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展覧会「記録から表現をつくる」ができるまで

カロクリサイクルの展覧会「記録から表現をつくる」が、3月11日まで3331 Arts Chiyodaの3階、ROOM302で開催中です。開場時間が、平日と休日で異なりますのでお気をつけください。

展覧会「カロクリサイクル 記録から表現をつくる」
会期:2023年3月4日(土)~3月11日(土)
平日(水・木・金のみ)16:00-20:00/土日 13:00-20:00
会場:3331 Arts Chiyoda ROOM302
(東京都千代田区外神田6丁目11−14)
入場無料
<展示参加者>
井元遥花、坂井遥香、櫻井絵里、高杉記子、田中有加莉、舟之川聖子、万里 Madeno、NOOK

会場には、昨年の夏に開催したワークショップ「記録から表現をつくる」に参加したメンバーの有志が、それぞれにリサーチをし、表現をしたものが展示されています。関心の対象も、表現方法もばらばらで、じっくりとご覧いただけるものばかりです。

会場の3331 Arts Chiyodaは今月中に閉館。ここROOM302の最後の企画でもあります。
実際に手に取ってご覧いただける資料も多数あり。
スタジオ側から眺めると、こんな感じです。
本企画の母体となるプロジェクト「カロクリサイクル」がかかわった土地をマッピングした地図。
東日本大震災から10年目に集めた「10年目の手記」の朗読を聞くこともできます。

小さな空間で、短期間の展示ですが、どれもがリサーチの厚みを感じさせる味わい深い内容になっています。この機会に、ぜひ、ご覧ください。

では、なぜ、展示の内容にそんな「厚み」が生まれたのか? ここでは、ちょっとだけ、展示の前史に触れてみたいと思います。

表現に向かう“過程”を伝える

カロクリサイクルは、災禍の記録を意味する「禍録(かろく)」を掘り起こし、それを現代に活用していくプロジェクトとして、2022年4月にはじまりました。東日本大震災の後に、東北を中心に活動してきたNOOKが企画運営をしています。このカロクリサイクルの一環として、昨年夏に開催したワークショップが「記録から表現をつくる」でした。

残された記録を見る、あるいは記録をすることから、新たな表現をつくるワークショップを行います。過去の記録をつかった表現を実践する人に話を聞いたり、その表現を見つめ、話し合うことからはじめて、参加者自身が関心のあるテーマを設定し、記録から生まれる表現を探ることに挑戦します。今回は、多様な視点を持って記録と向き合うために、参加者、ファシリテーター、ゲストなどが互いに話し合うこと、もしくは誰かの話を聞きにいくことをプロセスの中に取り込みます。
ワークショップ後半で取り組む“表現”は、展示や企画のプラン、絵、演劇、文章、写真、映像、立体など、表現技法の制限はありません。日常的に何かを記録している方、聞き書きやリサーチに興味のある方、それらをプロセスに伴う作品制作がしたい方など、ぜひご参加ください。

ワークショップ「記録から表現をつくる」の告知文(抜粋)

こうした呼びかけに全国各地(!)から10数名の参加者が集まりました。ワークショップは全4回。最初の2回は、NOOKの実践について話を聞いたり、墨田区の横網町公園を東京都慰霊協会の方に案内をしてもらったり、ミュージシャン/自称ヒーロー honninmanの江戸時代の記録を使ったパフォーマンスの実演があったり...…と、カロクをリサイクルしている先輩たちの姿に学びました。

横網町公園内にある東京都慰霊堂を見学する。

当日のhonninmanのパフォーマンスは↓にアップされています。

2日間の様子を詳しく知りたい方は、配信番組「テレビノーク」もおすすめです。番組内でワークショップの報告があります。

参加者はワークショップの期間中、自分の関心のあることを調べ、最終回に「表現」することが求められていました。3回目は、最終回の発表に向けての相談会でした。NOOKの瀬尾夏美さん磯崎未菜さんへの個別相談や参加者同士で話し合いがあり、漠然とした関心や思いつきの共有から、リサーチや発表の仕方についての具体的なアドバイスまで、ゆったりした時間のなかで、さまざまな話題が交わされました。

オンラインでの相談や、対面での参加者同士での議論が行われた。

印象的だったのは瀬尾さんや磯崎さんが、繰り返し、リサーチしたことをどう記録に残すのかを問いかけ、その記録を提示することを最後の発表としていいと伝えていたことでした。つい「表現」や「発表」ということばを使うと最終的な成果の見せ方に目が向いてしまうけれど、実はそこに至るまでの過程をどう見せればいいかを考えることが大事。この視点は「記録から表現をつくる」というワークショップの大きな特徴だったのだと思います。

3回目の終わりには、全員でリサーチのアイディアを共有しました。ある人が話しはじめると、それにはこういう話がある、こんなやりかたはどうだろうか、というやりとりがあったり……気になっていたけれど、ここで取り上げるほどではないかと躊躇していたアイディアも誰かが面白がって応答することで、そこに踏みこむ後押しになったり……。各自の考えや関心を、表現を意識し、一歩踏み込んで話すことは、お互いの関係を深めるきっかけともなっていました。

そして、4回目の最終回は、ROOM302を使って、ここまでのリサーチの成果を表現として発表しあいました。

リサーチの資料をテーブルに広げた展示。みんなで説明を聞く。
テキストや写真、資料をまとめたものを、ROOM302の機材や道具を工夫して展示。
書画カメラを使って、プレゼンテーション。
数分の動画を、みんなで見る。

結果的にリサーチの内容も、伝え方もばらばらな発表が揃いました。ひとつひとつの表現をみんなで共有し、意見を交わすなかで、次はこうしたほうがいいのでは?といったアイディアも出てきます。和やかな雰囲気のなかで、互いの表現を味わうような時間になっていました。

締切があるといい

最終回の発表が終わった後、全員で感想を共有する時間がありました。関心を一度かたちにしたことで、それぞれに、これからやりたいことが見えてきているようでした。そのなかで「締切があったから、今回はかたちにするところまでできた」と語った人がいました。今回リサーチしたことは、前から気にはなっていたけれど、日々の生活のなかで、ひとりで誰かと共有するところまでまとめようとは思っていなかった、と。

これは他の参加者の人にも共通していたことだったと思います。ほとんどの人が、ワークショップのなかでテーマを見つけるというよりは、もともと気になっていたことをかたちにしていました。その発言に、みんなが頷きあうなかで、

「じゃあ、みんなで締切をつくって、励ましあいながら、続けましょう」

そんな瀬尾さんの呼びかけをきっかけに、今回の展覧会を目標として「締切の練習」と題したミーティング(そのとき名前の挙がった同人文集「締め切りの練習」に由来してます)を重ねることで、今回の展覧会「記録から表現をつくる」が出来上がりました。

「締め切りの練習」の様子(撮影:加藤甫)

ちょっとだけ、と言いつつ、前史の話はだいぶ長くなってしまいました。でも、最後にもうひとつだけ付け加えたいことを。

参加者の感想のなかには「表現のハードルが下がった」というものがありました。個々人が関心のあることを自分なりに掘り下げ、その過程を含めて、誰かと共有するためのかたちにしてみる。ここでの表現とは、途中の経過報告のようなものだともいえます。でも(だからこそ)それぞれの表現のもつ余白を埋めあうように、それを囲んで意見を交わしあい、結果的に互いの関係を深めることにもつながっていたのだと思います。

きっと展示を訪れたみなさんも、そんな表現にかかわり、自分もやってみたくなるのではないでしょうか。繰り返しますが、会期は短いので、お見逃しなく!

最終日には、会場内から「テレビノーク#8 3月11日、どう過ごしていますか?」のライブ配信も行われます。

カロクリサイクルについては、こちらのインタビューもどうぞ!