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ゆきのひ1

 東京に雪が積もったのは何年ぶりのことだろう。その日わたしは休日出勤の代休で一日家にいたので、暗くなってから外に出てその雪の量に驚いた。最後に積もったのはもう数年前になると思うが、今回はその時よりも多く積もっているような気がした。アパートの部屋を出ると、まだ誰にも踏まれていない雪が玄関の前に広がっていた。サクサクと音を立てて積もった雪に靴が埋もれる。パンプスを履いてきたことを後悔した。どうせ近所だし、と何も考えずに普段履きの靴を履いてきたのだが、足首に雪が触れて冷たい。いつもに比べて駅までの道も人通りが少ないような気がする。家を出る前にさっとネットで検索したが、秀之の家までの電車は特に遅延や混雑はなさそうだった。山手線とかで、一部の駅がひどく混雑している画像がネットには上がっていた。秀之は仕事が終わるまでまだもうしばらくかかるらしいが、一緒に食事をすることになったのでわたしは駅に向かった。秀之はわたしの住む駅の隣の隣の駅に住んでいる。そんなに近いなら同棲すればいいじゃん、などと友達に言われることも多いが、付き合いはじめてもう随分たつが、わたしたちは今のところ、そういうようなことをする予定はない。たぶん、いまのわたしと秀之の関係、においては、このくらいの距離感がちょうどいいのだろう、というような気がわたしはしている。スーパーでちょっとだけ買い物をして、合鍵で秀之の部屋に上がった。わたしも、二駅離れた秀之も、同じくらいの収入の人よりも少しだけ家賃相場が割高なエリアに住んでいるので、ふたりとも、けっして新しいとは言い難いような部屋に住んでいる。最低限のリノベーションはしてあるが、間取りが微妙に変だったり、ドアの開く方向がいまいちだったり、生活に差し障りのない範囲でそんなさわやかな不都合があったりする。秀之の部屋は、わたしが想像していたよりも二十%くらいは片付いていて、あまり苦労すること無く夕飯の支度を始められた。二人で鶏鍋を食べて、秀之が帰りに買ってきてくれたシュークリームを食べると、わたしたちは暖房の効いた部屋のソファでだらだらとテレビを観たりして過ごした。あとは秀之の転職についてとか、わたしが最近イタリア語を勉強したいと思っているということについてとか、そんな他愛もないことを話したりした。それで気がついたらすっかり深夜になっていて、そろそろ寝ようかというような雰囲気がふたりの間で漂い始めたとき、せっかくの雪だし散歩に行こう、と秀之が言い出した。窓を開けて外を観てみたらもう雪は止んでいて、なんで雪だから散歩に行くのかわたしにはよくわからなかったが、そう悪い考えでもないような気がしたので、わたしたちは精一杯の防寒をして表に出た。雪といえば森だよね、とわたしが言って、それでわたしたちは広尾駅のそばの大きな公園を目指して歩いた。チェーンをタイヤに巻いたタクシーやトラックが通ると、ガラガラとうるさい音が響く。ひと気はもう殆ど無い。しん、と静まった街を車の音と、わたしたちの足音だけが彩る。公園の中は、まるでファンタジー小説の舞台みたいだった。時々、木の上に積もった雪が音を立てて崩れ落ちる。森の中は誰も居なかった。足跡はたくさんあって、色んな人が雪を眺めたり、雪で遊んだりした痕跡はあったが、もう真夜中だからなのか、公園にはわたしと秀之しかいなかった。ジーパンの上から秀之に借りたジャージを履いてきたのでなんとか耐えられたが、空気はすっかり冷え切っていた。前にも何度かこの公園には秀之と来たことがあったが、雪が積もっているとすっかり見違えて、別の景色を見ているようだと思った。足跡がたくさんついた階段を登りきると、ベンチが並ぶ広場に出た。雪が積もると、音の聞こえ方も変わる。雪が音を吸うからだと聞いたことがあるが、音の響き方がなんだかしっとりとしているような気がする。ベンチに積もった雪を眺めていると、ふいに後ろから秀之に抱きしめられた。耳元に秀之の吐く息がかかる。秀之はなにも言わない。ごわごわとした防寒着越しのわたしのふとももあたりの感触に、秀之がたぶん勃起しているのが伝わってくる。後ろから回された秀之の手が、わたしの胸を押さえている。自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じる。しばらくそのままでいた。秀之の硬さが増しているような気がする。森の中で、抱きしめられたまま音もなく立ち尽くした。雪が木から落ちる音だけが時々、聞こえる。道路の音も、ここからは聞こえない。わたしはそっと秀之の腕をほどいて、秀之の前にしゃがみこんだ。ベルトを外して秀之のブラックデニムとトランクスをずり下ろす。秀之の固くなったペニスが、上に向かって起立している。秀之の顔を見ると、触って欲しそうだった。わたしは手袋を外して、秀之の熱を帯びたペニスに触れた。秀之のペニスは熱かった。ねぇ。秀之の顔を見上げて言う。わたしに挿れるときみたいにさ、あれにしてよ。薄く笑ってそう言ったわたしの目線の先には厚く雪が積もったベンチがあった。こういうとき、秀之はなぜかとても素直にわたしの言うことを聞く。冷たい。ベンチの上の雪に、固くなったペニスを押し付けながら秀之はそう言った。ベンチに身体を押し付けている秀之の姿はなんだか滑稽だったが、わたしは笑わないようにした。女に身体を押し付けているときだって、たぶん傍から見たら十分に滑稽に見えるような気がする。秀之が身体をずらすと、ほんとうに秀之のペニスの形のままに雪に穴が穿たれていた。すっぽりと秀之のペニスが収まるその穴を見ながら、わたしの穴も、秀之のものが入っているときはこんな大きさになっているのか、となんだか神妙な気持ちになった。はじめてタンポンを入れたとき、あんな細さでも痛かったし違和感があったことを思い出した。秀之のペニスに指先で触れると、雪の冷たさですっかり冷え切っていたが、硬さは変わらなかった。秀之は何も言わないが、ペニスはどくどくと波打っている。コーフンした? そう訊いてみたが、秀之は返事をしないで静かに一度だけ頷いた。わたしは跪いて秀之のものを口に含んだ。唇をすぼめて、ペニスの側面にこするように押し付ける。夜の冷気の包まれて、袋のところが縮こまっていて、なんだか可愛く思えた。裏筋のあたりを指で辿って袋にそっと触れると、秀之の身体がびくんと動いた。しばらくしゃぶっていたが、だんだん息が苦しくなってきたのでわたしは口から秀之を離した。唾液が糸を引く。公園の寒々しい光に照らされて、ぬらぬらと濡れたペニスが光っている。基本的に秀之はフェラではイカないので、こういうときはいつも最後は手ですることが多い。秀之は挿れたそうな顔をしていたが、寒かったし、わたしはここでするのは嫌だったので、無視してそのまま手で続きをした。秀之の足元にしゃがんで、わたしはただただペニスを擦った。秀之がつらそうな表情になって、呼吸が荒くなって、出そう、と小さく言ったが構わずにそのまま同じペースで擦り続けていると、雪の上に精液が飛んだ。音もなく精液は雪の上に落ちて、少しだけ、雪を溶かした。精液よりも雪のほうが白かった。地面についていた膝が雪で塗れて冷たかった。手の中のペニスが少しずつ形を失っていくのを感じる。雪の上にある秀之の形の穴を、膝をついたまま、わたしは静かに眺めていた。(2018/01/25/23:05)

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