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#ネタバレ 映画「風の電話」

「風の電話」
2020年作品
G線上のアリア
2020/1/29 18:00 by さくらんぼ


( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

3.11の一月ぐらい後だったでしょうか。まだ、曇天のような、怯えるような気分ではありましたが、以前からチケットを買ってあったクラシックのコンサートへ行きました。

そうしたら、アーティストの呼びかけで、黙とうと、鎮魂のバッハ「G線上のアリア」が、本演奏の前に行われたのです。

その、静寂にしみ渡るような美しい旋律に、色々な思いが、少し癒されたような気もしました。

映画「風の電話」を観たら、そのことを思い出したのです。切々と歌い上げる「G線上のアリア」のようなこの作品に。

全編、静かですが、緊迫感があり、濃厚です。

お芝居ではなく、誰かの私生活をのぞき見しているような、リアリティを感じました。

演技合戦というのでしょうか。(失礼ながら)みなさん演技がお上手ですね。ヒロインはもとより、主役級の人たちも、さりげなく、わき役で出演されており、なかなかの仕上がりです。

★★★★☆

追記 ( 映画「春との旅」 ) 
2020/1/30 14:19 by さくらんぼ

映画「風の電話」のヒロインは高校生ハル(モトーラ世理奈さん)。

ふと、映画「春との旅」を思い出しました。

オマージュかは現段階では分かりません。

追記Ⅱ ( 十分に喪に服したら ) 
2020/1/30 17:49 by さくらんぼ

( 以下、映画「嘘を愛する女」のネタバレです。)

病気で家族一人を亡くしても、その喪失感は耐えがたいものがあります。なのに、3.11で突然町ごと消失するという脅威に遭われた方々は、いったいどれほどの悲劇を感じておられるのか。それは、私ごときの想像力ではとても追いつかないほど大きなものだと思います。

しかし、十分に喪に服したら、いつかは前を向いて歩き始めていただきたいのです。それは、亡くなった方々の望みでもあるはず。

この映画「嘘を愛する女」は、3.11の哀しみの中にある方々に、それとなく、それを伝える映画であったのだと思います。

ヒロインの川原由加利(長澤まさみさん)と出桔平(高橋一生さん)が初めて出会ったのは、3.11の日でした。東京では帰宅困難者が大量に生まれ、街が大混乱になっていた時です。

歩いて帰ろうとして、気分が悪くなった川原を、医師でもあった桔平が優しく介抱し、自分のスニーカーを履かせて帰宅させたのです。川原のハイヒールではとても長距離を歩けませんから。

それがきっかけで二人は恋に落ちるのですが、あの「男のスニーカーを、女が履く」エピソードは、「ここから二人が、同じ人生を歩き始めた」との記号だったのでしょう。

つまり、3.11は哀しみであることに間違いはありませんが、振り返ってみれば「終わりであると同時に、何かの始まりでもあった」のです。そして二人は、それを5年後に知ることになります。

( 映画「嘘を愛する女」追記 2018/2/9 9:22 by さくらんぼ より転記 )

追記Ⅲ ( 十分に喪に服したら② ) 
2020/1/30 18:06 by さくらんぼ

家族がいようが、いまいが、親友がいようが、いまいが、失恋すれば「さみしさの極み」を味わうことになります。

一人の赤の他人を失った青春時代のあの時、自分はもう親離れしていたのだと、私は悟りました。

誰でもやがて、一人になるのです。

しかし、震災当時、まだ子どもだったハルには、過酷すぎる経験でした。それについては、どう慰めてよいやら、言葉もありません。

でも、あれから、もう10年になります。

客観的に見て、色々なことに、そろそろ一区切りをつけても良い時期になったのでしょう。

追記Ⅳ ( その為の長い旅 ) 
2020/1/30 18:24 by さくらんぼ

映画のラスト、途中で知り合った少年と、二人で行った風の電話。

まず、少年がボックスへ入ります。

よく聞き取れませんが、何かを話している様子。

でも、やがて出てきた少年の表情には、明るさは、ありませんでした。まだ、満たされない何かを抱えているようです。

続いて入るハル。

彼女が何を話すのか、それがワンカットの長回しで映ります。

長い独り言です(とても上手)。

電話を終えたハルは、しばらく隣のベンチに一人腰を下ろし、ぼんやりしていました。

そして、意を決したかのように、去っていくところで、映画は終わります。

もしかしたら、ハルや少年にだけは、亡くなった方の声が聞こえていたのかもしえませんが、私には独り言に見えました。( 私は霊魂の存在を否定するものではありませんが、私にも霊能力はありません。)

それに比べ、旅の途中で知り合った沢山の人々、日本人も、外国人も、老若男女たちは、ハルを励まし、飯を食わし、お金まで渡して送ってくれました。

「生きている限り食わなきゃならん」。

そんなセリフが繰り返し出てきます。

あの、ハルを無理やりナンパしようとした不良少年でさえも、ハルを求めていたという事です。

独り言に生きるか、それとも実態のある赤の他人と、新しい家族を作るのか。

ハルも少年も、極点である電話まで来ることで吹っ切れ、今度は、生きている人間と、新しい家族を作ることにしたのだと思います。

追記Ⅴ ( 旅という「学び舎」 ) 
2020/1/31 9:02 by さくらんぼ

>映画「風の電話」のヒロインは高校生ハル(モトーラ世理奈さん)。
>ふと、映画「春との旅」を思い出しました。
>オマージュかは現段階では分かりません。(追記より)

映画「春との旅」は、老人が少女の助けを借りて、新しい家族を探す旅でした。

映画「風の電話」は、少女が大人の助けを借りて、新しい家族を作る決意をするまでの映画なのでしょう。

ちなみに、健さんの映画「駅 STATION」も、健さんが旅で学んで再生を目指すので、映画「風の電話」から連想されます。詳細は、私のレビューをご覧ください。

追記Ⅵ ( ハルには「靴」が必要 ) 
2020/2/1 16:51 by さくらんぼ

旅の途中、袖触れ合った人からお金をもらったハルは、一束のソックスを買いました。

それ以後、画面に登場するハルのソックスは違う色を見せます。

ソックスは、記号として、靴の代わりだったのかもしれません。

霊魂は靴を必要としません。しかし、生身の人間であるハルには靴が必要なのです。

ソックスを毎日交換することで、映画は、その区別を暗示していたのでしょう。

追記Ⅶ ( 分断された、もう一組の家族 ) 
2020/2/1 17:03 by さくらんぼ

専門的なことは知りませんが、ときどきニュースなどで流れてくる話には、入国管理局では、滞在ビザを持たない外国人を無期限のように収容することがあるらしいのです。

この映画「風の電話」にも出てきました。

その問題をどうすればよいのか、無知な私には分かりません。

でも、無期限のように収容し、家族と離れ離れにしてしまうことは、(本人の人権を含めて)やはり問題であり、改善すべきところがあるのかもしれません。

追記Ⅷ ( 「ベルリン国際映画祭」で・・・ ) 
2020/2/29 19:51 by さくらんぼ

映画「風の電話」が、ベルリン国際映画祭で、国際審査員による特別表彰を受けました。

静かなロードムービーを、ぜひ、お楽しみください。

追記Ⅸ ( 震災10年の復興政策 ) 
2021/1/14 9:57 by さくらんぼ

「 (インタビュー)震災10年の復興政策 宮城県知事・村井嘉浩さん 」

( 「朝日新聞デジタル」2020年12月22日 5時00分 )

新聞の見出しに「もう自立しないと 支援はいつか終わる 不足は行政が補う 」と知事の言葉がありましたが、失礼ながら「さすが」と思いました。

追記Ⅹ ( 新しい復興の「縮小モデル」 ) 
2021/1/14 10:09 by さくらんぼ

人口減少に伴う「地方都市消滅」のニュース、最初に知った時は衝撃的でしたが、すでに常識化してきました。

過日、消滅可能性市町村リストを見た時、見間違いでなければ、3.11被災地は判定除外されていたように思います(現時点は分かりません)。

3.11被災地の復旧・復興は、官民の願いであることに違いはありません。一瞬で故郷が消滅した衝撃と悲しみは、私の想像力をはるかに超えています。

しかし、もし、もしですが…

(先日のTV報道)被災者の方々に、10年ぐらいたった今でも「自分はまだ被災者だ」という気持ちが消えないのだとしたら、その理由の一つには、「故郷が復旧・復興していないこと」も、あるかもしれないと思ったのです。

言い換えれば、官民が良かれと思ってしてきた復旧・復興への「夢」が、もしかしたら、これからも被災者の方々を「苦しめ続ける」のではないかという危惧を感じたのです。

「出来ないことを期待させるのも、できないことを期待する」のも、不幸なことです。

幻を追いかける少女を描いた、映画「風の電話」が語っていることも、同じなのだと思います。

追記

早朝のNHKラジオ、人情映画で有名な監督がトークしていました。

「戦後の焼け野原から復興した日本だ。東北も復興できる」と、熱く語っておられました(表現は正確ではありません)。

しかし、戦後の焼け野原から復興が出来たのは、多くが大都会であったことを含め、時代背景が違うのではないでしょうか。

3月11日では、「復旧・復興悲願」を唱える事以外、話せない雰囲気ではありますし、一旦始めた公共事業はなかなか止められないという常識もあります。

しかし、都会へ移住して10年暮らし、もう都会で生活基盤が出来、いまさら故郷へ戻れない人も少なくないわけです。

そして言うまでもありませんが、復旧・復興はタダでできるわけではなく、膨大な国民の血税が注がれ続けているはずです。これからますます人口減少の日本になります。その血税が無駄にならぬように願っています。

追記2

『 (耕論)「復興」の忘れもの 苅米照子さん、山内明美さん、御厨貴さん  』( 2020.3.11「朝日新聞」13面より )

この中の御厨貴さんは、東京大学先端科学技術研究センター客員教授で、震災直後に設置された復興構想会議で議長代理を務めた方です。

これを読むと、復興構想会議でも、過疎地や限界集落のことを考えた、戦後復興とは違う、「災後復興」と名付けたスタイルを目指していたことが分かります。

しかし…

「 9年たってみると、結局、『戦後』的な発想から抜け出せなかったと感じます。多くの被災地を回りましたが、復興の議論がすべて、人も増える、企業も進出するという『成長モデル』を前提にしているんです。

すごく不便な土地にまで復興住宅を作る。子どがほとんどいない地域に学童施設つくり、バス路線を通そうとする。巨額のカネをインフラや住宅につぎこんでも、人は戻ってこない。

本来なら、過疎が進み、これから栄えることがまず考えられない地域で、新しい復興の『縮小モデル』を作るべきでした。そうすることで、東北が、人口減少時代の最先端になれたはずなんです。 」 (抜粋)

と語り、やはり当初の思惑とは違うところへ、復興が流れている事が分かりました。

追記3

こんな話をすると、官民が「責任のなすりつけあい」を始める心配があります。

でも、一か所ではなく、国、地方自治体、国民、業者、マスコミなど、それぞれに一定の責任があるような気がします。

そして、それらを貫くこの10年に欠けていた視点は、本来プランの肝であった「縮小モデル」という概念だと思います。

この10年、(行け行けドンドンの体で)「復旧・復興」という言葉は耳にタコができるほど聞きました。しかし、私が記憶している限り「縮小モデル」という言葉を聞いたことはありません。それが間違いの「種」だったのかもしれないのです。

「地方都市消滅」の話からは「被災地」が除外され、同時に論じることはタブーの気配さえあることに、違和感を通り越して、危機感を感じ始め、この文章を書きましたが。

追記4

[ -では「阪神大震災の被災地は復興した」と断言することも、難しいでしょうか。

「何をもって『復興した』と断言できるかと常々考えるけど、難しい。ただ少なくとも建物がばんばん立つことではないと思うよ」

「一番の問題は、被災して一度は絶望した人たちが、残りの人生をどう生きるかやねん。絶望する日々の中に『楽しかった』と思える時間があったり『いい日だった』と思えたりする。そんな日々が続くとしたら、その人は『少し復興できた』と言えるんちゃうかな」 ]

( 2020.3.10「朝日新聞」 13面「被被災地・神戸からの伝言」 NPO法人「よろず相談室」代表 牧修一さん より抜粋 )

幸せは一人ひとりの心の中に在り、箱モノの中にではない、のかもしれませんね。(2020.3.11のマイページより加筆再掲)

追記5

「 (東日本大震災10年 3・11の現在地)異例の復興、重点どこへ 見直された地元負担ゼロ 」

( 2021年1月11日 5時00分「朝日新聞デジタル」 )

紙の新聞記事の末尾には、

「 … 前略 … 復興構想会議の検討部会長を務めた飯尾潤・政策研究大学院教授は今、『縮小しても幸せになるような復興のあり方を考える必要がある』と話す。

これから起こる災害でも同じ試練は続く。 」

とありました。

追記11 ( G線上のアリア ) 
2021/10/22 22:10 by さくらんぼ

3.11を題材にした映画はすでにたくさん作られているはずです。

私が観たものはその一部でしょう。それぞれ個性的でしたが、すぐに思い出すのはこの映画「風の電話」です。

ヒロインのように、まだ子供なのに孤児になってしまう事は、想像を絶するほどの痛みなのだと思います。

私にはこのようなドラマが一番沁みます。

追記12 2022.3.10 ( あの日を想って )

バッハ G線上のアリア

( 髙木凜々子 ヴァイオリンチャンネル )



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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