新蒔 峻

新蒔 峻(あらまき しゅん)です。 20歳の学生です。小説書いてます。よかったら読んで…

新蒔 峻

新蒔 峻(あらまき しゅん)です。 20歳の学生です。小説書いてます。よかったら読んでみてください。

最近の記事

秋終わるの早くねって思ったら

 然るべき夏が来たら然るべき冬は必ずと言って良いほど来ない、そんなのって虚しいじゃないか、と昔の友人が言っていたことを私は考える。  然るべき夏が来て、然るべき冬が来ないとなると、完璧な一年というのは存在しない事になる。然るに完璧というものはどこにも存在しないのではないだろうか。あるとしたらそこは心象の中だけである。だから人間は神にも成れれば、悪魔にも成れるのだ。  そんなことだから人間は世界に飽きて、世界を見下し、世界を愛せるのだと私はいつでも感じている。ことによったら

    • 正しい町

       君は『正しい街』を知っているかい?  正しい街にいる僕はきっと正しい選択をしているんだ。正しい選択をして、正しい行動をして、正しい結果を得ているに違いない。正しい街には海が隣接していて、潮風が気持ちいはずだ。  僕の住んでいる街とその街には小さな違いしかないんだ。過去の一つの間違いが、ずるずると僕を間違った街へと引き寄せた。あの日、あの時、あの行動をしていれば僕はきっと正しい街の住人になれていたはずだった。  隣町は正しい街なのだろうか。  その隣町は?  ……さあ、僕は

      • AM2:00 PaW

         私は信号機の前に立っていた。時刻は深夜二時。私の隣には男の人が一人。何をしているのだろうか。私と一緒だろうか。もしそうだとしたらこんな奇遇は神様が用意したとしか思えない。そうか、人生のツキをここに回してくれたのか。ありがとうございます。さあ、いつにしようか。やっぱりこの人も勇気が出ないのかな…… うん、そうだよね、怖いよね。それなら仕方ない…… また明日にしよう。 「ここ押しボタン式ですよ」これが私なりの延命だ。  彼と会ってからどれくらいが経っただろうか。ずいぶん一緒

        • PM2:00 CuM

           手紙を書くのは初めてなんだ。  なんだか気恥ずかしいよ。でも、この手紙は誰に読まれるわけでもないし、風に飛ばされちゃうようなものなのかもしれない。そんなことは別に気にしないさ。僕たちはずっと無駄なことが好きだっただろ。  君と出会ったのは僥倖としか言えなかった。寒い冬の日、深夜二時になんでか二人並んで信号を待ってた。覚えてるかな? 初めの数分はやけに長い信号だな、なんて思ってたんだけど、それでも信号は変わる気配がないんだ。そしたら君が、ここ押しボタン式ですよね、って言っ

        秋終わるの早くねって思ったら

          ミサンガ (2)

                            5 「マジかよ、へー、お前ユイと付き合い出したんだ」  九月に入って大学が始まり出した頃だった。渋谷の喧騒をまとめて詰め込んだような居酒屋で、ユウダイは声を張り上げてそう言った。大学から三駅ほど移動した駅の近くにその居酒屋はあった。狭い店内にこれでもかと人を詰め込んで、客は席を立つのも一苦労なほど鮨詰め状態だ。店内には大学生らしい人しか見受けられず、完全に泥酔している人も数人見受けられた。 「まあ、そうなんだけどさ…… あんまりカップルっ

          ミサンガ (2)

          ミサンガ (1)

                          プロローグ  直線の石畳が突き当たりの駅まで伸びている。一人で歩く暗い夜道に街灯の光が滲んでいた。等間隔に並んだ光の柱は、進むべき道を指し示しているように感じる。手元にぶら下がるビニール袋はやけに重い。冬の灰色の匂いが澄んだ暗闇にしんと張り詰めていた。 「ねえ、写真とってよ」そう言ったユイは僕にスマホのカメラを持たせた。彼女は腰を少し曲げ斜めにこちらにピースサインをして笑っていた。  僕はその姿を時間と共にまだ残している。写真フォルダーを

          ミサンガ (1)