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正しい町

 君は『正しい街』を知っているかい?

 正しい街にいる僕はきっと正しい選択をしているんだ。正しい選択をして、正しい行動をして、正しい結果を得ているに違いない。正しい街には海が隣接していて、潮風が気持ちいはずだ。
 僕の住んでいる街とその街には小さな違いしかないんだ。過去の一つの間違いが、ずるずると僕を間違った街へと引き寄せた。あの日、あの時、あの行動をしていれば僕はきっと正しい街の住人になれていたはずだった。
 隣町は正しい街なのだろうか。
 その隣町は?
 ……さあ、僕はどこに正しい街があるのかなんて知らないね。
 僕の住んでいる街はきっと間違った街なんだよ。どこを見渡しても海なんてものは見えないし、その反面どこを見渡しても山ばかり。青草が刈られた匂いはひどいものだ。学校はあるけど、先生も正しいことは教えてくれないし、親でさえ間違ったことばかり教えてくる。

 でもね、僕はこの街のことが正しい街より好きなんだ。それは僕が生まれ育ったからってのもあるけど、もっと根本的に愛せるはずなんだ。君もね。この話を読んでいるってことは君は間違った街の住人なんだろうから。
 正しい街の住人はね、文字通り正しいことしかしないんだよ。人のことを疑ったりもしないし、ましてや人に裏切られたりなんて絶対にない。後悔もなければ、嬉しさも希薄なんだ。でも、それは決して間違ったことではないし、彼らはその世界しか知らないから間違っているかなんて思考は邪道だ。
 ちょっと話がずれちゃったかな。話を戻そうか。
 ……そうそう、僕がなんでこの街を愛しているかって話だったね。
 さわりだけを言うとね、君に出会えたからなんだよ。そんなに笑わなくてもいいじゃないか。僕は大真面目に言ってるんだよ。
 もしね、僕が正しい街に住んでいたら、君とは出会えなかったと思うんだ。僕がこんなものを書いているのも、きっと間違いなんだろうよ。だってこんなもの書いたってどうになるって言うんだ。意味なんてないさ。君も何かの間違いでこの話を今読んでくれているんだろ? 正しい街の住人はこんなものを読んで暇を潰したりはしない。もっと有意義なことをしているはずさ。
 僕らはこんな間違いだらけの街だからこそ出会えたんだ。
 こんな街だけど君に出会えただけで、ここまでの間違いが正しい間違いだった気がするよ

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