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A・MA・E

「引きこもる。」

昨日まではそう決めていた。
それなのにあまりの天気の良さに急いで化粧をして外に出た。
ちゃんとした化粧とちゃんとした洋服を着ると自然と背筋が伸びる。
私は普段猫背なので気を付けなければならない。特に外に出る時は尚更だ。

お世話になっている写真屋さんを訪れるといつも迎えてくれる主人に加えて、今日は久しぶりに奥さんと会うことができた。
女同士の会話に自然と笑顔が付け足される。
フィルムを当日預けると大体は翌日にまた来てねと言われるのに慣れてしまって「明日また」と言いかけると「今日は二馬力だからね。」と主人から夕方に取りに来るよう諭された。

その後は無印良品に行ったり、スタバでデータができるのを待った。
オールドコーチから本を取り出して読書開始。

原田マハの独立記念日。
ようやく読めた。
やっと読めた。
いつ買ったか覚えていないけれど、読めないままかなりの時間が過ぎた。
買ってから今まで読む時間はたくさんあったはずなのに1ページも読めなかった。


昨年、私はある人と別れた。
この本を読んだらあの人から離れられるだろうなんて馬鹿みたいなことを考えた。一刻も早く離れたい気持ちと離れがたい気持ちの間で何度も気持ちが揺れ動く。ゆらゆら、ゆらゆらと。
無理にその人から離れようとすれば、それは逆効果だということも脳が理解していた。
あの時の私は感情や考えが正常でなく「独立」という言葉を明らかにはき違えていた。
この言葉を勝手に自分の中で「孤立」「孤独」というグループに分類して良い意味としてはとらえていない視野の狭くて広い世界を知らなさ過ぎた自分がいた。
気持ちがなくなった時。
それが私の独立記念日だからその時にこの本を読もうと思っていたことをすっかり忘れていた。大体、それを覚えていて読む限りはどうせ忘れてなんかいない。

ちゃんと時間を味方にできた自分をさすがだと褒めてあげたいし、やりたいことをやっている自分が嫌いじゃない。今なら自信をもってあの人からも当時の自分の気持ちからも「独立」できたとはっきり言える。
独立は孤立や孤独なんかじゃない。
独立は新たな出発だ。

そして、今日この本を選んだ理由。
昨日、ある人の口から出たその言葉に驚きはしなかったけれどその人の考えと言葉が私を押さえつけようと、縛ろうとしていたのが分かった。
その考えと言葉の意味には政治的な要因も含まれてあって、あまりここでは深く書けない。
何を言っても何をしても許されるそんな間柄はもう終わり。
私はある人のあの考えから「独立=出発」しなければと瞬間的に思った。
それで選んだのがこの本だ。

今までの自分の考えとは保安検査場でおさらば。
新しい自分の意志をパスポート代わりに出国審査で確認。
ゲートが通過できたら、免税店で「希望」「自信」といった感情をショッピング。
あとは「期待」というチケットをグランドスタッフに見せれば「未来」という飛行機に乗りこみテイクオフ。

イングリッシュブレックファーストティーラテ、オールミルク、ホワイトモカシロップに変更で。
あと、ザ・ショコラ下さい。

ザ・ショコラの濃いチョコレート味のムースと下のタルト生地がより甘さを際立てながら1ページ1ページを丁寧に読み込む。怖さは全くない。
気づいたら夕方になって、データをとりに行った。

「できてるよ。」
あの優しい笑顔で店の主人がまた迎えてくれる。

とにかく今日はやりたいことができた。
そんな日。



A・MA・E(ア・マ・エ)
やりたいことをしたこの日を自分の「甘え」だと捉えるか。
A・ MA・E(ア・マ・イー)
自分のこれまでの考えの愚かさを「甘い」と捉えるか。


それは私だけが知っている。





 


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