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三代将軍と『柳生一族の陰謀』について。

 映画版『柳生一族の陰謀』が期間限定で配信されたが、タイミングよくこんな記事が出てますね。

 映画と史実では当然話の筋が違うし、映画のように二代将軍・秀忠が忠長を推していたのは巷説とされています。しかし若き日の家光が病弱で、決して美麗ではなかったらしく「心身に難あり」とされた点は事実のようです。映画では秀忠と家光の確執、ならびに秀忠が忠長を寵愛していた部分は省略されていますが、後のTVドラマ版第一話では後者がはっきりと描かれていますね。

 その秀忠の次男・忠長が容姿端麗で頭脳明晰にもかかわらず将軍にはなれず、駿河大納言という要職にこそ就いたものの徐々に奇行が目立ち始め、ついには精神的に壊れてしまったようで、やがて実の兄から蟄居を命じられついには切腹と相成ります。これは事実のようです。

 だからこそ「なぜそんな家光が将軍職に就けて、対して忠長があまりにも悲しい末路を辿ったか?」という疑問も産まれたわけですが、映画では史実に触れつつも全てを「家光を将軍職に付かせるため」という柳生但馬守宗矩(演:萬屋錦之介)の策略と陰謀という筋書きにして、忠長に一切奇行はなくそれらに嵌められた結果、兄弟間での負けを認めて悲運の障害を遂げる……でまとめたわけですね。
 忠長を演じたのは、つい先日亡くなられた西郷輝彦。まさに誠実さを地で行く演技でしたが、優秀な家臣の力もあり策略では決して負けてはいませんでした。しかし但馬守の方が一枚上手で、京都の公家をも動かす挑発行為に自らも乗ってしまい、それが悲劇の始まりになったわけです。

 そこまで話を膨らませたからこそ、最後の最後に見せるどんでん返しが生きるわけで、萬屋錦之介による狂気の演技はまさに圧巻。つまり一番の奇行は忠長ではなく但馬守という結末なのですね。製作陣も「悪いやつには死んでもらうしか無い」「魑魅魍魎が跋扈する話だと、これくらいのエンディングでないと収まりがつかない」と考えていたようで、まさにあらゆる人間を利用してきた陰謀・策略の結末。重厚さを持たせつつ堂々とハッタリを効かせた時代劇だといえるでしょう。

 ……にしても、もし家光ではなく忠長が三代将軍だったら、いったいどんな歴史になっていたのでしょうか? 
 家光が実施した政策だとキリスト教禁止・他国との貿易制限(いわゆる鎖国)の他にも、参勤交代を制度化して将軍と大名の主従関係を明確にしたり、同時に幕府内の組織を改変して職務・職権を整備してもいます。もっともこれは将軍本人の性格もあり、下手に逆って問題化すると良くないという時代の流れも合ったようです。つまり先の記事にある
「だから徳川幕府は十五代も続いた」
のは、家光という独特(?)な人間が将軍職に就いたからと言えなくもないのです。

 なので忠長だった場合、容姿端麗で頭脳明晰な部分がプラスになるかマイナスになるか、その辺が難しいところ。幕府内の組織改編はあったのか無かったのか。そしてキリスト教禁止や鎖国を行っていたのかどうか。鎖国が無ければ欧州の文化がより多く流入してきたでしょうが、それが幕府にとって喜ばしい話かは分かりません。史実では最終的に精神面で崩壊してしまった方です。そんな人がトップになった政治体制の場合、内外におけるトラブルをどこまで適切に対処できたでしょうか……?

 歴史の「if」は考えるとキリがないですね。

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