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論文まとめ337回目 Nature ひずみ工学による熱伝導の劇的な制御!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

The rise of baobab trees in Madagascar
マダガスカルのバオバブ属の進化
「バオバブの木は特徴的な姿形と動物との関係性で知られる魅力的な植物だ。8種のバオバブのゲノム解読とマダガスカル島の地史の分析から、現存種の起源と多様化の歴史が明らかに。種間の交雑や地理的隔離がバオバブの多様性を生んだ一方、絶滅危惧種の保全にも課題が残る。バオバブからマダガスカルの自然史の謎に迫る研究だ。」

Wavefunction matching for solving quantum many-body problems
波動関数マッチングによる量子多体問題の解決
「ミッドマッチング法は、二体相互作用に有限の範囲で変換を施すことで、計算困難な高精度なハミルトニアンを、計算容易な単純ハミルトニアンに近づけます。これにより、量子モンテカルロ法などの手法で計算不可能だった量子多体系の計算が可能になります。この方法を用いて、軽い原子核から中程度の質量の原子核、中性子物質、原子核物質までの幅広い原子核系の第一原理計算を行い、実験データとよく一致する結果が得られました。また、原子核の束縛エネルギー、電荷半径、核物質の飽和などの長年の課題の解決に向けた新たな知見も得られました。ミッドマッチング法は原子核物理だけでなく、あらゆる量子多体系に適用可能な汎用性の高い画期的手法です。」

Temporal multiplexing of perception and memory codes in IT cortex
ITコーテックスにおける知覚と記憶コードの時間的多重化
「顔を見たときの脳の応答を調べると、下側頭葉の「顔パッチ」と呼ばれる領域のニューロンが活発になる。このニューロンは初め顔の特徴を表現するが、よく知っている顔の場合、少し遅れて応答パターンが変化し、「記憶コード」に切り替わることが分かった。つまり、同じニューロンが、知覚と記憶を時間差で表現している。記憶を司る海馬との関係も調べたが、顔パッチ内部の仕組みで記憶コードが作られていた。」

Volatile working memory representations crystallize with practice
学習で揮発性の作業記憶表現が結晶化する
「マウスに2つの匂いを記憶させ、5秒後にどちらの匂いだったかを当てさせる作業記憶課題を訓練しました。二次運動野の神経活動を1ヶ月以上記録したところ、課題習熟中は記憶保持に関わる神経活動パターンが日々変化していましたが、習熟後も訓練を続けると安定化することがわかりました。記憶痕跡は当初は不安定ですが、訓練を重ねることで結晶化されることが明らかになりました。」

Suppressed thermal transport in silicon nanoribbons by inhomogeneous strain
シリコンナノリボンにおいて不均一ひずみによって抑制された熱輸送
「シリコンナノリボンを曲げることで不均一なひずみを加えると、熱伝導率が最大34%も低下することが明らかになりました。ひずみの傾きにより、フォノンのピークがずれ、フォノン散乱が増大して熱輸送が阻害されるためです。均一なひずみでは見られない現象で、材料の熱特性を制御する新たな方法として期待されます。」


要約

ゲノム解析と生態学的解析により、マダガスカルがバオバブの多様化の中心地であることが明らかになった。

バオバブはその特徴的な樹形と動物との関係性から、注目を集めてきた。今回、8種のバオバブのゲノムが解読され、マダガスカルがバオバブの多様化の中心地であることが明らかになった。ゲノムと生態の統合解析により、バオバブが種間交雑を繰り返しながら進化し、現在の多様性に至ったことが示唆された。マダガスカルのバオバブの個体群動態は、種間競争と島の地史、特に海水準変動の影響を受けてきたと考えられる。マダガスカルのバオバブ、特にAdansonia suarezensisとAdansonia grandidieriの保全状況に注意を払う必要がある。また、絶滅危惧種のAdansonia perrieriに悪影響を及ぼす可能性があるAdansonia zaの個体群モニタリングが必要だ。

事前情報

  • バオバブは特徴的な樹形と動物との関係性で注目されてきた

  • バオバブの系統関係や起源については議論があった

  • マダガスカルには6種の固有バオバブが生息

行ったこと

  • 8種のバオバブのゲノム解読

  • ゲノムと生態の統合解析

  • 過去の個体群動態の推定

検証方法

  • ゲノム配列からの系統解析

  • 種間の遺伝子流動の検出

  • 生態的地位の比較

  • 過去の生息域の推定

分かったこと

  • マダガスカルがバオバブの多様化の中心地

  • 種間交雑を繰り返しながら現在の多様性に至った

  • 個体群動態は種間競争と海水準変動の影響を受けた

  • 絶滅危惧種の保全に課題

研究の面白く独創的なところ

  • ゲノムと生態から総合的にバオバブの進化を解明

  • マダガスカル島の地史とバオバブの関係性を示唆

  • 保全につながる新知見

この研究のアプリケーション

  • バオバブの保全戦略への応用

  • 植物の多様化メカニズムの理解

  • 海水準変動が島嶼の生物多様性に及ぼす影響の解明

著者と所属
Jun-Nan Wan, 中国科学院武漢植物園 Sheng-Wei Wang, 中国科学院武漢植物園 Andrew R. Leitch, ロンドン大学クイーンメアリー校

このバオバブのゲノム研究は、マダガスカルがバオバブの多様性の発祥の地であることを明らかにしました。高精度のゲノム解読により、種間交雑を繰り返しながら現在の多様性に至ったバオバブの進化の歴史が浮き彫りになりました。また、マダガスカル島の海水準変動などの地史がバオバブの分布に影響を与えてきたことが示唆されました。絶滅危惧種の保全にも課題が残る一方、この研究成果はバオバブの保全戦略に役立つと期待されます。高度なゲノム解析と生態学的解析を組み合わせ、マダガスカルの固有植物の進化の謎に迫ったユニークな研究と言えるでしょう。バオバブを通して、島の自然史や生物多様性の成り立ちを理解する手がかりが得られそうです。


量子多体問題の計算を可能にする画期的手法

ミッドマッチング法は、計算が難しい高精度ハミルトニアンを計算が容易な単純ハミルトニアンに近づける手法です。二体相互作用に有限の範囲で変換を施すことで、高精度ハミルトニアンの基底状態波動関数を、その範囲内で単純ハミルトニアンの基底状態波動関数に一致させます。これにより、単純ハミルトニアンからの摂動展開が高速に収束するようになります。
この手法を用いて、カイラル有効場の理論に基づく高精度な核力を用いた原子核の格子量子モンテカルロ計算を行いました。軽い原子核から中程度の質量の原子核、中性子物質、対称核物質までの幅広い系で計算を行い、実験値とよく一致する結果が得られました。また、3核力の短距離部分を調整することで、原子核の束縛エネルギーや電荷半径、核物質の飽和点などの再現に関する長年の課題の解決に向けた知見が得られました。
ミッドマッチング法は量子モンテカルロ法に限らず、あらゆる量子多体計算手法と組み合わせ可能であり、原子核物理以外の量子多体系にも適用できる汎用性の高い画期的な手法です。量子コンピュータのアルゴリズムにも応用でき、必要なゲート数を減らすことができます。計算が難しかった様々な量子多体問題の解決に道を拓く手法として大いに期待されます。

事前情報

  • ab initio計算は量子多体系の理解に不可欠だが、複雑な相互作用の扱いが課題

  • 単純なハミルトニアンでも実験と合う結果が出せるが、現実的なハミルトニアンは符号問題のため計算不可能

行ったこと

  • ミッドマッチング法を提案。高精度ハミルトニアンを単純ハミルトニアンに一致させる変換を施す

  • カイラル有効場の理論の核力を用いた原子核の格子量子モンテカルロ計算

  • 軽い原子核から中質量核、中性子物質、対称核物質までの計算

検証方法

  • 2H、3H、4Heの束縛エネルギーの計算とTjonバンドとの比較

  • 質量数58までの原子核の基底・励起状態エネルギー・電荷半径の計算と実験値との比較

  • 中性子物質と対称核物質のエネルギー密度関係の計算と他の理論との比較

分かったこと

  • ミッドマッチング法により、単純ハミルトニアンからの摂動が高速に収束

  • 軽核から中質量核、中性子物質、核物質まで実験とよく合う結果

  • 3核力の短距離部分の調整で、束縛エネルギー、電荷半径、核物質飽和の課題解決の糸口

研究の面白く独創的なところ

  • ミッドマッチングという独創的なアイデアで、計算不可能だった量子多体系が計算可能に

  • 原子核物理の難題に挑み、全面的に実験と合う結果を導いた

  • 手法自体が量子モンテカルロ法に限らず様々な手法と組み合わせ可能な汎用性の高さ

この研究のアプリケーション

  • 原子核構造の第一原理計算を飛躍的に進歩させ、原子核物理学に大きなインパクト

  • 量子化学、強相関電子系、冷却原子気体など他の量子多体系への適用

  • 量子コンピュータのアルゴリズムへの応用により、必要なゲート数の削減

著者と所属
Serdar Elhatisari (Gaziantep Islam Science and Technology University), Lukas Bovermann (Ruhr-Universität Bochum), Yuan-Zhuo Ma (Michigan State University, South China Normal University)…

この論文では、ミッドマッチング法という独創的なアイデアにより、それまで計算が困難だった高精度な核力を用いた原子核の量子多体計算が可能になりました。カイラル有効場の理論による核力を用いて、軽い原子核から中程度の質量の原子核、さらには中性子物質や対称核物質まで幅広い系の性質を系統的に計算し、実験値をよく再現する結果を得ました。
また3体力の短距離部分を調整することで、原子核の束縛エネルギーや電荷半径、核物質の飽和密度などの再現における長年の難題の解決に向けた重要な知見も得られました。ミッドマッチング法は原子核物理に限らず、量子化学や強相関電子系、冷却原子気体など様々な量子多体問題に応用可能で、量子コンピュータのアルゴリズムにも適用できるなど、汎用性の高い画期的な手法です。
この研究は原子核物理学に大きなブレイクスルーをもたらし、「原子核の第一原理計算における新時代の幕開け」と言っても過言ではないでしょう。計算科学と理論物理学の見事な融合から生まれたミッドマッチング法により、より精密な原子核構造の理解が飛躍的に進むことが期待されます。


下側頭葉の顔パッチには、顔の知覚と記憶を時間差で表現するニューロンが存在する。

神経科学の中心的な仮説は、長期記憶は感覚刺激をコード化する脳領域によって表現されるというものである。下側頭葉(IT)のニューロンは、分散した軸コードを用いて視覚対象の知覚表現を担う。しかし、同じIT神経集団が視覚対象の長期記憶をどのように表現するのかは不明であった。 本研究では、ITの前部内側顔パッチ(AM)、周嗅領顔パッチ(PR)、側頭極顔パッチ(TP)において、既知の顔がどのようにコード化されているかを調べた。AMとPRでは、既知の顔に対するコーディング軸が未知の顔に対するものから長い潜時で回転していることが観察された。TPではこの記憶関連の回転ははるかに弱かった。先行研究の主張とは対照的に、既知顔と未知顔に対する相対的な応答の大きさは、どのパッチでも親近性の安定した指標ではなかった。 PRを不活性化してもAMの軸変化のダイナミクスに影響しなかったことから、この機構はITコーテックス内部に固有のものであると考えられる。 全体として、本研究の結果は、AMと周嗅領皮質において、既知の顔の記憶が独特の長潜時コードによって表現されていることを示唆している。これにより、同じ細胞集団が顔の知覚と記憶の両方をコード化する仕組みが説明できる。

事前情報

  • 長期記憶は感覚刺激をコード化する脳領域によって表現されると考えられている

  • ITニューロンは分散した軸コードを用いて視覚対象の知覚表現を担う

  • 同じITニューロン集団が視覚対象の長期記憶をどのようにコード化するかは不明だった

行ったこと

  • ITのAM、PR、TPにおいて、既知の顔のコード化を調べた

  • PRを不活性化し、AMの応答への影響を調べた

  • 中間側面顔パッチ(ML)でも既知顔の表現を調べた

検証方法

  • サルの顔パッチAM、PR、TPからニューロン活動を記録

  • 個人的に既知の顔、未知の顔、物体に対する応答を比較

  • 1000枚の未知の顔を用いて顔の軸表現を解析

  • 軸類似度、線形デコーディング、応答の潜時解析などを実施

  • PRを薬理学的に不活性化し、AMの応答変化を調べた

分かったこと

  • AMとPRでは、長い潜時で既知顔に対する選好軸が未知顔から乖離する

  • 軸の乖離は応答の単純な増減では説明できず、幾何学的な変化である

  • TPでは軸の乖離は弱かった

  • 既知・未知顔に対する応答の相対的大きさは文脈に依存し、安定しない

  • PRの不活性化はAMの軸変化に影響せず、軸変化はIT内部の機構と考えられる

この研究の面白く独創的なところ

  • ITニューロンが知覚と記憶を時間的に多重化してコード化していることを発見

  • 記憶表現が応答の増減ではなく、幾何学的な軸の変化であることを示した

  • 軸変化が周嗅領からのフィードバックに依存しないIT固有の機構であることを示唆

  • 記憶コードが知覚コードに重畳する仕組みを明らかにした

この研究のアプリケーション

  • 記憶痕跡の脳内表現の解明

  • 記憶が知覚に与える影響の理解

  • ニューラルネットワークにおける記憶と知覚の融合の実装

  • 記憶障害のメカニズム解明と治療法開発への示唆

著者と所属
Liang She, Doris Y. Tsao (Division of Biology and Biological Engineering, Caltech)

詳しい解説
本研究は、サルの下側頭葉(IT)において、顔の長期記憶が知覚表現とどのように関係しているかを探究した画期的な研究です。ITは視覚物体認識において中心的な役割を果たすことが知られており、特に顔選択的な領域(顔パッチ)が存在します。先行研究から、ITニューロンは視覚的な顔の特徴を分散した軸上にコード化していることが分かっていました。しかし、同じニューロン集団が個人的に親しみのある顔をどのように表現するのかは明らかではありませんでした。
研究チームは、ITの異なる顔パッチ(AM、PR、TP)から詳細にニューロン活動を記録し、個人的に既知の顔、未知の顔、物体に対する応答を比較しました。すると興味深いことに、AMとPRにおいて、既知の顔を表現する選好軸が、未知の顔に対するものから長い潜時(100-300ミリ秒)で乖離することを発見しました。一方、TPではこの乖離ははるかに小さいものでした。
従来、既知の顔に対する応答の減弱(repetition suppression)が親近性のニューラルな指標と考えられてきました。しかし本研究では、既知顔と未知顔に対する応答の相対的な大きさが、刺激の提示頻度など文脈に大きく依存することが明らかになりました。つまり、応答の大きさは必ずしも親近性を反映しているわけではないのです。
さらに研究チームは、周嗅領皮質のPRを薬理学的に不活性化し、AMの応答への影響を調べました。PRはITへのフィードバック投射が知られており、記憶関連シグナルの起源である可能性が考えられました。しかし驚くべきことに、PRの不活性化はAMでの軸変化のダイナミクスに影響しなかったのです。このことから、軸変化を生み出す機構はIT内部に固有のものであり、PRからのフィードバックには依存しないことが示唆されました。
本研究は、ITが顔の知覚表現と記憶表現を巧みに両立させていることを明らかにしました。ニューロンは初期には主に知覚的な顔の特徴を表現しますが、その後、既知の顔に対してのみ応答パターンを変化させ、記憶表現へと移行するのです。つまり、同じニューロン集団が知覚と記憶を時間的に多重化してコード化しているわけです。この知見は、感覚野が長期記憶も担うという神経科学の古典的な仮説を裏付けるとともに、その具体的な仕組みに新たな光を当てるものです。
このような記憶コードの重畳が、既知の顔のより効率的な認識を可能にしているのかもしれません。一方で、軸の変化は外部からの手がかりに基づいて既知の顔の特徴を再構成するためのものかもしれません。いずれにせよ、感覚表現を安定に保ちつつ記憶痕跡を埋め込むための巧妙な神経メカニズムが明らかになったと言えるでしょう。
本研究は、知覚と記憶の相互作用を理解する上で重要な意義を持ちます。今後、この知見を手がかりとして、記憶が知覚に及ぼす影響のより詳細なメカニズムが解明されることが期待されます。また、本研究で見出された神経表現は、ニューラルネットワークモデルに記憶と知覚を融合する新たな方法を示唆するものです。基礎的な理解にとどまらず、将来的には記憶障害のメカニズム解明や治療法の開発にもつながるかもしれません。知覚と記憶の関係性について、私たちの理解を大きく前進させた極めて意義深い研究だと言えるでしょう。


マウスの作業記憶課題遂行中の大脳皮質神経活動を長期間記録し、作業記憶表現の動的変化と安定化を明らかにした。

マウスに匂いの組み合わせを記憶させ、遅延期間をおいてどちらの匂いだったかを当てさせる課題を訓練した。二次運動野の神経活動を長期間記録したところ、課題習熟中は遅延後期の記憶関連活動が日毎に変化したが、習熟後も訓練を続けると安定化した。光遺伝学で遅延後期の活動を阻害すると課題成績が低下したが、学習は阻害されなかった。記憶痕跡は当初不安定だが、訓練で結晶化されることが示唆された。

事前情報

  • 作業記憶は情報を一時的に保持・操作する認知機能で、多くの脳領域が関与する

  • 作業記憶の神経メカニズムとして、持続発火やシーケンス活動、oscillationなどのモデルがある

  • 作業記憶の神経表現が学習・長期訓練でどう変化するかは不明だった

行ったこと

  • マウスに匂いの組み合わせを記憶させ、5秒後にどちらの匂いだったかを当てさせる課題を訓練

  • 二次運動野の神経活動をカルシウムイメージングと電気生理学で1ヶ月以上記録

  • 課題中の様々な時間枠で匂い・選択の情報をデコーディング

  • 遅延後期の活動を光遺伝学で阻害し、課題成績への影響を調べた

検証方法

  • 二光子顕微鏡によるカルシウムイメージングと光ファイバーを用いた電気生理学

  • SVMとLSTMを用いた神経活動からの匂いと選択のデコーディング

  • 課題訓練中のマウスでのカルシウムイメージングと行動解析

  • 遅延後期の二次運動野の活動を阻害する光遺伝学と行動解析

分かったこと

  • 課題習熟中のマウスでは、遅延後期の記憶関連活動パターンが日毎に変化した

  • 習熟後もさらに訓練を続けると、遅延後期の活動パターンが徐々に安定化した

  • 遅延後期や選択期の活動を阻害すると課題成績が下がったが、学習は阻害されなかった

  • 浅い層よりも深い皮質層で、遅延期の匂い情報の表現がより安定していた

この研究の面白く独創的なところ

  • 1ヶ月以上という長期間にわたって同じ神経集団の活動を記録し、作業記憶の神経基盤の変化を追跡した点

  • 課題習熟中は記憶痕跡が不安定で日毎に変化するが、習熟後も訓練を続けることで安定化するという新しい知見を見出した点

  • 課題成績に必須の遅延後期活動を阻害しても学習は阻害されないという、パフォーマンスと学習の解離を示した点

  • 浅い層よりも深い皮質層で記憶表現がより安定という、層特異的な結果を見出した点

この研究のアプリケーション

  • 作業記憶の神経基盤の理解に基づく、認知機能障害の病態解明と治療法開発への応用

  • 記憶痕跡の不安定性を標的とした、柔軟な作業記憶の実現に向けた BMIなどの技術開発

  • 作業記憶の長期的な可塑的変化の解明に基づく、効果的な認知訓練プログラムの開発

  • 皮質の層特異的な機能理解に基づく、層ごとの選択的な操作技術の開発

著者と所属
Arash Bellafard, Ghazal Namvar, Peyman Golshani (Department of Neurology, David Geffen School of Medicine, University of California, Los Angeles, USA)
Jonathan C. Kao (Department of Electrical and Computer Engineering, Henry Samueli School of Engineering, University of California, Los Angeles, USA)
Alipasha Vaziri (Laboratory of Neurotechnology and Biophysics, The Rockefeller University, New York, USA)

本研究は、マウスに匂いの組み合わせを記憶させ、5秒後にどちらの匂いだったかを答えさせる作業記憶課題を1ヶ月以上にわたって訓練し、課題遂行中の二次運動野の神経活動を長期間記録することで、作業記憶の神経表現の動的な変化を明らかにしました。
課題習熟中のマウスでは、遅延期間後半の記憶関連活動パターンが日毎に大きく変化しましたが、習熟後もさらに訓練を続けていくと、その活動パターンが徐々に安定化していくことがわかりました。一方、遅延後期や選択期の活動を光遺伝学で阻害すると課題成績は下がりましたが、学習そのものは阻害されませんでした。また、浅い皮質層よりも深い層で、遅延期の匂い情報の表現がより安定しているという層特異的な結果も見出されました。
本研究から、作業記憶の神経表現は、課題学習の初期には不安定で日毎に変化するが、十分な訓練を積み重ねることで徐々に結晶化され、安定した表現が形成されることが示唆されました。また、パフォーマンスに必須の神経活動を阻害しても学習は阻害されない、という行動レベルと学習レベルの解離も興味深い発見でした。
従来の作業記憶研究の多くは訓練後の安定的な活動パターンに注目してきましたが、本研究は記憶痕跡の不安定さから安定性への移行に着目し、長期の神経活動記録によってそのダイナミックな変化を捉えた点で画期的だと言えます。今回明らかになった知見は、作業記憶の柔軟性と安定性のメカニズム解明や、認知機能障害の病態理解、効果的な認知訓練法の開発など、様々な応用に繋がることが期待されます。


ひずみ工学による熱伝導の劇的な制御

シリコンナノリボンに不均一なひずみを加えることで、熱伝導率が大幅に低下することを発見した。ナノスケールの非一様ひずみによりフォノンスペクトルがブロードになり、フォノン散乱が増大して熱輸送が阻害されるためである。均一ひずみでは見られない現象であり、材料の熱特性制御に新たな可能性を示した。

事前情報

  • ナノスケール構造体では、極端なひずみにより特異な物性が発現する。

  • 均一ひずみの熱伝導への影響は限定的だが、不均一ひずみの影響は不明だった。

  • 界面や欠陥の影響が重畳するため、純粋なひずみ効果の解明が難しかった。

行ったこと

  • シリコンナノリボンを曲げることで不均一ひずみを導入し、熱伝導率を測定

  • 電子エネルギー損失分光法(EELS)により、ひずみ勾配に沿ったフォノンスペクトルをサブナノスケールで計測

  • 第一原理計算により、不均一ひずみ下のフォノン輸送を理論的に解析

検証方法

  • マイクロデバイス上のシリコンナノリボンを曲げ、不均一ひずみを導入

  • EELSを用いて局所フォノンスペクトルをサブナノスケールで計測

  • ひずみ勾配に沿ったフォノンピークシフトを解析

  • 第一原理計算により不均一ひずみ下のフォノン散乱を評価

分かったこと

  • 0.112%/nmのひずみ勾配により、熱伝導率が34±5%低下した。

  • 均一ひずみでは熱伝導率はほぼ一定であり、不均一ひずみ特有の現象である。

  • ひずみ勾配に沿って、フォノンピークがシフトし、スペクトルがブロードになる。

  • 不均一ひずみによるフォノンスペクトルの変調が、フォノン散乱を増大させ熱輸送を阻害する。

研究の面白く独創的なところ

  • 不均一ひずみが熱伝導に及ぼす影響を、純粋に抽出することに成功した。

  • EELSを用いてフォノンスペクトルをサブナノスケールで可視化した。

  • 均一ひずみでは見られない新奇な現象を発見し、熱輸送の制御に新たな知見を与えた。

この研究のアプリケーション

  • ひずみ工学による材料の熱物性制御技術への応用

  • 高効率な熱マネジメントが求められるエレクトロニクス分野への展開

  • ナノスケール構造体におけるフォノン輸送の理解に基づく新規材料設計

著者と所属
Lin Yang, Peking University Shengying Yue, Xi’an Jiaotong University Peng Gao, Peking University

詳しい解説
この研究では、シリコンナノリボンに曲げ応力を加えることで不均一なひずみを導入し、その熱伝導特性への影響を調べました。マイクロデバイス上に配置したシリコンナノリボンを曲げ、ひずみ勾配を0.112%/nmまで制御しながら、熱伝導率の測定を行いました。その結果、熱伝導率が最大で34±5%も低下することが明らかになりました。一方、比較のために行った均一ひずみ下の測定では、熱伝導率はほとんど一定でした。
この不均一ひずみ特有の熱伝導率低下のメカニズムを解明するため、電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いて、ひずみ勾配に沿った局所フォノンスペクトルをサブナノメートルの空間分解能で計測しました。その結果、ひずみ勾配によりフォノンピークがシフトし、スペクトルがブロード化することが分かりました。第一原理計算によるシミュレーションの結果、このフォノンスペクトルの変調効果が、フォノン散乱を増大させ、熱伝導率を大幅に低下させることが示唆されました。
本研究は、ナノスケール構造体における不均一ひずみが熱輸送特性に及ぼす影響を、純粋に抽出して解明した点で意義深いものです。均一ひずみでは見られないこの新奇な現象は、ひずみ工学による材料の熱物性制御という新たな可能性を示すものです。高効率な熱マネジメントが求められるエレクトロニクスをはじめとする様々な分野への応用が期待されます。



最後に
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