食パンに焦がれる
天気が良くて気持ちがいいなぁと思いながら、自宅を出て打ち合わせに向かいました。
向かった先は市街地にほど近い街で、大通りから路地に入ると、知る人ぞ知る名店がありそうな、何とも情緒的な雰囲気をまとっていました。
Googleマップを頼りに緩やかな坂道を登っていくと、汗ばんできます。
梅雨入りしたと耳にしたのも記憶に新しく、どなたかの軒先に咲く紫陽花が、まるで赤ワインをこぼしたような色彩を放っています。
それっぽく書きましたけど、赤紫色の紫陽花があったって事です。
道沿いにある飲食店には、しばらく休業しますといった主旨の貼り紙がなされているところも少なくありません。複雑な気持ちで歩いていく道すがら、また再開されたら行ってみたいと思うお店をチェックしました。
その途中、私は営業中の小さなパン屋さんを見つけました。
おやおやおや、いい感じだぞ。
スコーンありそう。
いや違うスコーンはダメだ、供給停止中じゃないか。
(※前回のnoteよろしければご参照ください。)
よし、とにかく帰りに立ち寄ろう。
その日は少し重めの打ち合わせでしたが、こういった楽しみがあると気分も軽くなるものです。
打ち合わせを終え、予定通り帰り道にそのパン屋さんへ立ち寄りました。
クロワッサンが大好きなので商品を見渡してみたところ、どうやら売り切れのようです。残念ですが仕方ありません。
私はほうれん草が入った「野菜のキッシュ」と、デニッシュ生地にベリーが乗った「フランボワーズ」をトレーに乗せてレジへ行きました。
レジでは会計担当の店員さん、その横で包装担当の店員さんが作業を進めておられます。「これ、よかったらご試食ください」と、包装の途中でサッと何かを袋に入れてくださいました。私はちょうど会計に気を取られていて、「えっあっ、ありがとうございます」という感じであまり良く見ずにお礼を言いました。
お店を出てから、何の試食やろ〜と袋をのぞき込みました。
そこには、5枚切りぐらいの分厚さの食パンが1枚、入っていました。
試食の域軽く飛び越えてる。
こんな量で試食を渡していたら、あっという間に食パン1斤消費してしまうのではと余計な心配をしてしまいますが、お店としても戦略あっての事だろうと思い、ありがたく頂戴しました。
帰宅後、食パンのはしっこを少しちぎってそのまま食べてみると、とても柔らかくて、甘くて、バターのいい香りがします。
おお、これはおいしいぞ。
そして、早速ランチの準備を始めました。
まずはキッシュをオーブンのトースト機能を使って軽く焼き、その間に前日作ったシチューを鍋で温めなおします。
キッシュが出来上がった後、食べたい気持ちをグッと我慢して、続いて試食でもらった食パンを焼き始めましました。
トーストにはバターをたっぷり塗ろう。
そう、我が家の冷蔵庫には、スコーンになる予定だったバターが、大量にストックされているのです。
シチューは既に、鍋の中でふつふつとその時を待っています。
シチュー、キッシュ、トースト、黄金比。
何の。
チーン。
勢いよくトーストが焼き上がった音が聞こえ、私は浮き足立ってレンジを開けました。
えーっとほらアレ、もうちょっとで思い出せそう。
松崎しげる。
こんがりのその先の松崎しげる。
あきらかに焼きすぎた食パンが、そこに鎮座していました。
ヤマザキパンならぬマツザキパン。
白いスマイルディッシュはもらえるでしょうか。誰か止めてください。
キッシュを先に焼いたがために、オーブンレンジが既に熱を帯びていて、いつも以上に食パンが焼かれてしまったようです。予想外の焦げ具合に驚きを隠せませんが、ギリギリ許容範囲ではありますので、たっぷりとバターを乗せていただきました。
サクッと食む。
カリカリに焦がされた表面がむしろ、より一層中のふわふわ感を引き立てている気がします。
食むたびに出てくる中のふわふわ部分は、焦げた表面とのコントラストによって真っ白に輝き、まるで白い歯を見せて笑う松崎しげるを想起させます。
正直、食べ終わるまで、そればっかり考えていました。
しかし、確かに、間違いなく、おいしかった。
これだけしっかり焼いてもおいしさを損なわない食パン。
少々焼きすぎたってドーンと構えたおいしさと、食べごたえがある食パン。
私は焦がした食パンに恋焦がれ、お店の戦略通り近々また買いに行きそうな勢いです。
#日記 , #エッセイ , #フード , #グルメ , #パン , #食パン , #パン屋
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