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プロジェクトがまとう「状況」に目がいってしまう|11/10〜11/16

緊急事態宣言のなかで始めた日々の記録。火曜日から始まる1週間。仕事と生活のあわい。言えることもあれば言えないこともある。オンラインとオフラインのハイブリッド。ほぼ1か月前の出来事を振り返ります。

2020年11月10日(火) 市ヶ谷→自宅

午前は出社し、午後は在宅勤務にする。10月の自殺者数が2,153人で前年比614人増。東京都の新規感染者数は293人で火曜日としては2番目に多い数。いつも週前半は数字は小さいだけに、今週後半の数字の伸びがこわい。

2020年11月11日(水) 上野→大宮→自宅

東京藝術大学美術館の「日比野克彦を保存する」へ。日比野さんのアトリエをどう残すか? というメインの問いがありつつ、何を残すのか(残せないのか)という視点から、ひとりの作家の軌跡(関係)をつまびらかにする試み。アトリエがある渋谷の変化と重ねたパートも面白かった。会期が、ほぼ2週間と短いけれど、充実の内容。続編に期待したい。
会場で「なんで日比野さん、こんなにいろんなもの残してるんですか?」「いや、わたしも不思議に思って先生に聞いてみたんです。そしたら、何年か前に『種は船』というプロジェクトでアーカイブする話があって、なんでも残せと言われて、それがきっかけのようで…」という会話が聞こえてくる。日比野さんの言葉で、パネルにもそのことが書いてあった。
2012年度にTokyo Art Research Lab(TARL)では「複合型リサーチプロジェクトの実践」という取り組みを試みた。京都府舞鶴市で3年目を迎えていたプロジェクト「種は船」に伴走し、大阪のNPO法人地域文化に関する情報とプロジェクト[recip]記録と表現とメディアのための組織[remo]のチームが進行するプロジェクトの記録と調査を行い、東京のNPO法人アート&ソサイエティ研究センターのメンバーが記録の管理方法の設計やアーカイブづくりを担った。recip+remoは、自分たちの活動を、記録と調査のプロジェクト「船は種」と名付け、その成果は分厚い冊子にまとめられた。その冊子は、ほかの記録と一緒に展示されていた。いま思い返しても発見の多い試みだった。うれしい再会。

お隣の東京都美術館の2020年度アーカイブズ資料展示「旧館を知る」にも寄る。数年前に見た「造形講座と東京都美術館」が印象に残っていて、気にかかっていたシリーズ。小さく渋い(!)展示だけど、自らの足元を踏み固める大事な取り組みだと思う。自分たちの記録って、一番こぼれおちやすかったりする。アーカイブつながり。
上野から移動し、駆け足で、さいたま国際芸術祭2020へ。事前予約制。回りかたを計算し、まちを歩き、会場にたどりつき、作品をめぐり、写真を撮る。なんだか、こういう体験は、ひさしぶり。芸術祭のテーマは「花/flower」。明るい水色の蝶のような花のモチーフはチラシやウェブサイトでも目にしていた。でも、会場の作品は、じっくりと向き合うものも多い。メイン会場が大宮市の旧市役所や旧図書館を使っていることもあるのかもしれないけれど、外見と中身の印象にギャップを感じる。芸術祭は、ばらばらの要素に、ひとつの枠組みのなかで出会えるのがいいところでもあるのだろう。にしても、これまで芸術祭で、どんな体験をしてきたっけ? と改めて考えさせられる。旧市役所の地下フロア全体を使った梅田哲也さんの展示が圧倒的だった。手を入れたところと入れていないところの判別がつかないくらに小さな仕掛けが色んなところに潜んでいる。ここは住める、と思うくらいに楽しかった。
東京都の新規感染者数は317人。各地の感染者数も急速に拡大している。日本医師会会長は「第3波ではないか」と指摘し、政府に対応を求める考えを示した。あいちトリエンナーレから名称が変わる「新・国際芸術祭」(仮称)の芸術監督は森美術館館長の片岡真実さんに決定。ニュースが多い。

2020年11月12日(木) 府中本町→自宅

ACF(Artist Collective Fuchu)のミーティングへ。毎週開催のリズムに慣れてきてしまった。いろいろと実践に踏みこむ話もしていたけれど、ここでぐっと議論してきたことを外にも伝わるかたちで言語化する方向になる。パンフレットなどの物体に落としこむことを年度内の目標にする。積極的に不特定多数の人たちに開いた企画をつくる見通しも立てにくいこともある。会話のはしばしに「第3波」の影響が現れる。
終了後に自宅に移動し、都立大学の非常勤の授業をする。今日は『あわいゆくころ』の「三年目」を読む回。著者の瀬尾夏美さんが、陸前高田の写真館で働きはじめた。瓦礫がなくなり、自然が生い茂り、写真というメディアの役割と相まって、思い出すことや「弔い」という言葉が繰り返し現れてくるようになる。震災後の東北の変化に加えて、写真や映像というメディアを「使う」事例としてAHA!(Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ)の活動を話す。『あわいゆくころ』の読み方も、だんだんと慣れてきた。
東京都の新規感染者数は393人。都の警戒表現は「感染の再拡大に警戒が必要」から「感染が拡大しつつある」に変更。全国の新規感染者数1631人は過去最多を記録。

2020年11月13日(金) 市ヶ谷→武蔵小金井→市ヶ谷

朝から市ヶ谷のオフィスに出社する。午後に小金井アートスポット シャトー2Fで始まった越境/pen友プロジェクト「おばあさんのくらし」記憶の水脈をたどる展へ向かう。小金井アートフル・アクション!が、昨年度からアーティストの呉夏枝さんと進めてきた「pen友プロジェクト」。タイ、香港、中国、ペルーから日本に訪れ、暮らす4名の女性と呉さんが「pen友」となり、文通を行った。この文通相手のおばあさんの話から始まる4冊のノートが展示されていた。ノートは国内各地を巡り、数名のおばあさんの記憶が続けて記されていた。そのなかでは本人や家族から聞いた話を思い出し、ときには想像を交えて、それぞれの「おばあさん」の姿が語られている。挿絵があったり、写真が貼り付けてあったりする。前の人の書いたものを読んだ影響が次の人に微妙にリレーされている(ひとつのノートは最後におばあさんにありがとうの言葉で締める流れが生まれていた)。それもノートという「もの」が動いたことで起こったことなのだろう。オーストラリア在住の呉さんは来日することが出来なかった。展示までの議論はオンラインベースで進められた。入口では検温し、連絡先を記入し、アルコールで手指消毒をする。手袋をはめて、ノートを読む。どうしても書かれている中身だけでなく、プロジェクトがまとう「状況」に目がいってしまう。
展示の後は市ヶ谷に戻って、係会(注:東京アートポイント計画スタッフの定例会)。対面のイベントを実施する場合、会場の空間面積や換気の設備状況が都庁との情報共有の項目として入ってきている。という状況を共有する。そして、今年度の対応だけでなく、次年度の事業づくりの会話が増えてきた。誰と、どんな事業をやっていくのか? この状況は、どうなるのだろうか?
東京都の新規感染者数374人。3日連続で300人超え。北海道は235人、神奈川県は146人、愛知県は148人で横ばい。全国では1704人で過去最多。

2020年11月14日(土) 秋葉原

Tokyo Art Research Lab 東京プロジェクトスタディの合同共有会をSTUDIO302で開催する。今年の3つのスタディの面々が勢揃いした。ナビゲーターやスタッフは20人ほどが302に集まり、各スタディのメンバー30人ほどはZoomでオンラインから参加する。その2時間の司会進行をする。今年度のスタディには全く顔を出していないため、初対面の人たちも多い。オンラインとオフラインが混ざり込んでいる。どこを見ながら話せばいいのか? というところから慣れない。見知った人に会うのがほとんどになってしまったリモートワークのオンラインの世界から、いきなりリハビリなしで社会復帰をしている…という気分になる。スタディという名前らしく、それぞれの方法は独自性があって面白い。いい意味で迷走、いい感じで煮詰まっている。でも、聞けば聞くほどに「この状況下」という問題意識はベースとして共有されているんだなとも思う。

2020年11月15日(日) 自宅

日曜日なので休み。あっという間に11月も折り返し。

2020年11月16日(月) 市ヶ谷

電車が混んでいる。少し前は距離を気にする雰囲気もあったような気がするけれど、いまはもうお構いなし。連続でオンラインミーティングを行う。年度末が視野に入ってきて追いこみがはじまってきた。
宮城県美術館の移転断念を県知事が表明。増築はしないが、長寿命化の改築を行うことで現地存続となる。美術館の移転については市民から反対の声があがり、「宮城県美術館の現地存続を求める県民ネットワーク」が立ち上がるなど議論の場づくりが精力的に行われてきた。SNSでも、よく見かけていた話題だけに、ニュースに触れたとき、何人かの人たちの顔が思い浮かぶ。よかったなぁ。

(つづく)

noteの日記は、Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021「2020年リレー日記」のテスト版として始めたのがきっかけでした。10月の書き手は、木村敦子さん(クリエイティブディレクター/アートディレクター/編集者)→矢部佳宏さん(西会津国際芸術村 ディレクター)→木田修作さん(テレビユー福島 報道部 記者)→北澤 潤さん(美術家)です。
東日本大震災から10年目、いま何を考えていますか? 問いかけからはじまる寄稿シリーズ。美術批評家の椹木野衣さんの「心の底に降りてあるもの」とは? ぜひ、お読みください。
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