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「同情するなら金をくれ!」という言葉は排除される『東京都同情塔』

『文藝春秋3月号(3月特別号)』

新グループの誕生か、ポスト岸田は誰なのか 「派閥とカネ」 本音で語る
「政治に金はかかるもの」──3人のキーマンが裏金問題の核心を明かす
萩生田光一 加藤勝信 武田良太
派閥解消で糠喜び 茂木の一寸先は闇 赤坂太郎

建設現場は悲惨だった 大阪万博のデタラメ発注を暴く 森功
角栄が夢の跡「目白御殿」炎上 森健

JAL乗務員 緊迫の証言 柳田邦男
───羽田衝突事故の死角 前編

危機説 楽天・三木谷会長 反省の弁 聞き手 大西康之

短期集中連載2 駐中国大使、かく戦えり 垂秀夫
中国での 3ステップ 情報収集術

ウクライナ敗北のXデー
小泉悠 東野篤子 長谷川雄之 廣瀬陽子

日本の近現代史を訂正していこう 御厨貴 東浩紀

第170回 芥川賞発表「東京都同情塔」九段理江

新宿御苑に監獄タワーを
建築した沙羅。
彼女は年下の恋人に何を託したのか

受賞者インタビュー
趣味の筋トレは三島由紀夫がきっかけです

選評
小川洋子 島田雅彦 松浦寿輝 山田詠美 平野啓一郎 奥泉光 吉田修一 川上弘美 堀江敏幸

AIは脅威か、それとも恩恵か

小川哲 小説家vs.AI
──『文藝春秋』から依頼された「AI論」の冒頭を小説家の立場から書いてください

AIは落ちこぼれを救う
落合陽一 藤井輝夫 金出武雄

画期的新説 邪馬台はヤマトである 桃崎有一郎

三回忌を迎えて 父慎太郎を作った人と言葉 石原延啓

松本人志は裸の王様だったのか 鈴木涼美 三浦瑠麗

「性」は選ぶものではない 長谷川眞理子

弟は父の性虐待で死んだ 秋山千佳

新連載 「お笑い社長繁盛記」2 
爆笑問題「復活ライブ」の秘策 太田光代

秋元康ロングインタビュー 第五回
AKB48がどうやって生まれたのか? 

「人生は桜吹雪」 最終回 杉良太郎
「筋金入りのお方ね」美智子さまのお言葉に感激した
二月の憂鬱 古風堂々58 藤原正彦
ファンレター 岩井克人 
『あの本、読みました?』を、観ました? 鈴木保奈美
伊藤計劃生誕五十年 円城塔
希林さんと歩んだ五十年 浅田美代子
岡本喜八映画と戦中派の“叫び” 前田啓介
創設五十周年を迎えて 𠮷田憲司
気候変動随想 大村智
令和の廃藩置県 日本人へ246 塩野七生

菊池寛 アンド・カンパニー27 鹿島茂
記者は天国に行けない26 清武英利
有働由美子対談62 東出昌大 俳優
病葉草紙 第七話 肺積 後編 京極夏彦
日本の地下水脈40 保阪正康
ムーンサルトは寝て待て8 内館牧子

BOOK倶楽部
奈倉有里、本上まなみ、片山杜秀、角田光代
「保守」と「リベラル」のための教科書
「今」と「未来」を見通す科学本

グラビア
日本の顔(上白石萌音)
中野京子の名画が語る西洋史139 
名品探訪29「暮らしにいい音を」  
珈琲職人
小さな大物(似鳥昭雄)
作家が愛した名店(田辺聖子)
短歌…田中有芽子
俳句…瀬戸優理子
詩…海東セラ

ベストセラーで読む日本の近現代史 佐藤優

日本語探偵・飯間浩明
数字の科学・佐藤健太郎
大相撲新風録・佐藤祥子
スターは楽し・芝山幹郎

芥川賞特集号。『東京都同情塔』九段理江の選評を読むために普段買わない『文藝春秋』を買ったのだが、けっこう評価は割れていると思った。

九段理江よりも『迷彩服の男』が興味深い。まだ受賞作を読んでないのだがAIによる「バベルの塔」というアイデアがそれほど新しくないような。ディストピア小説なんだろうけど、SFでももう新しいアイデアではないよな。ただ九段理江の文体がどうなのかだな。三島由紀夫が好きな人なんで、ちょっと作りすぎのところがあるみたいだ。

早速、選評を読んでみた。

小川洋子は無難だな。ただ彼女が『迷彩服の男』を推しているので評価できるかもしれない。小川洋子は批評はまあまあだけど安全パイなんだよな。3点ぐらい。標準点ということで。

島田雅彦は批評家タイプ。すべての作品にコメントしているな。特別に推し作品はないみたいだった。3点。

松浦寿輝は川野芽生『Blue』評。詩的な部分か?幻想譚であるから好みなだけに評は厳しい。九段理江推しか?評は無難。で3点

山田詠美のいきなりの川野芽生『Blue』批判。文体がすきじゃないのがわかる。けなし評に山田詠美らしさがある。読んでいて面白いが大したことは言ってないな。3.5ぐらいか?

平野啓一郎。無難なこれと言ってないが、やはり九段理江の受賞は三島らしさを感じるのか?3点。

奥泉光は九段理江のような小説が好きそうな感じ。『迷彩服の男』のような作品は好まない感じか。2点。

吉田修一は逆に『迷彩服の男』に好評だった。ただホセ君のハッテン場小説のスタイルに飽きている感じか。2点。

川上弘美は逆の意味で面白い天然系評だった。けっこう凄いことを言っているな。書き続ける作家はそれほど言いたいことがないだと。それはあんたでしょうとツッコミたくなる。だから文体勝負だみたいなことか。論理は通っているのか。4点

堀江敏幸は最後の選評。小砂川チト『猿の戴冠式』推しだった。カフカ的なのかな読んでみたい気もする。選評は無難で3点。

受賞者インタビュー。タイトルが「とうきょうとどうじょうとう」と韻を踏んでいるのだとか。なかなか上手いな。そういう言語センスはある。

一推しは平野啓一郎の選評か。三島由紀夫『金閣寺』の影響を読み取っていた(ビルド&スクラップ)。そのビルドの部分で関わってくるのがAIなのだが、検閲というシステムの中で対峙するのが設計者である女性建築家なのだ(設計時点では建築物だけのことを考えていた)。

東京オリンピックに対しての批評小説みたいなパロディなんだが、競技場を女性器とイメージしそれに添えるビルディングを男根に見立てているのが面白い。都市設計としては正しいあり方なのかな。集客力のある器と誰もが憧れるビルディングが。「東京都同情塔」は犯罪者しか入れないのだが。

そのきっかけになったのが教育も受けて無くセックスして子供を産んで犯罪に走ってしまった女性の更生ということだった。そこに同情の余地があるということだ。そして否定的な思考は排除して明るい未来に向かっていく。

ラストの女性建築家のモノローグ的雑念が読みどころになっている。結末がアンビルドになっていくのはオーウェル『1984』のような。

『東京都同情塔』は基本的にはそうしたシステムに管理されていく小説だった。三島由紀夫を意識しているというのは『金閣寺』の美という観念だろう。その美の観念としての構築物としてが『東京都同情塔』なのだが、それはオリンピック精神にあるような真・善・美を肯定的に描きながら、ある挫折を語るものだった。

それがコンペで失敗した競技場(女性器に喩えられる)とそれに添えられる男根(「鶴光でおま」だな)としてのビルディングが「東京都同情塔』というもので、それがシステム的に集約するAI的な人工知能による支配の構図を作品にしたのだろう。「東京オリンピック」に対するパロディになっている。

アメリカのジャーナリスト?の体臭。臭気に対する嫌悪感とともに懐かしさみたいなものが彼女の雑念を生んでいくのだ。排除することの目的として建てられた『東京都同情塔』が物ではなく人としての体臭と共に崩れていく。

九段理江『東京都同情塔』の前に、AIについて、小説家の立場から否定的な小川哲と技術者の立場から落合陽一らの鼎談が掲載されているのが『文藝春秋』側の気の使い方なんだろうか?と考えてしまった。AIが使われた小説と言っても枝葉的な部分で利用しただけのパッチワーク的(引用)なものなんで、実際にAIを使って書いたわけでもなかった。テーマとしてAIがあるという作品。


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