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論文まとめ467回目 Nature 過去の氷河期の変化が、将来のエルニーニョ現象の極端化を裏付ける!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


 一口コメント

Microbial iron limitation in the ocean's twilight zone
海洋の薄明層における微生物の鉄制限
「海の表層では、鉄不足が植物プランクトンの成長を制限することが知られていました。しかし、この研究では、これまで栄養豊富と考えられていた中深層(200-500m)でも、鉄が微生物の制限要因になっていることが明らかになりました。研究チームは、微生物が鉄を取り込むために作る「シデロフォア」という物質の濃度を測定し、中深層でも高濃度で存在することを発見。これは、中深層の微生物も鉄不足に悩まされていることを示しています。この発見は、海洋の炭素循環や生態系の理解に大きな影響を与える可能性があります。」

Direct evidence for a carbon–carbon one-electron σ-bond
炭素-炭素間の1電子σ結合の直接的証拠
「通常、原子間の結合は2つの電子を共有して形成されます。しかし、1つの電子だけで結合する「1電子結合」の存在は長年推測されてきました。この研究では、炭素原子間で1電子結合を持つ化合物の単離に世界で初めて成功しました。X線結晶構造解析やラマン分光法など複数の手法を用いて、この珍しい結合の存在を直接的に証明しています。この発見は、化学結合の概念を拡張し、新しい物質設計への道を開く可能性があります。」

Nitrogen-doped amorphous monolayer carbon
窒素ドープされたアモルファス単層カーボン
「炭素原子1個分の厚さしかない超薄膜材料「グラフェン」は注目の的ですが、この研究ではさらに進化させた新材料を開発しました。窒素を含む炭素の単層膜で、原子が不規則に並んだアモルファス構造を持ちます。この材料は溶液中で簡単に作れ、電気をよく通し、柔軟性も高いという特徴があります。グラフェンと比べて加工しやすく、様々な形状に成形できるため、電子デバイスや環境技術など幅広い分野での応用が期待されています。」

Designed endocytosis-inducing proteins degrade targets and amplify signals
設計された細胞内取り込み誘導タンパク質による標的分解とシグナル増幅
「この研究では、コンピューター設計された特殊なタンパク質「EndoTag」を使って、細胞が特定のタンパク質を取り込んで分解する過程を人為的に制御することに成功しました。EndoTagを別のタンパク質と結合させることで、狙ったタンパク質を細胞内に運び込み、分解させることができます。これにより、がん細胞の増殖を抑えたり、自己免疫疾患の原因となる抗体を取り除いたりすることが可能になります。さらに、EndoTagを使うことで細胞のシグナル伝達を100倍も増強できることも分かりました。この技術は、様々な疾患の新しい治療法につながる可能性があります。」

Future increase in extreme El Niño supported by past glacial changes
過去の氷河期の変化によって裏付けられた将来の極端なエルニーニョの増加
「エルニーニョ現象は太平洋の海水温の変動で、異常気象の原因になります。研究者たちは、過去2万1000年前の最終氷期最盛期の海水温変動を調べ、現在のコンピューターモデルと比較しました。すると、氷期には海水温の変動が小さく、エルニーニョ現象も弱かったことがわかりました。これは、温暖化が進むと逆にエルニーニョ現象が強くなる可能性を示唆しています。過去の気候変動を調べることで、将来の気候変動予測の精度が上がるという、新しい研究アプローチの有効性を示した点が画期的です。」

Intragenic DNA inversions expand bacterial coding capacity
遺伝子内DNAの反転がバクテリアのコード能力を拡張する
「バクテリアの遺伝子の中で、DNAの一部が反転する現象が発見されました。これにより1つの遺伝子から2種類以上のタンパク質が作られることがわかりました。まるでジキルとハイドのように、1つの遺伝子が2つの顔を持つのです。この仕組みにより、バクテリアはゲノムサイズを増やさずに、より多様なタンパク質を作り出せるようになります。これは進化の過程で獲得された巧妙な戦略かもしれません。この発見は、バクテリアの適応能力や多様性の理解に新たな視点をもたらします。」


 要約

 海洋の中深層でも鉄が微生物の制限要因となっていることが判明

海洋の中深層(200-500m)、いわゆる「薄明層」において、微生物の成長が鉄によって制限されていることが明らかになりました。研究チームは、太平洋の広範囲にわたって海水サンプルを採取し、微生物が鉄を取り込むために分泌する「シデロフォア」という物質の濃度を測定しました。その結果、北太平洋亜熱帯環流域と南太平洋亜熱帯環流域の薄明層において、シデロフォアの濃度が高いことが判明しました。これは、これらの地域の薄明層で微生物が鉄不足に直面していることを示唆しています。

事前情報

  • 海洋表層では、鉄が植物プランクトンの成長を制限する主要な栄養素の一つであることが知られていた

  • 薄明層は、沈降する有機物の分解が活発に行われる場所として知られていた

  • これまで、薄明層の微生物活動は主に有機炭素の供給によって制限されると考えられていた

行ったこと

  • 太平洋の広範囲にわたって海水サンプルを採取

  • 液体クロマトグラフィー質量分析法を用いて、海水中のシデロフォア濃度を測定

  • 薄明層における鉄の可用性と微生物活動の関係を調査

  • 安定同位体でラベル付けしたシデロフォアを用いた取り込み実験を実施

検証方法

  • 海水サンプル中のシデロフォア濃度を測定し、その分布パターンを分析

  • 溶存鉄濃度と硝酸塩濃度の比率を計算し、鉄制限の指標として使用

  • 57Feでラベル付けしたシデロフォアを海水サンプルに添加し、その取り込みと代謝を追跡

分かったこと

  • 北太平洋亜熱帯環流域と南太平洋亜熱帯環流域の薄明層で、シデロフォア濃度が高いことが判明

  • シデロフォア濃度の高い地域は、溶存鉄に対する硝酸塩の比率が高い地域と一致

  • 薄明層の微生物は、添加されたシデロフォアを速やかに取り込み、代謝することが確認された

  • シデロフォアの代謝パターンから、薄明層の微生物が鉄不足に適応していることが示唆された

この研究の面白く独創的なところ

  • これまで栄養豊富と考えられていた薄明層でも、鉄が微生物の制限要因になっていることを発見

  • シデロフォアという生物指標を用いて、広範囲の海洋で鉄制限を評価する新しい手法を確立

  • 薄明層における鉄循環と微生物活動の関係を詳細に解明

この研究のアプリケーション

  • 海洋の炭素循環モデルの改善:薄明層における鉄制限を考慮することで、より正確な予測が可能に

  • 海洋生態系の理解の深化:鉄が薄明層の微生物群集構造に与える影響の解明

  • 気候変動への影響評価:薄明層の鉄制限が炭素隔離にどう影響するかの予測に貢献

  • 海洋肥沃化実験の再評価:薄明層の鉄制限を考慮した新たな実験デザインの提案

著者と所属

Jingxuan Li - Woods Hole Oceanographic Institution

Lydia Babcock-Adams - Florida State University

Rene M. Boiteau - University of Minnesota

Daniel J. Repeta - Woods Hole Oceanographic Institution

詳しい解説

この研究は、海洋生態学と生物地球化学の分野に重要な新知見をもたらしました。従来、海洋の薄明層(深度200-500m)は、沈降してくる有機物が豊富なため、微生物の活動は主に有機炭素の供給によって制限されると考えられていました。しかし、この研究は、薄明層においても鉄が微生物の成長を制限する重要な要因となっていることを明らかにしました。
研究チームは、微生物が鉄を効率的に取り込むために分泌する「シデロフォア」という物質に着目しました。シデロフォアは、環境中の鉄イオンと強く結合し、微生物が利用しやすい形に変換する役割を果たします。チームは、太平洋の広範囲にわたって海水サンプルを採取し、最新の分析技術を駆使してシデロフォアの濃度を測定しました。
その結果、北太平洋亜熱帯環流域と南太平洋亜熱帯環流域の薄明層において、シデロフォア濃度が顕著に高いことが判明しました。これらの地域は、溶存鉄に対する硝酸塩の比率が高く、微生物の成長が鉄によって制限されやすい環境であることが示唆されました。
さらに、研究チームは安定同位体(57Fe)でラベル付けしたシデロフォアを用いた取り込み実験を実施しました。この実験により、薄明層の微生物がシデロフォアを速やかに取り込み、代謝することが確認されました。また、シデロフォアの代謝パターンから、これらの微生物が慢性的な鉄不足に適応していることが示唆されました。
この発見は、海洋の炭素循環や生態系の理解に大きな影響を与える可能性があります。薄明層は、表層で生産された有機物の多くが分解される場所であり、大気中の二酸化炭素の隔離にも重要な役割を果たしています。鉄制限がこの過程にどのような影響を与えているのか、今後の研究が待たれます。
また、この研究はシデロフォアを用いて広範囲の海洋で鉄制限を評価する新しい手法を確立しました。これにより、従来の方法では困難だった薄明層における鉄の生物地球化学的循環の詳細な理解が可能になりました。
今後、この研究結果を海洋の炭素循環モデルに組み込むことで、より正確な気候変動予測が可能になると期待されます。また、薄明層における鉄肥沃化実験など、新たな研究アプローチの開発にもつながるでしょう。
この研究は、私たちの海洋理解に新たな視点をもたらし、海洋生態系と地球規模の物質循環の複雑な関係性をさらに深く理解する道を開いたと言えます。


 炭素-炭素間の1電子σ結合を持つ化合物の単離に初めて成功し、その存在を直接的に証明した画期的な研究

この論文は、炭素-炭素間の1電子σ結合を持つ化合物の単離に成功し、その存在を直接的に証明した画期的な研究について報告しています。1電子結合は理論的に予測されていましたが、特に炭素原子間では直接的な証拠が得られていませんでした。研究チームは、伸長したC-C単結合を持つ炭化水素の1電子酸化により、この珍しい結合を持つ化合分を合成しました。X線結晶構造解析やラマン分光法、理論計算などの手法を用いて、C•C 1電子σ結合(2.921(3) Åat 100 K)の存在を実験的・理論的に確認しました。

事前情報

  • 共有結合は通常2つの電子を共有して形成される

  • 1電子結合の存在は理論的に予測されていたが、特に炭素原子間では直接的証拠が得られていなかった

  • 1電子結合は本質的に弱いため、例が少ない

行ったこと

  • 伸長したC-C単結合を持つ炭化水素の1電子酸化による化合物の合成

  • 合成した化合物のX線結晶構造解析

  • ラマン分光法による分析

  • 密度汎関数理論(DFT)計算による理論的検証

検証方法

  • 単結晶X線回折分析

  • ラマン分光法

  • 密度汎関数理論(DFT)計算

分かったこと

  • C•C 1電子σ結合(2.921(3) Åat 100 K)の存在を実験的・理論的に確認

  • この結合は、約1世紀前に理論的に予測されていたものの直接的証拠が得られていなかった

研究の面白く独創的なところ

  • 炭素-炭素間の1電子結合の存在を初めて直接的に証明した

  • 複数の実験的・理論的手法を組み合わせて、結合の存在を多角的に検証している

  • 化学結合の概念を拡張し、新しい物質設計の可能性を示唆している

この研究のアプリケーション

  • 新しい化学反応や物質設計への応用

  • 結合状態と非結合状態の境界に関する理解の深化

  • 有機エレクトロニクスや触媒化学など、様々な化学分野への波及効果

著者と所属

  • Takuya Shimajiri 北海道大学理学部化学科、北海道大学創成研究機構

  • Soki Kawaguchi - 北海道大学理学部化学科

  • Takanori Suzuki - 北海道大学理学部化学科

詳しい解説

この研究は、化学結合の基本概念に新たな知見をもたらす画期的な成果です。通常、原子間の共有結合は2つの電子を共有することで形成されますが、1つの電子だけで結合する「1電子結合」の存在は長年推測されてきました。特に炭素原子間での1電子結合は、有機化学の根幹に関わる重要な概念でありながら、その直接的な証拠は得られていませんでした。
研究チームは、伸長したC-C単結合を持つ特殊な炭化水素分子を出発物質として用い、これを1電子酸化することで目的の化合物の合成に成功しました。得られた化合物について、X線結晶構造解析やラマン分光法などの実験的手法、そして密度汎関数理論(DFT)計算による理論的アプローチを組み合わせることで、C•C 1電子σ結合の存在を多角的に証明しています。
特筆すべきは、この1電子結合の長さが2.921(3) Å(100 Kでの測定)と、通常の炭素-炭素単結合(約1.54 Å)に比べて非常に長いことです。これは、1電子だけで結合が形成されているため、結合力が弱いことを示しています。
この発見は、化学結合の概念を拡張し、新しい物質設計への道を開く可能性があります。例えば、この特殊な結合を持つ分子は、従来にない電子的・光学的特性を示す可能性があり、有機エレクトロニクスや光機能性材料などの分野での応用が期待されます。また、結合状態と非結合状態の境界に関する理解を深めることで、化学反応メカニズムの解明や新しい触媒設計にも貢献する可能性があります。
約1世紀前に理論的に予測されながらも、直接的な証拠が得られていなかった炭素-炭素間の1電子結合の存在を実験的に証明したこの研究は、化学の基礎概念に新たな知見をもたらす重要な成果と言えるでしょう。


 窒素ドープされたアモルファス単層カーボンの革新的な合成と特性解明

窒素ドープされたアモルファス単層カーボン(NAMC)の新しい合成方法と特性が報告されました。この材料は、層状二重水酸化物(LDH)テンプレート内でピロールの重合により作製され、5員環、6員環、7員環が混在する独特の構造を持ちます。NAMCは約9%の窒素を含み、電気伝導性や光学特性において優れた特徴を示します。

事前情報

  • グラフェンなどの単原子層炭素材料は、優れた物理的特性と幅広い応用可能性から注目されている

  • これらの材料は主に化学気相成長法で作製されるが、溶液法での合成が望まれている

  • アモルファス単層カーボンは新しい炭素同素体として注目されている

行ったこと

  • LDHテンプレートを用いたピロールの重合による NAMCの合成

  • 走査型透過電子顕微鏡(STEM)、電子エネルギー損失分光法(EELS)などによる構造解析

  • 第一原理計算による電子構造の解明

  • 電界力顕微鏡(EFM)による電気特性の評価

  • 同様の手法を用いたポリチオフェンとポリカルバゾールの単層合成

検証方法

  • STEM-ADF イメージングによるアモルファス構造の直接観察

  • EELSによる窒素含有量の定量分析

  • 密度汎関数理論計算による形成エネルギーと電子構造の解析

  • EFMを用いたナノスケールでの電気特性評価

  • UV-Vis-NIR分光法によるバンドギャップ測定

分かったこと

  • NAMCは5-6-7員環が混在するアモルファス構造を持ち、約9%の窒素を含む

  • グラフェンと比べてNAMCへの窒素ドーピングの形成エネルギーが低い

  • NAMCは半導体的な特性を示し、バンドギャップは約1.7 eV

  • ナノスケールでの電荷キャリアの存在が確認された

  • 同様の手法でポリチオフェンやポリカルバゾールの単層合成も可能

この研究の面白く独創的なところ

  • 溶液プロセスによるアモルファス単層カーボンの合成に成功

  • LDHテンプレートを用いた空間制限重合という新しい合成戦略の提案

  • 5-6-7員環構造を持つ新しい炭素同素体の実現

  • 単層レベルでのアモルファス構造の直接観察に成功

  • 窒素ドーピングによる電子構造の制御

この研究のアプリケーション

  • 高性能電子デバイスや光電子デバイスへの応用

  • センサーや触媒材料としての利用

  • フレキシブルエレクトロニクスへの展開

  • エネルギー貯蔵デバイスへの応用

  • 新しい2次元共有結合ネットワーク材料の設計指針の提供

著者と所属

  • Xiuhui Bai 北京航空航天大学化学学院

  • Pengfei Hu - 北京航空航天大学化学学院

  • Ang Li - 北京航空航天大学物理学院

  • Lin Guo - 北京航空航天大学化学学院

詳しい解説

この研究は、窒素ドープされたアモルファス単層カーボン(NAMC)という新しい2次元材料の合成と特性解明に関するものです。従来のグラフェンや結晶性の単層カーボンとは異なり、NAMCは不規則な原子配列を持つアモルファス構造を特徴とします。
研究チームは、層状二重水酸化物(LDH)をテンプレートとして用い、その層間でピロールを重合させるという独創的な方法でNAMCを合成しました。この空間制限重合法により、原子1個分の厚さを持つ連続的なアモルファス層の形成に成功しました。
NAMCの構造は、最先端の走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて原子レベルで観察されました。その結果、5員環、6員環、7員環が混在する特異な構造が明らかになりました。また、電子エネルギー損失分光法(EELS)により、約9%の窒素が均一にドープされていることが確認されました。
理論計算により、NAMCへの窒素ドーピングはグラフェンよりも容易であることが示唆されました。これは、アモルファス構造特有の歪んだ格子が窒素原子の取り込みを促進するためと考えられます。
電気的特性については、電界力顕微鏡(EFM)を用いてナノスケールでの評価が行われました。その結果、NAMCが半導体的な性質を示し、電荷キャリアの存在が確認されました。光学測定からは、約1.7 eVのバンドギャップを持つことが分かりました。
さらに、研究チームは同様の合成手法を用いて、ポリチオフェンやポリカルバゾールの単層合成にも成功しました。これは、この合成戦略が様々な2次元共有結合ネットワーク材料の作製に応用できることを示しています。
NAMCの発見は、2次元材料科学に新しい可能性を開くものです。その独特の構造と特性は、次世代エレクトロニクス、センサー、エネルギーデバイスなど、幅広い分野での応用が期待されます。また、溶液プロセスによる合成が可能であることから、大規模生産や様々な形状への加工が容易になると考えられます。
この研究は、材料科学における新しい設計指針を提供するとともに、アモルファス構造を持つ2次元材料の可能性を示す重要な成果と言えます。


 設計された蛋白質により細胞内取り込みを誘導し、標的蛋白質の分解とシグナル増幅を実現

エンドサイトーシス(細胞内取り込み)を誘導するタンパク質を新たに設計し、それを用いて標的タンパク質の分解やシグナル伝達の増幅に成功した研究成果が報告されています。この新しいタンパク質は「EndoTag」と名付けられ、細胞表面の特定の受容体に結合することで、細胞内への取り込みを促進します。

事前情報

  • エンドサイトーシスは細胞が外部の物質を取り込む重要なプロセス

  • 既存の技術では、天然のリガンドを利用してタンパク質分解を誘導していたが、副作用や効率の面で課題があった

  • コンピューター支援によるタンパク質設計技術が進歩している

行ったこと

  • コンピューター設計により、4種類の異なる受容体(IGF2R、ASGPR、ソルチリン、トランスフェリン受容体)に結合するEndoTagを作成

  • EndoTagと標的タンパク質に結合する部分を融合させた「pLYTAC」を設計

  • pLYTACによる標的タンパク質の分解効率を細胞実験で検証

  • EndoTagを用いたシグナル伝達増幅システムを構築

  • マウスを用いたがんモデルでpLYTACの効果を検証

検証方法

  • 生化学的手法(BLI)によるEndoTagの結合親和性測定

  • フローサイトメトリーによる細胞内取り込み量の定量

  • ウェスタンブロットによる標的タンパク質分解の確認

  • 共焦点顕微鏡によるEndoTagのリソソームへの局在確認

  • マススペクトロメトリーによるプロテオーム解析

  • マウス腫瘍モデルにおける抗腫瘍効果の評価

分かったこと

  • 設計したEndoTagは、それぞれの受容体に高い親和性で結合し、効率的に細胞内に取り込まれた

  • pLYTACは細胞表面や可溶性の標的タンパク質を効率的に分解できた(最大80%以上の分解)

  • EndoTagを用いることで、人工的なシグナル伝達システムの活性を100倍に増幅できた

  • 抗PD-L1抗体とEndoTagの融合タンパク質は、マウス腫瘍モデルにおいて抗体単独よりも高い抗腫瘍効果を示した

  • EndoTagは遺伝子工学的に作製可能で、細胞から分泌させることもできた

研究の面白く独創的なところ

  • コンピューター設計により、天然のリガンドに依存しない新しいエンドサイトーシス誘導タンパク質を創出した点

  • 1つの技術で、タンパク質分解とシグナル増幅という異なる機能を実現した点

  • 完全にタンパク質だけで構成されているため、遺伝子工学的な操作が可能な点

  • 異なる受容体を標的とすることで、組織特異的な効果が期待できる点

この研究のアプリケーション

  • がん治療:腫瘍促進タンパク質の分解や免疫チェックポイント阻害剤の増強

  • 自己免疫疾患治療:自己抗体の除去

  • 細胞工学:人工的なシグナル伝達系の構築

  • タンパク質医薬品の細胞内送達効率の向上

  • 基礎研究:特定のタンパク質の機能解析ツールとしての利用

著者と所属

Buwei Huang, Mohamad Abedi, Green Ahn, Brian Coventry - ワシントン大学生化学部、タンパク質設計研究所

David Baker - ワシントン大学生化学部、タンパク質設計研究所、ハワードヒューズ医学研究所

詳しい解説

この研究は、タンパク質工学とコンピューター支援設計を駆使して、細胞の物質取り込み機構(エンドサイトーシス)を人為的に制御する新しい方法を開発したものです。
研究チームは、まず4種類の異なる細胞表面受容体(IGF2R、ASGPR、ソルチリン、トランスフェリン受容体)に結合する小さなタンパク質「EndoTag」をコンピューターで設計しました。これらのEndoTagは、それぞれの受容体に高い親和性で結合し、効率的に細胞内に取り込まれることが確認されました。
次に、EndoTagと標的タンパク質に結合する部分を融合させた「pLYTAC」を設計しました。pLYTACは、細胞表面や可溶性の標的タンパク質を効率的に分解できることが示されました。例えば、がん細胞の増殖に関わるEGFRタンパク質を80%以上分解することに成功しています。
さらに興味深いことに、EndoTagを使うことで人工的なシグナル伝達システムの活性を100倍に増幅できることも分かりました。これは、一部のシグナル伝達が細胞内小胞(エンドソーム)で行われることを利用したものです。
実際の治療への応用可能性を示すため、研究チームは抗PD-L1抗体(がん免疫療法で使用)とEndoTagの融合タンパク質を作製し、マウスの腫瘍モデルで検証しました。その結果、抗体単独よりも高い抗腫瘍効果が得られました。
この技術の大きな利点は、完全にタンパク質だけで構成されているため、遺伝子工学的な操作が可能な点です。例えば、細胞にEndoTag融合タンパク質を分泌させることで、局所的な効果を発揮させることができます。
また、異なる受容体を標的とすることで、組織特異的な効果が期待できます。例えば、ASGPRを標的とすれば肝臓特異的に、ソルチリンを標的とすれば神経系特異的に作用させることができる可能性があります。
この研究成果は、がん治療や自己免疫疾患治療、細胞工学など、幅広い分野への応用が期待されます。標的タンパク質の分解や、シグナル伝達の増幅という2つの異なるアプローチを1つの技術で実現できる点が、非常に画期的だと言えるでしょう。
今後は、より多様な標的に対するEndoTagの開発や、実際の治療応用に向けた安全性・有効性の検証が進められていくものと考えられます。


 過去の氷河期の変化が、将来のエルニーニョ現象の極端化を裏付ける

過去2万1000年前の最終氷期最盛期(LGM)から現在までの気候シミュレーションを行い、エルニーニョ-南方振動(ENSO)の変動を分析した。LGMではENSO変動が弱く、極端なエルニーニョの頻度が低かった。これは古気候データと一致する。温暖化が進むと逆に極端なエルニーニョの頻度が増加すると予測される。過去と将来の変化を結びつける共通のメカニズムを特定し、将来予測の信頼性を高めた。

事前情報

  • エルニーニョ-南方振動(ENSO)は、太平洋の海面水温と大気の変動

  • 過去の気候変動と将来予測の関係は不明確だった

  • 気候モデルによる将来予測の検証が課題

行ったこと

  • 最終氷期最盛期(LGM)から現在までの気候シミュレーション

  • 古気候データ(有孔虫の個体分析)との比較

  • ENSOの変動メカニズムの分析

検証方法

  • 気候モデル(CESM1.2)による過去2万1000年間のシミュレーション

  • 有孔虫の個体分析による古気候データとの比較

  • 熱収支解析によるENSO変動メカニズムの解明

分かったこと

  • LGMではENSO変動が弱く、極端なエルニーニョの頻度が低かった

  • 温暖化が進むと極端なエルニーニョの頻度が増加する

  • 過去と将来の変化を結びつける共通のメカニズムを特定

研究の面白く独創的なところ

  • 過去の気候変動データを用いて将来予測を検証する新しいアプローチ

  • ENSOの変動メカニズムを過去から未来まで一貫して説明

  • 古気候データと気候モデルを組み合わせた包括的な分析

この研究のアプリケーション

  • より信頼性の高い将来の気候変動予測

  • 極端な気象現象に対する防災・減災対策の改善

  • 気候変動の影響を受けやすい産業(農業、漁業など)の長期計画立案

著者と所属

  • Kaustubh Thirumalai アリゾナ大学地球科学部

  • Pedro N. DiNezio - コロラド大学ボルダー校大気海洋科学部

  • Judson W. Partin - テキサス大学オースティン校地球物理学研究所

詳しい解説

この研究は、過去の気候変動データを用いて将来の気候予測を検証するという新しいアプローチを採用しています。具体的には、最終氷期最盛期(LGM、約2万1000年前)から現在までの気候をシミュレーションし、エルニーニョ-南方振動(ENSO)の変動を分析しました。
研究チームは、最新の気候モデル(CESM1.2)を使用して過去2万1000年間のシミュレーションを行い、ENSOの変動を調べました。その結果、LGMではENSOの変動が弱く、極端なエルニーニョの頻度が低かったことが分かりました。これは、有孔虫の殻に記録された古気候データとも一致しています。
さらに、熱収支解析を行い、ENSOの変動メカニズムを詳細に調べました。その結果、過去と将来の変化を結びつける共通のメカニズムを特定することができました。このメカニズムによると、温暖化が進むと逆に極端なエルニーニョの頻度が増加すると予測されます。
この研究の独創的な点は、過去の気候変動データを用いて将来予測を検証するアプローチです。これにより、気候モデルによる将来予測の信頼性を高めることができます。また、ENSOの変動メカニズムを過去から未来まで一貫して説明できた点も重要です。
この研究結果は、より信頼性の高い将来の気候変動予測につながります。特に、極端な気象現象に対する防災・減災対策の改善や、気候変動の影響を受けやすい産業(農業、漁業など)の長期計画立案に役立つと考えられます。


 バクテリアの遺伝子内部での逆位が、1つの遺伝子から複数のタンパク質を生成する新たな仕組みを解明

バクテリアの遺伝子内で起こるDNA配列の反転(イントラジェニック・インバートン)が、1つの遺伝子から複数のタンパク質を生成する新たな機構を明らかにした研究です。この現象により、バクテリアはゲノムサイズを増やすことなく、コード能力を拡張し、より多様なタンパク質を生成できることが示されました。

事前情報

  • バクテリアの個体群は完全に均一ではなく、異なる表現型を持つサブグループを含むことがある

  • フェーズ変異は、バクテリアが遺伝子発現レベルを変化させる可逆的なメカニズムの1つ

  • DNAの反転は、プロモーターの向きを変えることで、隣接する遺伝子の転写をオン/オフする

行ったこと

  • PhaVaという長鎖シーケンシングデータからDNA反転を同定する計算ツールを開発

  • バクテリアと古細菌の分離株ゲノムで372の「イントラジェニック・インバートン」を同定

  • 腸内共生細菌Bacteroides thetaiotaomicronで10個のイントラジェニック・インバートンを検証

  • チアミン生合成遺伝子thiCのイントラジェニック・インバートンを実験的に特徴づけ

検証方法

  • 長鎖シーケンシングデータを用いたイントラジェニック・インバートンの同定と解析

  • PCRによるイントラジェニック・インバートンの確認

  • thiC遺伝子の順方向・逆方向の固定株の作製と競合実験

  • RNA-seqとプロテオミクス解析によるthiC遺伝子発現とタンパク質生成の評価

分かったこと

  • イントラジェニック・インバートンは遺伝子内でDNA配列が反転する現象

  • この反転により、1つの遺伝子から2つ以上の異なるタンパク質が生成される

  • B. thetaiotaomicronのthiC遺伝子では、反転によりチアミン生合成能力が変化する

  • イントラジェニック・インバートンは様々な細菌種で広く存在している

研究の面白く独創的なところ

  • 従来知られていなかった遺伝子内部でのDNA反転現象を発見

  • 1つの遺伝子から複数のタンパク質を生成する新たなメカニズムを解明

  • ゲノムサイズを増やさずにタンパク質の多様性を増す戦略を明らかにした

この研究のアプリケーション

  • バクテリアの適応メカニズムや進化の理解の深化

  • 新たな抗生物質ターゲットの発見につながる可能性

  • 合成生物学での遺伝子設計の新たな手法開発への応用

  • 微生物叢の機能や動態の理解への貢献

著者と所属

  • Rachael B. Chanin スタンフォード大学医学部血液内科

  • Patrick T. West - スタンフォード大学医学部血液内科

  • Jakob Wirbel - スタンフォード大学医学部血液内科

  • Ami S. Bhatt - スタンフォード大学医学部血液内科、遺伝学部

詳しい解説

本研究は、バクテリアの遺伝子内で起こるDNA配列の反転現象「イントラジェニック・インバートン」を発見し、その機能と意義を明らかにしました。
研究チームはまず、長鎖シーケンシングデータからDNA反転を同定する計算ツール「PhaVa」を開発しました。このツールを用いて、様々なバクテリアと古細菌の分離株ゲノムを解析し、372のイントラジェニック・インバートンを同定しました。
特に注目したのは、腸内共生細菌Bacteroides thetaiotaomicronです。この細菌で10個のイントラジェニック・インバートンを検証し、さらにチアミン生合成遺伝子thiCに焦点を当てて詳細な解析を行いました。
thiC遺伝子のイントラジェニック・インバートンでは、DNA配列の反転によって2つの異なるタンパク質が生成されることがわかりました。順方向の配列では完全長のThiCタンパク質が作られ、逆方向の配列では短縮型のThiCタンパク質が生成されます。これらのタンパク質はチアミン生合成能力に影響を与え、バクテリアの生存戦略に関わっていると考えられます。
研究チームは、thiC遺伝子の順方向・逆方向を固定した株を作製し、競合実験を行いました。その結果、チアミン濃度の異なる環境下で、それぞれの株が異なる増殖優位性を示すことが明らかになりました。これは、イントラジェニック・インバートンがバクテリアの環境適応に重要な役割を果たしていることを示唆しています。
さらに、RNA-seqとプロテオミクス解析により、thiC遺伝子の発現とタンパク質生成を詳細に調べました。その結果、イントラジェニック・インバートンが転写後制御にも影響を与えていることが示唆されました。
この研究の重要性は、1つの遺伝子から複数のタンパク質を生成する新たなメカニズムを解明した点にあります。これにより、バクテリアがゲノムサイズを増やすことなく、タンパク質の多様性を増す戦略を獲得していることが明らかになりました。
イントラジェニック・インバートンは、B. thetaiotaomicron以外の様々な細菌種でも広く存在していることが示されました。このことは、この現象がバクテリアの進化や適応において普遍的な役割を果たしている可能性を示唆しています。
この発見は、バクテリアの適応メカニズムや進化の理解を深めるだけでなく、新たな抗生物質ターゲットの発見や合成生物学での応用など、幅広い分野に影響を与える可能性があります。また、微生物叢の機能や動態の理解にも新たな視点をもたらすと期待されます。


最後に
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