見出し画像

所詮は遊び/所詮は日常/所詮は人生『ボドゲデイズ』感想

0.はじめに

思ってたより動くメロンパン(以下、動メロ)の新士悟です。
先日2023/5/21に開催された文学フリマ東京36にサークルとして参加しました。

動メロで文フリ東京に参加するのは二回目、個人参加も含めれば四回目の参加でした。動メロのホームは文フリ福岡なのだけど、東京に参加すると毎回規模のデカさにびびりますね。端に立つと対向が見通せないもの。さらに第二会場に足を踏み入れた時は「まだ……こんなに世界が広がっているだと……!?」と二度ビビりました。来場者の数も歴代トップだったみたいですね。底が知れない。

さて、本記事は、文学フリマ東京36で出会った『猫の潜水艦』様の「ボドゲデイズ」(2022年)の感想です。

まず前提として、僕はあまり本の感想を書かないたちです。買った同人誌をすぐに読了できるたちでもない。
1ページに1分を掛けてしまう遅読家であり、積読の山の標高は値知らず。
でも、いい本は時間を掛けてでもすぐに読みたくなってしまうのだな。今回は良い本を読んだので感想を書きます。同人誌の感想を書くのって初めてだ。的外れなこと書いてたら申し訳ないです。

さて。前提として『ボドゲデイズ』は猫の潜水艦様の新刊ではなく、既刊であるらしい。文学フリマ東京36では新刊として『機械少女は人間の夢を見るか?』が頒布されており、SF好きの僕としてはそっちの方が趣味に合うのだろうなとは思う(しかしディック作品にはあまり親和性がないので、もしも『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の正当パロディだったらお手上げである)。

それは置いておいて『ボドゲデイズ』である。
先述の通り感想を書くのは慣れていないので、大人しく「好きポイント」をいくつか挙げていきたいと思う。

猫の潜水艦様の『ボドゲデイズ』


1.装丁の素晴らしさ。本棚に並べられる同人誌。

完全にジャケ買いでした。常々思っているのだけど、個人的に同人誌で大事にしたいのは「商業本と一緒に本棚に並べられる本」にすることである。
今回動メロで出した「いいかんじのタイトルをかんがえてください」みたいな企画誌では難しいけれど、文庫本サイズの同人誌を作るときは、なるべく買って頂いた方の本棚に並ぶデザインにしたいと考えている。

同人誌って仕様もバラバラで、どうしても本棚に並べづらい印象が強いと思ってます(個人の感想)。特に僕なんかは文庫本のコーナーは早川書房で揃えるようにしているし、そういう拘りってあると思うんですよね。だから悲しいことに同人誌は段ボールの中で保管することも多い。単純に所持してる冊数が多いというのもあるけれど。

『ボドゲデイズ』は本棚に並べたくなる装丁である。めちゃくちゃ良い。悪い点があるとすれば、あまりにも良すぎることである。

最高か?

まずイラストが上手い。キャラクターの個性が見事に表れており素敵です。表1表4が一体化されたデザインで、背表紙も作り込まれており素敵。カバーの手触りも作風にマッチしていて素敵。「カバー:プリンパ様」分かりみが深い。僕も文庫カバーで愛用しています。素敵。

カバー下もオシャレで満足度が高いです。


2.冒頭の一文、掴みが最高。ボドゲ小説の正解。

冒頭、最初の一文。これが最高である。

「これはごきぶりですっ」
仮にもカフェである店内に物騒な声が響き渡る。

『ボドゲデイズ』霜月かつろう(p6より)

会場で店番しながら読んでいたところ、この開幕に唸ってしまった。サークルメンバーにも「この最初の一文が凄い大賞!」と興奮気味に薦めてしまった。

なんなら、この一文を思いついたからボドゲ小説を書こうと思ったのか!?と疑いたくもなるドンピシャ具合である。
僕はほんの少しだけボードゲームを齧っていたのでゴキブリポーカーのことは知っていた。知っていたから秒でニヤニヤできた。「なるほど、そういう状況ね」と一瞬で場面に意識を集中することができた。

一方、ゴキブリポーカーを知らない読者なら、「どゆこと?????」という驚きでのめり込める。続く一文で舞台が「カフェ」であることが示されているので猶更である。主人公である智也に感情移入させてくれる。

最初の一文が強いと、もう読書が楽しい。
いいなぁ、この開幕文を書けたら執筆も楽しかろうなぁ……。


3.世界は広がる。しかし所詮は遊び。

ここからは内容の感想です。

三人称形式で綴られつつ、章ごとに視点となる主人公が異なる構成。その視点の書き分け。名前を漢字とカタカナで書き分けているのが章の主人公の性質を表しており、細かいけれど好きなポイントです。
(※記事を書き終わったタイミングで思い直したのだけど、名前がカタカナになってるのは「章の主人公が他の人物とまだ親しくないから」ですかね?)

少しボドゲを齧っていた、とは言ったものの、作中に出てくるボドゲは「ゴキブリポーカー」以外よく知らない作品ばかりだった。なので対戦中の細かい進行状況や打ち手は正直よく理解できなかったのだけど、各キャラクターの戦略や戦況の描写で、そのキャラクターの内面や性質が伝わってきたので、純粋にキャラ小説として思いっきり楽しめた。

全然関係ないけど、冲方丁「マルドゥック・スクランブル」のポーカーシーンも、ポーカー全然知らなくても滅茶苦茶楽しい。あんな感じで知識が足らずとも、ストーリーに助けられながら読み進めることができた。

ボドゲ初心者の智也が第一話のラストで、知らない子供の「世界」と、セカンドダイスの「世界」を少し広げるのが凄く良かった。そこからエピソードが進んでいくごとに智也がその世界に本気になっていく様を追うのもワクワクできた。

そんな風に「本気」になっていく描写を散りばめる熱さがありつつも、しかし、作中で最も印象的だったのは第二話で登場する「所詮は遊び」というワードでした。所詮は遊び。しかしその遊びは世界を広げていく。遊びの世界は広がり続ける。所詮は遊び。楽しくなければ損。そして楽しいは世界を広げていく。「所詮は遊び」という心意気を中心軸にして、ストーリーが膨らまされていくような感触がありました。

「ボードゲームなんて所詮は遊び。楽しくなければ損ですし、こんなところにまでわざわざ来て楽しくないのはもっと損ですよ」

『ボドゲデイズ』霜月かつろう(p191より)

このシーン好きでした。美穂の台詞にお気に入りが多いかもです。上記は第三話の終盤の台詞で、このエピソードの「相手になりたい」というサブタイトルも好き。やっぱ千尋と美穂の描写が多めなので印象的なシーンもその二人に集中しますね。美鶴と春がメインのエピソードも読みたいです。

――所詮は遊び。
しかしこの物語は時に「所詮は遊び」を飛び越えていっているようにも思える。しかしその反証はすべての始まりに示されている。
「ボドゲデイズ」。これはボードゲーマーたちの日常の話なのだ。こう評するのが正しいかは分からないけど、「所詮は日常」な物語なのかもしれない。「所詮」というワードが持つネガティブな印象が、全体を通してポジティブなワードとして脚色して掲げられていて、作者様の意図とは反れるかもしれないけど、最終章「セカンドダイス」に込められたテーマも「所詮は人生」なのかなと受け取りました。楽しくなければ損ですものね。


4.これが欲しかったポイント

なんだか取っ散らかってきたのでここらへんで〆たいと思います。感想を書くトレーニングが必要ですね。大人しく全体を通した感想を一言。

総評:めっちゃ好き。

↑ は前提として、「これが欲しかった!」というポイントを少しだけ挙げさせて頂きます(おい何様だ。お前は誰だ。「思ってたより動くメロンパン」の新士悟です。なんだ「思ってたより動くメロンパン」って。ふざけてるのか。ふざけてません。…………いや、ふざけてはいるな……)

・キャラクター紹介ページが欲しかった!
 
表紙には大学サークルのメンバーが並んでおり、キャラデザも最高。なので巻頭にイラスト付きのキャラクター紹介ページがあると嬉しかったです!
 キャラデザが本当に良いので、読み終わったいまとしては誰が誰かちゃんと分かるのだけど、特に僕はキャラクターの名前を覚えるのが絶望的に下手なので、キャラデザと人名を結びつける要素があるとより入り込みやすいかなと思いました。

・誤字脱字がちょっと多い……。
 
どこの馬の骨とも知れない僕が言うのは本当に恐縮すぎるのですが、今後の参考になるかもしれないので……。
 全体的にけっこう誤字が目立ってたかもしれません。15~20箇所くらいは見つけたかも……。ストーリーのテンポが良いので、誤字で視線が詰まってしまうのが勿体なかったです。もし既に認識されていたらごめんなさい……。

なにはともあれ、『猫の潜水艦』様、すっかりファンになってしまいました。新刊の『機械少女は人間の夢を見るか?』の装丁も凄いし、いまから読むのが楽しみです。

――ここまで書いて前日譚「ボドゲタイム」を拝読しました!
春メインの話が読めて良かった!
美鶴のお話とか、智也と千尋の関係性の続きとか、まだまだ気になる要素がたくさん残っているので、もし続編の構想があるなら楽しみにしています!

(おわり)


この記事が参加している募集

#文学フリマ

11,790件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?