書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)38

「Dクラスなのに学園の基本理念を尊重した上で、あらゆる立場のノブレス・オブリージュの精神を刺激する事を前提にした研究でしょ?」
「ノブ……あっちの世界での社会的地位を持つ者の負う社会的義務ってやつ?」
「そうよ。ノブレス・オブリージュ。うふふ、何だか噛みそうな言葉よね。地位を持つ者が権利を主張して義務を疎かにするのを良しとしてはいけないの。それを認めれば身分制度が崩壊しちゃうもの。だから学園は表向き4年生から引き継いだ形の1年Dクラスのこの研究について優遇せざるを得なくなったわ。お陰で今年の私達Dクラスの補助金は2年Cクラスと同額なのよ」
「生徒会役員がそうしたの?」
「まさか。あの孫が来期の予算案を編成する次期生徒会長だったのに、大嫌いな私のいる格下Dクラスにそんな事しないわよ。確かに次年度の予算を組むのは次期生徒会長だけれど、承認は当代生徒会長と学園長がするわ。王立だもの。国が監査もするでしょうね」
「この学園のヒエラルキー上位者達の決定だね」
「それだけ4年Dクラスの研究成果は注目されたんじゃないかしら。国王や主要貴族からすれば、目障りな教会の権威を改めさせるきっかけにもなったもの。予算を編成したあたりで孫一派やそれを受けて調子づいた新入生の従妹で義妹の風当たりが強くなったでしょう?」
「確かに、わざわざ自分から絡んで来るようになった」
 憮然とするキャスちゃんの9つの尻尾が猫みたいにパシパシ机を叩いているわ。ああ、触れたい……揉み扱きたい。

「ふふふ、子供っぽい所は可愛らしいわ。けれど昨年度の綿花栽培の前に補助金を殆ど使わず返す場合、2年の補助金への半額分上乗せが可能か先に確認しておいたのだから、当然の権利なの。あの時の生徒会はDクラスの補助金の少なさと低能と侮っていたお陰で2つ返事で了承したから、書類を作成してうちのクラス委員に渡していたわ。学園の承認印も追加で貰っていたのよ。予算に組み込まれたのが半額から全額になったのは、優良な成果と認められる研究を発表した4年生の後押しと学園の判断なのに、孫はわかっていなかったみたいね」
「それでラビに集団で暴言吐いたんでしょ」
「ふふふ、コントが楽しかったわ」
「ラビが大笑いしなかったら、流石に僕達があいつらを血祭りにあげたもん」

 もう、ぷんすかキャスちゃんてば。思わず思い出し笑いしちゃったじゃない。

『ラビアンジェ=ロブール。来年度のお前のクラスの学園祭の補助金が次期生徒会役員で編成した予算案を大きく上回り、他のクラスの予算を削って上乗せされた。現生徒会長や学園長、外部の監査役の意向でだ』

 人気が少ない放課後、呼び出されたのは学校のお庭よ。

 孫のバックにはお供君も含めた険しいお顔の孫の側近兼次期生徒会役員数名と、何故かあの子。

 ただしお兄様はこの時いなかったわ。

『あらあら? それで?』
『ロブール公爵家の権力を使って学園祭の補助金を割り増しするとは何事だ! 恥を知れ!』
『まあまあ?』
『お義姉様! 権限も立場もないお義姉様が四大公爵家である我がロブール公爵家の権力を持ち出して好きにしようとするなんて! お父様にバレて恥を曝す前に罪をお認めになって!』

 そう、当時はまだ入学していない従妹で義妹のシエナも孫の隣で大絶叫。それに合わせてバックの彼らも口々に罵りまくる。

 ある意味集団リンチってやつじゃないかしら?

『ふ、ふふふふふふふ』
『何がおかしい!』
『お義姉様?』

 あまりの奇想天外な言いがかりに、笑いが止まらなくて困ったのよね。

『ぷっ、ふふふ。つまり殿下は本来のDクラスに認められていたはずの補助金を着服して自分達のクラスに分配しようとしたのを正しく阻止されたのが気に食わない、という事ですのね』
『何だと!!』
『お義姉様、何て事を王子殿下に仰るの!!』

 私の言葉に激高する彼らがまた滑稽過ぎて、もう笑いが止まらなかったわ。

『あははははは! もう、もう駄目! ふ、ふふふ、ぷふっ……お、面白すぎますわ、あはははは!』

 最後は大笑いしてむしろ彼らは予想外の反応に絶句。淑女の大笑いなんて初めて見たでしょうね。

 私の笑い声は場所が場所だけに校舎中に響いてしまったの。

 もちろん半分は狙い通りよ。だって、ねえ?

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