#ネタバレ 映画「家族を想うとき」
「家族を想うとき」
2019年作品
振り切っている
2019/12/19 17:07 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
ゾンビ映画もあれば、
怪獣映画もありました。
ヤクザものもあれば、
戦争、スパイ映画もありました。
しかし、
これほど情け容赦のないドラマを私は観たことがありません。
(あってほしくないけれど)どこにでもありそうなリアルで残酷な世界を、神の不在的に、淡々と描いています。
この作品、チラシで見る限り、パルムドールとか、何かを受賞してはいませんが、だからといって、小ばかにしてはなりません。
前作、映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」と対になるべき傑作です。
★★★★★
追記 ( 振り切っている )
2019/12/19 17:25 by さくらんぼ
この映画「家族を想うとき」の前半、人生に疲れ、ボ~としていた主人公・リッキーのスマホに、「お父さんすぐ帰ってきて」と、娘から電話がかかるのです。しかたなく帰宅するリッキー。
これが伏線ですね。
映画のラストには、家出するリッキーが描かれます。「一人にしてくれ!」という悲鳴が聞こえそう。
尿瓶も象徴的な記号として登場します。トイレに行く暇どころか、尿瓶で用を足す(憩いのひと時)さえも無いのです。その直後に強盗に襲われ、ケガを負わされただけでなく、強盗から尿瓶の尿を顔にかけられたリッキー。
昔、知人に、仕事も家庭も放り出して、「一人になりたい」と家出した男がいました。離婚したかどうかまでは覚えていません。
その時、「店長という仕事に行き詰って、しかも家庭でも癒されなかったのだなぁ」と思った記憶がありますが、きっとリッキーのような境遇だったのかもしれないと、つい思い出してしまいました。
この映画の主題は「一人になりたい」かもしれません。
ならば前作、映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」は、「一人にしないでくれ」だったのでしょう。役所から事務的な扱いをされていましたから。
追記Ⅱ ( 「脱サラ失敗物語」 )
2019/12/19 22:02 by さくらんぼ
映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」の主人公は、心臓病で倒れ、退職に追い込まれました。
しかし、この映画「家族を想うとき」では、(ボ~っと観てましたので正確に覚えていませんが)おもに人間関係で依願退職をしたようでした。
そして、再就職先に選んだのが、フランチャイズの宅配業者です。
「これで、思いっきり稼いで自分の家を持つんだ!」と妻に説明していましたが、すでに心の奥底には、「一人になりたい」という気持ちが芽生えていたのかもしれません。軌跡からは、そう読めるような気がします。
彼の表層的な考えでは、仕事だけは一人親方的な働き方をしたかったと思うのですが、そう甘いものではなかったようで、しだいに、重労働は本人の気持ちだけでなく、家族の気持ちもむしばんでいったのです。
そして、身動きが取れなくなり、彼は蒸発同然に、家出をしたのでした。
追記Ⅲ ( お父さんの気持ちに気づいてあげられなくて、ごめんなさい )
2019/12/19 22:11 by さくらんぼ
原題「SORRY WE MISSED YOU」。
「I」ではなく「WE」なので、
象徴的には、主人公・リッキーがそこまで追い詰められていることに、家族(WE)が気づいてやれなかったことへの、悔恨なのかもしれません。
追記Ⅳ ( 家族を考える )
2019/12/20 8:29 by さくらんぼ
>象徴的には、主人公・リッキーがそこまで追い詰められていることに、家族(WE)が気づいてやれなかったことへの、悔恨なのかもしれません。(追記Ⅲより)
「象徴的」と書いたのは、夫だけでなく、妻を、娘を、息子の気持ちを、他の家族が、気づいてやれなかったからです。
しかし、それが、並みのドラマのように、わざとらしくなく、オブラートで包み、かつ、私たちを自身を眺めているように、リアリティーをもって描かれているのです。
追記Ⅴ ( 優等生でも劣等生でも )
2019/12/20 8:54 by さくらんぼ
>彼の表層的な考えでは、仕事だけは一人親方的な働き方をしたかったと思うのですが、そう甘いものではなかったようで、しだいに、重労働は本人の気持ちだけでなく、家族の気持ちもむしばんでいったのです。(追記Ⅱより)
フランチャイズの宅配業を始めたリッキーが契約していた会社(支店)は、全支店の中で営業成績がトップでした。上司はそれが自慢です。
最初は苦労したリッキーでしたが、すぐにそこで「優等生」に上り詰めました。やはりリッキーには適性があったのです。
でも、家族に問題が起きて、休ませてほしいと言うと、上司は猛烈に怒りました。手のひらを返したように「劣等生」の烙印を押すのです。支店をトップから落としたくないからです。自分の責任問題になりますからね。
でも、「2番じゃダメなんですか?」ではないですが、トップから落ちただけで、たちまち役立たずの烙印を押すのはいかがなものかと思います。平均点以上なら良いじゃないですか。上司の気持ちもわかりますが。
そう思ったのは、私も似たような景色を観たことがあるからです。
官民問わず、トップ争いはし烈です。
適性のない職場に入り、最後尾に在籍するのも苦悩ですが。
追記Ⅵ ( 父は戻ってくる )
2019/12/20 17:49 by さくらんぼ
悲惨なエンディングですが、確かに、不思議と温もりも感じられるのですね。
この辺のシナリオは秀逸です。
映画には描かれていないその後を想像すると…
リッキーはしばらく一人になりたかっただけで、離婚する意思はないのでしょう。
だから、落ち着いたら戻ってくるはずです。
一月後か、一年後かはわかりませんが。
そして新しい仕事を見つけ、(たぶん許してくれる)妻子と一緒に、再スタートを切るのだと思います。
追記Ⅶ ( 映像言語 )
2019/12/21 8:52 by さくらんぼ
「 ( 映画の記号について )
津波と水素爆発で破壊された原発の映像がニュースに流れていましたが、その映像に私は違和感を感じました。バックの空がとてもきれいな青だからです。破壊された原発の残骸から受ける悲惨なイメージに打ち勝つほどに強く美しい青でした。それはワイキキの浜辺に似合うほどです。
もし、これが映画なら、空は少なくとも曇天でなければなりません。嵐の時のような真黒な雲ならお似合いです。逆に言うならば、映画で不穏な雲がでてきたら、その後には悲劇が起こると言う記号でもあります。」
( さくらんぼ「マイページ」のプロフィールより抜粋 )
>悲惨なエンディングですが、確かに、不思議と温もりも感じられるのですね。
>この辺のシナリオは秀逸です。
(追記Ⅵより)
空白の銀幕に映る映像には、監督の気持ちが込められています。基本的には偶然ではなく必然なのです。
ですから、温もりが感じられるとしたら、そこに監督のメッセージがあるのです。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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