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人もまた小さな宇宙 〜中島大輔『山本由伸 常識を変える投球術』を読んで〜①

「ひかりの声が空高く聞こえる。
   きみも星だよ。みんなみんな。」



   皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
懐かしい思い出が甦ってくる方もいらっしゃるかもしれません。


そうです。これは、合唱曲として名高い、COSMOS の一節です。
宇宙の不思議…地球もまた宇宙であり、地球のなかにいる我々もある種の「星」であります。


日本を代表するエースピッチャー、山本由伸もまた、我々と同じように、地球に生まれ落ちた一つの星です。
彼の活躍は日本のみならず、全世界に眩い光を放っています。

本日は、山本由伸という”スター“が、なぜスターとなったか、そして、小さな宇宙を身体に宿すに至ったか、次の3点を元に考察して参ります。


1、これは逃してはならないピッチャーだ

2、効率性と目先の結果を優先する現代人

3、小宇宙・山本由伸


また今回の読書感想録は、長い記事になるかと思いますので、三度に分けて投稿致します。

本日は、第一編「これは逃してはならないピッチャーだ」についてつらつらご紹介致します。
慣れない読書感想文で大変恐縮ですが、お付き合い頂けますと幸いです。



1、「これは逃してはならないピッチャーだ」


   人間は、他の人々と扶け愛いながら社会を構築する生き物です。
人が天命を知り、人として世に輝きを放つように生きるには、人との出会い、良縁が不可欠です。


ここで、中唐の詩人、韓愈の有名な漢詩を紹介致します。


原文
「世有伯樂、然後有千里馬。
千里馬常有、而伯樂不常有。」韓愈『雑説』

書き下し
「世に伯楽あって、然るのちに千里の馬あり。
千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず。」




こちらの漢文もまた、中学・高校の古典の授業で学んだ方もいらっしゃるのではないでしょうか。

天賦の才を持った人は多くいることでしょう。
しかし、それを見抜き、天命に従い正しい方向へ導いてくれる人との出会いは滅多にありません。

「野球少年が多くいるなか、誰がプロとして活躍するか」

これを見抜くのがプロ野球各球団スカウトの役割ですが、皆様もご存知の通り、この仕事は実に難しいものです。
ドラフト一位指名と騒がれた選手が、プロで周囲の思うような成績を残せず、数年後クビになることは珍しく有りません。


   今回の記事の主人公、山本由伸も、特段体格に秀でているわけでもない、何処にでもいる、ただ純粋に野球を楽しむ田舎の野球少年でした。


   そんな彼の転機は高校二年生の冬、寒風吹き荒ぶ日の夕刻でした。
オリックス球団スカウトの山口和男氏はこの日、オリックスが春季キャンプを張る宮崎市から車で約一時間の距離にある都城高校に、挨拶と視察を兼ねて訪れていました。

ちょうどその時、ブルペンで投球練習を行っていたのが山本少年。

山口氏は山本少年のブルペンを視察して、次のような第一印象を抱いたそうです。

”これはちょっと物が違うぞー“

「すごく寒い中でのピッチングだったけど、とてもバランスよく投げていました。たいていの高校生の場合、そうした状況では寒いそぶりを見せながらのピッチングになります。でも、由伸は…
練習にすごく高い意識を持ってできる選手だなと思いました。」
(本書P.21)

以来山口は、継続的に山本少年の視察に訪れました。そして、ドラフト上位指名を球団上層部に何度もプレゼンしました。

山口氏の熱意と他球団の指名が無かったという幸運が重なり、山本少年はオリックスからドラフト4位指名を受け、晴れてプロ入りすることとなりました。(※多くの野球少年は、ドラフト上位指名に憧れる。山本投手のドラフト順位は4位。上位指名ではないため、当時の目先のドラフトの結果だけでは、一概に「幸運」とは言えないだろう。しかし、現在の山本投手の活躍があるからこそ、私もこれを幸運と表現するという誉れな選択を即断することができる。)

山本少年は、名伯楽との出会いがあって、初めてプロとしての素質を見出されたのでした。
広い宇宙のなかでこの星に生まれ落ち、人類70億人のなかから名伯楽と出会うということ。
これは、人の力を超えた奇蹟であり、出会いは必ず起こるもの、と安易に見過ごしてはならない重要な瞬間です。
こうした「縁」、「良縁」、「絆」と云われる、奇蹟の連続によって生じた繋がりに我々ができることは何でしょうか。



それは、「全ての出会いに感謝すること」であると山本投手は述べています。
詳しくはこちらをご覧ください。
https://youtu.be/OZMWsQVWTuA?si=2JSBP3t3QHt5cH8G




出会いは、殊にこうした運命的な出会いは、人の力を超えた力によって為されるものであり、言い換えると、人は人智を超えた力の前には無力であります。
そうした出会いがきっかけとなり為される物事は、例えそれが如何に歴史を揺るがすものであったとしても、自分一人の力で為されたものではない以上、徒に驕り高ぶることは避けるべきでしょう。
またその出会いが、目先の出来事を鑑みて、例え良縁で無かったとしても、その出会いから、その相手から学べることは必ずあります。

   ここで、私の敬愛する作家、吉川英治氏の座右の銘を紹介します。

「我以外皆我師也」

   善悪、貴賤を超えて、人は生きた教材です。
近年、多文化社会の進行によって、より多くの価値観との出会いの機会が増えています。

そうした価値観のなかには、自分の価値基準とは相容れないものも少なからずあるでしょう。
そうした価値観を否定的に捉えるのではなく、人がなぜそういう価値観を抱くに至ったか、心を鎮めて思索に耽る時間を持つことが、器の広い、心の清掃の行き届いた美しい自分との出会いに導いてくれるでしょう。

人智を超えた力ーこうした力を畏れ、感謝の意を示し続けることは、日々襟を正し謙虚に生きる姿勢へと繋がります。
そうした姿勢を取り続けた人は、自ずと優れた人との巡り合わせが増える傾向にあるでしょう。


「ありがとうございます」の精神、そして、全ての出会いに対して感謝の気持ちを抱き続けることで、山本由伸投手は大成への下地を、知らず知らずのうちに築いていったのでした。


本日は、ここまでと致します。
次回の記事では、「効率性と目先の結果を優先する現代人」について、私の経験に基づく考察を交えながら述べていきたいと思います。

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