期と呼ばれるこの時代、宇宙の大規模構造が形成され始め、最初の銀河が誕生しました。今回観測された高密度星団が、この過程でどのような役割を果たしたのかを探ることで、宇宙進化の全体像の解明につながる可能性があります。
この研究の独創性は、JWSTの高い観測能力と重力レンズ効果を巧みに利用して、従来の観測限界を大きく超える成果を挙げた点にあります。今後、同様の手法を用いてさらに多くの初期宇宙の天体を観測することで、宇宙論や天体物理学に新たな知見がもたらされることが期待されます。


天の川銀河のハローに大質量ブラックホールは存在しない

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07704-6

天の川銀河のハローに大質量ブラックホールが存在しないことが明らかになりました。この研究結果は、暗黒物質の正体が原始ブラックホールである可能性を大きく低下させ、宇宙物理学における重要な発見となりました。

事前情報

  • 重力波検出器によって、天の川銀河で観測されたものとは異なる大質量ブラックホールの存在が明らかになっていた

  • これらのブラックホールの起源については議論が続いていた

  • 原始ブラックホールが暗黒物質の一部を構成している可能性が提唱されていた

行ったこと

  • OGLE観測プログラムを用いて、大マゼラン雲にある約8000万個の星を20年間にわたって観測

  • 長時間スケールの重力マイクロレンズ現象を探索

検証方法

  • 1年以上の長時間スケールの重力マイクロレンズイベントを探索

  • 観測された短時間スケールのイベントが既知の恒星集団で説明可能かを検証

分かったこと

  • 1年以上の長時間スケールの重力マイクロレンズイベントは検出されなかった

  • 1.8×10^-4から6.3太陽質量の範囲のコンパクト天体は、暗黒物質の1%以上を構成することはできない

  • 1.3×10^-5から860太陽質量の範囲のコンパクト天体は、暗黒物質の10%以上を構成することはできない

研究の面白く独創的なところ

  • 20年という長期間にわたる大規模な観測データを用いた点

  • 重力マイクロレンズ現象を利用して、直接観測が困難な暗黒物質の性質を探った点

  • 原始ブラックホールが暗黒物質の主要な構成要素である可能性を排除した点

この研究のアプリケーション

  • 暗黒物質の正体を探る研究に新たな方向性を提供

  • 宇宙の構造形成や進化の理解に貢献

  • 重力波天文学と可視光観測の結果を組み合わせた総合的な宇宙研究の重要性を示唆

著者と所属

  • Przemek Mróz - ワルシャワ大学天文台

  • Andrzej Udalski - ワルシャワ大学天文台

  • Michał K. Szymański - ワルシャワ大学天文台

詳しい解説
この研究は、天の川銀河のハロー(外縁部)における大質量ブラックホールの存在を探るために行われました。研究チームは、OGLE(Optical Gravitational Lensing Experiment)観測プログラムを用いて、大マゼラン雲にある約8000万個の星を20年という長期間にわたって観測しました。
研究の焦点は、重力マイクロレンズ現象の探索でした。重力マイクロレンズ現象とは、前景の天体(この場合はブラックホール)の重力によって、背景の星の光が曲げられて一時的に明るくなる現象です。大質量のブラックホールが存在すれば、1年以上の長時間スケールのマイクロレンズイベントが観測されるはずです。
しかし、研究チームは1年以上の長時間スケールのマイクロレンズイベントを一つも検出しませんでした。この結果は、天の川銀河のハローに大質量のブラックホールが存在しないことを強く示唆しています。さらに、研究チームは観測結果から、特定の質量範囲のコンパクト天体(ブラックホールを含む)が暗黒物質に占める割合の上限を算出しました。
この研究結果は、原始ブラックホールが暗黒物質の主要な構成要素である可能性を大きく低下させました。原始ブラックホールは、宇宙初期の密度ゆらぎから形成されたと考えられているブラックホールで、暗黒物質の有力な候補の一つでした。しかし、この研究結果は、少なくとも特定の質量範囲の原始ブラックホールが暗黒物質の大部分を占めることはないことを示しています。
この発見は、宇宙物理学における大きな進展です。暗黒物質の正体を探る研究に新たな方向性を与え、宇宙の構造形成や進化の理解にも貢献すると考えられます。また、長期間の観測データを用いた本研究のアプローチは、今後の宇宙研究においても重要な手法となるでしょう。


水と熱で活性化される動的パッシベーション技術によりペロブスカイト太陽電池の性能と安定性を大幅に向上

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07705-5

ペロブスカイト太陽電池の性能と安定性を大幅に向上させる新しいパッシベーション技術が開発されました。この技術は水分や熱に反応して新たなパッシベーション剤を生成し、デバイスの欠陥を継続的に修復します。その結果、高効率と長期安定性を兼ね備えた太陽電池の実現に成功しました。

事前情報

  • ペロブスカイト太陽電池は高効率で低コストな次世代太陽電池として注目されています。

  • しかし、イオン欠陥の制御が課題となっており、性能と安定性の向上が求められていました。

  • 従来のパッシベーション技術では、製造時の欠陥制御には限界がありました。

行ったこと

  • 水と熱で活性化される動的共有結合を持つ新しいパッシベーション材料(HUBLA)を開発しました。

  • HUBLAをペロブスカイト太陽電池に適用し、その効果を検証しました。

  • 様々な条件下で太陽電池の性能と安定性を評価しました。

検証方法

  • HUBLAを用いたペロブスカイト太陽電池を作製し、その性能を測定しました。

  • 高温(85℃)、高湿度(30%RH)などの過酷な条件下で長期安定性試験を行いました。

  • 分光法や顕微鏡観察などを用いて、HUBLAの作用メカニズムを詳細に解析しました。

分かったこと

  • HUBLAを用いた太陽電池で25.1%という高い変換効率を達成しました。

  • 85℃の窒素雰囲気下で約1500時間後も初期性能の94%を維持しました。

  • 85℃、30%相対湿度の空気中で1000時間後も初期性能の88%を保持しました。

  • HUBLAが水分や熱に反応して新たなパッシベーション剤を生成し、継続的に欠陥を修復することが確認されました。

研究の面白く独創的なところ

  • 従来の静的なパッシベーションとは異なり、環境に応じて動的に作用する「生きた」パッシベーション技術を実現しました。

  • 水分や熱という太陽電池にとって通常は劣化要因となる要素を、逆に性能維持のトリガーとして利用している点が画期的です。

  • この技術により、高効率と長期安定性という、ペロブスカイト太陽電池の二大課題を同時に解決する道筋を示しました。

この研究のアプリケーション

  • より高効率で長寿命なペロブスカイト太陽電池の実用化が加速されると期待されます。

  • 過酷な環境下でも安定して動作する太陽電池の開発につながり、宇宙や砂漠など極限環境での利用が可能になります。

  • この動的パッシベーション技術は、他の半導体デバイスにも応用できる可能性があります。

著者と所属

  • Wei-Ting Wang - 香港城市大学 システム工学部

  • Philippe Holzhey - オックスフォード大学 物理学部

  • Ning Zhou - 香港城市大学 材料科学・工学部

  • Henry J. Snaith - オックスフォード大学 物理学部

  • Shien-Ping Feng - 香港城市大学 システム工学部

詳しい解説
この研究は、ペロブスカイト太陽電池の性能と安定性を飛躍的に向上させる新しいパッシベーション技術を報告しています。ペロブスカイト太陽電池は、高効率で低コストな次世代太陽電池として注目されていますが、イオン欠陥の制御が大きな課題となっていました。特に、製造段階での欠陥制御と使用中の欠陥生成の抑制が重要でした。
研究チームは、この課題を解決するために、水と熱で活性化される動的共有結合を持つ新しいパッシベーション材料(HUBLA)を開発しました。HUBLAの特徴は、水分や熱に反応して新たなパッシベーション剤を生成し、継続的に欠陥を修復できる点です。これは、従来の静的なパッシベーション技術とは全く異なるアプローチです。
実験では、HUBLAを用いたペロブスカイト太陽電池で25.1%という高い変換効率を達成しました。さらに重要なのは、その長期安定性です。85℃の窒素雰囲気下で約1500時間後も初期性能の94%を維持し、85℃、30%相対湿度の空気中という過酷な条件下でも1000時間後に88%の性能を保持しました。これは、従来のペロブスカイト太陽電池と比べて大幅な改善です。
HUBLAの作用メカニズムも詳細に解析されました。水分や熱にさらされると、HUBLAが新たなパッシベーション剤を生成し、ペロブスカイト層の欠陥を修復します。つまり、通常は太陽電池の劣化要因となる環境要素を、逆に性能維持のトリガーとして利用しているのです。
この技術の意義は大きく、ペロブスカイト太陽電池の実用化を大きく前進させる可能性があります。高効率と長期安定性を両立させることで、従来のシリコン太陽電池に匹敵する、あるいはそれを上回る性能を実現できる可能性があります。また、過酷な環境下でも安定して動作する太陽電池の開発につながり、宇宙や砂漠など極限環境での利用も視野に入れることができます。
さらに、この動的パッシベーション技術の概念は、他の半導体デバイスにも応用できる可能性があります。自己修復機能を持つエレクトロニクスデバイスの開発につながる可能性もあり、今後の展開が注目されます。


細胞増殖の決定には、中間的なRb-E2F活性状態が重要な役割を果たしている

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07554-2

細胞周期の制御機構において重要な役割を果たすRbタンパク質とE2F転写因子の活性に、これまで知られていなかった中間状態が存在することが明らかになった。この中間状態は、細胞が増殖するか静止状態に留まるかを決定する上で重要な役割を果たしている。

事前情報

  • Rbタンパク質はE2F転写因子を抑制し、細胞周期の進行を制御する

  • RbのリンIII化によってE2Fが活性化され、細胞周期が進行する

  • これまでRb-E2F系は二値的なスイッチのように働くと考えられていた

行ったこと

  • E2F活性を可視化するレポーター系を開発した

  • 単一細胞レベルでE2F活性とCDK2活性を同時に計測した

  • Rbの各リン酸化部位特異的な抗体を用いて、Rbのリン酸化パターンを解析した

  • Rbの変異体を用いた実験で各リン酸化部位の機能を検証した

検証方法

  • ライブセルイメージングによる単一細胞解析

  • 多重蛍光免疫染色法による細胞内タンパク質の定量

  • ウエスタンブロッティングによるタンパク質解析

  • 変異体の過剰発現実験

分かったこと

  • E2F活性には中間状態が存在し、細胞はこの状態で長時間滞在できる

  • RbのT373部位が最初にリン酸化され、これが中間状態を作り出す

  • T373リン酸化Rbは染色体に結合したままE2Fを部分的に活性化する

  • CDK2活性が高まると他の部位もリン酸化され、E2Fが完全に活性化される

研究の面白く独創的なところ

  • これまで二値的に制御されると考えられていたRb-E2F系に中間状態があることを発見した

  • 単一細胞解析と生化学的解析を組み合わせることで、Rbリン酸化の順序性を明らかにした

  • 中間状態が細胞増殖の決定において重要な役割を果たすことを示した

この研究のアプリケーション

  • がん治療:中間状態を標的とした新たな治療法の開発

  • 再生医療:幹細胞の増殖制御への応用

  • 創薬:細胞周期を制御する新たな薬剤のスクリーニング

  • 細胞生物学:細胞増殖決定機構のより深い理解

著者と所属
Yumi Konagaya - ワイル・コーネル医科大学 細胞発生生物学部門、スタンフォード大学医学部 化学系システム生物学部門、理化学研究所 生命機能科学研究センター
David Rosenthal - ワイル・コーネル医科大学 細胞発生生物学部門
Tobias Meyer - ワイル・コーネル医科大学 細胞発生生物学部門、スタンフォード大学医学部 化学系システム生物学部門

詳しい解説
本研究は、細胞増殖の制御機構に新たな知見をもたらした画期的な成果である。これまで、細胞周期の進行を制御するRb-E2F系は、「オン」か「オフ」の二値的なスイッチのように働くと考えられてきた。しかし、本研究では高度な単一細胞イメージング技術と生化学的解析を組み合わせることで、この系に「中間状態」が存在することを明らかにした。
具体的には、E2F活性を可視化するレポーター系を新たに開発し、CDK2活性と同時に計測することで、E2F活性が徐々に上昇し、中間レベルで長時間維持されうることを示した。さらに、Rbの各リン酸化部位特異的な抗体を用いた解析により、この中間状態がRbのT373部位の選択的なリン酸化によって生み出されることを明らかにした。
T373がリン酸化されたRbは、依然として染色体に結合したままE2Fを部分的に活性化する。これにより、細胞は増殖シグナルの強さや持続時間を慎重に見極めることができる。十分な増殖シグナルが得られた場合のみ、CDK2活性がさらに上昇してRbの他の部位もリン酸化され、E2Fが完全に活性化されて細胞周期が不可逆的に進行する。
この発見は、細胞増殖の制御機構に対する理解を大きく前進させるものである。中間状態の存在は、細胞が増殖と静止の間で慎重に選択を行う機会を提供し、不適切な細胞分裂を防ぐ安全装置として機能していると考えられる。
本研究の成果は、がん治療や再生医療など、様々な医療分野への応用が期待される。例えば、中間状態を標的とした新たながん治療法の開発や、幹細胞の増殖をより精密に制御する技術の開発などが考えられる。また、細胞周期を制御する新たな薬剤のスクリーニングにも役立つ可能性がある。
今後は、この中間状態がどのようにして細胞の運命決定に関与しているのか、また、様々な生理的・病理的条件下でどのように制御されているのかを明らかにしていくことが重要な課題となるだろう。


複数人の細胞を組み合わせた脳オルガノイドで個人差を再現し神経毒性を解明

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07578-8

遺伝的背景の違いが多くの疾患の感受性や進行に影響を与えるが、個人間の脳の違いを研究する試みは、忠実な細胞モデルの不足と現在のシステムの拡張の困難さによって制限されている。本研究では、複数のドナーの細胞が単一のオルガノイド内で共同発生する、高度に再現可能な多ドナーヒト脳皮質オルガノイドモデルである脳キメロイドを紹介する。このモデルを用いて、臨床的な表現型の変動性が高い神経毒性トリガー(エタノールおよび抗てんかん薬バルプロ酸)に対する個体間の感受性の違いを調査した。個々のドナーは、標的細胞タイプへの影響の浸透度と、影響を受けた各細胞タイプ内の分子表現型の両方で変動を示した。

事前情報

  • 遺伝的背景の違いが疾患の感受性や進行に影響を与えることが知られている

  • 現在の細胞モデルには限界があり、個人間の脳の違いを効率的に研究するのが困難

  • エタノールや抗てんかん薬の神経毒性には個人差が大きいことが臨床的に知られている

行ったこと

  • 複数のドナーの細胞を混合した「脳キメロイド」という新しいオルガノイドモデルを開発

  • 神経幹細胞(NSC)段階または神経前駆細胞(NPC)段階で複数のドナーの細胞を混合

  • エタノールおよびバルプロ酸(VPA)の処理を行い、その影響を調査

  • 単一細胞RNAシーケンシングなどを用いて詳細な解析を実施

検証方法

  • 異なるドナー混合比や細胞数での脳キメロイドの作製と特性評価

  • 免疫組織化学染色による発生マーカーの確認

  • 単一細胞RNAシーケンシングによる細胞種構成と遺伝子発現解析

  • 空間的転写解析による細胞分布の評価

  • 多電極アレイ(MEA)を用いた電気生理学的活動の記録

  • エタノールおよびVPA処理後の細胞種構成と遺伝子発現変化の解析

分かったこと

  • 脳キメロイドは複数のドナーの細胞が均一に混ざり、適切な細胞種を形成する

  • 脳キメロイドは単一ドナーのオルガノイドと同様の発生過程と細胞種多様性を示す

  • エタノールとVPA処理により、ドナー特異的な細胞種構成と遺伝子発現の変化が生じる

  • 特に神経前駆細胞と新生ニューロンがエタノールとVPAの影響を受けやすい

  • ドナー間で神経毒性に対する感受性に大きな違いがある

研究の面白く独創的なところ

  • 複数のドナーの細胞を単一のオルガノイド内で共培養する新しいアプローチ

  • 遺伝的多様性を反映しつつ、高度に再現可能なモデルを実現

  • 個人間の神経毒性感受性の違いを細胞レベルで直接比較できる

  • 単一ドナーでは観察できない細胞間相互作用や競合効果も捉えられる可能性

この研究のアプリケーション

  • 脳の発達や疾患における遺伝的背景の影響をより効率的に研究できる

  • 薬物の神経毒性スクリーニングに活用し、個人差を考慮した安全性評価が可能に

  • 精神神経疾患の病態解明や個別化医療の開発に貢献する可能性

  • 環境因子と遺伝的背景の相互作用を調べるプラットフォームとしても期待される

著者と所属

  • Noelia Antón-Bolaños - ハーバード大学幹細胞・再生生物学部門

  • Irene Faravelli - ハーバード大学幹細胞・再生生物学部門

  • Tyler Faits - ハーバード大学幹細胞・再生生物学部門、ブロード研究所

  • Paola Arlotta - ハーバード大学幹細胞・再生生物学部門、ブロード研究所

詳しい解説
本研究は、脳の発達や疾患における個人差を効率的に研究するための画期的な方法を提案しています。従来の脳オルガノイド(ミニ脳)は単一の個人の細胞から作られていましたが、この「脳キメロイド」は複数の個人の細胞を混ぜ合わせて作製します。
研究チームは、神経幹細胞または神経前駆細胞の段階で異なる個人由来の細胞を混合し、それらを一緒に成長させることで脳キメロイドを作製しました。驚くべきことに、この方法で作られたキメロイドは、すべてのドナーの細胞が均一に混ざり、適切な脳の細胞種を形成することが分かりました。また、単一ドナーのオルガノイドと同様の発生過程をたどり、同程度の細胞種の多様性を示しました。
この脳キメロイドの有用性を示すため、研究チームはエタノール(アルコール)と抗てんかん薬のバルプロ酸(VPA)による処理を行いました。これらの物質は臨床的に神経毒性を示すことが知られていますが、その影響には大きな個人差があります。
実験の結果、エタノールとVPA処理により、ドナー特異的な細胞種構成と遺伝子発現の変化が観察されました。特に、神経前駆細胞と新生ニューロンがこれらの物質の影響を受けやすいことが分かりました。さらに重要なのは、ドナー間で神経毒性に対する感受性に大きな違いが見られたことです。これは、実際の人間における個人差を反映している可能性があります。
この脳キメロイドモデルの登場により、脳の発達や疾患における遺伝的背景の影響をより効率的に研究できるようになります。例えば、薬物の神経毒性スクリーニングに活用することで、個人差を考慮したより精密な安全性評価が可能になるかもしれません。また、精神神経疾患の病態解明や個別化医療の開発にも貢献する可能性があります。
さらに、このモデルは環境因子と遺伝的背景の相互作用を調べるプラットフォームとしても期待されます。例えば、特定の遺伝的背景を持つ人々が特定の環境要因に対してより脆弱である可能性を探ることができるかもしれません。
総じて、この脳キメロイドは、脳科学研究に新たな次元をもたらす可能性を秘めています。個人差を考慮しつつ、大規模かつ効率的に脳の発達や疾患を研究するための強力なツールとなることが期待されます。


分子ハイブリッド技術で太陽電池の効率が26.54%に向上

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07723-3

逆型構造のペロブスカイト太陽電池において、界面での分子ハイブリッド形成により、効率と安定性が大幅に向上した。新しい分子組み合わせ技術により、これまでの課題であった界面での損失を低減し、認証済みの定常状態効率26.54%を達成した。さらに、大規模製造にも適用可能で、11.1 cm²のミニモジュールで22.74%の効率を実現した。また、2,400時間以上の屋外使用でも96.1%の初期効率を維持した。

事前情報

  • 逆型構造のペロブスカイト太陽電池は、高効率と高い動作安定性から商業化に有望

  • 自己組織化分子(SAMs)の開発により、効率は25%を超えている

  • SAMsの濡れ性の悪さや凝集が界面での損失を引き起こし、さらなる効率向上を妨げていた

行ったこと

  • 4,4',4''-ニトリロトリ安息香酸(NA)と[4-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(Me-4PACz)を共組み立てして分子ハイブリッドを形成

  • この分子ハイブリッドを逆型ペロブスカイト太陽電池の埋め込まれた界面に適用

検証方法

  • 分子ハイブリッドを用いた太陽電池の効率測定と認証

  • 大面積(11.1 cm²)ミニモジュールの作製と効率測定

  • 長期動作安定性試験(2,400時間以上の1太陽光照射下での屋外使用)

分かったこと

  • 分子ハイブリッドにより界面特性が大幅に改善

  • 認証済みの定常状態効率26.54%を達成(世界記録)

  • ミニモジュールで22.74%の認証効率を達成(逆型構造で最高)

  • 2,400時間以上の屋外使用後も初期効率の96.1%を維持

研究の面白く独創的なところ

  • 2種類の分子を組み合わせて界面の特性を最適化する新しいアプローチ

  • 高効率と高安定性を同時に実現し、さらに大規模製造にも適用可能な技術を開発

  • 理論的な限界に近づく高効率を達成しつつ、実用化に向けた課題も解決

この研究のアプリケーション

  • 高効率ペロブスカイト太陽電池の商業化促進

  • 大面積太陽電池モジュールの性能向上

  • 長期安定性の高い太陽電池の実現による再生可能エネルギーの普及促進

  • 建物統合型太陽光発電(BIPV)などの新しい応用分野の開拓

著者と所属

  • Sanwan Liu - 華中科技大学(中国)

  • Jingbai Li - 深圳理工大学(中国)

  • Wenshan Xiao - 武漢理工大学(中国)

  • Wei Chen - 華中科技大学(中国)

詳しい解説
本研究は、次世代太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池の性能を飛躍的に向上させる画期的な技術を報告しています。特に、逆型構造と呼ばれるタイプのペロブスカイト太陽電池に焦点を当てています。
これまでの逆型ペロブスカイト太陽電池では、自己組織化分子(SAMs)を用いて界面を制御することで、25%を超える高い効率が達成されていました。しかし、SAMsの濡れ性の悪さや分子の凝集といった問題により、界面での損失が生じ、さらなる効率向上が困難でした。
本研究では、この問題を解決するために、2種類の分子を組み合わせた「分子ハイブリッド」という新しいアプローチを採用しました。具体的には、4,4',4''-ニトリロトリ安息香酸(NA)と呼ばれる多重カルボキシル酸官能基を持つ芳香族化合物と、[4-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(Me-4PACz)と呼ばれる一般的なSAMを共組み立てしました。
この分子ハイブリッドを太陽電池の埋め込まれた界面に適用することで、界面の特性が大幅に改善されました。その結果、驚異的な性能向上が実現しました。認証済みの定常状態効率は26.54%に達し、これは世界記録となります。
さらに注目すべきは、この技術が大規模製造にも適していることです。研究チームは11.1 cm²の面積を持つミニモジュールを作製し、22.74%という高い効率を達成しました。これは逆型構造のペロブスカイト太陽電池モジュールとしては最高の効率です。
加えて、長期安定性も大幅に向上しました。2,400時間以上にわたる1太陽光照射下での屋外使用試験において、初期効率の96.1%を維持しました。これは、実用化に向けた重要な進展と言えます。
この研究成果は、ペロブスカイト太陽電池の商業化を大きく前進させる可能性があります。高効率と高安定性を兼ね備え、かつ大面積化も可能な本技術は、太陽光発電の普及拡大に貢献すると期待されます。建物統合型太陽光発電(BIPV)など、新しい応用分野の開拓にもつながる可能性があります。
今後は、さらなる効率向上や長期安定性の改善、コスト削減などの課題に取り組むことで、ペロブスカイト太陽電池の実用化が加速すると考えられます。



最後に
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