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論文まとめ368回目 Nature 病理学のためのAIコパイロット「PathChat」の開発!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

DNA mismatch and damage patterns revealed by single-molecule sequencing
単一分子シーケンシングによって明らかになったDNAミスマッチとダメージのパターン
「DNAの変異は、がんなどの病気の原因になります。従来のDNA解析技術では、最初に生じる片側のDNA鎖の変化を正確に捉えるのが難しかったのですが、この研究で開発された新しいシーケンス法HiDEF-seqを使うと、片側鎖の変化を1分子レベルで高精度に検出できるようになりました。これによって、変異が生じるメカニズムの理解が進み、がんや老化の研究に役立つと期待されます。」

Obesity induces PD-1 on macrophages to suppress anti-tumour immunity
肥満はマクロファージ上のPD-1発現を誘導し抗腫瘍免疫を抑制する
「肥満は様々な悪影響を及ぼしますが、がんに対する免疫も弱めてしまうことが明らかになりました。肥満によって、がん組織中のマクロファージという免疫細胞にPD-1という「ブレーキ」が多く発現します。PD-1は本来T細胞の暴走を抑える役割がありますが、マクロファージでは逆に免疫を抑制し、がんを進行させてしまうのです。抗PD-1抗体でこのブレーキを外すと、マクロファージの機能が回復し、抗腫瘍免疫が高まることも分かりました。」

A Multimodal Generative AI Copilot for Human Pathology
病理学のためのマルチモーダル生成AIコパイロット
「病理学の分野で、AIアシスタントの「PathChat」が開発されました。大量の画像と言語データを学習し、病理学に関する幅広い質問に答えられるようになりました。他のAIアシスタントと比べて、病理学の専門家から高い評価を得ています。教育や研究、臨床の意思決定支援など、様々な場面で役立つことが期待されています。病理学の専門家とAIが協力して働く未来が近づいているかもしれません。」

Interactions between immune cell types facilitate the evolution of immune traits
免疫細胞の種類間の相互作用が免疫形質の進化を促進する
「免疫系は哺乳類で最も速く進化している部分ですが、その理由は明確ではありませんでした。この研究では、免疫細胞の種類間の相互作用が、免疫系に変異を生み出す「進化可能性」を高めていることを発見しました。ある細胞の遺伝子が別の細胞に作用する「サイト・トランス」現象により、免疫系はロバストになり進化しやすくなるのです。免疫系の複雑さが、実は進化の鍵だったのかもしれません。」

Mental navigation in the primate entorhinal cortex
霊長類の内嗅皮質における心的ナビゲーション
「サルが目的地までの経路を頭の中で思い浮かべる時、脳内の内嗅皮質という領域で周期的な神経活動パターンが観測された。これは「コグニティブマップ」と呼ばれる空間情報の内的表現が脳内に存在することを示唆する。コンピュータモデルを使った解析から、この周期的活動が経路上のランドマークを思い出すメカニズムに関わっていることが分かった。私たちが知らず知らずのうちに利用している「頭の中での地図」の正体が少しずつ明らかになってきた。」


要約

単一分子シーケンシングによって、DNAのミスマッチとダメージのパターンが明らかになった

突然変異は生涯を通じて全身の細胞のゲノムに蓄積され、癌やその他の病気を引き起こす。ほとんどの突然変異は、DNAの2本鎖のうちの1本鎖のヌクレオチドミスマッチや損傷として始まり、修復されなかったり誤修復されたりすると2本鎖の突然変異となる。しかし、現在のDNA配列決定技術では、このような最初の一本鎖変異を正確に解析することはできない。ここでは、DNAの1本鎖または2本鎖のいずれかに塩基置換が存在する場合に、1分子で忠実に塩基置換を検出する1分子ロングリードシーケンス法(Hairpin Duplex Enhanced Fidelity sequencing:HiDEF-seq)を開発した。HiDEF-seqは、DNA損傷の一般的なタイプであるシトシン脱アミノ化も1分子忠実に検出する。がん素因症候群の患者を含む様々な組織から134サンプルをプロファイリングし、そこから一本鎖ミスマッチと損傷のシグネチャーを導き出した。これらの一本鎖シグネチャーと既知の二本鎖変異シグネチャーとの間に対応関係を見いだし、これによってイニシエーション病変の正体が明らかになった。ミスマッチ修復と複製ポリメラーゼ校正の両方が欠損している腫瘍は、ポリメラーゼ校正のみが欠損しているサンプルと比較して、明確な一本鎖ミスマッチパターンを示す。我々はまた、APOBEC3Aの一本鎖損傷シグネチャーを定義した。ミトコンドリアゲノムでは、主に複製中に突然変異誘発メカニズムが起こることを支持する結果が得られた。二本鎖DNAの突然変異は突然変異過程の終点に過ぎないので、一本鎖の開始事象を一分子分解能で検出する我々のアプローチは、特に癌や老化など様々な状況において突然変異がどのように生じるかを研究することを可能にするであろう。

事前情報

  • 体内の全ての細胞のゲノムには生涯を通じて変異が蓄積し、がんなどの病気の原因となる。

  • ほとんどの変異は、修復されないか誤って修復された場合に二本鎖の変異となる前に、DNAの二本鎖の一方の塩基ミスマッチまたはダメージとして始まる。

  • しかし、現在のDNAシーケンス技術では、これらの最初の一本鎖のイベントを正確に解明することはできない。

行ったこと

  • 片側のDNA鎖または両方のDNA鎖に存在する塩基置換について、単一分子レベルでの正確性を達成する単一分子長鎖読み取りシーケンス法(Hairpin Duplex Enhanced Fidelity sequencing(HiDEF-seq))を開発した。

  • HiDEF-seqは、一般的なDNAダメージであるシトシン脱アミノ化も単一分子レベルで検出できる。

  • がん素因症候群の個人を含む多様な組織から134のサンプルをプロファイリングし、一本鎖のミスマッチとダメージのシグネチャーを導き出した。

検証方法

  • HiDEF-seqという新しいシーケンス技術を開発し、片側のDNA鎖の変化を単一分子レベルで高精度に検出した。

  • 健常者や遺伝性がん症候群の方の様々な組織サンプル134検体をHiDEF-seqで解析し、一本鎖のDNAミスマッチやダメージのパターンを導出した。

分かったこと

  • これらの一本鎖シグネチャーと既知の二本鎖変異シグネチャーの間に対応関係があることがわかり、開始病変の同定につながった。

  • ミスマッチ修復と複製ポリメラーゼの校正の両方に欠陥のある腫瘍は、ポリメラーゼの校正のみに欠陥のあるサンプルとは異なる一本鎖ミスマッチパターンを示した。

  • APOBEC3Aの一本鎖損傷シグネチャーも定義した。

  • ミトコンドリアゲノムでは、主に複製時に起こる変異誘発メカニズムを支持する結果が得られた。

研究の面白く独創的なところ

  • DNA変異の二本鎖バージョンは変異プロセスの最終段階に過ぎないため、単一分子分解能で開始一本鎖イベントを検出するこのアプローチは、特にがんや老化の文脈で、変異がどのように生じるかを研究することを可能にする。

  • 新しく開発したHiDEF-seqという単一分子長鎖読み取りシーケンス技術によって、DNA変異が最初に生じる片側DNA鎖の変化を、これまでにない高い精度で捉えることに成功した点が画期的。

この研究のアプリケーション

  • DNA変異のメカニズムの理解が進むことで、がんや老化のメカニズム解明や予防、診断、治療法開発に役立つ可能性がある。

  • 遺伝性疾患の原因となるDNA変異の同定にも応用できる。

  • 変異原性物質のDNAへの影響評価や、放射線被曝によるDNAダメージ評価などにも活用できるかもしれない。

著者と所属

  • Mei Hong Liu, Benjamin M. Costa, Emilia C. Bianchini (Center for Human Genetics and Genomics, New York University Grossman School of Medicine)

  • Una Choi (Department of Pediatrics, New York University Grossman School of Medicine)

  • Gilad D. Evrony (Center for Human Genetics and Genomics; Department of Pediatrics, New York University Grossman School of Medicine)

詳しい解説
DNA変異は、がんや他の疾患の原因となることが知られています。そのため、DNA変異がどのように生じるのか、そのメカニズムを理解することは非常に重要です。DNA変異の多くは、DNAの二本鎖の片方に最初に生じる塩基のミスマッチやダメージに端を発します。しかし、従来のDNAシーケンス技術では、この片側鎖の変化を正確に捉えることが難しいという課題がありました。
この研究では、新たに開発した単一分子長鎖読み取りシーケンス法「HiDEF-seq」を用いることで、片側鎖の塩基置換を1分子レベルの高い精度で検出することに成功しました。また、DNAダメージの一種であるシトシン脱アミノ化も高精度で検出できることを示しました。
健常者や遺伝性がん症候群の方の様々な組織サンプル134検体をHiDEF-seqで解析したところ、一本鎖DNAのミスマッチやダメージに特徴的なパターン(シグネチャー)が見出されました。このパターンと、既知の二本鎖DNA変異のシグネチャーの間に対応関係があることから、変異の開始段階の原因が特定できるようになりました。
また、ミスマッチ修復と複製ポリメラーゼの校正の両方に欠陥のある腫瘍では、校正のみに欠陥のある検体とは異なる一本鎖ミスマッチのパターンが見られました。さらに、APOBEC3A酵素によるDNAダメージの一本鎖シグネチャーも明らかになりました。ミトコンドリアDNAでは、変異が主にDNA複製時に生じていることが示唆されました。
二本鎖DNA変異は変異プロセスの最終段階に過ぎません。HiDEF-seqによって、変異の開始段階である一本鎖の変化を単一分子レベルで検出できるようになったことで、がんや老化をはじめとする様々な文脈で、DNA変異がどのように生じるのかを詳細に研究できるようになると期待されます。DNA変異メカニズムの理解が進めば、がんなどの疾患の発症機序の解明や、予防・診断・治療法の開発にもつながるでしょう。従来のDNAシーケンスの限界を超える画期的な技術といえます。


肥満はマクロファージ上のPD-1発現を誘導し抗腫瘍免疫を抑制する。

肥満は多くのがんの進行や転移の主要なリスク因子であるが、時にはがん生存率を高め、抗PD-1を含む免疫チェックポイント阻害療法の効果を高めることもある。肥満は慢性炎症を促進するが、肥満とがんの関連や免疫療法における免疫系の役割は不明だった。本研究では、肥満が腫瘍関連マクロファージ(TAM)のPD-1発現を選択的に誘導することを発見した。インターフェロンγ、TNF、レプチン、インスリン、パルミチン酸などの炎症性サイトカインや肥満関連分子が、mTORC1とグリコーシス依存的にマクロファージのPD-1発現を誘導した。PD-1はTAMに負のフィードバックを与え、グリコーシス、貪食作用、T細胞刺激能を抑制した。一方、PD-1阻害はマクロファージのグリコーシスレベルを上昇させ、TAMのCD86、MHC分子の発現とT細胞活性化能力増強に不可欠だった。骨髄特異的PD-1欠損はTAMグリコーシスと抗原提示能を高め、CD8+T細胞の疲弊マーカーを減少させ活性を上昇させ、腫瘍増殖を遅らせた。これらの結果から、肥満関連の代謝シグナルと炎症性シグナルによりTAMがPD-1発現を誘導し、腫瘍免疫監視を損なうTAM特異的フィードバック機構を駆動することが示された。これはがんリスク上昇に寄与する一方、肥満ではPD-1免疫療法の反応性が高まることに関与すると考えられる。

事前情報

  • 肥満はがんの進行や転移のリスク因子だが、時に生存率を高め免疫チェックポイント阻害療法の効果を高める

  • 肥満は慢性炎症を促進するが、肥満-がん関連や免疫療法での免疫の役割は不明だった

行ったこと

  • 高脂肪食による肥満マウスモデルを用いて、腫瘍関連マクロファージ(TAM)のPD-1発現を調べた

  • 肥満関連の炎症性サイトカインや分子がマクロファージのPD-1発現に与える影響を検討した

  • PD-1阻害がマクロファージの機能や代謝に与える影響を解析した

  • 骨髄特異的PD-1欠損マウスを用いて、TAMのPD-1がT細胞と腫瘍増殖に与える影響を調べた

検証方法

  • マウスに高脂肪食を与えて肥満を誘導し、腫瘍を移植

  • flow cytometry、RNA seq等で腫瘍浸潤免疫細胞を解析

  • 肥満関連分子で刺激したマクロファージのPD-1発現を検討

  • PD-1阻害/欠損マクロファージの機能・代謝をex vivo解析

  • PD-1欠損マウスに腫瘍を移植し、TAMとT細胞の状態を解析

分かったこと

  • 肥満はTAMのPD-1発現を選択的に誘導した

  • IFNγ、TNF、レプチン等がmTORC1/グリコーシス依存的にPD-1発現を促した

  • PD-1はTAMに負のフィードバックを与え貪食等の機能を抑制した

  • PD-1阻害はTAMのグリコーシス亢進を介して抗原提示能を高めた

  • 骨髄のPD-1欠損はTAMを介してT細胞の疲弊を軽減し腫瘍増殖を抑制した

研究の面白く独創的なところ

  • がん微小環境におけるマクロファージPD-1の新たな役割を解明した

  • 肥満がTAMのPD-1発現を誘導する分子メカニズムを明らかにした

  • PD-1阻害がTAMの代謝を変化させ機能回復に重要な役割を果たすことを示した

  • TAMのPD-1発現が肥満・がん・免疫のクロストークの鍵となることを見出した

この研究のアプリケーション

  • 肥満がんにおけるPD-1免疫療法の有用性の機序解明

  • TAMのPD-1を標的とした新たながん治療法の開発

  • 肥満に伴うがんリスク上昇メカニズムの理解に貢献

  • PD-1発現を指標としたTAMを介した抗腫瘍免疫評価バイオマーカー

著者と所属
Jackie E. Bader, Melissa M. Wolf, Jeffrey C. Rathmell - Vanderbilt University Medical Center, Department of Pathology, Microbiology, and Immunology
Bradley I. Reinfeld, Emily N. Arner - Vanderbilt University Medical Center, Department of Medicine
W. Kimryn Rathmell - Vanderbilt University Medical Center, Vanderbilt-Ingram Cancer Center

詳しい解説
本研究は、肥満ががんに対する免疫応答を抑制する新たな機序を解明しました。
まず、高脂肪食で誘導した肥満マウスの腫瘍では、腫瘍関連マクロファージ(TAM)において免疫チェックポイント分子PD-1の発現が上昇していました。一方、T細胞のPD-1発現は肥満の影響を受けませんでした。
そこで、肥満に関連する炎症性サイトカインやレプチン、インスリンなどの分子に着目し、マクロファージのPD-1発現に与える影響を調べました。すると、これらの因子がmTORC1シグナルの活性化とグリコーシスの亢進を介して、PD-1の発現を誘導することが明らかになりました。
次に、PD-1の発現がTAMの機能にどのような影響を及ぼすかを検討しました。PD-1を発現したマクロファージでは、グリコーシス、貪食作用、T細胞の活性化能が抑制されていました。逆に抗PD-1抗体で処理すると、グリコーシスが亢進しCD86やMHC分子の発現が高まり、T細胞活性化能が回復しました。
さらにマクロファージ特異的にPD-1を欠損させたマウスでは、TAMの抗原提示能が高まりCD8陽性T細胞の疲弊が軽減され、腫瘍の増殖が抑制されました。
以上の結果から、肥満に伴う炎症や代謝の変化がTAMのPD-1発現を誘導し、TAMを介して抗腫瘍免疫を抑制する新たなメカニズムが明らかになりました。肥満では、このPD-1の発現上昇によりがんのリスクは高まる一方で、PD-1抗体の効果が高まるという二面性があると考えられます。
本研究は、肥満とがんの関連におけるTAMの役割という新たな視点を提供し、PD-1を標的とすることでTAMの機能を改善し抗腫瘍免疫を高める治療戦略の可能性を示唆しています。基礎研究から臨床への橋渡しとなる重要な知見と言えるでしょう。


病理学のためのAIコパイロット「PathChat」の開発

本研究では、病理学のためのマルチモーダルな生成AI「PathChat」を開発した。PathChatは、大規模な病理画像と言語データを用いて学習することで、病理学に関する多様な視覚的・言語的な質問に対して優れた性能を示した。

事前情報

  • 計算病理学の分野では、タスク特化型の予測モデルやタスク非依存の自己教師あり学習ビジョンエンコーダーの開発が進んでいる

  • 一方、病理学に特化した汎用的なマルチモーダルAIアシスタントの研究は限られていた

行ったこと

  • 病理学用の基礎的なビジョンエンコーダーを適応させ、事前学習済みの大規模言語モデルと組み合わせた

  • 456,000以上の多様な視覚言語指示(999,202の質問回答ターン)を用いて、システム全体をファインチューニングした

検証方法

  • 複数の選択肢式の診断的質問を用いて、他のマルチモーダルビジョン言語AIアシスタントやGPT4Vと性能比較した

  • オープンエンドの質問と人間の専門家による評価を用いて、病理学に関する多様な質問への回答の正確性と好ましさを評価した

分かったこと

  • PathChatは、多様な組織由来と疾患モデルの症例に対する複数選択式の診断的質問において、最先端の性能を達成した

  • 全体として、PathChatは病理学に関する多様な質問に対して、より正確で病理学者に好まれる回答を生成した

研究の面白く独創的なところ

  • 視覚的および自然言語の入力を柔軟に処理できる、対話型の汎用ビジョン言語AIコパイロットを開発した点

  • 大規模な視覚言語指示データを用いてシステム全体をファインチューニングすることで、病理学に特化した汎用AIアシスタントを実現した点

この研究のアプリケーション

  • 病理学教育、研究、人間主体の臨床意思決定支援など、病理学の様々な場面で影響力のある応用が期待される

著者と所属

  • Ming Y. Lu, Bowen Chen, Drew F. K. Williamson (ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院病理学科, マサチューセッツ総合病院病理学科, ハーバード大学・MIT がん研究所)

  • Richard J. Chen (ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院病理学科, マサチューセッツ総合病院病理学科, ハーバード大学・MIT がん研究所)

  • Faisal Mahmood (ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院病理学科, マサチューセッツ総合病院病理学科, ハーバード大学・MIT がん研究所, ハーバード大学データサイエンスイニシアチブ)

詳しい解説
この研究では、病理学のための多機能で汎用的なAIアシスタント「PathChat」を開発しました。PathChatは、病理学に特化したビジョンエンコーダーを事前学習済みの大規模言語モデルと組み合わせ、大量の視覚言語指示データを用いてファインチューニングすることで実現されました。
研究チームは、PathChatを他のマルチモーダルビジョン言語AIアシスタントやGPT4Vと比較し、多様な組織由来と疾患モデルの症例に対する複数選択式の診断的質問において最先端の性能を達成したことを示しました。さらに、オープンエンドの質問と人間の専門家による評価を用いて、PathChatが病理学に関する様々な質問に対して、より正確で病理学者に好まれる回答を生成することを明らかにしました。
PathChatは、視覚的および自然言語の入力を柔軟に処理できる対話型の汎用ビジョン言語AIコパイロットであり、病理学教育、研究、人間主体の臨床意思決定支援など、病理学の様々な場面で影響力のある応用が期待されます。この研究は、AIと病理学者が協力して働く未来への重要な一歩を示すものです。


免疫細胞の相互作用が免疫系の進化を促進する

遺伝的に多様な54系統のマウスの骨髄で免疫細胞の変動を調べたところ、免疫細胞の頻度の変動は多因子性であり、関連する多くの遺伝子は増殖、移動、細胞死などの細胞固有の機能を介して恒常性のバランスに関与していることがわかりました。しかし、ある特定の細胞型の頻度に関連する遺伝子が別の細胞型で発現し、サイト・トランスと呼ばれる現象でその効果を発揮していることもわかりました。脊椎動物の進化の記録から、サイト・トランスに関連する遺伝子は負の選択圧が弱く、免疫系のロバスト性と進化可能性を高めていることがわかります。この現象はヒトの血液でも同様に観察されます。免疫系の異なる構成要素間の相互作用は、突然変異が大きな障害なく変異を生み出すことができる表現型空間を提供し、複雑なシステムの進化におけるモジュール性の役割を強調しています。

事前情報

  • 自然選択による進化の本質的な前提条件は、適応度に影響を与える形質における個体間の変異である。

  • 選択可能な変異を生み出すシステムの能力は進化可能性として知られ、進化の速度に大きく影響する。

  • 免疫系は哺乳類で最も速く進化しているが、免疫形質の変異の源はほとんどわかっていない。

行ったこと

  • Collaborative Crossの54系統の遺伝的に多様なマウスの骨髄で免疫細胞の変動をプロファイリングした。

  • 免疫細胞の頻度の変動に関連する遺伝子を同定し、その機能を調べた。

  • 脊椎動物の進化の記録から、サイト・トランス関連遺伝子の選択圧を調べた。

  • ヒトの血液でも同様の現象が観察されるか調べた。

検証方法

  • 54系統のマウスの骨髄から免疫細胞をフローサイトメトリーで分離し、頻度を測定。

  • 免疫細胞の頻度に関連する遺伝子座をゲノムワイド関連解析で同定。

  • 関連遺伝子の発現パターンと機能をバイオインフォマティクス解析。

  • 脊椎動物のゲノムデータから関連遺伝子の進化速度を算出。

  • ヒトのデータセットで解析を再現。

分かったこと

  • 免疫細胞の頻度の変動は多因子性で、多くの関連遺伝子は細胞固有の機能に関与。

  • ある細胞型の頻度に関連する遺伝子が別の細胞型で発現し効果を発揮する「サイト・トランス」が存在。

  • サイト・トランス関連遺伝子は負の選択圧が弱く、免疫系の進化可能性を高める。

  • ヒトの血液でも同様の現象が観察された。

  • 免疫系の構成要素間の相互作用が、突然変異による変異を許容する表現型空間を提供。

研究の面白く独創的なところ

  • 免疫系の進化の速さの謎に、免疫細胞間の相互作用という新しい視点から迫った。

  • 「サイト・トランス」という新しい概念を提唱し、免疫系の進化における役割を示した。

  • 複雑なシステムの進化におけるモジュール性の重要性を、免疫系を例に実証した。

この研究のアプリケーション

  • 免疫系の進化メカニズムの理解に貢献し、感染症や自己免疫疾患の研究に新しい視点を提供。

  • サイト・トランスに関わる遺伝子は、免疫関連疾患の新しい治療ターゲットとなる可能性。

  • 人工システムの設計に、免疫系のモジュール性と進化可能性の原理を応用できるかもしれない。

著者と所属

  • Tania Dubovik, Martin Lukačišin, Elina Starosvetsky, Rachelly Normand, Yasmin Admon, Ayelet Alpert, Yishai Ofran, Shai S. Shen-Orr: Department of Immunology, Faculty of Medicine, Technion - Israel Institute of Technology, Haifa, Israel

  • Benjamin LeRoy, Max G’Sell: Department of Statistics, Carnegie Mellon University, Pittsburgh, Pennsylvania, USA

  • Yishai Ofran: Department of Hematology and Bone Marrow Transplantation, Rambam Health Care Campus, Haifa, Israel

詳しい解説
この研究は、免疫系が哺乳類で最も速く進化している理由を探るために行われました。研究チームは、遺伝的に多様な54系統のマウスの骨髄で免疫細胞の変動をプロファイリングし、免疫細胞の頻度の変動が多因子性であり、関連する多くの遺伝子が細胞固有の機能に関与していることを発見しました。
しかし、さらに興味深いことに、ある特定の細胞型の頻度に関連する遺伝子が、実は別の細胞型で発現し、その効果を発揮していることがわかりました。研究チームはこの現象を「サイト・トランス」と名付けました。
脊椎動物の進化の記録を調べたところ、サイト・トランスに関連する遺伝子は負の選択圧が弱いことがわかりました。つまり、これらの遺伝子に変異が生じても、免疫系全体の機能にはあまり影響がないのです。これにより、免疫系はロバストになり、変異を許容しやすくなります。その結果、免疫系の進化可能性が高まるのです。
研究チームは、ヒトの血液データでも同様の現象を観察しました。これは、免疫系の異なる構成要素間の相互作用が、突然変異が大きな障害なく変異を生み出すことができる表現型空間を提供していることを示唆しています。
この研究は、免疫系の進化の謎に新しい視点を提供しただけでなく、複雑なシステムの進化におけるモジュール性の重要性を浮き彫りにしました。免疫系の構成要素が相互作用するネットワークを形成することで、部分的な変化が全体の崩壊につながりにくくなり、システムの進化可能性が高まるのです。
これらの発見は、感染症や自己免疫疾患の研究に新しい視点を提供し、サイト・トランスに関わる遺伝子が新しい治療ターゲットとなる可能性を示唆しています。さらに、免疫系のモジュール性と進化可能性の原理は、人工システムの設計にも応用できるかもしれません。
この研究は、イスラエル工科大学とカーネギーメロン大学の研究チームによって行われました。主要な著者には、Tania Dubovik、Martin Lukačišin、Shai S. Shen-Orrらが含まれます。


心の中でのナビゲーション中のサル内嗅皮質の神経活動を解明

サルを使った行動実験と神経活動記録により、空間をイメージする時の脳内メカニズムを調べた。サルにジョイスティックを使って見えない目的地までの距離を再現させると、内嗅皮質の神経細胞に周期的な発火パターンが現れた。この活動は、経路上の目印の時間的な位置関係を反映していた。コンピュータモデルによる解析の結果、この周期的活動は、学習により獲得された目印の内的表現を思い出す過程を反映していることが示唆された。またモデルから、目印想起のタイミングで経路積分が一時的に停止し、誤差が解消されるという予測が得られた。この研究は、内嗅皮質の活動パターンが、外的な手がかりなしに cognitive map を想起する仕組みに関わっていることを示している。

事前情報

  • 空間記憶に関わる脳領域として海馬体が知られている。

  • 内嗅皮質は空間情報処理に関わる領域の1つ。

  • 「コグニティブマップ」は、経験により獲得された空間の内的表現とされる。

  • 外的入力なしでのコグニティブマップの利用については不明な点が多い。

行ったこと

  • サルに見えない目的地までの距離をジョイスティックで再現させるタスクを訓練。

  • タスク遂行中のサル内嗅皮質から神経活動を記録。

  • 神経活動データの周期性や発火レートの時間的プロファイルを解析。

  • コンピュータモデルを用いて神経活動パターンの意味を検討。

検証方法

  • 異なる目的地への移動距離を再現させ、行動成績を評価。

  • 神経活動の自己相関解析により周期性を定量化。

  • 発火レートの時間的プロファイルを目的地までの距離や行動との関連で解析。

  • 訓練前後での神経活動の比較。

  • アトラクター神経回路網モデルによるシミュレーション。

分かったこと

  • サルは見えない目的地までの距離を正確に再現できた。

  • 内嗅皮質ニューロンの多くが目的地までの時間経過に伴い周期的な活動パターンを示した。

  • 活動の周期は行動で計測された時間間隔と一致した。

  • 周期的な活動パターンは、特定の目的地と関連付けられていた。

  • モデルから、この活動が学習された目印の想起に関わること、想起タイミングで積分誤差が減少することが示唆された。

研究の面白く独創的なところ

  • コグニティブマップの内的な利用を実験的に示した点。

  • 周期的な神経活動パターンとその意味づけ。

  • アトラクター神経回路網への学習メカニズムの導入。

  • モデルから導かれた積分誤差低減メカニズムの予測。

この研究のアプリケーション

  • 空間記憶のメカニズム解明への貢献。

  • 記憶想起時の脳活動ダイナミクスの理解。

  • 認知機能と神経回路動態の関係性の解明。

  • 神経疾患における空間記憶障害のメカニズム解明や治療法開発への示唆。

著者と所属
Sujaya Neupane, McGovern Institute for Brain Research, Massachusetts Institute of Technology
Ila Fiete, McGovern Institute for Brain Research, Massachusetts Institute of Technology
Mehrdad Jazayeri, McGovern Institute for Brain Research, Massachusetts Institute of Technology

詳しい解説
本研究は、霊長類の内嗅皮質における心的ナビゲーション中の神経活動について調べたものである。研究グループは、サルに見えない目的地までの距離をジョイスティックで再現するタスクを訓練し、その際の内嗅皮質の神経活動を記録・解析した。
行動実験の結果、サルは見えない目的地までの距離を正確に再現することができた。これは、サルが頭の中で目的地までの経路をイメージできていることを示唆している。
神経活動の解析から、内嗅皮質の多くのニューロンが目的地までの時間経過に伴い周期的な活動パターンを示すことが分かった。活動の周期は650ミリ秒前後と一定しており、行動で計測された時間間隔とよく一致していた。また、この周期的な活動パターンは、特定の目的地の組み合わせと関連付けられていた。
研究チームはさらに、得られた神経活動データをもとにコンピュータモデルを構築し、内嗅皮質の神経回路の動作原理を検討した。その結果、アトラクター神経回路網に学習メカニズムを導入したモデルを用いると、実験で観測された周期的な活動パターンをよく再現できることが分かった。
このモデルでは、移動中に現れるランドマークの情報を手がかりとした学習により、ランドマーク間の時間的な位置関係が神経回路に記憶される。そして実際の移動では、記憶されたランドマーク表現が周期的に想起されることで、目的地までの経路が内的に表現されるという仕組みになっている。
モデルはまた、ランドマークの想起タイミングで経路積分が一時的に停止し、蓄積された誤差が解消されるというメカニズムを予測した。この予測は、サルの行動データと神経活動を詳しく解析することで裏付けられた。
以上の結果から、本研究は、内嗅皮質の神経活動パターンが、外的な手がかりを使わずにコグニティブマップを想起する仕組みに関わっていることを明らかにした。この知見は、私たちが無意識のうちに行っている空間ナビゲーションの脳内メカニズムの理解を大きく前進させるものだ。
今後は、この研究で得られた洞察をもとに、様々な脳領域が協調して空間記憶を形成・利用する仕組みが詳しく調べられることが期待される。また、この知見は、認知症などで見られる空間記憶の障害の原因解明や、新たな治療法の開発にもつながるかもしれない。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。