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愛知妖怪短編集 ゆるこわ

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#不二先生の処方箋

(3)愛知妖怪奇譚 甘酒の災禍 ー不二先生の処方箋ー

(3)愛知妖怪奇譚 甘酒の災禍 ー不二先生の処方箋ー

「出雲さん、お清めのご協力をお願いします」
「はい、もちろん。それにしても甘酒地蔵尊は初めて聞きましたが、素敵なお地蔵さんですね。私も娘を連れてお詣りに行ってみたいです」
 この人は何も変わらない。昔と同じ、好奇心と信仰心が入り混じった明るく不思議な性格のままだった。きっと先程見た娘さんも世代を超えて継承していることだろう。
「出雲さん……厄払いは観光ではありませんよ?」
「不二センセイ、知ってま

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(2)愛知妖怪奇譚 甘酒の災禍 ー不二先生の処方箋ー

(2)愛知妖怪奇譚 甘酒の災禍 ー不二先生の処方箋ー



玄関に入ると、家人の中年女性とともに、出雲あやも姿を現した。そばに小さい女の子もついてきた。
 出雲は久し振りに会ったが、少し落ち着いた雰囲気になり、昔と変わらず艶やかな真っ直ぐの黒髪で、後ろで白いリボンで一つ結びにしている。女の子は――小学生の低学年くらいだろうか、黒髪を両サイドに分けて白いリボンで二つ結びにしていた。目鼻立ちがよく似ていて、一目見て母娘だとわかった。
「不二先生、お待ちして

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(1)愛知妖怪奇譚 甘酒の災禍 ー不二先生の処方箋ー

(1)愛知妖怪奇譚 甘酒の災禍 ー不二先生の処方箋ー



 若い女性の奇病を専門として少し名の知れた先生がいた。名は不二という。医者でふじなど縁起でもないが、先生の場合は関係ない。年は三十過ぎと若いのだが、面相は恐ろしく老けている。近所の年寄り達も、冬になると青白さを増す顔色を心配がり、「先生、甘酒でも飲むかい?」と差し入れてくれるほどだ。
 先生の扱う奇病はだいたい怨念が原因である。自分の身に振りかかった災いを相談に来る女性が大半だが、時には知り合

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