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暗渠マニアックスと探る、荒川区らしい暗渠 後編 -荒川区景観まちづくり塾2022 〈第4回講座〉-

荒川区景観まちづくり推進委員、委員長の山本です。
このnoteでは、あらまち(私たちの委員会による景観まちづくり活動)について記しています。
今回は、2022年11月19日に開催された荒川区景観まちづくり塾2022〈第4回講座〉について。

第4回の講座は、暗渠【講義編】です。

今回はその後編。
区民目線でみつめた暗渠についてのお話や、八幡堀についての日本大学学生による研究、そして再び暗渠マニアックスのお二人にもご登壇いただいた質疑&意見交換会について記していきます。


前編はこちら



3. 話題提供① “かつての水辺” 「暗渠」を追う

荒川区景観まちづくり推進委員の原田さんより、区民の目線でみつめた暗渠についてのお話です。

街を歩いているとくねくね曲がっていたり、道幅が太くなったり細くなったり、段差があったりと、何か普通と違う、異質な道に出会うことがありました。

調べてみると…実は暗渠だったことがわかります。

導かれるようにして興味を持ち始めた暗渠、もう少し調べてみようと調査を進めてみます。

調べた暗渠に地形図を重ねてみると、平らなように感じていた荒川区の地盤にも小さな高低差があり、各水路はそれに沿って流れている様子がわかってきました。

また、歴史を紐解いてみると、暗渠化の理由やタイミングが街の発展に大きく関わっていることもわかってきました。

さらに文献などから写真を調べたり、

現地に赴き、その痕跡もいくつか見つけることができました。

プロムナードや三角の空地といった、暗渠が作り出した空間には魅力を感じると原田さん。

暗渠沿いに住む人たちの思いも聞いてみたい…

そんなことを思いながら、当時の様子を絵で表現されました。

荒川区にはたくさんの暗渠があって、それらについて調べ、考えることで、今後ますます失われてしまう痕跡を次世代に伝えたり、今後の暗渠のあり方について街のみなさんと一緒に考えてみたい。
原田さんから皆さんへ、ぜひ一緒に調べることから始めてみませんかという暗渠“道”(どう)へのお誘いです。


さまざまな文献を参考にしながら描かれた江川堀一帯の絵は、まさに力作!
原田さんも、暗渠マニアックスのお二人に負けず劣らずの暗渠愛。
暗渠をキーワードに、自分たちの街をもっと鮮明に、もっと想像力豊かに楽しむことができる。今後の活動の広がりを感じさせてくれるお話でした。



4. 話題提供② 景観評価からみた⽔辺まちづくりにおける暗渠の在り⽅に関する研究

続いてのお話は、日本大学の暗渠研究チームの吉中さん、甘糟さんよる、八幡堀の研究について。八幡堀跡を対象に、今後の暗渠の継承方法やあり方についてご報告いただきました。

歴史を紐解くと、石神井川に王子石堰(いしぜき)が整備されたことで、農業用水としてできたのが八幡堀。その後、周辺には工場が建ち並び、宅地も増加していきます。そして昭和2年、衛生上の理由から八幡堀が暗渠化されます。


暗渠化に伴ってそこに川があったことが分かりづらくなりましたが、地域の小学生(荒川区立宮前小学校)が歴史を学ぶ中で八幡堀の存在に気づきます。それをきっかけに大人たちを巻き込んだ大きな活動に繋がり、プロムナードとして整備されることになりました。

実際に現在の八幡堀を調査してみると、舗装や看板など71の景観資源と、3つの水路跡(すいろみち八幡堀、八幡堀プロムナード、子ども歳時記)を見つけることができました。

それらの認知度や景観評価を行うべく、荒川区職員やまちづくり活動者(計7名)にアンケート調査を行いました。

その調査結果について、いくつかご紹介します。
例えば、舗装については、水を連想させやすい舗装は認知度、景観評価ともに高く、水を連想しずらい舗装は逆に低いという結果に。

また、看板では、通行人の目に留まりやすい設置場所や、内容と形態の一致が重要だという評価結果になりました。また老朽化により文字が読みにくくなってしまう箇所にも留意する必要がありそうです。

他にも水路に関連する絵が描かれたタイルは高い評価を得ている一方で、水を連想しづらいモニュメントでは評価が低くなる傾向がありました。

・一目見て水を表現するなど、見る側に意図が伝わるデザイン
・プロムナード整備のように、地域住民発意の取り組み
研究結果によると、今後の整備を考えるときにはこのあたりが重要なポイントになりそうです。


今回の研究報告は調査サンプル数が少ないため、結果そのものの評価については今後の追加調査を待ちたいと思います。
ただ、その着眼点や、研究方法は暗渠の未来、荒川区の未来にとって大変参考になりますね。



5. 質疑&意見交換

ここからはご登壇いただいた方々へ、会場の参加者から質問。

いくつか個人的に面白いなと思った質問をピックアップして書きますが、それでも質問・回答をそのまま書くととんでもない情報量に…。ということで、僕なりに編集して掲載していきます!意図や表現の機微を間違えてしまっている場合もあろうかと思いますが、どうかお許しください。


Q. 暗渠に関心を持ったきっかけは?

髙山さん:住んでいた世田谷区の道緑が細長く、くねくねしていて、気になったこと。川の名がついていた道で、どこまで続いているのだろうとその経路を辿るうちに好きになっていった。

吉村さん:地下にある構造物がもともと好き。あるとき、よく通っていた杉並区のとある道が川の跡だったことを知ったのが直接のきっかけ。足元にいまも水が流れていると思うと、ときめいた。辿らねばと思った。

原田さん:江川堀が語りかけてきた。手作り感、人間臭さが道に残っているように感じる。

甘糟さん:八幡堀を知って関心を持った。暗渠は見えなくなって忘れられてしまう可能性のあるものだが、八幡堀のように子供達が見つけた事例を見ると、継承できるんだという可能性を感じた。

吉中さん:家の近くにあった暗渠がきっかけ。大学で自分の街を模型でつくる授業があり、やけに細い道があるなと思ったら、それが暗渠だった。


Q. 荒川区の暗渠の推しのポイント?

吉村さん:道灌山下、西日暮里駅前のさくら水産のある場所は推しポイント。暗渠の痕跡が川の存在を語りかけてくる。あと、江川堀は雰囲気がある。あの細さは魅力的。

髙山さん:やはり探しづらいこと。東京の西側は谷があるから探しやすい。高低差のない東京の東側は初心者の頃は暗渠アンテナがなかなか効かなかった。それだけに発見する面白さがある。荒木田新橋を見つけた時は感動した。


Q. 網羅した地図はどうやってつくるの?

吉村さん:いろんな時代の地図を重ねている。全てを網羅できているわけではないかもしれない。今歩けるものを優先してプロットしている。人文社の明治時代の地図は細かな水路までが描かれていて参考になる。


Q. おすすめの暗渠の嗜み方は?

髙山さん:暗渠酒、暗渠飲み。暗渠沿いの居酒屋で一杯やりながら、脳内CGで暗渠を再現するのは楽しい。

吉村さん:荒川区は多くの場所が平坦なので、たくさん歩ける。草花や護岸を細かく観察しながら歩いてほしい。


Q. 荒川区以外の暗渠で面白い事例は?

暗渠マニアックス:愛知県豊橋市の「水上ビル」。その名の通り水上に建物が立っていて、市場が連なる面白い空間。今の法律では作れないもので、貴重なもの。
他にも葛飾区は橋跡がたくさんあるが、地面に埋めるように残してある。他の地域ではなかなかみられないもので、それらを踏み絵しながらめぐるのも面白い。


Q. 暗渠の未来、どうなってほしい?

髙山さん:開渠は開渠のままで、暗渠は暗渠のままであってほしい。
綺麗にしよう、水を復活させようということを推奨しているわけではない。
そういうことは地域の方が考え、決めること。個人的にはそこにある佇まいを見守っていきたい。

吉村さん:こんなふうになってほしいという願望はあまり思っていない。
与えられたものを愛でる。もし開発で今ある暗渠の痕跡が失われても、あらかじめ知識を頭に入れておけば脳内のCGで再現できる


と、ここまでさまざまなお話を聞くことができました。

暗渠マニアックスのお二人は、ハードとして暗渠そのものをどうにかしたいというわけではないとのお立場でしたが、もう少しソフトな部分のお話ではいくつかご提案もありました。

例えば、日大の学生研究で看板の話があったが、原田さんが江川堀一帯を描いたような絵が看板に飾ってあるとわかりやすくて、想像しやすいのではというご意見。
また、当日髙山さんが着用されていた板橋区の暗渠Tシャツなど、PRグッズのようなもので暗渠を継承する方法もあるというお話し。

このように、暗渠とまちづくりにはいろんな可能性がありそうです。
荒川区でも何かできないか、考えてみたくなります。


今回のテーマである暗渠、これはきっかけに過ぎない。
暗渠でなくても何か着眼点を見つけられれば、街は俄然面白くなる。
最後に髙山さんがおっしゃられた言葉です。

暗渠が好きな方も、まだまだこれからの方も、自分なりのテーマを見つけた方も、今回の講演が街をより楽しむきっかけに繋がってくれれば幸いです。


さて次回、第5回の講座は暗渠体験ツアー。
今回学んだことを携えて、区内の暗渠や暗渠関連のあるスポットを回ります。
ガイドは引き続き、暗渠マニアックスのお二人です。
コースもお二人に計画していただいたもので、きっと素晴らしい時間になるはず。
次回もお楽しみに。


荒川区景観まちづくり推進委員 委員長 山本展久




荒川区景観まちづくり塾 2022 〈第4回講座〉
・内容:隅田川【講義編】
・日時:2022年11月19日(土曜日) 13時30分~
・場所:ふらっとにっぽり 3階多目的スペース(東京都荒川区東日暮里6丁目17-6)
・講師: 暗渠マニアックス(髙山英男氏、吉村生氏)
・話題提供:日本大学 暗渠研究チーム(吉中美波氏、甘糟未帆氏)、原田麻氏(荒川区景観まちづくり推進委員)
・司会:西村卓也氏(荒川区景観まちづくり推進委員)、久保凛一郎氏(荒川区景観まちづくり推進委員会 学生委員)

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