怒り(2016年)

画像1 怒りは吉田修一原作の小説を、李相日監督が映画化した作品。原作者はイギリス人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさんが市橋達也に殺害された事件が執筆のきっかけだったと語っている。
画像2 八王子郊外で若い夫婦が自宅で惨殺され、犯人は逃走。現場に残されたのは、血で書かれた「怒」の一文字。この事件から1年後、東京、千葉、沖縄に身元不明の3人の男が現れ、それぞれが周囲との人間関係を構築していく。容疑者のモンタージュ写真がTVで流れ、皆が猜疑心を抱き始める。「目の前にいるこの男が、もしかしたら犯人じゃないだろうか?」信じたい気持ちとの間で揺れながら日々を過ごす人々と、謎に包まれた男たちの群像劇が展開し、ミステリーが紐解かれる。殺人現場はかなりグロいので、冒頭でもう離脱した人もいるかも知れませんね。
画像3 パリピばっかりが集まる男の園。1つ目のストーリーの舞台は東京。主人公は妻夫木聡演じる藤田優馬。このパーティーに友人と訪れていたが、そこで相手を物色をしているうちに見つけたのが、綾野剛演じる大西直人。その場で直人を犯すシーンは衝撃!そして、直人を気に入った優馬はそのままお持ち帰りするのだった笑。
画像4 剛くんと妻夫木くんは共に役作りのためにしばらくプライベートでも一緒に暮らし、帰宅時に「おかえり!」と言い合ったり、一緒に寝たり、ゲイバーに出向いてゲイの動向を研究したりする生活を送っていたと語っている。
画像5 こんな際どい絡みもありました。色白でちょっとビクビクしていて性格が優しい直人が女で、色黒で積極的でギラついた優馬が男って感じのゲイカップル、なかなかサマになっていました。きっと2人で一緒に暮らしたラブラブ生活体験が生きているのでしょうw
画像6 2つ目のストーリーの舞台は千葉の房総。漁業を営む槇洋平(渡辺謙)には軽度の知的障害を持つ愛子(宮崎あおい)という娘がいる。愛子は優しくて純粋な心の持ち主だが、人を簡単に信じてしまい、東京の風俗店で毎日クタクタになるまで働かされていた。それを知った父親は愛子を千葉に連れ戻す。家事や料理をしながら安定した生活を送れるようになった愛子は、父親に弁当を毎日作って届けるようになる。そこで新入りバイトの田代哲也(松山ケンイチ)と知り合う。やがて田代の分の弁当も作るようになり、2人は付き合い、同棲を始める。
画像7 3つ目のストーリーの舞台は沖縄。主人公の小宮山泉(広瀬すず)は彼氏の辰哉(佐久本宝)と那覇からボートで無人島を訪れ、岩場で野宿していた田中という男と知り合う。那覇に戻って再会した3人は居酒屋で遅くまで飲んで打ち解けるが、終電に乗るために家路を急いでいた泉は途中2人とはぐれて1人になる。多くの米軍兵が出入りする酒場を抜けて、人気のない道で米軍兵の大男2人に跡をつけられ、泉はレイプされてしまう。すずちゃん、レイプシーン撮影直前まで恐怖のあまり泣いていたらしいけど、女優魂を見せた迫真の演技でした。
画像8 愛子の父親が田代の身元や前職を調べると、偽名を使い、職を転々としていたことが分かった。愛子は田代本人から全て事情を聞いており、両親の借金を負わされ、そうせざるを得なかったことを知っていた。TVで見た八王子事件の犯人のモンタージュ写真が田代に似てるかも知れない?と不安になった愛子は田代に自分がやったのかを尋ねるが、そこから連絡が途絶えてさらに不安になる。そして自ら、田代が犯人かも知れないと警察に通報してしまう。しかし、犯人の指紋とは一致せず、田代は犯人でないと知り、その場に泣き崩れる。
画像9 田代を最後まで信じ通せなかったことを悔やみ、居なくなった田代を取り戻したいと必死になった愛子。電話に出た田代は東京駅にいた。これ以上愛子と父親に迷惑をかけなくて済むように、去ろうとしていたのだった。愛子は間一髪のところで田代を捕まえて、連れ戻すことができた。この写真はこれから先の2人の明るい未来を示唆するシーンで、3つの物語で唯一のハッピーエンディングである。
画像10 2つ目の物語の結末はとても切ない。病気で入院する母に直人を紹介したり、身寄りのない直人に自分と同じ墓に入ろうと言ったり、2人の関係は順調だった。しかし、逃走中の犯人の左頬にはホクロが3つ並んでいるというマスコミの報道で、優馬は不安になった。直人の左頬にも同じ位置に3つのホクロがあったからだ。ある日警察からの電話を受けた優馬は、自分は直人と全く無関係であると主張する。急に連絡がつかなくなった直人を疑い、自宅に住ませていた証拠を全て消し、直人を切り捨てたのだ。
画像11 直人がある女性とカフェにいたのを見かけた優馬は、激しく嫉妬して、直人に詰め寄ったことがあった。しかし、この女性は直人が施設にいた頃からの幼なじみの薫(高畑充希)だった。薫から連絡を受けた優馬は、直人が公園の茂みで倒れて亡くなっていたことを聞かされる。幼い頃から心臓に持病があったらしい。警察からの優馬への連絡は、直人が容疑者扱いされたわけでも何でもない。倒れたという連絡だった。直人を最後まで信じてやらなかった自分に憤り、優馬は帰り道に号泣する。
画像12 3つ目のストーリーの結末、これはもう残った田中(偽名)が犯人なのだが、最後までわからないトリックはさすが。モンタージュ写真もマツケン、剛、未来どれにも似てるように作ってんだもん笑。田中は無人島に逃げ込み、那覇で適当に仕事をしてはその日暮らしで身を隠していた。街中で泉に「田中さん?!」と呼ばれるシーンで、すぐ反応しなかったのは偽名だったから。辰哉の親戚が営む宿で住み込みで働き始めたが、警察が近づいているのを察し、パニックで挙動不審となり、奇声を上げて逃走する。森山未來の演技上手すぎてホントにサイコパス怖いw
画像13 辰哉は泉がレイプされた話(泉の名前を出さず、自分の友達がレイプされたと置き換えている)を田中に一部始終話す。すると田中は「俺はお前の味方だ」と辰哉を励ます。それ以来、辰哉は全面的に田中を信頼していたが、田中の言動の端々が意味不明で、二面性や不穏な空気を感じる。実は泉がレイプされていたのを田中も見ており、自分が「ポリース!」と叫んだから米兵は逃げたのだと。もちろん辰哉が怯えて何もできずに隠れていたことも侮辱し、嘲笑っていた。そして小屋内部の壁には、八王子事件現場と同じ「怒」の文字…。鳥肌が立つシーンです!
画像14 「頭に血が上らないと落ち着かない」と逆立ちする田中(本名:山神一也=犯人)。一橋達也が逃げ延びた時のように左頬のホクロをカッターで削り取るエグいシーンも再現されていた。山神の自宅の壁や、島の小屋の内部に刻まれた気狂いじみた無数の落書き。「米兵にヤラれてる女を見た、知ってる女だった、女気絶、ウケる。」これを見つけた辰哉は山神を刺し殺す。東京と千葉は信じ通せなかった自分に憤り、悔いた。沖縄の達哉は信じたからこそ、山神が許せなかった。「人を信じる」ということがいかに難しいか、この映画の核心はそこに尽きると思う。

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