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上司・部下の関係と具体・抽象の関係(後編)

戦略コンサルタントのアップルです。

先日、上司・部下の関係と具体・抽象の関係について論じた記事を投稿しました。

今回はこの続編です。前回の記事の一般論を戦略ファームの仕事に当てはめたときどういうことが言えるのかについてご紹介します。

1.戦コンにおける具体・抽象ピラミッドの構造

戦略コンサルティングの仕事においてもまさに具体と抽象という軸は存在します。具体的には次図のとおりです。

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業界外の方にとってはピンとこない部分もあると思うので、それぞれについてどのような業務か説明しましょう(ピラミッドの下から順に)。

 ファクト収集

戦略コンサルティングの土台をなすのはファクトです。ファクトなくしてコンサルティングは成立しません。質、量ともに充実したファクト群があってはじめてよい戦略、リアリティある戦略の立案ができます。

このファクト収集は、もっとも具体性が高いです。
世の中のすべての観察事象がファクトだからです。

 作業設計

ファクトを効果的に集めるためには作業設計が必要です。作業設計の巧拙で集められるファクトの質や量は大きく変わります。与えられた論点に答えを出すために、どういう手段で情報を集め、どうやって分析をするか。グーグルで検索するのか、市場レポートを購入してそれを熟読するのか、はたまたライトパーソンにアプローチしてインタビューをするのか。こういうことを設計するのがこの作業設計です。

 小論点設計

かみ砕いた論点を設定するのがこれです。大論点というのは、往々にしてバクっとしすぎていて、それを直接的に料理することは難しいです。例えば、「A社のB事業の事業戦略はどうあるべきか?」というのが大論点ですが、この論点に真正面から答えを出すのが難しいのは容易に想像がつくでしょう。

したがって、この大論点をいくつかの小論点に分解する必要があります。
上記の大論点であれば、
・B事業の現状と課題は何か?
・B事業が5年後に目指すべき姿はどのようなものか?
・B事業を取り巻く市場、競争環境はどのようになっているのか?
・目指す姿に至るためのキーサクセスファクターやビジネスモデルは?
・目指す姿と現状とのギャップを埋めるために、どこにリソースを投下すべきか?
といったような論点群が小論点になります。

 大論点設計

小論点のところでも述べましたが、一見するとどう答えを出したらいいかわからないのが大論点です。これを設計するのが大論点設計です。

・XX事業戦略はどうあるべきか?
・XX社のパーパスは何か?
・XX社を取り巻く外部環境の未来シナリオはどのようなものか?
・XX社はどのような新規事業に取り組むべきか?
・XX社の組織改革はどうあるべきか?

こんなような論点が大論点のイメージです。かなり抽象度が高いことがお分かりいただけるかと思います。

 メッセージ化

大論点に答えが出た後に、それをどう言語化してクライアントに伝えるかを考えるのがこのメッセージ化です。コンサルプロジェクトでは、最終報告会が近づいた終盤に「要はクライアントに何をメッセージとして伝えるのか、提言するのか」ということをクリスタライズします。

このメッセージ化からは、国語力の世界になります。「大論点の答えはこうです」という乾いた伝え方をしても、クライアントはわくわくしません。いかにわくわくしてもらうか、腹落ちしてもらうかということを、報告相手の顔を想像しながら考え、もっとも刺さりそうなメッセージへと落とし込むのです。

 レトリック

もっとも抽象度が高いのがこのレトリックです。レトリック=修辞法。美辞麗句。言葉巧みにアナロジー(比喩)を使ったり、ことわざや慣用句を持ち出してきてわかりやすく伝えたりするのがこれです。このちょっとしたレトリックによって、説得力や相手の理解度がぐっと増すことがあります。

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以上、少し長くなりましたが、各階層の説明でした。戦略コンサルティングのアウトプットは、ピラミッドの最下層(ファクト)から階段を上るように上位のレイヤーへと引き上げられていきます。そして最終的には、レトリックも交えたクライアントへのメッセージとして紡ぎあげられるのです。

「ファクトに始まり、レトリックに終わる」

これが戦略コンサルティングの仕事の本質と言えます(と、アップルは感じています)。

2.役職と具体・抽象ピラミッドとの対応

上記のようなピラミッド構造に対して、戦略ファームの各役職層はどの部分を担っているのでしょうか?前回の記事では、一般的な会社では社長⇒役員⇒部長⇒課長⇒・・の順に抽象から具体へと業務ミッションが移ることを言及しました。

戦略ファームも同様です。役職が高くなるにつれ、抽象度が高い部分をミッションとして担います。図にすると以下の通りです。

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これはなぜかといえば、ピラミッドの上の方に行くほど難易度が高いです。ファクトを言われた通りに集めるよりは、作業設計の方が難しい。作業設計よりは論点設計の方が難しい。こんな具合です。

上の方に行くほど熟練度が求められるため、一定の経験を積み熟練度が高まるにつれて、役職が上がり、より抽象度の高い業務やミッションへとシフトしていくというわけです。

3.上司と部下との役割分担あるある

役職とミッションの対応関係は、制度としては以上のような感じですが、実態としてはこれが崩れることが往々にしてあります。ここではマネージャー(M)とシニアコンサルタント(シニコン)の関係を例に説明します。

 パターン1:巻き取り

マネージャーが巻き取るケース。本来シニコンがやるべき小論点の設計、作業設計、場合によっては調査などのファクト収集にも降りてきて、シニコンはその下請けとしてクソみたいな仕事しかさせてもらえないというケースです。

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しばしば、このスタイルのマネージャーを見かけます。自分でやらないと気が済まないのか、自分でやらないと不安なのでしょう。ただ、このやり方は、マネージャーが重労働になって疲弊することに加え、その下のシニコンもデモチし育たないので、決してよいやり方ではありません。

 パターン2:適正分担

ミッションと役職が想定どおりに対応しているケース。マネージャーは大論点の設計、論点の答えのメッセージ化を中心に担い、小論点設計以下はシニコンが担うという分担です。これが適正であり、お互いのストレスも小さいやり方です。

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 パターン3:無能上司

マネージャーが何もやらない(できない)ケース。メッセージ化と大論点設計をちょこちょこっとやって、あとは部下のシニコンに丸投げというケースです。マネージャーは本来自分がやるべきことも放棄しているので、部下のシニコンからは無能上司のレッテルをはられ、悪評が拡散することになるでしょう。

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とまあ、細谷さんの本にも書いてある通り、コンサルファームでも上司と部下の役割分担の境界にはこのように幅があります。

4.ディレクションのやり方あるある

前回の記事で、指示が具体的だとアウトプットの振れ幅が小さく、抽象的だとよくも悪くもアウトプットの振れ幅が大きいという話をしました。

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これも戦略ファームでのディレクションで大事なポイントです。

 具体的なレベルで指示する派

コンサルの仕事での具体的なレベルでの指示とは、
・仮説を具体的に示す
・作業レベルで指示する
・アウトプットイメージを示す

といった感じです。

具体的なレベルで指示をした方が想定どおりのアウトプットが出てきます。一方で、想定を超えるようなアウトプットは出にくくなります。例えば、パートナーやマネージャーが「俺は/私は、おそらくこんなような答えだと思うんだよね~」と仮説を示してしまうと、指示を受けたコンサルタントはその与えられた仮説の検証に固執してしまうので、仮説を大きく超えるような答えや示唆は出にくくなります。

 抽象的なレベルで指示する派

一方で抽象的なレベルでの指示とは、
・大きな論点だけ示す
・「こんなメッセージが出したいんだよね」とメッセージ仮説だけ示す
・「いついつまでに、こんな感じのストーリーで資料作っといて」

といった感じです。

抽象的なレベルでの指示は、リスクをとることになります。思いっきり外したアウトプットが出てくるリスクがある一方、パートナーやマネージャーも思いもよらなかったような答えや示唆が出てくるチャンスもあるというわけです。

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ちなみにアップルはと言えば、、
アップルは「仮説ドリブン」を好むタイプなので、仮説をガンガンメンバーに伝えます。また、アウトプットの手戻りも極力発生しないよう、アウトプットイメージも明確に示すことが多いです。つまり、前者(具体的なレベルで指示する派)に近いマネジメントをしています。

ただ、このやり方は上記のとおり「プラスに想定外のアウトプット」の出現確率を低めるというデメリットもあるため、このやり方が果たしてよいのだろうか?という疑問は常にもっています(とはいえ、仮説ドリブンやアウトプットドリブンは、効率的なのでなかなかやめられないのですが)。

5.まとめ

少し長くなったので、今回の記事のポイントをまとめておきましょう。

・具体・抽象ピラミッドの構造は戦略コンサルティングの仕事にも存在。ファクト⇒作業設計⇒小論点設計⇒・・・⇒レトリック。ファクトに始まりレトリックに終わるのが戦略コンサルティングの仕事

・戦略ファームでも、役職上位者ほど抽象度の高い領域を担う構造。パートナーはレトリック(抽象側)を担い、アナリストはファクト収集(具体側)を担う

・ただし、その役割分担は「基本形」であり、崩れることもある
  -巻き取り、適正分担、無能上司の3パターン

・指示やディレクションを具体的にやるか抽象的にやるかも人それぞれ。どちらも一長一短ある。理想は「TPOや相手の力量に応じて指示の具体度をコントロールすること」かもしれないが、これは言うは易し、実行は難し



具体と抽象という眼鏡でみた戦略コンサルティングの仕事の実態、いかがでしたでしょうか?読者の方に何らかの発見やヒントがあったとすれば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました!

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