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PM2:00 CuM

 手紙を書くのは初めてなんだ。

 なんだか気恥ずかしいよ。でも、この手紙は誰に読まれるわけでもないし、風に飛ばされちゃうようなものなのかもしれない。そんなことは別に気にしないさ。僕たちはずっと無駄なことが好きだっただろ。

 君と出会ったのは僥倖としか言えなかった。寒い冬の日、深夜二時になんでか二人並んで信号を待ってた。覚えてるかな? 初めの数分はやけに長い信号だな、なんて思ってたんだけど、それでも信号は変わる気配がないんだ。そしたら君が、ここ押しボタン式ですよね、って言ってきた。バカみたいな話だよね。それで二人で笑ったけ。そんな出会いだった。

 その後、たまに一緒に信号待ちしてることがあったんだ。君は気づいてたかな? 次は僕から話しかけたんだ。なんて言ったかはもう忘れたよ。その時の僕の勇気を誉めてあげたい。この時から信号の待ち時間は僕たちのランドマークになった。

 僕たちはこの信号に何も言わなずともほとんど毎日、深夜二時に待ち合わせた。変な関係だったけど、どうにも心地が良い関係だった。他の人が見たら変な人だと思われてたかもね。押しボタン式の信号を押さずに待ってるんだから。僕たちは名前も知らないのに誰よりもお互いを知っていた。僕は君のことを、君は僕のことを。包み隠さず悩みとか話してくれたのは嬉しかったな。なんだか白昼夢を見ていたような気もする。深夜なのに白昼夢なんて変かな?

 そうだ、昔の話だけじゃなくて今の僕の話もしようか。

 僕は今でも深夜二時に、この信号の前に立っていることがあるんだ。君との日課がいつの間にか癖になってた。ここに立ってると君が隣に立っている気がするんだ。たまにしか通らない車も、ずっと赤いままの歩行者信号も君を僕に見せてくれる気がする。

 でも、今の僕はこの押しボタンを押さないで立っているわけじゃないんだ。流石に一人で突っ立てたら警察に職質されそうだし…… 。
 そう言えばさ、最近気がついたことがあるんだ。この信号って’意外と早く変わるんだよ。僕たち全然ボタン押さないから気づかなかったけど。
 なんだか、まとまらない文章になっちゃったな。ごめん。

 最後にこの信号の下に、君が好きだって言ってた白いスミレとこの手紙を置いておく。それじゃあ、僕はもう行くから。 


読み終わった方がいれば、こちらも読んでください。視点違いです。


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