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プロフェッショナルファームの成長構造とそのほころびの兆し

戦略コンサルタントのアップルです。

コンサルティング業界は全体としてみれば活況を呈していますが、その中でも成長しているファームと、パッとしないファームが混在しています。こうした差の背景には、プロフェッショナルファームの成長構造が回転しているのか、それとも回転していないのかがあると考えています。

かつ、こと戦略ファームに関して言えば、成長構造が回転しづらいご時世になってきているのではないかという印象をもっています。

本稿では、
・プロフェッショナルファームの成長構造
・戦略コンサルティング業界の変化と成長構造に与える影響
・今後戦略ファームがどうなっていくか
といった点について、アップルの私見も交えてまとめてみます。

プロフェッショナルファームの成長構造

プロフェッショナルファームというのは人が資本のビジネスであり組織です。価値のほとんどは人間が生み出しています。いわゆる人的資本が価値の源泉です。

その成長構造は次図のとおりです。

成長構造

グレーの部分が内部環境、その外側が外部環境です。
この構造を簡単に解説してみましょう。

1.内部環境の好循環(左下)
起点になるのは良い仕事で、良い仕事をこなす中で人材が成長し、それによって人材の束である組織が強くなります。人材のナレッジが蓄積・共有されることで組織が強くなる側面も多分にあるでしょう。そして、組織が強くなると営業力が高まり、良い仕事を獲得しやすくなります。

2.ブランド強化(左上)
良い仕事が増えると、対外的にはブランドが強化されます。コンサルティングファームの場合、「A社はいいコンサルティングをしてくれる」「A社のレベルは高い」という評判が口コミで広がり、それがブランドになっていきます。また良い仕事を通じて得られたナレッジやノウハウが記事や書籍などの媒体で世に出され、それがブランド強化につながっても行きます。

3.人材獲得力強化(右下)
ブランドが強化されると、人材の獲得力が高まります。つまり良い人材が採用できます。良い人材が入ってくることは、人材や組織の力にレバレッジをかけます。

こうした構造が一度出来上がると、そのファームは自律的に成長してきます。トップファームと呼ばれるようなファームは、過去にこのような成長構造が構築され、その結果組織やブランドが形成されていったということだと思います。逆になかなか成長しない、あるいはつぶれていったようなファームは、この構造を築ききれなかったということでしょう。絵にするとシンプルですが、この構造を実際に作り上げるのはなかなか難しいと思います。

戦略コンサルティング業界の変化

このように、「良い仕事」を起点に好循環が回転するかどうかがプロフェッショナルファームの持続的成長の鍵ですが、こと戦略ファームにおいては、昔と比べてこの構造が作りにくくなっているように感じています。

その理由は、「程よいレベルの仕事」が減少傾向にあるからです。

上記の構造に出てくる「良い仕事」とは、難しすぎずかつ簡単すぎない仕事です。コンサルタントの力量を100としたとき、120~150くらいのレベルのプロジェクトがほどよい難易度の良い仕事と言えるでしょう。かつてはこのレベル仕事が割と多かったように思います。

しかし、昨今戦略コンサルティング業界は変化し、請け負うプロジェクトが多様化しました。イノベーションや新規事業のような難易度の高いものが増える一方、業務改善や実行支援に近い比較的難易度の低いものも増えました。無論、昔ながらの事業戦略のプロジェクトも依然ありますが、他のファームの人から聞く話を踏まえても、オーソドックスな戦略検討のプロジェクトの割合は減少傾向にありそうです。

つまり、
①難易度150~200の難しいプロジェクト
②難易度70~80の簡単なプロジェクト
に二極化しつつある印象を持っています。

①のような高難度のプロジェクトだと、求められるアウトプットとコンサルタントの力のギャップが大きすぎて、バリューを出すのに一苦労します。そのギャップを埋めるのは主にマネージャーということになります。コンサルタントが自走して価値を出せないため、マネージャーがコンサルタントを手取り足取りディレクションしたり、ときには巻き取ることで、何とかクオリティを担保します。いわばコンサルタントはマネージャーの手足になってしまうため、自分でやり切った感や成功体験は限定的となり、成長はブーストされません。

一方で②のような低難度のプロジェクトだと、愚直に論点をつぶしたり、基礎的な調査をする力はつきますが、戦略的な思考力は鍛えられません。戦略コンサルタントと称しながら、戦略策定力は極めておぼつかないという人材になってしまいます。

このようにプロジェクトの難易度が二極化すると、仕事→人材→組織の好循環が回転しにくくなります。これを図解したのが次図になります。

成長構造2

これから戦略ファームはどうなっていくのか

難易度の二極化は今後さらに進んでいく可能性もあります。そうすると、戦略ファームの成長構造が崩れるのはやむをえません。言い方を変えると、未経験の人材を採用し、質の高いOJTで人材を育て、力のある人材を昇進で抜擢していくという「内部育成モデル」が難しくなってきているということだと思います。

踏まえると、質で戦うか、量で戦うかに二極化していくでしょう。

【質で戦うモデル】
難易度の高い(≒付加価値の高い)プロジェクトにフォーカスしてやっていくというものです。難易度の高いプロジェクトはシニアでないと付加価値が付かないので、シニアだけで構成されるファーム(ジュニアは人材市場から適宜調達。つまりアウトソーシング)がひょっとすると出てくるかもしれません。ただしこのモデルは、熟練のシニアの頭数に成長が律速されるため、ファームとしてのスケールは難しいでしょう。

【量で戦うモデル】
形式知化しやすく比較的難易度の低いプロジェクトで売り上げや収益を稼いでいくモデルです。いわば戦略を捨てるのに近いので、リブランディングして成功構造を再定義する方向性とも言えます。「ある程度誰でもこなせるコンサルティング商品」が作れると、量販できるので、ファームとしては大きく成長できる可能性があるでしょう。ただし、そこで働くコンサルタントがハッピーかと言えば、微妙かもしれません。難易度がさほど高くないということは仕事の面白さも限定的でしょうし、腕も磨かれないのでポストコンサル市場での競争力も限定的になるリスクがあります。

質で戦うのも、量で戦うのも、一長一短ということです。


今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!

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