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#ネタバレ 映画「野球少女」

「野球少女」
2019年作品
これは肝っ玉母さんの映画、かも
2021/3/10 17:14 by さくらんぼ (修正あり)

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

「巨人の星」など、野球漫画に恵まれた日本人には、「野球少女」などというストレートすぎるタイトルを見ただけで、内容が想像できてしまうと思います。

しかし、その想像は半分当たっていますが、あとの半分は外れているかもしれません。

まず、日本映画にありがちなお子様ランチ的な味付けはありません(失礼)。韓国映画にみられる「辛口の日本酒を飲んだような味わい」に仕上げられています。

さらに、話の落としどころが、泣かせどころが、変化球なのです。

たぶん予想を裏切っているはず。

「え、そこ!?」と驚き、じ~んと感動します。

良い作品を観せてもらいました。

★★★★☆

追記 ( 母の苦悩 ) 
2021/3/10 17:52 by さくらんぼ

( NHKホームページ 「連続テレビ小説『まれ』」 ストーリーより抜粋 )

「  1994年夏。夢が嫌いな小学5年生の津村希(松本来夢)は、家族とともに夜逃げ同然で石川県・能登半島の小さな漁村に越してくる。

一家は、偶然の出会いから塩田を営む夫婦の家に間借りすることになる。そして、夢ばかり語る父・徹(大泉洋)に代わって、母・藍子(常盤貴子)が希と弟の一徹(葉山奨之)を養うため、塩田で力仕事をこなしていた。

8年後。夢を追って能登を出たまま帰ってこない父を反面教師に、希(土屋太鳳)は、輪島市役所を就職先に選んでいた。

…後略…  」

土屋太鳳さんがヒロインのNHK朝ドラ「まれ」(2015年)では、夢ばかり追いかけていた父を反面教師に、稀は自分の夢を捨て、いったんは公務員になるのです(極言すれば、「夢を捨てた者たちの吹き溜まりが公務員だ」という、日本ではスタンダードになってしまった感のある世界観は、「とんでもない間違いだ」と言えない分だけ、哀しいですね)。

しかし、同様に夢ばかり追いかけている父が出て来る映画「野球少女」ですが、こちらのヒロイン・チュ・スイン(イ・ジュヨンさん)は、わき目も振らずに自分の夢を追いかけるのです。ここの日韓対比!?も面白いです。

そんな中に在って、母だけが、一家のリアリストなのでした。

追記Ⅱ ( 燃やされたグローブ ) 
2021/3/11 9:48 by さくらんぼ

娘・チュ・スインが、がんばってもプロになれそうもないと知った母は、自分が勤めていた会社に頼み込み、従業員として雇ってもらうことにしました。

しつこく母に説得され、一旦は会社で働き始めたチュ・スインでしたが、すぐに無断で会社を抜け出し、野球の練習を始めます。リアリストにはなれないのです。

激怒した母を、「今は喧嘩したくない」と相手にしないチュ・スイン。

私は、チュ・スインの行動は社会人として失格だと思います。

自分の夢を追いかける事は良いですが、母の顔に泥を塗り、母も会社に居づらくさせたのです。母が会社を辞めたら一家は食っていけません。その母の苦悩を想像すべきです。

そして、チュ・スイン自身も、あまりに短期間で退職したとなると、新しい就職先では、いろいろ詮索されます。さらに依願退職ではなく、クビになった場合は、履歴に傷がつきかねません。

学生なら授業を抜け出しても先生から大目に見てもらえるかもしれませんが、社会人となったわけですから、社会人としての自覚が必要です。退職しても良いですが、手続きを踏んで退職する必要があります。会社や母にできるだけ迷惑をかけぬよう。

だから、母の怒りは、チュ・スインが夢を追いかけ続けている事だけではなかったのです。

怒った母はチュ・スインのグローブを燃やしてしまいます。

追記Ⅳ ( 自分を安売りしてはいけない ) 
2021/3/11 10:04 by さくらんぼ

>怒った母はチュ・スインのグローブを燃やしてしまいます。(追記Ⅱより)

そのグローブですが、他にも出てきます。

燃やされたことを知った友人が、自分の古いグローブを持ってきて「これあげる」と言うのです。しかし、チュ・スインは受け取りませんでした。

コーチが新品のグローブをプレゼントして、「前のより良い物だぞ」と言うと喜んで受け取りました。

チュ・スインが入団テストのようなことをしたとき、チュ・スインのボールに驚いた捕手が、「このグローブでは捕りにくいので,違うグローブが欲しい」と願い出ました。

つまり、このあたりが主題のようです。

「等価交換」とでも言いましょうか、「割れ鍋に綴じ蓋」、「類は友を呼ぶ」とでも言いましょうか。

追記Ⅴ ( 等価交換 ) 
2021/3/11 10:27 by さくらんぼ

チュ・スインの父は宅地建物取引士を目指していたようですが、何回も受験に失敗したので、今回はブローカーに多額のお金を払い、不正受験をしたのです。しかし、ブローカーが警察に摘発され、またも失敗してしまいました。

これなど、自分の価値が低いと知っていたのでお金まで出したわけです。

そんな苦い経験をした母は、チュ・スインの入団契約の時、契約額○○ウオンと書かれた書類を見て、「うちは貧しいから2か月待ってくれませんか。そうしたら工面できます」と言ってしまいました。裏口入団と勘違いしたのですね。しかし、それでも娘を入れてやりたいと思ったのです。

同席したコーチが苦笑しながら、「違いますよ、これは年俸です」と言うと、信じられないという顔をする母、等価交換がここにありました。

しかし、この席にはチュ・スインはいないのです。

この映画「野球少女」は、肝っ玉かあさんのものだからだと思いました。

母がいちばん血の通った演技をしていたと思います。

追記Ⅵ ( 母への甘え ) 
2021/3/11 10:51 by さくらんぼ

>激怒した母を、「今は喧嘩したくない」と相手にしないチュ・スイン。(追記Ⅱより)

母だから許してもらえる言動であり、他人様だったら、激怒して絶縁されるどころか、敵に回ることも覚悟しなければなりません。

土下座という言葉は好きではありませんが、「今は喧嘩したくない」などという上から目線ではなく、この状況、他人様なら、土下座してのお詫びが等価交換になってもおかしくないと思います。

その点、NHK「連続テレビ小説『まれ』」 の、公務員から民間への、ヒロインの転職行動はしっかりしたものでした。

追記Ⅶ ( ヨム・ヘランさん ) 
2021/3/11 14:15 by さくらんぼ

肝っ玉母さんと言うだけで、名前を書いていませんでした。

私もこの作品で初めての知る女優さんだと思いますが、ヨム・ヘランさんと言います。

(もし失礼になりましたらお許しください。)関西のおばちゃんを連想するような生命力にあふれた演技でした。

それに対してヒロイン役のイ・ジュヨンさんの演技は、女を封印していたせいか、どこにでもいそうな、小柄な少年Aにしか見えなかったのが残念でした。

追記Ⅷ ( ある意味 映画「愛と青春の旅だち」 ) 
2021/3/14 9:50 by さくらんぼ

日本のトレンディドラマを観ていると、わりと大きな会社のホワイトカラーの主人公たちが、立派なマンションに住んでいたりします。

だから高校生などの中には、自分の将来像も、ぼんやりと、それに重ねている人もいるのではないでしょうか。

しかし競争社会ですので、実際には町工場に工員として就職し、長屋のようなアパートに住むことになる人も少なくないはず。某国の総理も最初は段ボール工場で働いておられたようですし。

就職のときに、初めてその厳しい現実に気づき、おろおろする人もいるはずです。

映画「野球少女」のチュ・スインに、彼女の幼馴染の男が言うセリフがあります。「リトルリーグからずっと野球をしてきたのは、君と僕だけだ」。

そしてチュ・スインは134キロの最高球速を誇る天才野球少女として称えられてきました。

そんな、わき目も振らず野球一筋のチュ・スインは、自分はすんなりプロになれると思っていた節があります。少しは男女差別のことを知っていたとしても、ぼんやりと、それは自分と世界が違う話だと思って。

誰でも歳を取り、働けなくなり、両親も逝き、最後は孤独な年金生活者になるという事は知っていても、若い頃は自分は例外だと思ってしまいがちなのと同じですね。私も40歳まで実感がありませんでした。

さらに、チュ・スインが高校で数学の試験を受けるシーン。試験問題を受け取ると、すぐに居眠りを始めるのです。先生が「あきらめるのが早すぎるぞ!」と注意すると、「だって、数学の試験なのに、数字じゃなくて、文字ばかり書いてある」と口答えします。

日本には文武両道という言葉があります。一流のスポーツ選手であっても、学力も優秀な方はたくさんいらっしゃるでしょう。0点覚悟で試験時間を居眠りする人の方が少ないのではないでしょうか。

このように勉強が苦手なチュ・スインでしたが、母の口利きで就職した会社では、上司から「6か月間は、いろいろな仕事を覚えてもらいます」と言われて工場で働きます。

ところが、「いつになったら事務をやれるんだ」とつぶやくのです。

しかし、あのように勉強が苦手な人なのに事務員には適性があるのでしょうか。

結局、彼女は、事務員も工員も不満なのでしょう。

やがて、「自分は野球しかやれない」と気づいたようです。

この作品は「男女差別」を描いていましたが、「男女差別」と戦っていたというよりも、それを裏打ちして彼女を動かしていたのは、「自分には野球しかなかった、という悟り」なのでしょう。

追記Ⅸ 2022.5.20 ( お借りした画像は )

キーワード「野球」でご縁がありました。芝生とぬいぐるみのアイディアが楽しいです。無加工です。ありがとうございました。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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