書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)28

「グリーンスパイダーも同じ理由?」
「そうよ。少し小道に入れば巣があるでしょう」

 ゴムの生成に欠かせない残り2つの素材のうちの1つが、グリーンスパイダーの糸。私の両手を合わせた手の平サイズくらいの蜘蛛の魔獣の糸よ。

 グリーンスパイダーの糸もアメーバと同じね。何となく伸びそうだし、お子ちゃまにお願いしても安全だから。

 思いつきだったし、理由なんて大してないからキャスちゃんに言ってなかったみたい。

 草食系の魔獣で核はスライムよりも小さいの。大きくて赤ん坊の握り拳くらいかしらね。

 気性は穏やかで、糸で自分より一周り大きめの巣を作って木の枝の根本なんかにくっつけて生活しているわ。少しだけ粘性があるから、木から滅多に落ちないの。

 数週間でお引越しするのだけれど、時々そこに小鳥が落ち葉なんかを敷き詰めて巣にしてリサイクルされているのよ。

 誰にも使われなくなった巣は数週間でボロボロと崩れて土に返るから、なかなかのエコハウスじゃないかしら。実は肥料にもなる優れ物よ。

「身近な魔物素材で下処理までしてもらえて孤児のお小遣いにもなるなら確かにいいね」
「ふふふ、研究の成果を出すまでは現物支給で契約したから人件費もほぼかからないわ」
「一見悪どそうでいて、実はそっちの方が長い目で見ればお得なんだよね」

 アメーバの下処理は体の表面を洗って真水に漬けて日に2度水を取り替えるのを3日間繰り返すの。体に取り込んだゴミが無くなったら完了よ。アサリの砂抜きみたいな感じかしらね。

 グリーンスパイダーの糸は軽く洗ってから湯煎して汚れと粘性を落として半透明の糸にすれば下処理の完了よ。

 ここまでは孤児達に食材を補給する事で手を打てたわ。タダ働きみたいだけれど、元々が銀貨数枚レベルの仕事だし、子供達からすれば遊びの延長線よ。念の為に年長組と行動するよう指導しているわ。

 もしお金を支払うなら今後の面倒を考えて手数料を支払ってもギルドを間に立たせた方がいいの。何でも面子ってあるじゃない? それに妙な軋轢を生んで弱者である孤児達が危険に晒される心配もなくなるわ。

 けれど今はあくまで学生のお手伝い。お礼と寄付を兼ねた食料という体を取ってあちらの面子も守ったの。

 それに孤児院の運営ってどこも火の車なのは間違いないし、特に貧困地域の孤児にお願いするからお菓子よりもたんぱく質。計画書を作成して学園の了承の下にお願いしてあるから問題はないはずよ。

 これで学園の面子は上がるし実は学生の方にもメリットはあるのよ。

 孤児院としても子供のお小遣い程度のお金より、食料と物々交換の方が子供達のお腹は膨れて有り難いのよ。何せ頼むのが食物が育ちにくくて寂れた地域の孤児院なの。飢饉ほどではないけど、貧困地域って物流が滞りがちで根本的に食料なんかの物価が高いのよ。俗に言うインフレってやつね。

 塩害地域にもお願いするからそういう土地は特に物の供給が滞りがち。まさにお金でお腹は膨れない事態よ。

 ゴム作りは空いてた工房を借りたの。条件つきでタダよ。

 そこでアメーバと蜘蛛の糸を1対1の比率で鍋に入れて弱火でじっくり丸1日ことこと煮れば、ゲル化するわ。そうしたら火から下ろして、熱いうちに綿を入れて吸わせるのよ。

 そう、ゴム作りに必要な3つの素材のうちの残り1つが綿なの。

 吸わせて半乾きのうちに平たく伸ばしたら、低出力の魔力でじっくりゆっくり全体を均一にプレスするようにして状態を安定させてから自然乾燥よ。乾いたら風の魔法で好きな太さに裁断すれば、あら不思議。伸び縮みするゴムの出来上がり。

 この製法は知り合いの有名なデザイナーの発案て事にしているわ。私が発案者だって知られると目立つから隠れ蓑にさせてもらったの。

 手間と時間はかかるけれど、経費は安く売られている綿くらい。鍋は借りれたし火はどうとでもなるわ。魔法の世界だし、木の枝も落ちているもの。

 でも今回は綿もタダよ。

 だからこれだけでも安価にできて害獣駆除にも一役買えて一石二鳥でしょ。

「それに綿に絡めて結局この国に貢献するなんて。目立つのは嫌なくせに」
「やあねえ。私は楽がしたいし、行動したのはクラスメイトよ」

 そう言うと、あらあら? 不意に白いむくむくボディがコロンと後ろに倒れたわ?


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