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佐川一政氏と「あのタブー」。

 佐川一政(さがわ・いっせい)氏。その名を知ったのは高校時代に読んだ『ゴーマニズム宣言』でした。よしりん先生も佐川氏との対談はかなり力を注ぎ、連載を2回分も使い「カニバリズム」について触れ、そのうえで佐川氏本人の心理や近況を記す内容になってましたね。

 事件の詳細は書いてある通りですが、なぜ殺人罪ではなく心身喪失者と診断されたか? かつて患った腸炎(腹膜炎の記述あり)の部分を「脳膜炎」と誤訳されたという話もありますが、そもそもカニバリズムはキリスト教圏だと相当タブーな題材だったはず。かつてアンデス山脈で発生した墜落遭難事故でも、その生存者達は死者の肉を口にしたことについて
「これは『聖餐(パンとぶどう酒をキリストの肉と血として属する儀式)』なのだ」
と、どうにか言い聞かせていたとか。そんな思想が根強い国の人達からすれば、氏の行為は「理解できないを通り越した」ものだったのでしょう。しかしタブーとはいえ日常生活で宗教的な話がほぼ無い日本で育った自分には、ちょっと想像が付かない感覚ではあります。

 とはいえ好奇の目にさらされるのは避けようがなく……佐川氏も帰国後は作家として活動し、極一部のサブカルやアングラ関係では重宝されたようですが、そういう方面の仕事でしか食べていけないことの裏返しでもあって。上の記事にある晩年の生活を見ていると、周りがそうさせた結果なのか、それとも本人の人格ゆえの末路なのかと複雑な思いにさせられます。自分としては『ゴー宣』で知った「あの衝撃的な人」がこの世を去った、それだけは間違いありません。これ以上は何とも。


 しかし先の事件とカニバリズムを知ったために、この手のネタがとてつもなくブラックだと気付かされたのは間違いありません。
 『ゴーマニズム宣言』を読んでいた頃、若手の急成長として爆笑問題の二人が話題になっており、同時期に太田光による雑誌連載を纏めた一冊『爆笑問題の日本原論』もベストセラーに。自分もその社会風刺漫才を見てすっかり気に入ってしまい、そのタイミングでこの本を読んだら大爆笑。漫才の書き起こし形式で書かれ、ボケやツッコミまで事細かに記された文章が二人の声でたちまち脳内再生されるせいで、とにかく可笑しくてしょうがなかったのです。しかも内容が実にブラック。
 とりわけ印象的だったのはシラク大統領(1995年当時)によるフランス核実験再開にまつわるネタで、

太田:これに関しては、個人レベルで抗議活動をしてる人もかなりいるよね。
田中:そうそう、核実験をやめるまでフランスからの輸入品を買わないとかね。
太田:佐川君が「もうフランス人は食べない」って言ったらしいね。
田中:言ってねぇよ!!
太田:「それでもやめなきゃ食べ続ける」って。
田中:やめろよ!!(後略)

『爆笑問題の日本原論』より

 ……とまあ、若い頃に読んだ『ゴー宣』と『日本原論』のせいで、佐川氏は「そういう人」だと刷り込まされた、という話でした。

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