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安くしても売れない場合は、どうすればよい?

お客様から聞いたおもしろい話です。

「定価200円の商品を150円に変えてみても、売上はたいして変わりません。しかし、同じ商品をセールで170円にしてみると、飛ぶように売れるんです。」

価格が低いものは品質が低く感じる

これは人が安いモノの価値を低く感じ、高いモノに価値を感じるためです。セールをすると「高いモノを安く買える」ことが強い購買欲求に繋がります。

これをステレオタイプといいます。

下記の図は、人や商品に対するステレオタイプを説明したものです。

Fiske, et al., 2002

あなたの周りに「優しすぎて舐められる人」はいませんでしょうか。
人柄は良いが、能力が低いとレッテルを貼られるため、上記でいう「同情」のカテゴリに入ってしまっています。

しかし逆に仕事はできるが、人柄が冷たかったり、冷徹だったりする人は、ジェラシーの対象になりやすい傾向にあります。

また、エリートで仕事もできて、人格もしっかりしている人は、多くの人から尊敬されます。それは「有能かつ人柄も温かい」からです。

商品にもあてはまるステレオタイプ

これは商品やサービスにも当てはまります。
たとえば、フェアトレードによって販売されているコーヒー豆は、通常のメーカー品よりも品質が劣っているように感じます。

それは、フェアトレードという温かみの要素に対して、無意識に価値を低く感じてしまうのです。

事前活動やNPO活動に参加している人に対して「彼らがボランティアをしているのは、老後の活動として〜、あるいは一般の企業や経済活動から、はじかれてしまった人だから」と無意識に決め込んでいたりもします。

私たちはあらゆるステレオタイプによって、人や商品をパズルのピースのように意識の枠の中に、あらゆる事象を押し込めているのです。

消費者は安さが欲しいわけではない

リンガーハットの事例を紹介します。

2000年代の飲食業界は苛烈な値下げ競争を繰りひろげており、ハンバーガーが59円、牛丼が250円で売っているほどでした。

長崎ちゃんぽんで有名な『リンガーハット』も同様の状況にありました。

2000年代半ばから、小麦粉の価格はずっと上昇していました。そのため2006年には10%ほどの商品の値上げを実施しました。すると2007年頃から既存店の業績が、前期を下回るようになったのです。

そこで経営陣は、「売上が減少したのは、価格が高いから」と仮定しました。

そこで、今度は競合にならって値下げを実行。原材料や野菜は、安く仕入れられる外国産に転換し、味のクオリティを落とすことにしたのです。

すると、値段の安さにつられて、一定の売り上げの盛り上がりはありました。しかし、本来の味やクオリティが好きなファン達は、「味が損なわれてしまった」と失望してお店を去りました。

2008年にはリーマンショックが起こり、さらなる追い討ちをかけ、最大20億円の赤字を計上。リンガーハットは『もう終わった』と囁かれていました。

そこでリンガーハット経営陣を一新し、「野菜をすべて国産化・増量」するとともに、値上げをおこなったのです。

すると「食への安心」「ヘルシーさ」を求める、女性客やファミリー客が一気に増加し、『野菜たっぷりちゃんぽん』は500万食/年間を超える大ヒット商品となりました。

安さではなく「価値」を求めている

リンガーハットの事例では、「安くて低品質なもの」ではなく、「多少高くても、消費者にとって良いもの」を提供することが成功の要因となりました。

家具大手のニトリは「お、ねだん以上ニトリ」というキャッチフレーズを謳っています。これは、ただ価格が安いだけでなく、品質や機能性が高いものを提供していますよ、とアピールしたいためです。

店舗へ行けば、「セール」「特価」ではなく、きちんと「機能性」や「ベネフィット(顧客が感じる商品価値)」について言及していることが分かります。

これも上記の「人のステレオタイプ」を意識しているためです。

低価格のものは、きっと機能性を損なっているから安いんだ、と無意識に思ってしまうことへの対策なのです。

安くしても売れない場合は?

年間15回ものセールをおこなう衣料小売店さんがいました。

セールのたびに折込チラシで「安売り」を行います。当然、その期間中、一定の売上はたつのですが、またすぐに落ち込みます。そこでまたセールをおこないます。そして気がつけば、年間で15回もセールをしている店舗になってしまったそうです。

お客様からは「あそこはいつもセールをやっている」と認知されました。
「すぐにセールがあるからプロパー(定価)では買わずにいよう」というお客様が増えてしまいました。

「セール」には折込チラシや販促POPのコストもかかります。100のコストをかけ、105の売上を回収しつづける、いわゆる自転車操業の状態となってしまったそうです。

そこで「品質」を訴求する方針へ転換。
商品をさわって確かめてもらうように工夫し、機能性をアピールするPOPも順次制作していきました。

すると15回もあったセールは半減し、定価での購入率は約150%も増加しました。

いかにして高く売るか

「安くして売る」ことは簡単にできてしまいます。しかし、そこには必ず利益を削る痛みが伴います。そこに甘んじていると、徐々に、お客様の価値に向き合うという、正しい経営努力ができなくなってしまいます。

ホリエモンも言うように、「いかにして高く売るか」は、重要な商売要素の一つです。目先の売上に惑わされず、正しい道を歩んでいきたいですね。

参考になれば嬉しいです。